俺の個性?別に大したことねえよ   作:カバー

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融解 その1

アーティカ視点

 

 

まだ朝日の姿も見えねェ早朝5時、首を真後ろに倒させてしまうほどの高さと豪奢な造りの門と、どこまでも続く塀が周りを圧倒する大豪邸、八百万邸を俺たちは眺めていた。

その表の門の正反対に位置する塀を前にして、指定凶悪(ヴィラン)の超絶美人のアーティカこと俺と、その可愛い愛人にして部下である耳郎は、耳に装着したイヤホン無線で、今回の作戦の三人目の共犯者である骸骨頭と通話を行なっていた。

監視カメラの死角を見つけるなんざ、俺には容易い。ほとほと平和ボケした国の金持ちだ。監視カメラの数だけは多いが配置がザルすぎる。

 

 

「…よし作戦開始だ。骸骨頭、頼むぜ。」

「了解だ。」

 

その骸骨頭の素っ気ない答えから数分すると、八百万邸の監視カメラや室内の電気システムが一斉にダウンした。…やはりいい個性だ。現代社会では電気のシステムに依存してない場所はねェ。今頃骸骨頭はそこらの八百万邸宅付近の路地裏に潜んでいるだろう。報酬に色つけてやらなくちゃな。

 

骸骨頭の仕事が終わったのを確認して、俺は耳郎ちゃんを抱き寄せて一気に高い塀を駆け上った。

滑らかに土の上に着地し、広大な庭の中へと侵入に成功する。

「まるで森じゃん。お嬢様とは聞いてたけど、ここまでとはね…。」

 

そうゴシックロリータのコスチュームに身を包んだ耳郎ちゃんが感嘆の声を上げた。それも無理はない。

この庭は見事に手入れされた森林そのものだ。丁寧に舗装された煉瓦造りの道は、優雅な散歩コースを思わせる。おしゃれな街灯が、ぼんやりと辺りを照らしている。ベンチまである。もう公園じゃねェか?

その光景を見て俺は虫唾が走った。

吐き捨てるように呟いた。

 

「はっ。苦労も知らないお嬢様ってか。ますます攫いたくなってくるね。…急ぐぞ。」

 

そう指示して、俺と耳郎ちゃんは音もなく、手の行き届いた森林のような庭園を通過し、豪華絢爛な西洋建築の八百万邸が見える位置の草むらにまで辿り着いた。

 

…正面玄関にはガードの男が四人ほど出待ちしている。急に連絡網が使えなくなって、動揺している様子だ。

 

「おい、何なんだこの停電は!?」

 

「知るかよ。とにかくここで俺たちは入口を死守だ。」

 

手に持っているのはスタンガン銃だろう。

そんなもん俺には意味ないんだがな。130万Vのあの電気のガキの放出でもビクともしなかったんだ。俺を電気で仕留めるなら殺す気でやれって話だ。

 

まだ屋内にゾロゾロお仲間が居やがるだろうし、騒いで正面突破は愚策だな。

 

そう判断した俺は、耳郎ちゃんにここで待てと手のジェスチャーで合図すると、影を縫うかのように音もなくガード達の死角へと入り、一人ずつ声をあげれないように、ボディーアーマーの隙間から短刀『珠音』で首を裂いていく。

ドロっとした血の塊が流れて、音もなく地面に染みていった。

…やはりいい短刀だ。滑らかで、よく血を吸う。

断末魔を上げることもできず屈強なガード4人は地面に倒れた。さよなら。

 

そして駆け寄ってきた耳郎ちゃんを、俺は抱き寄せて素手で八百万邸の壁へと指の力だけで張り付き、スルスルと蛙のように登ると、中に人が居ない部屋を探す。

 

やがて無人の部屋を見つけると、その三階の一室の窓を割り、無人の部屋の中へと滑り込んだ。どうやら物置らしい。高価そうな家具類が所狭しと雑多にしまってある。絵画にソファに…。ったく。余計ムカムカしてきたぜ。

 

「耳郎ちゃん。じゃあ早速探知頼むぜ。」

 

「了解。」

 

そう言うと、耳郎ちゃんは耳たぶから生えているイヤホンプラグを屋敷の壁へと差し込み、神経を集中させる。そして暫くすると、ポツポツと小声で俺に報告した。

 

「一階の馬鹿でかい…多分講堂かホールです。そこにガードっぽい男連中が十数人。各フロアの廊下に見回りが二人ずつ。」

 

「………このフロアの奥まった部屋に一人。多分男。不安そうに部屋の中をウロウロ歩き回ってます。

他に動いてるのは居ないです。」

 

 

…ガードだけ?それはあり得ないだろう。この規模の邸宅なら、まず使用人は居るはずだ。それも数十人単位で居なければおかしいだろう。平日の朝の5時だぞ?何なら使用人にとって慌ただしいはずの時間帯じゃないか?

