私は昔考えたことがある、なんで私は一番に憧れるのか、いいや、憧れじゃない、ただ1番になりたいだけ。
上を目指して登って上り終えたら達成感と共にまた新しく登る山を見上げる。
目指すことに疑問を感じたことはないし、これから先もそうやって1人で、めざしてコツコツと小さな一歩を積み上げ続けていくのだろうと考える。
でも私は決して努力が好きな訳では無い、いや今なら言えるけれど私は努力が嫌いだ。
積み上げることでできることが増えるのは楽しいし達成感を味わえるけれど、努力という行為自体には何の楽しみも見出していない。
努力して掴み取ったもので何かをするのは楽しいけれど、努力は正直あまり楽しくない。
バイトは嫌だけれどお給料は好き、私のは同じ感覚だと思う。
いつもいつも何かを積み上げて人になぜそこまでするのか理解されず、でも一番にならなきゃいけない焦燥感にも似た感情のせいで結局私はまた一番を目指している。
もはや習慣を超えて中毒だ。
「疲れた…」
この日は嫌なことがあり、その後もやらなければ行けないことが山積みのため帰りが遅くなり、酷く疲れていて、早く帰ってしまいたかった。
でも
(帰ったら宿題と予習と来週までにバレーの練習もしておかなきゃ)
アリサは考える、たまたま自分が一番になれたのは運がいいから、本気で努力を楽しむ天才にはどうやっても勝てない、
勝てることもあるけれど根本の部分で自分はどうやっても勝てないと感じてしまう。
もし勉強を本気で楽しんで積み上げる人が現れれば私は負けてしまうだろう。
(はぁ〜行けない今日は疲れてるだけ、早く家に帰らなきゃ)
疲れている時には何かとネガティブな感情が頭を支配してしまう、それを振り払うように顔を横に振りつつ家路に就くために歩く速度をあげようとして。
帰る、帰ったらまた頑張らなければいけない、積み上げて積上げて小さな欠片を大きな何かにしなければならない。
どれに強制されたものでもないけれど、アリサは考えてしまう。
(あぁ、帰りたくない……)
自然と歩くスピードは落ちてしまい、下を向いてとぼとぼとアスファルトを眺めながらそれでも足を止めずに居るのは義務感にも似たなにかなのだろうか?
(ん?これって?)
そんな中下を向いて歩いていると水溜まりになにか映る。
そういえば雨が降っていたなと考えてそこをちらりと見ると。
キラキラと彩り取りの輝きが反射している。
(確か、クラスの子たちが言っていたゲームセンターだったかしら?)
興味が無いと言えば嘘になる、今までは興味があっても時間がなかった、そんな時間があれば少しでも何かを積み上げた、そうやって無駄と思った物を捨てて切り詰めてきた。
けど今日は違った、帰りたくない、帰ったらまた…家に帰れば脅迫じみた自責の念が膨れ上がってしまう気がする。
だから、家に帰りたくなくて軽い気まぐれ、少しでも自分の部屋から逃げ出したいと思ったアリサの初めての幼稚な逃走。
「うわぁ、うるさ」
最初に襲ったのは後悔だった、大音量で流れる流行りのアニソン、大きな画面に表示されるキャラクターキラキラと人口の光が密集して慣れていなければ酔ってしまいそうだ。
「何をしてるんだろう私」
こんな所に来るんじゃなかった、早く家に帰って無駄にしてしまった時間を少しでもうめなけらばならない、そう考えてしまえばまた憂鬱だが、この空間にいるよりかはましだと、そう考えて出口に向かって歩こうとした時横目で何かを見つけて思わず立ち止まる。
「可愛い」
UFOキャッチャーの景品なのだろうそれは、大きな黒猫のぬいぐるみだ、部屋に何個か置いては居るもののそろそろ新しい子をお迎えしたいと考えていたのでタイミングよく運命の出会いを果たすことができた。
(えっとここにお金を入れれば良かったはず)
小学生の時にたまに親に連れて行って貰った時の記憶を思い出しながらお金を入れる
「きゃ!」
突然ポップな音とともにボタンが光り始める、突然の事で肩を上げて驚いてしまい、慌てて周囲を見渡すが特に誰にも見られていないことに肩の力を抜く。
「と、とにかくこれでボタンを押せば良いのよね?」
誰に聞いた訳でもないので一人呟くと覚悟を決めて目の前のお目当てに集中する。
「えっと、こうすれば、あれ?」
2本の爪が黒猫を軽く持ち上げたが表面をかるくなで上げるだけですぐさま元の場所に戻ってしまう。
「え、?え?」
訳も分からず終わってしまったため悔しさよりも困惑の方が強く漠然とした顔で少し移動した黒猫を眺める。
「こ、こうやって!!」
黒猫のぬいぐるみが軽く持ち上がるが根負けしたのかすぐに落としてしまい呆気なくしゅうりょうする。
「ぇ、、えぇ、うそ」
軽い恐怖を覚えながらもう一度、もう一度と繰り返し、
そして…
「お、覚えておきなさい!」
何十回ものトライ、元々お小遣いは無駄使いしない、お年玉もしっかりと貯めている系女子であったがゲームセンターという名の巨大な貯金箱に抗えず悔しさを隠そうともせず、捨てセリフを言いながら目元にうっすらと涙を浮かべて退場。
