アーティカ視点
真面目で真っ直ぐな理想を持ったお嬢様の、根本のこのヒーロー社会への信頼感を壊す。まず洗脳に大事なのは、その対象の常識、モラルを破壊することだ。
これは料理で言う下拵えだ。
そしてお次は理不尽な二択で冷静な判断力を奪う。耳郎ちゃんの場合は最も重い選択である命の選択を。そして死体を晒して判断力が鈍った瞬間に悪人と子供の命の選択という、正解の分かった問いを与える。…どんどん焦燥して最終的にはその与えられた正解に耳郎ちゃんは飛びついた。
八百万ちゃんの時はもう少し複雑。彼女は分かりやすく真っ直ぐで、穢れなき箱入り娘だ。
だからレディ・ナガンのビデオを通じて現代のヒーロー社会の歪さを端的に示した後、選ばせた。
罪を見なかったふりをして社会に適合するか、それとも善良な市民の立場を捨てて敵の闇に堕ちるか。
…結果、八百万百は後者を選んだ。まあこれは半分賭けだったが上手くいってよかった。俺の身の上話も効いたようだ。
所詮は15歳の学生だ。まだ信念という名の確固たる味も持っていない子供達。精神を丸裸にして俺好みに調理して味付けするのは実に容易い。
やはり母親の方からではなく娘の方からにしたのは正解だったな。
だからこそ…
「アーティカさん…その…んっ…お母様の前でされると…その…恥ずかしいのですが…。」
「なんでウチまで…いや…嬉しいけどさ…。」
今この状況がある。俺は居間のカウチソファに座って寛ぎながら、両隣の俺の可愛い少女達を愛でる。右隣の八百万百ちゃんは、実に魅力的な身体をしている。…俺の15の頃より発育いいんじゃないか?何よりこの胸が素晴らしいね。俺より小さいとはいえ、このハリは素晴らしいな。そう感心しながら俺は胸を揉まれて顔を赤くする八百万ちゃんの美貌を眺めた。睫毛が艶やかでなっがいな…強気で大人びた感じの少女が、俺の隣で甘えていると思うとつい気分も高まってしまう。
耳郎ちゃんの手の込んだJ-GOTH風のゴスロリ衣装のコスチュームとは違い、八百万ちゃんが今着ているのは、彼女自身が『創造』で生み出した、胸元から臍まで大胆に露出されたレオタード風のコスチュームだ。
…八百万ちゃんの個性は肌から生成物を『創造』する関係上、露出の少ない服だと創造の度に服が破けてしまうから、これが最適解なのだそうだ。
ただ雄英襲撃の際とは違い、色が赤色から黒色になっている。何でも気分を変える為だそうだ。
俺の助言で青色のマントを羽織っているようにはなったが。単純に防寒の為でもあるが、マントで、相手から見えないスペースを作るためだ。『創造』は手数と判断力の勝負が重要な個性だ。
視線を遮る手段は常にあったほうがいい。
…まあ、そんなこと百ちゃんはそのうち自分で気づいてたろうけどな。
あれから数日かけて堕とした後、開口一番に彼女はこう言った。
「…決めましたわ。私は貴女について行きます。それで考えていたのですが、お母様を"説得"する方法と、これからの私達の戦略に関してなのですが…。」
正直あの時はかなり驚いた。いや、堕ち方ではなくて。その提案してきた案の練られ具合と、完成度の高さにだ。
外の情報を遮断され、俺に堕とされながらもここまで現実の情勢を完璧に予想した策を考えつく人間は稀有だ。
…これはいい拾い物をしたな。俺はつくづくそう思った。そのトップモデルも真っ青の美貌とスタイルに、恵まれた個性。その生まれ持った社会的地位による影響力。そして何よりも優れた戦略眼。
いいな…かなり良い。
耳郎ちゃんも決して悪いわけではない。むしろ体の身のこなしや技の覚えの早さは一級品だ。
それでも…このダイヤの原石には及ばないかもしれない。