耳郎ちゃんの個性は動いている対象しか感知できないが、それでも…。

「妙だな。この規模の屋敷で召使の一人も居ないのか?…あらかじめ避難させておいた?」

 

「もしかして、ウチらの存在がバレてるんですかね?」

 

そう不安げに俺に問いかける耳郎ちゃんに、それはないと俺は首を横に振って、自慢のGカップの豊満な胸の前で腕組みをした。

 

「いや。だったらガードはもっと慌ただしい筈だ。来るのは知ってたが、どう来るのかまでは知らなかったと見るべきだな。…キナ臭え。さっさと攫って退散するに限るわな。」

 

そう言い終わると、俺は部屋を出て廊下の見張り二人に背後から忍び寄って、玄関口のガード4人と同じように短刀で喉を裂いて殺した。

そして速やかに音もなく奥まった部屋…恐らくこの八百万邸の主人の部屋である、格式ばった黒塗りの木製の扉の前へと辿り着いた。

監視カメラが有れば他のガードがすっ飛んできただろうが、生憎今は完全に機能を停止している。

 

「耳郎ちゃんはここで見張っててくれ。まあ大丈夫だとは思うが。」

 

「了解です。」

 

耳郎ちゃんを扉の前に立たせて一応背後を警戒させておく。

そして俺は屋敷の主人のように、堂々と木製の重厚な扉を開けた。

ギイと音を立てて扉が開かれる。次の瞬間、スーツ姿の壮年の男性が、無我夢中で俺に殴りかかってきた。

 

「はッ。」

 

俺は殴りかかってきた右腕を掴んで捻ると、一思いに腕をへし折った。

ボキィ!

 

「うぐお…あァァ!!!」

 

その男…恐らく今の八百万グループの家督だろう壮年の野郎は、無様に痛みに耐えきれず地面でのたうち回った。

すると、部屋の奥から悲鳴のような甲高い少女の叫びが響いた。

 

「お父様!!」

 

「百!!だめよ!行っちゃダメ!!」

 

その暗い部屋の角には、雄英襲撃時と体育祭でも見慣れた、あのイイ女が居た。黒い長髪に黒い瞳、艶やかな睫毛に、読者モデルのような端正な顔立ち。そして何より、その爆発的な体の育ち具合。立派な胸の果実に、見事なくびれ。マジでモデル級だな。

 

…いいねェ。八百万百。そのイイ女の母親もイイ女らしい。八百万百をそのまま大人にしたような、少し柔和な雰囲気の、こちらもまた豊満な体つきのイイ女だ。二人とも俺並みにおっぱいデケェんじゃねェか?

 

必死に母親が娘を庇っている姿が涙ぐましいねェ。その姿を見ると、何故だか無性に苛々する。

…いや、理由は分かってる。俺にはもう絶対に手に入らない物だからだ。

今でもたまに思い出す。爆発テロに巻き込まれて、礼拝に訪れたモスクの瓦礫に埋もれて血塗れになりながら俺へと手を伸ばす母親。

俺は、そんな母さんを…。

 

貴重な親子愛か。母親と娘か!いいなァ。欲しいなァ。奪い取りてェなあ!!

 

 

俺は一瞬理性が忘れるほど頭に血が昇るのを実感する。そうだ。折角だし八百万の母親も一緒に攫ってしまおう。豊満な体つきの親子で遊ぶというのも乙な物だ。

甲斐甲斐しく二人に奉仕させるのも悪くない。

そうだ。俺は奪うしかないんだ。踏み躙られた尊厳を、愚かしい自分を忘れる為には、とにかく恵まれた他者から奪うしか…!

 

首を絞めて取り敢えず二人を気絶させるか。黒霧にも連絡しよう。俺の携帯のGPSでこの部屋の位置情報は黒霧も既に分かっている。さっさと帰ってこの二人を躾しよう。きっとそれで俺は"満たされる"。

獰猛に笑って俺は美味しいそうな獲物二匹へと近づく。が、か弱い力がそれを引き止めた。

 

「………あ?」

 

「行かせ…ないぞ。私の…娘と…愛した人は…決して…!」

 

腕をへし折ってやった男は、俺の足に縋りついてそう弱々しく呟いた。

瞬間、更に俺の頭に血が昇った。…何が父親だ。何が善人な金持ちだ。俺は認めない。そんな存在、居たのならなぜ…。

 

「うるっせェんだよォ!!!!」

 

俺はその男の頭を思いっきり蹴り飛ばした。女達の悲鳴が響く。無我夢中で俺はその男の腹を、頭を、蹴り続けた。

 

