ミレニアムムジカクテンセイシャ   作:二重アゴ

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先生、ちょっとお時間頂戴(3)

「えっとね、AL-1Sの顔にも"サークル当てておいたよ!」

「盗聴器とかはつけてないから今の様子は分からないけど、もしかしたらどこか壊れるかも?」

 

イシュはリオの顔を見つめてから弾むような声で告げた。

イシュの瞳に映るリオは、彫像めいた顔をしている。笑顔もなければ愛嬌もないし、笑窪もない。

リオ会長本人は、『嫌われている』と思っているのか、意に介する様子は見られない。それでも冷淡さを感じない眼を見ていた。

それに明言されているわけでも無い。少なくともイシュはリオ会長が大好きだ。

ヒマリばぁばはリオ会長に対し、何かと文句をつけるがイシュにはそう思えない。ヒマリばぁばなりのじゃれ合いだと思っている。

目は口ほどに物を言うというが、リオ会長のそれはとっても不器用な人間のそれだ。それでも瞳の奥にある隠れた優しさをイシュは感じ取っている。

微笑みすらも零すことが少なく、草葉の陰からミレニアム生を、キヴォトスの未来を見守る、偉大なる生徒会長。

 

「じゃあ、リオ会長!なるべく早く行くからね」

 

リオの膝の上でそのふわふわした感触をを堪能すること約一時間。

リオが手を止めていたのは数分だけで、イシュが自身の仕事内容を視界に映さない点を確認してからリオは自身の業務に取り掛かる。

殆どを効率化という名の自動化を割り振っている中、イシュはリオの胸の中で眠り始める。

 

「……暖かいわね」

 

たくさん運動して少し疲れてしまったのか、リオの胸で眠りこけてしまったイシュ。

リオのジャケットの襟を掴んで離さない少女の小さな吐息はリオの肌を優しく撫でる。

触れてしまえば壊れてしまいそうな宝物を触るように、光を受けて輝く少女の髪を優しく撫でていた。

 

 

ゲーム開発部は廃部の危機に立たされていた。

ゲーム開発部の部室にヌッと来たユウカ。

セミナー役員として業務を全うするためにやってきたユウカは、ミレニアムサイエンススクールの部活について説明をした。

ミレニアムの部活は『規定の人数に達する』か『結果』が求められるが、ゲーム開発部は実績もなければ部員の人数も足りない部活だ。

ゲーム開発部は今年のクソゲーランキング1位を飾った『テイルズ・サガ・クロニクル』以外の『成果』はなく、その評判もランキングのタイトルから、まあ、その通りというわけである。

言葉を飾らないのであれば、ゲーム開発部は廃部の危機にある。しかし結果を出せば廃部は免れる。

そこで才羽姉妹の姉のモモイは、ミレニアムサイエンススクール中の部活の成果物を競い合うミレニアムプライスで『テイルズ・サガ・クロニクル2』を発表することで廃部を回避しようとしていた。

G.Bible――過去にミレニアムに在学した伝説のゲームクリエイターが残した『最高のゲームが作れる秘密の方法』が載っているマニュアル。

G.Bibleを求めて切り札として先生に連絡を取り、行動を共にしていた。

本来、才羽姉妹はG.Bibleを手にするため、先生を伴い廃墟に潜入したのだが、見つけたのはG.BibleではなくAL-1S改めアリスだ。

才羽姉妹がアリスをゲーム開発部の部室に連れ込んでワイワイキャイキャイ。

アリスはゲーム機のリモコンを口に入れたり、とにかか赤ん坊のように様々なものを口に入れていた。

そこで才羽姉妹の妹、ミドリが困ったように口を開いた。

 

「どうするの?お姉ちゃん」

 

モモイの灰色の脳細胞がフル回転を始めて、最高の答えを導き出した。

愛らしい顔つきの中に混ざるのは、野望を湛えた瞳の輝き。

 

「ねえミドリ、私達がやるべきことは何?部活の維持が最優先でしょ。私達は『部員の確保』をするか、ミレニアムプライスで『結果』を出さないといけないの」

「お、お姉ちゃん!まさか……っ!アリスちゃんをミレニアム生に偽装するつもりっ?!」

「どうせだったらさ、部員を増やしてからミレニアムプライスで結果を出す。どっちも達成してみない?その方がカッコいいでしょ?」

「それはそうだけど。私達にできるかな」

「できるかできないかじゃないの!やらないといけないの!わかった?」

「それはわかってけど」

「いつまで弱気になってるのさ。大丈夫大丈夫」

 