そう思わせるほどの、才能。
かつてAFOが言ってたことを何となくその時、俺は思い出した。
「雄英に優れた個性が集まるのは道理でね。悲しいことになかなかこちら側に来ることはないんだが。」
そう数年前のAFOは暗い部屋の中で、いつも通り薄ら笑いを浮かべながら俺に暇つぶしで語りかけた。
「…三つ星レストランの残飯を漁るように、そこからお溢れを僕が貰うこともあるんだ。」
「いつかは、そこから上等な料理を丸ごと貰ってしまいたいがね。」
…恐らくAFOの言っていた残飯とは、"死体"のことだろう。脳無の材料にも使える。成程な。あいつの言っていたことが実感で分かった。個性が良いだけならただ奪えば良い。
だがそうではないのだ。
雄英生徒が特別足り得るのは、その心技体が一人の人間として優れた存在となり得る素質を持っているから。
…しまったな。ここまで雄英が警戒を強める前に、速攻で後2人は攫っておくべきだった。百ちゃんほどのものではなくても、まず間違いなく役立つ駒になったろうに。
どうやら報道で知ったが雄英一年生の例年の職場体験は今年は中止だったそうだ。
林間合宿も恐らくいつも通りに行われることはないだろう。内部に"密偵"が居るならともかく、流石に俺の女も雄英には居ない。
公安内部の鈴音ちゃんに探ってもらうにしても限度がある。
…二年生や三年生の洗脳はそう簡単にはいかないだろう。
特に三年生はインターンを始め、プロヒーローに限りなく近い経験を積んでいる。実質的に半プロヒーローだ奴らは。
まあ、先のことは取り敢えず今はいい。
死柄木の坊主も成長目覚ましいしな。
…あの投稿された動画。削除と公開のイタチごっこを繰り返しながらも、着実に世間に浸透している。
内容は犯行のアピールと、ヒーロー社会への恨み辛みをただ喋って、捕らえていたプロヒーローを一人殺しただけのもの。
演説の出来は、まあ控えめに言って40点ってとこかな…100点満点で。
言葉遣いも覚束ねえし、支離滅裂。
だが…そんな点数では測れないところが死柄木の坊主の敵としての価値なんだよな。
あの演説には、熱があった。個性社会への、ヒーロー社会への恨み。
大事なのはそこなのだ。
内容は100点満点の演説でも、演説するのがど素人の一般民衆じゃあ誰の心にも響かない。
現役のクソッタレ国家の大統領や首相は皆、大なり小なり熱を持っている。それが自己陶酔でも、確固たる自信や信念は人を魅力的に映す。
死柄木の坊主の場合のそれは、至極明快。
ただこのヒーロー社会を壊したいという衝動と、オールマイトへの、壮絶な憎しみ。
…信念っていうには破滅的すぎるかな。だがそれで良いのだ。
だからこそ悪意は集う。より大きな熱に当てられて、社会のはみ出しものが集まり始める。
問題はあのアジトのバーでその悪意達を、俺達に好き放題されて躍起になってる警察達から、上手く隠し切れるかどうかなんだが…
「ティカさん…アーティカさん!」
俺は右隣の八百万ちゃんの声で思考から目の前の事象へと頭を浮き上がらせる。…あー…くそ。たまにこうやって安全だと思うと思考に耽っちまうんだよな。悪い癖だ。
「悪い悪い。考え事してたわ。…何分くらい経ってた?」
「6分くらいだよ…いやめっちゃ気まずかったんでスけど…人の前で胸弄られながら数分間無言で放置されるって…。」
そう耳郎ちゃんが呆れたようにため息を溢した。俺はごめんねと可愛く謝った後に目の前で困惑の表情を浮かべる八百万の母親の方へと視線を向けた。
そして笑顔で両隣の美少女二人の肩を抱き寄せて母親に穏やかに告げた。
「見て分かると思うが、君の娘さんはもう私の同志だ。ま、事情をざっくりと説明しよう…。」
