独物語~ゆきのフォックス~   作:フリューゲル

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お世話になります。フリューゲルです。

だんだん更新ペースが落ちている気がします。
Fateのアニメが始まったことと、私のデスクトップにhollowのアイコンが再び現れたことは、全く関係ないのでご安心ください。

十月が終わるくらいには、完結できるペースでは書きたいと思っています。

それでは、ご覧ください。


ゆきのフォックス 其之拾

 雪ノ下の部屋から、転がり落ちるような気持ちで脱出したのは良かったが、戦場ヶ原先輩の話が終わるまで、廊下で待っているわけにもいかない。教会にでも行って、生きていることに感謝でもすればいいのだろうか? それか懺悔でもするか?

 

 

 

「んー、どうしようか?」

 

 

 

 由比ヶ浜が当惑しながら聞いてくる。

 

 

 

「どうすると言ってもなー。廊下で高校生三人がたむろしているのも、迷惑だからな。とりあえず、ロビーに戻るか」

 

 

 

 その案には、由比ヶ浜も阿良々木先輩も同意してくれたので、ひとまずロビーに戻る。

 

 

 性能が良いのか、あまり振動のしないエレベーターを下り、ロビーへ着いたはいいが、ベンチのような気の利いたものはなく、あまり居心地が良くはなかった。

 

 

 ロビーというと、どうしても、ホテルを想像してしまったのがいけなかった。マンションのロビーなのだから、腰を落ち着ける場所として造られているわけもなく、休憩スペースがなかった。

 

 

 

「だったら、喫茶店に行こう。戦場ヶ原には終わったら連絡をするように、メールをしておく」

 

 

 

 どの道、高校生三人が高級マンションに居ても、好奇の目にさらされるだけだろう。ここでは、怪異についても話をしにくいことを考えると、移動した方が賢明だ。

 

 

 そう決めると、由比ヶ浜が近くのカフェの場所を言う。女子が好きそうな、スイーツが美味しいカフェらしい。距離的にも徒歩で五分程度ならば、時間を潰すにはちょうどいい。

 

 

 入ったときとは、別のドアから外に出る。入るときは、わざわざ住人の許可を取らなければいけないのに、出ていくときは簡単なのは、どこか人間関係を思わせる。

 

 

 さんざん苦労して入った、トップカーストのグループから、すぐに追い出されるなんて良くあることだ。

 

 

―――――――

 

 

 日本人は行事を先取りする傾向がある。一月の始めにバレンタインのコーナーが造られ始め、八月にランドセルがデパート並び、十月には目映いほどのイルミネーションが街を彩り始める。

 

 

 文化祭にしても、当日よりも前日までの準備の方が楽しいという輩は一定数存在する。また、サッカー日本代表の試合で、ワールドカップの本戦よりも、アジア予選の方が盛り上がれるのも、その一つかも知れない。……それはこの前の場合だけだろう。

 

 

 何事も行事を行う場合、顕在的機能と潜在的機能が存在する見かけの効果と、裏の効果だ。バレンタインの純愛の裏には、企業の金儲けがあるわけだし、修学旅行にしろ、旅行を楽しむよりは、集団内の帰属意識を高める効果のほうが大きい。良く言うだろ、どこへ行くのではなく、誰と行くのかだ。

 

 

 だから社員旅行で楽しめないなんて、もってのほかだ。観光地に行き、ご当地の温泉や施設を楽しむためではなく、上司や先輩、同僚との絆を強めるために社員旅行に行くのだ。専務や部長だらけの部屋に放り込まれても、文句を言ってはいけない。それが社会人の務めなのだから。愛想笑いをして、不味い酒を飲みながら、妙なテンションになりながら宴会芸をすることだって、立派な仕事なんだよ。……はぁ、社員旅行なんて無くならねぇかな……。

 

 

 話を戻すが、現在は九月の半ばである。だと言うのに、由比ヶ浜に連れて来られた喫茶店には、ハロウィンの装飾として、明るいオレンジ色のジャックランタンや可愛らしい白の幽霊が所狭しと、飾ってある。だだ先の例の通り、この装飾がきっとどこかで世界の為になっていると思って、広い心で、無邪気な子供を見るように眺めてやるのが、健全なる男子というものだ。

 

 

 ……由比ヶ浜のチョイスだということを、考えておくべきだった。店内には女子大生や女子高生、またはカップルしかいない。男二人の女一人の組み合わせは、俺たちしかないだろう。