「なんっなのよあれ!掴んだのに全然持ち上げてくれないし!表面撫でるだけ!持ち上げても直ぐに落としちゃうし!取れるわけないじゃない!!」
イライラとしながら一人空に向かって怒鳴りながら家路を歩くアリサ。
その声色も態度も怒っている、先程何十回も見せつけられた理不尽に対して怒りの矛先を向けてイラだっているけれど、家に帰る足取りは軽く、顔にはほんのり笑みを浮かべていた。
そうして次の日からアリサのチャレンジが始まった
「こーやって!!あぁ!ち、違う!違うのよ!」
きちんと持ち上げはした物の途中で落ちてしまい、バウンドして物と場所にきっちりと座ってしまう黒猫。
血管が浮き出そうなほど見つめ、最初は可愛らしいと思った顔も今では憎らしい。
「ふぅぅ〜休憩は終わりね、それじゃあ続きぉ…ぁ、ぇ、、、えぇ…ちょ、ちょっ……」
なかなか取れないことに頭が煮だってしまったので一旦クールダウンを挟むため、自動販売機でお茶を購入し一服。
そのまま再度挑戦のため気合いを入れ直してUFOキャッチャーに向かうと、ニコニコ笑顔の女の子が黒猫を抱えたまま出口に向かっているのが見えてしまった。
その猫はどこか不敵な笑みでアリサを見つめていて、これを見たアリサは何も言うことなどできず抜け殻のような状態で家に帰っていった。
そうしてようやく
「あ、あ…や、やったぁぁ〜〜〜ッ!!」
ポスッと軽い物が落ちる音が聞こえた瞬間急いで取り出し口にしゃがみこみ、そこには今では憎たらしいと感じるまでその顔を見つめ続けた黒猫のぬいぐるみが参った、と言わんばかりに横に倒れるように落ちていた。
それを慌てて拾って抱き締めると嬉しさのあまりぴょんぴょんはね回って全身で喜びを表現してしまう。
「さて、と」
一通り喜んだ後どうしようかと考える。
目的である憎き黒猫は手中に収めたためアリサとしてはこれ以上ここに居る目的も理由もなくなってしまった。
ただ、何となく辺りを見渡す、相変わらず鳴り響く電子音にキャラクターの声、少しは慣れたものの気を抜くと音の濁流に飲み込まれてしまいそうになる。
前のアリサであれば近づくことすらしなかった場所、ただ、普段の日常では感じたことの無い何か、それがここにはあってそれがなんなのかを知りたい、そう考えたら止まらなくなってしまった。
とりあえずと1つの筐体にの前の椅子に座り画面を見る。そこには筋肉質な男性と肌の露出が明らかに多い女性が戦っているデモムービーが流れていた。
試しにコインを入れるとキャラクター選択画面が表示される
(え〜と確かパパが言うには体重が重い方が格闘技は有利だった気がする)
そんな理由で選んだキャラは明らかなお相撲さん、そのまま戦いが始まると
「え?あ、あれ?説明とかもないの?ちょ、ちょっと待って!」
アリサが選んだゲームは古いタイプのゲームで、親切にチュートリアルなんてものは用意されておらずいきなり戦いが始まるとcpはいきなりアリサのお相撲さんに向かって攻撃を始める、訳も分からずとりあえずレバーを動かし、ボタンをカチャカチャ動かしていると予想外の方向に張り手を入れたり、突然ジャンプしたりと慌ただしく動き、戦う以前に目の前の相手がそもそも見えてないのではないかという有様で
KO
その文字と共に早速1敗してしまったらしいことだけは分かる
「な、何よ!ちょっと上手いからって調子に乗らない事ね!え!?ちょっと!?まだ心の準備が!」
コンピューター相手に負け惜しみを呟やいていると早速2回戦目が始まる、1回終わったあとのさらにもう1回、そんなものゲームレベルひよこ以下のアリサに分かるはずもなく、呆気なく負けるとコンテニューの表示と共にボロボロのお相撲さんの顔がドアップで表示される。
「ま、負けた?何も分からず、ただ殴られ続けて終わった」
愕然としながら10からカウントが進んでいき、ボロボロのお相撲さんが涙目でじっとアリサの顔を見つめる。
「そ、その、ごめんなさい」
訳も分からず謎の罪悪感に襲われ謝罪の言葉を口にすると、そのままゲームは終了。
先程の画面に戻ってしまった。
どうすれば勝てるのか、それ以前の問題がアリサを襲う。
「ぐぅぅ!!もう1回!!」
その日は結局一勝も出来ないままアリサ操るお相撲さんはボコボコに殴られ、蹴られ、よく分からないエネルギー体をぶつけられて散々な目に合わされてしまった。
「全っぜんダメだった!勝てなかった!」
ここから帰る時はいつもそうだ、悔しさに地団駄を踏んで、猛然と足を前に進ませて、でも顔は前を向いていて、楽しそうに家路に就く。
それからもアリサはお相撲さんと共に挑み続けた。
負けて、負けて、惜しいところまで行くが嘲笑うようにまたすぐ負けて。
「くぅぅ〜全然勝てない!このコマンドってやつも全くできない!」
悔しさに筐体を叩こうとして慌てて足をじたばたさせることで悔しさを発散させるアリサ。
けれでその表情はどこか楽しそうで思わず呟いていたのだろう
【楽しい!】
(ぇ?)