そこから俺は語った。レディ・ナガンが公安の殺し屋であったこと。その一部始終を八百万ちゃんが見て、このヒーロー社会の欺瞞に気づいたこと。そして俺の過去を悲しんで、このヒーロー社会を変えることを決断したこと。
「ってわけでね。お母さんにも協力して欲しいんだ。娘さんの夢を応援してあげて欲しい。」
俺がにこやかにそう語り終えると、八百万美神は、震えながら自分の娘を見つめた。その目がありありと語っていた。嘘だと言ってくれと。自分の自慢の、誰よりも潔白な娘が敵に堕ちるわけがないと。
だが、その期待はその娘自身に残酷に裏切られた。
八百万ちゃんはこの場の誰よりも誇らしそうに、胸を張って誰よりも朗らかに微笑んだ。
「…お母様!八百万家の者として、私はヒーロー社会の裏で泣いている人々を見捨てることはできません…!」
「私は今も昔も、誰かの笑顔のために戦うのですわ。」
瞬間、母親は泣き崩れた。…俺が揺さぶるまでもなかったな。これは、あまりにも強烈すぎる衝撃だ。だけど不味いな。衝撃がデカすぎてヤケになられるのが一番面倒なパターンだ。もう百ちゃんの役目は終了だな。まずは落ち着かせてから…。
「…すまないが百ちゃんに耳郎ちゃんは席を外してくれ。俺から説得する。」
そう俺はジェスチャーで二人に下がるように告げる。百ちゃんは泣きじゃくる母親に一瞬手を伸ばしかけたが、俺の方を見て頼みましたよといわんばかりに会釈すると居間を去った。
俺は立ち上がって棚からワインの瓶を取り出し、二つ取り出したグラスに注いで八百万美神の方に差し出した。
「飲みなさい…落ち着くよ。」
「………飲めるわけないでしょう?
そう俯く姿は百ちゃんそっくりだ。美少女の母親は美人ということか。…あの野郎が羨ましいねえ。痛ぶっといてよかった。
食事を摂っておいて今更と思わないでもないが、精一杯の抵抗のつもりなのだろう。小生意気だな。へし折るか。
俺は微笑んだまま二つのグラスを机に置いて美神の耳元で、百ちゃんに聞こえないように小声で呟いた。耳郎ちゃんには聞こえるだろうが別にだからどうということでもない。人殺しできる段階まで進んだ耳郎ちゃんなら信頼できる。
「あのさ。口答えできる立場だと思ってるのか?何なら今すぐ君の娘さんに人殺してこいって命令しても良いんだぞ?」
そう囁いた瞬間、美神は端正な顔を強張らせて、涙目になって黙りこくった。そして暫くそうすると、ふらふらと立ち上がってワイングラスを手に取った。
俺はそれを確認して、ソファへとまたゆっくりと座った。
そして残った方のワイングラスを手に取って血のように赤いワインを喉に流し込んだ。
「…ワインは普段飲まないんだが。今日は記念すべき日だからね。記念に取っておいたワインを思わず開けてしまったよ。」
まるで世間話かのように他愛もなく俺は話を続ける。完全に主導権はこちら側だ。そろそろトドメを刺すか…。
「さて、じゃあ本題に移るけど。百ちゃんはヒーロー社会の欺瞞に気づいたんだ。もう彼女は止まらない。"俺"が止めさせない。」
「…公安の暗部を知った以上、表でまともな生活を送るのも難しい。言っちゃ悪いが、もうお前達は元の生活には戻れない。」
そう淡々と告げると、美神は震えて黙りこくっていたが、絞り出すように俺に問いかけた。
「…
まあ、妥当な反応だな。だが悲しいかな。もうそこは論点じゃない。
「…だから?お前が俺を信じようが信じまいがもう関係ないんだよ。百ちゃんは信じてる。」
「………!」
察しがついたようだな。流石に頭が冴えるようだ。自分達はもうどん詰まりだってことに。