 

 

 何席かは、すでに空席だったので、先にコーヒーを頼みにいく。ブレンドコーヒーにミルクと砂糖を大量に入れようと思っていると、キャラメルなんとかだの、シェイクなんとかなど、わけの分からない外来語がメニューの上で踊っている。

 

 

 なんだ、これは? 分かりにくいぞ、消えてなくなれ。……思わず滅尽滅相ォォ!!したくなってしまった。最近の女子高生はこんな呪文で、コーヒーを錬成しているのか。俺も、

 

 

 

「Atziluth」

 

 

 って言ってみようかな。やだ……、流出しちゃう。

 

 

 

「ヒッキー、店員さんの前で一人で笑わないで、キモい……」

 

 

「キモいって何だ、俺はただメニューを選んでいるだけだぞ。というか良く分からんから、由比ヶ浜と同じものでいいから、コーヒー注文してくれ」

 

 

「それって男子が、女子にやって貰うことじゃないよね……」

 

 

 

 横にずれて、由比ヶ浜に順番を譲る。由比ヶ浜は渋々ながらも、注文をしてくれた。あの長い呪文を全く噛まずに言えるあたり、由比ヶ浜の女子高生スキルが伺える。

 

 

 席に戻り、コーヒーが来たと思ったが、カボチャのタルトが二つほど、カフェラテと一緒に並ばれる。

 

 

 

「俺はデザートまで、一緒に頼んではないんだが……」

 

 

「えっ、あたし、一つしか頼んでないよ?」

 

 

「それは僕が頼んだ分だ」

 

 

 

 マジかよ。この人全然、甘い物を食べるようには、見えないんだが。

 

 

 

「阿良々木先輩って、デザート好きなんですか?」

 

 

「前はあんまり、好きじゃなかったんだけどな。受験勉強を本格的にやり始めたら、糖分を取りたくて仕方がないんだ」

 

 

「ですよねー。甘い物は、生活に必要ですよねー」

 

 

「お前な、あんまり甘い物ばかり食っていると、太るぞ」

 

 

「ふ、太るって……。だ、大丈夫、晩ご飯の代わりにすれば。それに阿良々木先輩だって同じ物食べてるし……、大丈夫だよ!」

 

 

 

 男と女の場合、基礎代謝が違うから、同じものを食べても太り方に違いが出ると思うのだが。というか、デザートを主食にするな、ひだまりの中でスケッチしたくなるだろうが。

 

 

 

「僕は太らない体質だから、いくら食べても太らないぞ」

 

 

「えっ!」

 

 

 

 由比ヶ浜は、タルトへ伸ばしかけていたフォークを取り落とし、錆び付いたロボットのように、鈍い動きで顔を上げる。裏切りはここにて露見をし、事態は終局へと向かっていく。

 

 

 

「ど、どういうことですか? 食べても太らないなんて、少女漫画だけですよね?」

 

 

「いや、僕って吸血鬼だからさ。常に身体が最適になるように調整されるから、何を食べても太ったり痩せたりしないんだ」

 

 

 なんだ、その全て女子が遠いの夢中で見た理想郷。迂闊に言ったら刺されかねない発言だな。

 

 

 

「何それ? こ、こんな不条理があたしの目の前にあるなんて……」

 

 

 

 苦しそうに、呻きながらもタルトをつついて食べる由比ヶ浜。デザートってもっと美味そうに食べるものだろ。

 

 

 

「そんなに嫌そうに喰うなよ……」

 

 

「……だ、大丈夫、阿良々木先輩が太らないなら、あ、あたしだって太らないよ」

 

 

 

 太るに決まってんだろ。

 

 

 

 阿良々木先輩は、由比ヶ浜を軽く傷つけたことに狼狽えたが、一息ついてから話を始める。

 

 

 

「白狐さんの対処についてだけれど、これからどうする?」

 

 

「信仰を取り戻す……ですよね。どうすればできるのか、という話ですか?」

 

 

「学校のみんなに言って、お参りしてもらう?」 

 

 

 

 それも一つの方策だが、決定力に欠けるだろう。かと言って、正しい方法なんて分からない。俺は宗教には詳しいわけではないし、特定の宗派に属しているわけでもない。それこそ高校受験の時に、小町と神社にお参りにいったくらいだ。

 

 

 

「ただ、白狐さんの願いを叶えることは、陽乃さんが元に戻らないだろ……」

 

