俺の個性?別に大したことねえよ   作:カバー

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プロローグ

 

 

アーティカ視点

 

 

 

進化ってのは、そう簡単な現象じゃない。

人類であるホモ・サピエンスなんざ、このところ30万年生物としてほとんど進化してねえなんて言われることもあるもんだ。

 

そんな中で、そんな通説をかき消すかの様な異能が現れた。

"個性"だ。

世界総人口の約8割が何らかの特異体質を突如として得たのだ。始まりが光る赤ん坊だってんだから、とんだ笑い話だよな?

 

そこからやれ炎を出す奴だの、雷を纏ってる奴だの、ド派手なビックリ人間ショーが始まった。当然治安なんざ一瞬で崩壊した。

個人がそんな武力を持って人間が制御できるわけねえしな。当然だ。

そこから先は混乱の社会だ。

俺の母の生まれ故郷のニホンでは"個性の母"なんて存在で異形差別を無くそうとしたらしい。

その上、ニホンには文字通りの"最強"が居た。

 

オールマイト。あの男にご都合主義の化身とまで謳われた、この世界最強。

そんなヒーローが居たニホンでは、年々個性犯罪者、通称敵による犯罪率は減少した。その影響力は日本のみならず世界中に行き届いた。

が、当然光あるところには闇がある。

 

 

 

俺の生まれ故郷のとある国では、個性テロが起きない日はなかった。

ただでさえ元から宗教だの何だので火薬庫だの言われてきた場所だ。

個人が個性という"凶器"を手にしたら、そりゃそうなるわな。

 

 

俺の母は強い女だったが、俺が6歳の時にテロで死んだ。父親は知らない。顔も見たことねえしな。別に気にしたことはないが。

俺は"8歳で"母親の仇のテログループを皆殺しにした後、やることもねえのでガキの頃から戦場を転々と回って体と感覚を鍛えた。

殺し方を知らないと殺される。それが俺の世界だった。

そして16になって傭兵としてそこそこ名を上げた俺に、ある依頼が届いた。

その男は、「超常黎明期」から裏社会で知らない人間は居ない男だった。

この裏社会の王。

その彼が所有する私の故郷の高層ビルで、俺は彼と会った。…ようやく成り上がってきた。俺は努力に対する見返りが好きだ。その為に戦ってきたと言っていい。

高級そうな黒のシックな家具で統一された、私の住んでいたゴミだめが見下ろせる最上階の椅子に座って、彼はシャンパンを飲んでいた。端正な顔に微笑を浮かべて、俺を自分の前の椅子に座らせた。

 

「やあ、君がアーティカ君か。よく来たね。まあ飲みたまえ。」

 

そう言って彼は俺にもグラスにシャンパンを入れて差し出してきた。俺は淡々と受け取ってぐいっと一気に飲み干した。

…流石に美味いな。果物の甘みが強い。俺好みだ。

そんな俺の様子を見て、彼はくつくつと笑って言った。

 

「気に入ってもらえて良かった。君は甘いものが好きだと聞いたので、部下に用意させたんだ。」

 

「にしても、だ。毒が入っているとか少しも疑わなかったのかい?」

 

「あいにく、俺に毒は効かない。」

 

そう答えると、彼は目を細めて穏やかに問いかけた。…妙な男だ。声を聞くと安心する気がする。

 

 

「それが君の個性かい?僕は君が"超人"的な身体能力を持っていると聞いたんだが。」

 

「それで合ってる。俺は元から丈夫でな。…個性は単なる身体強化だ。ま、ろくに調べたことねェがな。」

 

 

そう答えると、彼はじっと私を見つめた。そして、小さく感嘆のような息をついた。

 

「………なるほど。端的に言って、驚いた。君のような人間は見たことがない。」

 

どうやら目の前の男は他人を観察して情報を得る個性を持っているらしい。

 

「というと?俺はさっさと仕事の話に入りたいんだが。」

 

俺が焦ったくてそう答えると、彼はニヤリと笑って問いかけた。

 

「君は自分が何なのか知りたくないのか?」

 