「百ちゃんに取って最悪のパターンは、俺の言っていることが全て"真実"で、母親が自分を見捨てる展開だ。それぐらい分かるだろう?」
「要は、お前が抵抗するだけ百ちゃんは苦しむんだよ。さっさと俺の女になれ。それがこの状況での最善の道だ。」
そう言い切ると、俺はワインを飲み干した。舌でペロリと唇を舐める。美神は無言だった。ワインもろくに味はしないだろう。可哀想に。だが俺は知っている。善良な母親は、娘を決して裏切らない。その無償の愛を"私"は知っている。
やがて、震える声で美神は答えた。
「…分かり、ました。あの娘の…百のためなら…。」
どうやら、俺の読みは当たったらしい。力なく、娘を成熟させたような見事な身体をした人妻は肯定した。…この瞬間が俺は一番好きだ。自分の中の欠けてしまった何かが、満たされるような感覚になる。
俺は微笑んで八百万美神を抱き寄せると、豊満な胸の感触を腹で楽しみながら唇を奪った。
「…ッ⁉︎ん…んん!…ん…。」
舌を口内へと差し込む。丁寧に丁寧に口の中を味わう。…舌を絡ませあい、じっくりとワインの香りがする人妻の口内を味わった。
「…あー…やば…。征服感はんぱないなこれ…。」
「それじゃあこれからよろしくね。美神さん。」
こうして人妻は、敵の愛人へと堕ちた。蜘蛛の巣に絡め取られる、蝶のように。艶やかに、美しく。
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アーティカ視点
それから数日が経過した。俺としては満足な日々だった。若干自分と八百万母娘を比較して落ち込んでいる耳郎ちゃんをじっくりと可愛がって、色んな意味で豊かな母娘と優秀な参謀が手に入った日常を精一杯謳歌した。
…美神さんの料理の腕は壊滅的だったけど。
魚臭いクッキーとか初めて食ったぞ…?どんな味覚してりゃああなるんだ…?
だがそれに伴う新たな問題も発生していた。
「…居住
「あー…。確かに…。」
俺の食事時の呟きに耳郎ちゃんが察したように言葉を返した。
この隠れ家は俺一人と、あと一人程度の住み込みを仮定して設定されている。当然ベッドも一つなのだ。それなりに高級で大きなベッドではあるが、三人寝るのには流石に耐久性に欠ける。
…いや、まあ、密着して耳郎ちゃんや百ちゃん、美神さんと寝るのは凄え気持ちいいんだけど。
一人はソファで寝る生活をしようかとも思ったが、俺はまだ多くの女を攫う予定がある。
そろそろ増築を考えた方がいいだろう。
「確かに手狭ですわよね。…うちの寝具も入りそうにないですし…。」
「いや、八百万ん家どんだけ立派なのさ…。押し入った時見たけども。スケール違うわー。」
そんな風に隣の席同士の百ちゃんと耳郎ちゃんは言葉を交わす。
百ちゃんと耳郎ちゃんは割とすんなり仲良くなった。俺に基礎体術を仕込まれている間も、二人は親しげに励まし合っていた。
俺の隣の美神さんに俺はしだれかかりながら、ため息を溢した。
「しゃーない。義爛に頼むか。あいつの専門業者なら大丈夫だろ。」
「しかし…業者の出入りがあると警察に嗅ぎつけられるのでは?」
そう冷静に百ちゃんは指摘してくる。流石に視野が広いな。俺は感心だねと褒めながら淡々と説明した。
「いや、それは大丈夫だ。黒霧経由で直接ここに招待する。義爛本人だけならともかく、業者となると目立つからな。」
「…なるほど。やはり黒霧…いえ。黒霧さんの個性はかなり強力ですわね。それなら建設機材のある程度は私とお母様が『創造』しますわ。」
…創造の最大の強みは、やはりここだろうな。圧倒的な万能性。戦闘よりむしろ、事前準備などに使える。金稼ぎにも最適すぎる。
だって金やダイヤモンドが生成できるんだぜ?