「あァ!?大人しくくたばっとけよ!!俺はなァ!てめェみてぇなのがいっちばん嫌いなんだよ!!」

 

「思いしれ!!どうだ!!思いしれ!!あァ!!?」

 

その俺の大きな怒鳴り声を聞きつけて、慌てた様子で耳郎ちゃんが部屋の外から中に入ってきた。そして部屋の中の光景を見て、驚いた様子で俺に問いかけた。

 

「ちょ…どうしたんですか!?そんな大声出したら…!」

その一言で、俺の頭に昇っていた血が少し引いた。…俺は何をしていたんだ?馬鹿馬鹿しい。合理的じゃなかったな。最後に軽く気絶した男の腹を蹴ると、俺は耳郎ちゃんに軽く謝罪した。

 

「悪い。…どうもいけねェな。さっさと帰るか。この女二人攫おう。黒霧に連絡頼めるか?」

 

「え?八百万はともかくそのお母さんも攫うんですか?」

 

「あァ。気に入ったんだ。後から交渉材料にも使えるしな。」

 

「…どうせエッチな意味でしょ?…まったく。分かりました。」

 

そう少し拗ねた様子だが、渋々納得した耳郎ちゃんは、イヤホン無線越しに黒霧と話し始めた。

そんなゴスロリコスチュームの耳郎ちゃんを見て、八百万のガキは悲痛な顔をして、涙を目に溜めながら叫んだ。

 

「…耳郎さん!どうか、こんなことはもうやめて…!何故ですか!?何故敵などに…!余程お辛い目に遭ったのですか!?それも私のせいで…!」

 

そんな後悔と自己嫌悪に端正な顔を歪ませる八百万のガキに、耳郎ちゃんは照れくさそうに笑うと、晴れやかな顔で答えた。

 

「…ウチはアーティカさんと一緒に居れて幸せだよ。きっと八百万もすぐ分かるって。」

 

 

そして、部屋の中に黒いモヤのようなワープゲートが現れ始める。八百万母娘は怯えたように部屋の角に縮こまった。

ヒーロー志願者とはいえ、まだガキか。

…これで終わりか。ま、軽い仕事だったかな。だが久しぶりに頭に血が昇ってアホになっていた。仕事中にだ。…恥だ。

昔の仕事でもそんなことほぼ無かったんだが。俺は帰ったら反省会だなとため息をついた。

似たようなのは、オセアンの時に一回やらかした程度か。

そう何気なく思った瞬間、黒霧のワープゲートのモヤが、一瞬で掻き消えた。

 

「…あ?」

 

黒霧が裏切った?いや、それだけはあり得ない。なら何故?ワープが無かったことのように…個性が、消された?

個性の抹消…つまり、奴か!?

 

「…ッ…え?」

 

俺がそう理解した瞬間、耳郎ちゃんの全身を白い包帯のような布が一気に縛り上げた。耳郎ちゃんは咄嗟の状況に反応できない。その布は、部屋の外から伸びて、一気に耳郎ちゃんを部屋の外まで引き摺り出した。

 

「個性が…使えない!?これって、まさか…!」

 

「やめとけ耳郎。…不甲斐ない俺が言える義理じゃないが、これ以上罪は重ねるな。」

 

暗闇に溶け込むような全身真っ黒の服に、マフラーのように首周りに巻かれた捕縛布。その下の目線を悟らせないためのゴーグル。

その男は、容易く耳郎ちゃんを捕まえると、暗闇からまるで影のように姿を現した。その視線には、隠しきれない怒気が篭っている。

 

「…抹消ヒーロー、イレイザーヘッドか!」

 

「ご名答。指定凶悪敵アーティカだな。…雄英高校の教師として、この耳郎響香の将来を預かっていた者として、お前をブタ箱にぶち込む!」

 

…こりゃ相当怒ってるなァ。そりゃそうか。教師としても、ヒーローとしても俺を許せる道理なんてないよなァ。

 

「やれるもんならァ、やってみろやァ!」

 

そう叫んで俺は部屋を出て廊下まで駆けて、イレイザーヘッドの腹に前蹴りを喰らわせようとする。

瞬間、俺の周りを煙状の物質が包み込んだ。そしてその煙は、次々に人の形に変形して、俺を取り囲んだ。禍々しいフェイスマスクの、ヒーローらしからぬこのコスチュームは…。

 

「エクトプラズムか。なるほどな。『抹消』に『分身』のコンボか。こりゃエゲつねぇわ。」

 

エクトプラズムの本体は部屋の外か。体内から排出する煙を分身に変形させる個性。…数が多いのが厄介だな。確か出せる分身の数の限界は30体前後。俺の個性を『抹消』で消して、『分身』の数でゴリ押す算段だったか。

その隙に、エクトプラズムの分身の三体がそれぞれ八百万親子三人を担いで、防衛の構えに入っている。それはどうでもいい。俺を無視して逃がそうとしたら分身を潰せばいいだけだ。分身をいくら潰しても意味がない。それなりに削ったら本体をまず潰す。

 

 

「エクトプラズム先生…!相澤先生!」

 

「…辛カッタナ。モウ大丈夫ダ。我々ガ居ル!!」

 

そうエクトプラズムは教師らしく八百万のガキを励ましている。…もう俺に勝ったつもりか?