「別に。俺は俺だ。仕事の対価に金があって、ついでに酒と良い女が居ればそれでいい。」

 

その答えに、目の前の男は笑って言った。

 

「なら、この時間にも金を払おう。それぐらいの価値が君にはある。」

 

「…まず君の個性だが、確かにただの"身体能力強化型"だ。正直言って、特筆すべきところはない。」

 

だろうなと俺は思った。個性を使っても、いつもより"少し"動きが良くなるだけだ。

彼は言葉を続ける。

 

 

 

「だが、その体…はっきり言って異常だ。筋肉の密度がまず尋常ではない。常人の30倍以上はあるだろう。」

 

「それだけではない。視力、反射神経、その他諸々…全ての身体活動の効率と性能が、一つ一つそれだけで個性と呼べるほど"良い"。」

 

「つまり?」

 

彼は薄笑いを浮かべて上機嫌に俺に言った。

 

 

 

 

「君は、新人類と言っても過言ではない。超人としての身体能力を得ている。それも、"個性"ではない形で!」

 

「僕も改造人間に着手しているが、君は恐らくその完成形に限りなく近い。…驚いたよ。君のような人材に会えて今日の僕は実に幸運だ。」

 

 

俺は自分が褒められて満更でもないが、どうも話の行方が不穏になってきて不安を覚えた。

 

 

「…アーティカ。僕の専属の傭兵になる気はないか?その体質を、是非研究させて欲しい。」

 

「いやだね。身体を他人に弄らせるなんざ、ゾッとしない。…専属の傭兵にはなっても良いが。」

 

目の前の男は無言で俺を見つめ続けた。恐らく腹の底でどうやって俺を捕らえるかと思案しているのだろう。だが暫くすると、ため息をついて頷いた。

 

 

「…まあ、今はそれで妥協しよう。君を捕らえるとなると少なくない被害が僕の部下に出る。それに、目下、差し迫った問題がある。」

 

「問題というと?」

 

 

目の前の男、オールフォーワンはそこで初めて表情から笑みを消して、底冷えするような声で答えた。

 

「オールマイト…忌々しい、平和の象徴さ。」

 

 

それから2年間、俺はその男…AFOの元で働き続けた。時には清廉潔白な市長を暗殺し、時には汚職に濡れた政治家を護衛した。

…そして俺は、初めての敗北を喫することとなる。

ニホンでAFOの息のかかった敵の増援に向かった時のこと、その男を見て、俺は思考が止まった。

何だあれは。

まるで一人だけ画風が違うかのような…圧倒的迫力。

 

そのヒーロー…オールマイトは数km先から狙撃銃で警官を狙撃した俺の弾を弾きながら、一秒足らずで俺の居るマンションの屋上へと降り立った。

 

「覚悟するのだな…敵よ!私が来た!」

 

上半身の赤いスーツに青いマントをたなびかせたその男は、そう叫んだ瞬間凄まじい速度で拳を俺の腹に叩きつけた。

 

「ぐっ…!」

 

俺は辛うじて右腕でその一撃を防ぎ、右脚の蹴りの一撃を奴の腹にぶち込んだ。

が、奴は多少怯んだだけで即座に俺の脚を掴んだ。

 

「あァ!?トラックを一撃でクラッシュさせる蹴りだぞ!?」

 

「確かにちょっと効いたぜ!だがここまでだ!」

 

そう言って奴は俺を上空へとぶん投げると、空中で身動きの取れない俺に向かって飛び上がって、空中で何度も前転して勢いをつけたパンチを俺に叩きつけた。

 

 

「CALIFOLNIA SMASH !!!!」(カリフォルニア スマッシュ)

 

 

俺の顔面に突き刺さったオールマイトの拳で、俺は地面へと叩きつけられる。

俺は一瞬朦朧としたが即座に立ち上がってオールマイトと距離を取る。

 

 

「ほんとにタフだな…久しぶりだよ!倒すのに数秒かかった敵は!」

 

「…AFOの部下だな。色々と洗いざらい!吐いてもらうぞ!」

 

 