もう金勘定は考えなくていいな。
「助かるよ。それじゃあ百ちゃんの紹介も兼ねてそろそろ死柄木の坊主のとこ行くか。そろそろあっちも…。」
ブー…ブー…ブー…
すると、タイミングよく俺の電話が鳴った。胸元からスマホを取り出す。それを見て、耳郎ちゃんはビックリした様子で呟いた。
「やっぱ…アーティカさんの…デッカ…。」
「…お母様より大きい方初めて見ましたわ。」
「ちょっと百…。」
そんな風に賑やかな三人を微笑ましく眺めながら、俺は電話をかけてきた相手が思った通りなのを確認して、スマホを耳に当てた。
「よお、死柄木の坊主。動画見たぜ。凄え良かったよ。」
「アーティカ。攫ってきたガキと女の躾は済んだか?」
相変わらず直球で本題に入るやつだ。嫌いじゃないな。AFOの長々とした話ぶりより幾分かマシだ。
「済んだよ。そっち行っていいか?挨拶がてら相談したいことがある。」
「そりゃよかった。すぐに黒霧を行かせる。俺の方もお前に用があるんだ。そろそろ俺のパーティメンバー候補が来る頃でな。」
…珍しいな。基本的に死柄木の坊主は俺が行くと言うと大抵嫌そうな声で断ってくるか、虫の居所が悪いと無言で切られる。まあ断られても行くんだが。…死柄木の坊主もだんだんらしくなってきたな。敵のリーダーとして成長して貰わなきゃ俺も困るからな。こいつの器はそれだけのものがある。
「へえ。義爛のツテか?」
「ああ。あのオッサン、それなりに使えるな。暫くパーティ装備の用意にも手を貸してくれそうだ。忙しさで動けなくしてやるさ。」
そう言い終わると、死柄木の坊主は電話をぶつ切りした。すると、黒霧のモヤのワープゲートが俺達の食卓の横に現れた。
「…おやお食事中でしたか。これは失礼。ですが死柄木弔がお呼びですので…。」
「いいぜ。さっさと行こう。どうせお前が居ればすぐ戻ってこれるしな。百ちゃん、耳郎ちゃん、一緒に来てくれ。」
「美神さんは待っててくれ。悪いな。」
そう言い切って俺はじっと美神さんを見つめる。逃げたら…分かってるよな?そう念を込めて見つめたが、意図は伝わったようだ。美神さんは震えて小さく頷いた。
俺は彼女の柔らかな黒い髪の毛を撫でて良くやったねと感謝の思いを伝えると、黒霧のワープゲートの中へと足を踏み入れた。
そして気がつくと目の前はいつもの仄暗いバーだった。死柄木の坊主が座ってこちらに腕を広げた。
「はは。まじかすげーな。アーティカお前パーティ集め上手いじゃないか。俺にもコツ教えろよ。仲間にしたいガキが居るんだ。」
「…ふっ。俺の美しさのおかげかな?…あー…冗談だ冗談。後でじっくり教えるからそう睨むなよ。」
そう軽口を叩くと、俺は死柄木の坊主の隣に座って、一度来ているので慣れた感じの耳郎ちゃんと、少し緊張した様子の百ちゃんに座るよう促す。
黒霧は俺にバーボンのロックを、そして耳郎ちゃんと百ちゃんにはジュースの入った細長いグラスをそっと差し出した。
そして俺は一口グラスに口をつけると問いかけた。
「で?爆豪ってガキまだ攫う気なのか?雄英はもうほぼ難攻不落だぞ。最近じゃトップヒーロー帯の数名を常に交代で雄英の防衛につかせてる。」
「そんなこと知ってるさ、ガキじゃないんだ。坊主呼びは止めろ。鬱陶しい。」