 

「そっか……、だったら、白狐さんに帰ってもらうようにお願いする?」

 

 

「それも一つの方法だろう。今は忍が寝ているから分からないが、雪ノ下さんとそのお姉さんの両方を助けられるか、今日の夜にでも相談をするよ」

 

 

「だったら、あたしたちも何か方法がないか探してみますね。ヒッキーはそれでいい?」

 

 

「あぁ、今日だけじゃ結論はでないだろ」

 

 

 

 ただ一つ思ってしまう。雪ノ下と陽乃さん、どちらも助けるなんて、都合の良く解決できるのだろうか。そんな都合の良い結末を、それこそ神様が許してくれるのだろうか。

 

 

 元々神様など信じていない俺たちが、神様の許しを得るなんて、どこか皮肉めいた様に思える。

 

 

 

「あれ、結衣じゃーん。こんなとこで何やってんの?」

 

 

 

 俺の思考は、由比ヶ浜に掛けられた親しげな声によってかき消される。声が聞こえた入り口の方へと顔を向けると、同じクラスの三浦がそこにはいた。

 

 

 

「お、マジだ。おーい隼人君、結衣いるべ、結衣」

 

 

 

「ひ、ヒキタニ君が隼人君以外の男の子と一緒にいる! これは、ハヤ×ヒキの計算式に、あらたな絶対値が……。二人の男の子に攻められながらも、断れないヒキタニ君……、ありだね!」

 

 

 

「姫菜、ここで鼻血出さない。ちゃんと擬態しろし」

 

 

 

 どうやらここに来たのは、三浦だけではなかったようだ。戸部に海老名さん、あと葉山もいるのか。こいつら、放課後まで一緒に居るのかよ。放課後まで話す話題がよくあるな。

 

 

 

 というか、どこからか腐った視線を感じる。モロボシダンかってぐらいに眼鏡を光らせているが、ただの幻覚だろう。そもそもここは、喫茶店なんだから、腐ったものがあるわけないだろ、……ねぇ。

 

 

 

「あ、優美子、やっはろー。優美子たちは、どうしたの?」

 

 

 

「俺と隼人君の部活が終わったもんで、こうして時間潰しってわけ」

 

 

 

 なんで部活終わったのに、時間潰してんだよ。とっとと帰ればいいだろ。

 

 

 

「つーか戸部、勝手に言うなし。結衣こそ何やってんの? 部活?」

 

 

「あははー、まぁそんな感じ」

 

 

「……なぁ、お前らの知り合いか?」

 

 

 

 阿良々木先輩は、小声でこちらに聞いてくる。

 

 

 

「俺のクラスメイトで、由比ヶ浜の友達、といった感じです」

 

 

 

 そう答えると阿良々木先輩は、「そうか」と納得して、タルトを食べることに戻る。なぜか今のやりとりで、海老名さんの口から「ぐはっ」という呻きが漏れる。こうかはばつぐんだ。

 

 

 どうやら三浦たちは、俺たちの席の近くに座るらしく、空いた席に鞄を置き始めている。

 

 

 

「やぁ、ヒキタニ君」

 

 

 

 三浦や海老名さんはカウンターに向かったが、葉山と戸部は荷物晩をしているらしい。

 

 

 正直こちらは、戦場ヶ原先輩待ちのため、勝手に帰るわけにはいかない。こいつらと話すも内容なんてほとんどないぞ。

 

 

 由比ヶ浜には悪いが、場を繋いでもらおうかと思って期待の眼差しを向けると、なぜか携帯電話を差し出してくる。

 

 

 

「悪いな、由比ヶ浜。お前の携帯電話をもらっても、小町とメールするしかやることないぞ」

 

 

「何言ってんの! ゆきのんからメール来たの」

 

 

 

 由比ヶ浜の携帯電話に写しだされたメールには、

 

 

 

『もう暗くなってきたし、また明日にしましょう。今日は来てくれてありがとう』

 

 

 

 どうやら、戦場ヶ原先輩の話が終わったらしい。阿良々木先輩も携帯電話で電話をしている。

 

 

 

 よく考えれば、雪ノ下のマンションを出て、三十分は過ぎている。そう考えれば、時間としては適切だろう。

 

 

 

「雪ノ下さんのお見舞いに、行ってきたのか?」

 

 

 

 由比ヶ浜との会話が葉山に聞こえたのか、何故か俺に顔を向けて尋ねてくる。

 