自分で呟き、慌てて顔を触ると、口は笑みを浮かべて悔しさと楽しさが同居した気持ちがアリサの中にあることを自覚する。
(なんで?だって全然勝てなくて、一番になんて遠すぎて見上げるどころか雲が邪魔で見えてすらないのに…なんで?)
そう、アリサにとって積み上げること、コツコツと小さな欠片を大きななにかにする、この行為自体にはなんの楽しみも見出していなかった。
ただ積み上げ終わった後上から辺りを見渡して、そうして積み上げた物で何かをすることが楽しかった、1番になるのが気持ちよかった。
でも積み上げることは楽しくなかった。
なのにだ
負けて、負けて、惜しいところにすら手が届かなくて、悔しくてどうしようもなく負けたくないと考えていたのに。
負けたのに、一番になる以前の所で躓いて居るのに楽しいと感じた。
(あぁ…私ってばかね、こんな簡単なことにも気づかなかったんだ、努力っていうのは辛ければ辛いほどいいって訳でもないし、ただキツいことをし続けることだけが努力じゃない…
こうやって楽しい努力も存在するのね)
それはまるでおとぎ話、夢物語のようなもので実態がなくふわふわと雲のように漂っているから、自分では手が届く場所にないと思っていた。
だから一歩一歩山を昇って少しでも手が届く位置に行けるようにと邁進してきたのに、
アリサ自身が時間の無駄と、こんな所と思った場所にあっさりと転がっていた。
それがおかしくて気づけば笑っていた、目に涙を浮かべて笑って、そうして
「絶ッ対勝つわよ!!!」
コインを投入した
そうやってのめり込んでいたとしてもだからといって楽しくない方の努力を手放した訳では無い、でも以前と違い鬼気迫る雰囲気はなく、少しばかり隙が生まれて多少は親しみ易くなったアリサは父の都合で引っ越すことになる。
そうして積み上げ続けた何かを使い私立征嶺学園という結果を掴んだアリサは、編入試験を脅威の点数を叩き出し入学を果たした。
ただ
(どこにでもいるのね、不真面目な生徒って)
久世政近この学園何をどうやったら入れたのか疑問の生徒だ、普段であれば気にはしないが隣の席であるというのが縁で何かと話しかけられたり、目で何となくおったりしてしまっている。
それが劇的に変わったのはいつだろうか?