そう叫んでオールマイトは爆速で俺に近づいてくる。冗談じゃない。俺は初めての俺より強い存在に戦慄しながら、即座に逃げの一手を打った。

爆弾を懐から取り出すと、思いっきり街中に向かって放り投げたのだ。

 

その爆弾は時速300km以上の速度で街中へと突っ込む。オールマイトは咄嗟にその爆弾へと走り、爆発する前に上空へと放り投げた。

それまでにかかった時間は実に二秒。

 

 

「………SHIT!!!」

 

 

俺が逃げるには、十分な時間だ。一秒足らずで人混みに紛れ込むと、そのまま俺は何食わぬ顔で街中を駆け抜けた。

あんなのとやり合ったらまず間違いなく俺は負ける。

なんで、あんなに強いヒーローは、俺の国に居なかったんだろうか…。そしたら俺の人生だって、もっと…。

俺は恵まれているニホンに無性に腹が立ちながらも、煙草に火をつけて、任務失敗を苛立ちながらもAFOにスマホで報告した。

 

それから数ヶ月後、AFOはオールマイトに敗北した。暫くはドクターの元で治療すると言って、裏から俺に任務を回すだけになった。

 

 

 

スマホで連絡を受けて、指定された人間を始末する。それだけだ。

実に簡単なおつかい。だがそれで良い。

オールマイトの時のような割に合わない仕事はごめんだ。…まあ、奴にムカつくのは事実だが。

 

 

それから5年ほど経った。

近頃はAFOは黒霧という便利なワープゲートを使う人材を手に入れたようだ。何でも、"脳無"という遺体を使った改造人間らしい。気味が悪いが、便利ではある。

仕事終わりにバーに転移させてくれるのだ。

バーテンダーは黒霧。俺の好きな果実酒を気前よく飲ませてくれる。

そして今日は俺以外にも客がいた。

病的な痩せ見に無造作な白髪頭。そして身体中に張り付いた死体の手。

 

死柄木の坊主だ。AFOが何を好き好んだのか拾ってきたガキで、この若さで殺人までしている将来有望な敵だ。

 

「よお死柄木の坊主。元気してたかよ?」

 

俺がそうバーに来るなり挨拶すると、決まって彼は舌打ちした。

 

「………何度言ったら分かるんだ?俺をガキ扱いするな。殺すぞ。」

 

「ははは。殺せたらな。」

 

俺がそう煽ると、決まって死柄木は俺に手を伸ばしてくる。俺は綺麗にその腕を掴むと、捻り上げた。

 

「…格闘術でもやったらどうだ?動きがトーシロ同然だぜ?」

 

「うるせェ。んなもんいらねえよ。俺はただ気に食わないもんをぶっ壊したいだけだ。」

 

すると、黒霧も慣れたもので動揺せずにカウンターに俺用の果実酒を置いた。

 

「レディ・アーティカ。悪ふざけはそこまでにして頂きたい。」

 

「そうか?まあお前に言われたらやめるとするか。」

 

「チッ…」

 

珍しく死柄木もそこで大人しくなって私の隣に座ってグラスに入ったジュースを飲んだ。

俺は面白半分で問いかけた。

 

「なんか上機嫌じゃねえか。いい話でもあったか?」

 

「…あ?まあ、そうだな。先生からいい話があった。」

 

死柄木はAFOのことを先生と呼んだ。拾ってくれた彼をそれなりに敬愛しているのだろうか。黒霧はそこで私に言った。

 

「雄英高校の教師にオールマイトが着任したことは知っていますか?」

 

「誰でも知ってるだろ。まあ俺はあそこら辺で仕事することはあんまりないから関係ねェが。」

 

その言葉に、死柄木は不気味な笑みを浮かべて言った。

 

「そのオールマイトを殺すのさ。お前も手伝えよ。先生から許可は取ってある。」

 

俺は、飲みかけの果実酒を思わず吹き出したのだった。

そして、俺はトラウマのオールマイトと再び向き合うこととなる。ここから、俺の割に合わない仕事の連続が始まるのだった。

 

 

 

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