 

 

「まぁ、そんなところだ」

 

 

「体調は大丈夫なのか?」

 

 

「まだおかしいところはあるが、基本的には元気だな」

 

 

 

 もともと体調を崩しているわけではなく、憑かれただけだ、嘘は言っていない。

 

 

 それだけでは納得しないのか、真剣な目つきで続きを促してくる。

 

 

 

「もう六日ぐらい休んでいるだろ。本当に大丈夫なのか」

 

 

「だったらお前が、見舞いにでも行って確かめてくればいいだろうが」

 

 

「そんな簡単に行けないから、ヒキタニ君に聞いているんだ」

 

 

 

 話しているうちに、苛々してくる。だったら俺に聞かなければいいだろう。人脈なら葉山のほうが多いのだから、調べようと思うのなら葉山なら簡単に調べられる。

 

 

 

「簡単だろ。心配なら様子を見に行けばいいし、気にならないなら、放っておけばいい」

 

 

 

「ヒキタニ君は、雪ノ下さんのことが心配なのか?」

 

 

「あぁ、心配だよ。あいつが休むと由比ヶ浜の紅茶を煎れる奴がいないんだよ」

 

 

「本当にそれだけか……」

 

 

「知らねぇよ、俺はお前と違って友達なんていないからな。どの感情が心配なのか、考えたこともねぇ」

 

 

「俺は比企谷と違って、その意味を理解しているから、簡単に心配しているなんて言えないし、比企谷のようにはなれないんだよ」

 

 

 葉山は、苦しく、まるで懺悔でもするように、そう漏らした。

 

 

 そうだな。俺もお前みたいには、なりたくない。

 

 

 葉山は自分が集団の中心にいて、自分の行動が他人に影響を及ぼすと知っているから、動きに制限が出る。それこそ嘘をついて、見て見ぬ振りをしながら、簡単に傾いてしまう人間関係の均衡を保っている。

 

 

 ただな、思ったことを思っているだけじゃ、何も及ぼさないんだ。心配をしているんだったら、直接声をかけるか、行動を起こさなければ、心配をしていることには、ならないん

だよ。何にしたって、それは同じだ。

 

 

 俺と雪ノ下は、そうやって声を上げながら生きてきた。だから今、独りでいるんだ。

 

 

 

「マジ混んでるし。ねぇ、隼人ー、なんかハロウィン限定メニューあるから、それ選んできちゃった」

 

 

 

 俺と葉山の間に流れ始めた沈黙は、三浦たちの無遠慮な声によって、かき消される。葉山はすぐに表情をいつものとろけるような笑みに戻すと、三浦と話し始める。

 

 

 いつの間にか、阿良々木先輩はタルトを完食し、カップも空になっていた。

 

 

 

「じゃあ、僕はお邪魔そうだし、失礼する。また明日奉仕部にお邪魔させてもらう」

 

 

 

 阿良々木先輩は、俺と由比ヶ浜に挨拶をすると、そのまま店の外へ向かう。

 

 

 

「お、俺も妹と夕飯食う約束があった。じゃあな由比ヶ浜」

 

 

 

 阿良々木先輩が逃げたのを、好機と捉え、俺も逃走を開始する。戦争において、退却を見誤らないのが、もっとも重要だと偉い人が言ってた気がする。偉い人が言ったのだから、従うのが筋というものだろう。偉い人って誰だろう。

 

 

 

「あ、ヒッキー、阿良々木先輩!」

 

 

 

 由比ヶ浜の声を背中で受け止めながら、ハロウィン一色の喫茶店を後にする。

 

 

 

「き、貴重なインスピレーション機会が……」

 

 

 

 何故か海老名さんの悲痛な叫び声が、聞こえてくる。きっと振り向くと表現主義のような、なんとも言えないような顔をしているのだろう。これ以上俺を妄想の中の住人にもしないことも含めて、この退却は適切だっただろう。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

毎回、ここで何を書けばいいかを一番考えている気がします。

高校生の時にドラマの『CHANGE』に出ているキムタクの真似を友人同士でしていたことを話すべきか、『HERO』のテーマを口ずさみながら、オリンピックの開催地が決まった時の

「Tokyo」

「ワァーヽ(~Д~)ノ 」

の流れを大都会の真ん中で、何人かでしていたことを書けばいいのでしょうか?


なんか適度な字数を書けたので、今回はこれにて失礼します。


それでは、また次回。

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