愛嬌たっぷりの笑顔が似合うモモイが、似合っているとは言い難いニヒルな笑みを浮かべてミドリの顔を見ると、ミドリはモモイの真意を察する。

 

「ねえアリス!私達の仲間になって!」

 

「ゲームガールアドバンスSP食べちゃダメ!」とモモイの声が聞こえると、大丈夫かな……とアリスを見つめるミドリ。

ミドリの小さな声は喧騒の中に飲まれていく。

さっきはどちらの目標も達成するとはいったものの、本当にできるのかなぁと少し心配になる。

モモイの手で服装を整えられたアリスはどこかぼんやりした様子で才羽姉妹を見つめていた。

 

「大丈夫の意味を確認……「状態が悪くなく問題が発生していない状況」のことと推定、肯定します」

「いやいや、肯定できないって!この口調じゃ絶対に疑われちゃうよ!ロボキャラアピールなんてやめておこうよお姉ちゃん」

「私達のゲーム開発部を守れるのは私達だけだよ。ユズの居場所を守ろう、ミドリ」

「……そう、だね」

 

モモイの強い決意が籠もった目。ミドリが何度か見たことがある瞳。

しまい込んでいた替えの制服を取り出しアリスに着させると、ゲーム開発部の四人目にすべくモモイは早速動き出す。

既にやるべきことは決まっている。アリスの会話能力を上げること、アリスを"正規"のミレニアム生にすること。

 

「服装はヨシ!学生登録と学生証を済ませてくるからミドリとユズで話し方を教えてあげて!」

「は、話し方?」

「今まで通りの話し方だったら疑われちゃうじゃない。ただでさえ『友達があなたたちに、新しい部員を見つけるなんて無理に決まっているじゃない』なんて言われるし……」

 

才羽姉妹の脳裏には特定の一人の生徒の顔が思い浮かぶ。

ヌッとしてて……ツインテールで……かわいい系というよりもキレイ系な顔立ちの……冷酷な算術使い。

その人物に、『貴方はゲーム開発部の部員?』だなんて聞かれると、ロボムーブで『肯定、あなたの質問にアリスは「はい、私はゲーム開発部の部員です」と回答します』と言い出しかねない。

 

「わかった?そういうことでよろしく!」

「……はぁ、やってみるよ」

 

ミドリが返事をすることには、モモイはさっそく駆け出していった。

 

「話し方っていっても、子どもの頃に周りの話を聞いて自然に覚えていくものだと思うんだけど、子供用の教育プログラムってあるかな……」

 

話し方を教えようにもどうしたらいいのかな、と少し困った様子のミドリとは別に、アリスはキョロキョロと周囲を見回し、あるものを手に取った。

 

「正体不明の物品を発見、確認します」

「あっ、そ、それは……それだったら、会話しながら進められるからいいかも。アリスちゃんやってみる?」

「はい」

 

それは、ゲーム開発部が作成し、酷評されたゲーム雑誌だ。

できれば見てほしくなかったのか、ミドリは会話もしながら進められる『テイルズ・サガ・クロニクル』を勧めた。

大急ぎでセッティングを始めるミドリ、心做しか楽しそうにコントローラーを握るアリス。

それからは散々なものだった。

 

――――コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……

チュートリアルを開始します。

まずはBボタンを押して、眼の前の武器を装備してみてください。

 

「Bボタン……」

<GAME OVER>

 

そんな文言から始まるゲームはボタンを押せば、悲壮感漂う音楽と共に響くモモイの笑い声。

何でも時間が遅いせいで誰もおらず、学生証が作れなかったそうだ。

制作者が横にいて、アドバイスや制作秘話を聞きながらも、その常識破りなスタイルから亀の歩みでゲームを進めるアリス。

武器を装備して、プニプニという敵と戦うのだが、何故か発砲してくる。

ある程度ゲーム慣れしている人物からすると、プニプニという名前からスライム系の敵を連想しがちだが、そうではなかったようで。

 

<GAME OVER>

 

悲壮な音楽が流れる。

その後もアリスは折れることなく、プニプニの銃の射程距離の把握に努めながら第一関門と化したプニプニの撃破を目指すアリスにモモイは告げる。

 

「諦めずに繰り返して挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける!それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」

 

