これにて『独物語 ~ゆきのフォックス~』の最終回です。
会話文が一切なく、地の文だけですが、ゆきのんを可愛く思ってもらえれば幸いです。
それでは、ご覧ください。
学校生活は変化が乏しいものと、雪乃は常々思っていたが、どうやら認識を改める必要があるらしい。
二週間弱休んでから、復帰して雪乃がまず思ったことは、話の前後が全く分からないということだった。授業にしろ、クラスメイトとの会話にしろ、前提の情報がないため話を上手く掴むことができず、それこそ浦島太郎の気分を味わった。
雪乃はそんなもの憂げな気分で、復帰初日を過ごしていた。担任や静に呼び出され体調の具合や、休んでいた間の連絡事項などを一つずつ丁寧に説明されたため、昼休みもほとんど自由がなかったのも、自身が憂鬱になっている一因だと雪乃は考える。
そして放課後、心配そうに声をかけてくるクラスメイトの誘いを丁寧に断り、教室から出たのは、ホームルームが終わってから二十分程経った後だった。
本来ならば休んでいた分を取り返すために、動くのが適切であろう。実際に担任からは放課後に職員室に来るように言われている。ただ、それでも今日は、今日だけは奉仕部に顔を出したかった。
いつも使っていた道のりを通ると、それまで気付かなかった些細な点が目に入る。掲示板に張られている校内新聞は、雪乃が初めて見るものだったが、刊行数見るとかなりの数を刊行されていて少し驚く。その他にも、何気ない学校の構造や、階段の古びた手すりの、凸凹な感触を楽しそうに眺め、味わっているうちに、雪乃は奉仕部へとたどり着く。
ドアの前に立ち、一度服装の乱れがないかを確認して、大きな深呼吸を一つする。
久しぶりに訪れたこの部屋は、思っていたよりも狭く、黄金色の秋の陽に照らされて、暖かな空気に包まれていた。
ただ、先に部室にいた比企谷八幡が何も反応をしないので、訝しがりながら回り込んで、顔を覗くと、八幡は椅子にもたれ掛かる形で眠りに入っていた。
その穏やかな表情を見て、少し緊張していた自分がなんだか馬鹿らしくなってきて、ふつふつと何かがこみ上げてくる。
それでも、昨夜この少年は夜通し自分のために働いてくれたのだ。ならば、ゆっくりと眠らせて上げよう。
そう思い、静かに席に着き、鞄から本を取りだして開く。
文字を目で追っているものの、頭に入ってこない。本を目の前にしても、考えてしまうのは、この後何をどう話そうとか、どんな過ごし方をしようだとか、そんなことばかりだ。
どうやら自分は、思いのほか会話を楽しみにしているらしい。雪乃はそんなことを思い、小さく笑ってしまう。
ただその前に、この気を抜いてしまったら眠ってしまうような暖かさを、しっかりと味わおうと雪乃は思い、再び本に目を落とす。
相変わらず本へ集中はできないし、比企谷八幡が起きる気配もまったくないが、それでも雪乃は、この教室に流れる空気が嫌いではなかった。
今までご覧いただき、ありがとうございます。
これにて『独物語 ~ゆきのフォックス~』は完結になります。
今まで、見てくれた方、感想を書いてくれた方、お気に入りに登録していただい方には感謝しきれても、しきれません。皆様の反応がなかったら途中で投げ出してしまったかもしれません。
最初から読み返すとあまりクロスオーバーしていなかったり、文章が稚拙だったりもして、恥ずかしいですが、それでも一つの作品を完結できたことは、本当に嬉しいです。
次回作も、今回とおなじく『俺ガイル』の原作で書かせていただく予定です。おそらく一週間くらいで投稿をし始めると思いますので、そちらも見ていただけたら幸いです。
今までありがとうございます。