「んでどうすんだ?」
その俺の問いかけに、死柄木の坊主は少しこちらを見て軽く舌打ちしたが、淡々と答えた。
「巣が硬いなら、簡単だろ。巣から出た時に仕留めるんだ。」
その言葉に、俺達の話をじっと聞いていた百ちゃんが鋭く口を挟んだ。
「…しかし…難しいのでは?死柄木さん。雄英の危機意識は限界まで高まっていますわ。一年生は特に、職場体験にも向かわせない徹底ぶりですもの。」
その指摘に、俺は一瞬ヒヤリとしたが、死柄木の坊主は俺の予想を裏切ってムカついた様子を見せるどころか、ニヤリと笑って答えた。
「だろうな。…良かったぜ。頭の良いメンバーは大歓迎だ。そこは問題ないさ。先生から聞いた。…林間学校は問題なく行われるそうだ。当然行き先は機密だがな。」
その発言に、俺は少なくない驚きを感じた。百ちゃんも同様らしい。小さく驚きで開いた口に手を当てた。…所作がいちいち可愛いんだよな。
耳郎ちゃんは感心した様子で答えた。
「へえ。凄いね、AFOさんって。なんでそんなこと分かったんだろ。」
「…内通者が、居るのですね?」
百ちゃんの確信めいた問いかけに、死柄木の坊主が答える前に、テレビから答えが返ってきた。…好きだな。話に割って入るの。
「その通りだよ。…流石だね、八百万くん。君のような優秀な仲間が弔にできて、僕はとても嬉しいよ。」
その突然の声に驚いた様子の百ちゃんは、ひゃっと可愛らしい声をあげたが、照れたように顔を赤らめるとごほんと咳払いをして答えた。
「…いえ。この程度、当然ですわ。私なんて、アーティカさんの役に立てるかも怪しいですもの…。」
たまに百ちゃんの影にチラつくのが、この自信の欠如だ。これは早急に対応した方がいいな。何より百ちゃんは本当に優秀だ。俺の女になった以上、幸せでなくては困る。
「バカなこと言ってるんじゃねェ。俺はお前を頼りにしてるぜ、百ちゃん。」
そう声を上げると、百ちゃんはキョトンとした顔をした後、ボンッという擬音が聞こえるほど顔を赤らめて両手で顔を覆った。
「いえ…!私なんてそんな…!」
「…八百万、かわよ…。」
耳郎ちゃんもそう小声で呟いた通り、百ちゃんは本当に可愛い。一見ツンツンした美人だが、内面は可愛らしすぎる少女なのだ。
すると、テレビ越しのAFOはくつくつと笑った。
「いや、仲が良くて大変結構。…それはそれとして弔。客人が来られたようだよ。」
そうAFOが言った瞬間、チャイムが鳴らされた。そして聞き覚えのある胡散臭い声が聞こえた。
「やあ、義爛だ。死柄木サン。二人を連れてきたよ。開けてもらえるか?」
すると死柄木の坊主が黒霧に合図して扉を開けさせる。すると、相変わらず胡散臭い、タバコを咥えた義爛と…二人の俺達の新しい仲間候補が現れた。
「…へぇ。ほんとに雄英のガキが居やがる。気色悪ィな。」
「あ、アーティカ様だ!アーティカ様!初めまして!私トガ!トガヒミコ!よろしくね!」
その部屋に入ってきた二人のいきなりの言動を見て、死柄木の坊主は顔を顰めて小声で呟いた。
「……礼儀もクソもなさそうなのが来やがった。かったるいな…。」
ここから、俺達の敵連合は本格的に加速し始める。
ヒーロー社会を、粉々に壊すために。