アリサはあの日のことを忘れないだろう、1人で真剣に筐体に向かって自身で見つけた答えに驚いた、それと同じ、いやそれ以上の衝撃を与えられてしまったから。
「九条さん1人で大丈夫?私たちはもう帰るけど?」
「えぇ、これを終わらせたら私も帰るから大丈夫よ?」
そう言って3人のクラスメイトは帰っていく、
文化祭、出し物は何をするかという話になった時どうやらお化け屋敷をやることになった。
なったは良いものの設備や小道具、衣装などやらなければならないことは大量にあって。
アリサは1人でコツコツと衣装作りの為に裁縫をしている。
そういくら楽しい努力、積み上げの存在を見つけて世の中が少し明るくなったように感じたが、面白みもなくコツコツと積み上げなければ成果としてなかなか現れない場合は結局アリサは1人で積み上げなければならない。
でも大丈夫だ、1人で積み上げることに対し寂しさなんて感じない、と言えば嘘になるけれど、でも楽しい努力の存在がある。
だから1人でも大丈夫
「いっ」
ポツリと陶器のような白い指先に赤い血が滲んでいく。
もう絆創膏を貼っていない指はないとお前ぐらいの指で何とか貼って、再度裁縫道具を手に取り衣装を作っていく。
(1人でやるより、みんなでやる方が効率がいい、いや、それを言い始めたら裁縫が得意な人に任せた方が…ダメ、コツコツ積み上げる面白みのない努力、それを誰かに強制したらどうなるか私は知ってる)
負けない、負けたくない、何に?それを答えることはできないけれど。
こうやってこれからこの先もひとりで、積み上げていくそれはやっぱり
少し
【怖い】
「おーすまだやってたのか九条さん」
「え、っと久世君?」
ガラッと扉を開いて中に入ってきたのは久世政近、本来であれば彼のようなグーダラな生徒は既に帰っているはずなのに、こんな時間まで残ってわざわざ1人で作業しているアリサの元まで来たのはなんのためだろう?
「九条さん1人だけじゃ大変でしょ?今日はもう帰ったら?」
「大丈夫よ、あともう少しで終わると思うし、それに…1人で何かするのは慣れてるから」
久世の言葉はありがたいけれど、このままではただでさえ遅れている作業がさらに遅延してしまう。
目線を布に向け直すと、またせっせと針で衣装を縫い始める。
「ぁ〜衣装に関しては手芸部が手伝ってくれるってさ?」
「ぇ?」
「逆に手芸部には男手を貸すことで同意してもらった、これで衣装は完了、あと」
混乱するアリサを横目に一枚の紙をアリサの前に見せる。
「学校泊まりの書類も揃えたから、皆でお泊まり気分でやれば作業は捗るし、男子は女子に良いとこ見せたいって張り切るしな?」
「そ、そんなのどうやって…」
「まぁ?色々知り合いがいてさ?だから、今日はもう帰りなよ、九条さん1人で頑張ったって仕方ないだろ?」
それだけはダメだった、それだけを言われてしまえば今まで何を犠牲にして、期待しないででも確実に積み上げ続けた何かが壊れる気がして。
「仕方ないって何よ!私は!私が参加する以上この出し物をいいものにしたい!でも!コツコツと楽しくない努力を積み上げ続ける辛さも知ってる!だから!私は誰かを巻き込まない!巻き込めない…
だから私は1人で積み上げてそうやって成功させてきた、1人で…これからもそうやって!」
それだけは認められなかった、あっさりと自分が本当は考えていた最善を用意して、今やってる事は効率が悪いからこうやった方がいいとさっさと言われてしまって、そんなものを許容できるはずがなかった…
でも
「努力の方向性が間違ってるよ、学園祭は皆で作るものだ、九条さん1人じゃなくて皆で、皆で積み上げて努力して何かすごい物を作ろうって積み上げ続けていくんだよ」
「そ、そんなの…ッ!」
「それにさ?どんなものでも1人じゃなくて皆で楽しく努力して、積み上げて完成させる…
そっちの方が絶対楽しいじゃん?」
「…………ぷッ」
「ぇ?」
「あっはは!!ふぅ〜〜〜ぷッっあはははっ!!」
それを言われたら駄目だった、つまらない、退屈、大変、忙しい、色んな理由で努力は物凄く体力がいる、楽しいと考える隙間を挟む余地なんかないと思っていた。
それを一蹴たった一言で、簡単なことのように言われてしまったらもうダメだった。
久世が訳も分からず困惑している前で筐体で涙を浮かべるほどに本当に楽しそうに笑ってしまう。
「え、えっと九条さん?」
「つまり、久世君のやり方だったら退屈な努力が楽しいって思えるってこと?」
「あ、ぁ〜いやまぁ腹の底から大笑いできるかどうかは」
「もし楽しくなかったら罰ゲームね」
「ちょ!?なんだそれすごい理不尽だ!?」
「いいえ理不尽じゃないわよ!その代わり」
そう言って立ち上がりカバンを背負うと久世の隣まで移動すると。
「もし楽しかったら…なんでも行くこと聞いてあげる」
「ぇ、、な、なんでも、なんで持って?」
背伸びをして少し高い久世の耳元でボソッと呟くと、混乱した男子高校生を放置してさっさとルンルンで帰ってしまう。
「ぇぇ!?ちょ、九条さん!?九条さん〜〜!?」
そこから先は語るのは野暮だろう。
これは孤高のお姫様が意地悪でグーダラな魔法使いの掛けた魔法で肩の力を抜いた話。
そんなおとぎ話のような学園祭が楽しくないわけが無い。