 

…確かに強力な個性の組み合わせだ。『抹消』の効かない異形系の個性でない限り、普通ならこの状況の打開は不可能だろう。

戦闘力を、"個性"に依存してたらな。

 

 

俺は飛びかかってきたエクトプラムの分身三体を、回し蹴りで一蹴する。その風圧で、俺を取り囲んでいた分身達もよろめいた。その隙に短刀『珠音』と『青虎』で縦横無尽に分身達を切り裂く。その一瞬で、俺を取り囲んでいた分身は、八百万一家を庇っている三体を除いて、全て消滅した。

 

「…個性、消シテルンダヨナ。」

 

「ええ…つまり信じられませんが、素であのパワーってことになりますね。」

 

「オールマイト級ジャナイカ…。」

 

そうこちらを警戒してヒーロー二人は会話を交わす。小声でしてる内緒話のつもりだろうが、俺の聴覚なら丸聞こえなんだよ。

エクトプラズムが即座に分身を復活させるが、その動揺は隠せない。まず力のゴリ押しでこいつらを殺す。そして耳郎ちゃんを回収して八百万のガキと母親を攫う。

…全て問題なし!

 

「…悪ィが、時間がねェんでな。さっさと終わらせるぞ。」

 

このレベルのプロヒーロー二人ならいくらでも始末できる。はっきり言って負ける方が難しいだろう。…だがそうだな。時間が勝負か。

『抹消』のイレイザー・ヘッドが居る限り、黒霧の脱出ゲートは使えない。

…できうる限り速やかに排除しないとな。

 

 

**********************

 

 

その戦闘が始まったと同時刻、八百万邸付近の街角で、灼熱の炎を身に纏ったNo2ヒーロー、エンデヴァーのサイドキック達は作戦に向けて、避難誘導を済ませていた。

時間にして僅か15分程度での避難誘導完了。経験則と、周辺の地形を事前に把握していた賜物である。

無線越しにそのサイドキックの一人、バーニンがエンデヴァーに報告する。

 

「エンデヴァー!予定ルート上の住民の避難、完了しました!」

 

「よし。八百万邸の状況はどうなっている?」

 

エンデヴァーは一人、八百万邸へと向かっていた。個性である『ヘルフレイム』の超高温の炎を、足の先から爆速で噴射して、空中を高速で飛んでいく。その姿はまるで人間砲台だった。その姿を見れば、並の敵は恐怖して命乞いを始めるだろう。

それ程の、No2ヒーローとしての風格。

 

「アーティカにより警備システムダウン。ガードも複数名殺害された模様。」

 

「…だろうな。最初からヒーローを入れておけばこうはならなかったんだ。ガードだけで事足りると断りやがって…。」

 

そう八百万家への愚痴をエンデヴァーは溢した。

最初に彼は八百万邸への自身のサイドキックを始めとしたヒーロー達の配備を要請したが、断られたのだ。

雄英の対応を見て、プロヒーローへの信頼を失ったとの理由だった。

それでは敵の思うつぼだ。分断こそが奴らのオハコなのだから。事件解決数No1のエンデヴァーは、その敵の行動原理を熟知していた。

 

何故か連絡がつかないオールマイトにも苛ついていた。あの男に限ってやられる筈がないとは理解しているが、この任務が終われば嫌味の一つや二つ言ってやろうとエンデヴァーは心に誓った。

 

「イレイザー・ヘッドとエクトプラズムがアーティカと交戦中。苦戦している模様です!」

そのバーニンの焦り気味の状況説明に、エンデヴァーは警戒したように厳つい顔を険しくした。

 

「…あの二人の個性の組み合わせでもダメか。ならやはりプランBだな。準備しておけ!」

 

「あと5分もすれば俺が八百万邸に現着する!地獄の業火を見せてやるぞ!!」

 

「「「「了解!!エンデヴァー!!!」」」」

 

エンデヴァーの号令に、歴戦のサイドキック達も高らかに吠える。

地獄の炎をその身に宿したNo2が、アーティカへと迫っていた。タイムリミットまで、あと5分。

着々とアーティカへの炎の包囲網は、完成しつつあった。

 

 

 

 

 

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