それからもアリスはゲームを進めていく。

草食系という言葉が思い出せなかったモモイは植物人間という言葉を代替として使用する。が、植物人間が話し始めてアリスが一瞬意識を手放すといったアクシデントがありつつアリスはゲームを続けていた。

また、母親がヒロインで、実は前世の妻で、更には子供の頃に生き別れた腹違いの友人がタイムリープしてくるのか。

そもそも友人は腹違いで、ついでにいってしまえば種違いで当然では?そんな疑問から幾度もエラーを吐き出すアリス。

その時モモイのスマートフォンがモモトークの着信を知らせる音が鳴る。

 

「あっ、イシュからモモトーク来た。今からイシュが来るって!」

「一応お客様だからお迎えしないとね」

「これが、ゲーム……再開します!」

 

制作者が横でアドバイスをしてくれていたとは言え、3時間でトゥルーエンドに辿り着いたアリス。

アリスの言葉遣いは数時間前のロボムーヴではなく、人の話し方に近づいていっていた。

モモイとミドリは確かに、アリスの言葉遣いが変化していっているのだと感じていた。

不自然さは残るが、才羽姉妹の会話を経て、確かにアリスは言葉を覚えていっていく。

それから少し経ってから。

ゲーム開発部の部室をノックする音がする。

 

「イシュちゃんかな?」

「そうだと思う。私が行ってくるね!」

 

モモイが立ち上がり、ゲーム開発部の部室の扉を開ければ、イシュが袋を抱えて待っていた。

袋の中身は食べ物やを中心とした、個包装のお菓子やジュース類だ。

イシュを出迎えたモモイ、部室内ではミドリがモジモジしながらゲームの感想を聞こうとしていた。

 

「こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……」

 

ミドリがモモイと目を合わせて頷く。双子ゆえの理解の速さ。

なんだろうと状況を読み込めていないイシュは頭にハテナマークを浮かべていた。

 

「「私達のゲーム、どうだったかな?面白かった??」」

「……説明不可」

 

それからアリスはゆっくりと言葉を選びつつ、ゲームの良さを語っていく。

プレイを進めると、別の世界を旅しているような、夢を見ているような気分だと語る。

次第にアリスは涙を流しながら、ゲームの良さをゆっくりと、辿々しくで話していく。

才羽姉妹の顔には、アリスの言葉を聞いて、ゆっくりと咀嚼していくとコロコロと表情を変えていき、最後には笑顔になった。

 

「うんうん。ゆっくりで良いからねアリスちゃん」

「ありがとうアリス!ユズにも聞かせてあげないとね!」

 

その時、ロッカーがガタガタと震えはじめ、金属が擦れ合う音の後、一人の人影が現れた。

現れたのは……。

 

「ちゃ、ちゃんと見てた……」

「ユズ!」

「ユズちゃん!」

 

姿を表したのはビクリと体を震わせてプライスステーションを掴み取るミドリにストップを掛けるモモイ。

花岡ユズ、ミレニアム特有のぶかぶかのアウターに細い素足を晒す赤髪の少女だ。

彼女こそ、ゲーム開発部の部長である。

また『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを作成し、アップロードの末に誹謗中傷の末、人目が怖くなってしまった少女。

ユズは、小さな勇気を振り絞り、アリスに話しかける。

 

「……ありがとう。ゲームを面白いって言ってくれて、もう一度遊びたいって言ってくれて……」

 

4桁の批判コメントと冷やかし、開発者を名指しで罵るコメントや辛辣な罵倒コメントも含まれており、それらは少女の心は傷つけられてしまう。

それらが理知的で穏やかな少女を俯きがちな少女に変えてしまった。

 

「泣いてくれて、ありがとう」

「面白いとか、もう一度とか……もっと、とか……そういう言葉が欲しかったの」

「ユズちゃん……」

 

ユズも辿々しく、ゆっくりと。アリスの顔をしっかりと見つめて。

ユズが欲しかった言葉が、届けられた。

眼の前で繰り広げられる"青春"に袋を抱えたままのイシュは何となく居辛さというものを感じていた。

 

 

「改めまして。ゲーム開発部の部長のユズです。よろしくね」

 

それから、とユズは一旦間を置いてから。

 

「この部に来てくれてありがとうアリスちゃん、これからもよろしくね」

「よろしく……?……理解。ユズが仲間になりました、パンパカパーン!」

「……合ってますか?」

「あ、うん。だいたいそんな感じかな」

 

仲間が増えるのはRPGの醍醐味だもんね、と優しげな笑顔を見せる。

もしRPGを面白いと思ってくれたならオススメのゲームを教えるよ?と言えば、モモイもミドリも我先にとオススメのタイトルを挙げていく。

 

「でも『ロマンシング物語』の第3弾はやらなくても良いかなって……」

「……ねえ、ユズ。今なんて言ったの?聞こえなかったから、もう一回言ってくれる?ロマンシング物語は絶対にやるべきゲーム。そうだよね?私がロマンシング物語シリーズが大好きだって知ったうえでの発言なんだよね?」

「ひぅっ」

 

ユズの耳に届いたのは、甘えん坊の同級生の顔ではなく、意図して低く調整された声だった。

お目々グルグルで表情が抜け落ちた顔でユズのアウターに手を掛け、ユズの耳に届くように僅かに引く。

ユズの耳元で囁く声はアリスや才羽姉妹には届かないような声だった。ただ、もう一本の手だけは怪しい動きをしていた。

 

ロマンシング物語シリーズは代々フリーシナリオを採用するゲームシリーズで、ゲームのプレイヤーが好きなようにシナリオを進められるゲームの代表格だ。

ゲーム機の容量の限界からストーリーは確かに描写不足であるし、プレイヤーの想像力に任せる部分も多くある。

エンディング後だとか裏設定をユーザーの想像にお任せするゲームは少なくない。

だがロマンシング物語は挙げたマイナスより、プラスが果てしなく大きいゲームだとイシュは思っている。

 

「ちょっとイシュ!あなたが暴れたら部室が壊れちゃう!」

「イシュちゃん落ち着いて……」

「ねえ、ユズ」

「な、なにかな」

「後でお風呂に行こっか」

「お風呂面倒くさい……」

「ダメ。そこの子と一緒に行くからね」

「ホッ……ほら、イシュちゃんは『ロマンシング物語』大好きだから」

「なんにも起きなくて良かったぁ~」

 

イシュの地雷を踏み抜きそうになったユズに、思わず腰を上げた才羽姉妹は何も起きなかったことに胸を撫で下ろした。

以前イシュがゲーム開発部の部室に入り浸る原因となったゲームタイトルが『ロマンシング物語』だからだ。

あまりにもハマりすぎたため、ゲーム機とソフト自体を貸し出して2日で帰ってきた。

 

「……アリス、ゲームを再び始めます」

 

イシュが聞いたらキレそうなセリフを言うユズに、アリスは目を輝かせて、積み上げられ始めたゲームをするためにコントローラーに手を伸ばす。

それからアリスは、とにかくゲームを続けた。

画面に表示されるメッセージをすべて表示される前にすべて見て進めていくアリスにいつの間にか寝落ちした才羽姉妹とユズ。

イシュは暗くなる前に簡単な夕飯を作ってからメイド服のスカートの中から寝袋だったりといったアウトドアグッズでぐっすりと夢の中へ。

小鳥の囀りで目を覚ましたミドリとユズがのんびりと挨拶をかわしている間、学生証を手に入れたモモイが帰ってきた。

 

「あれ、イシュは?」

「イシュちゃんならシャワー浴びに行ったよ。もうすぐ帰ってくると思う」

「アリス、はい、これ」

「アリスは正体不明の書類を手に入れた!」

「それは学生証で、私達の学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキン……登録してくれたから、アリスは私達の正式な仲間だよ!」

「パンパカパーン!アリスが仲間として合流しました!」

「ねえ今、ハッキングって言わなかった……?」

 

ミドリの訝しげな目にモモイは大丈夫大丈夫と軽く流したモモイ。

必要なことを声に出しながら挙げていく。服装、学生証、言葉遣いは大丈夫、残るのは武器だ。

 

「よし、アリス。私達の学校、ミレニアムを案内するよ!」

「ただいまー」

 

花が咲きそうな、皆を惹きつける笑顔でモモイはミレニアムの案内を申し出た。

そのタイミングでイシュが戻ってきて、「探検?いこいこー」とゲーム開発部に合流した。

キヴォトスでは銃を持ち、銃に名前をつけてデコレーションする文化があることや、ミドリからエンジニア部のことを説明してもらい、アリスは納得した表情を見せた。

 

「じゃあ、レッツゴー!」

「「「おー」」」

 




拙作をお読みいただきありがとうございます。
文字数の都合から分割しております。
先生、ちょっとお時間頂戴(4)も投稿予約しておりますので、よろしくお願いいたします。
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