アーティカ視点
俺はバーから隠れ家の廃マンションの地下室へと戻った。黒霧から紹介された裏ブローカーの義爛のおかげで物資に不足はない。
身体強化用のパワードスーツは俺の体の動きについていけずにぶっ壊れたのでダメだったが。質の高い家具も揃えてくれるからありがたい。
俺はベッドに寝っ転がると、スマホを取り出してAFOへと通話をかけた。
「…って話死柄木の坊主から聞いたんだが。マジでオールマイト殺すのにOKサイン出したのか?」
「ああ。出したよ。」
さらりと面白そうにAFOは肯定してみせた。…正気か?
「"今の"死柄木にできると思ってんのか?まだあいつは敵として雛みたいなもんだ。無事で済むと?」
俺がそう問いかけると、電話先のAFOはくつくつと笑って、私の問いにしれっと答えた。
「まあ、無理だろうね。だが、成長には試練が伴うものさ。」
「最初の試練がいきなり"世界最強のヒーロー"か?無茶振りが過ぎると思うがね。」
電話先のAFOは苛立つ俺に対してずっと上機嫌だ。まあAFOが苛立つ時なんざオールマイト絡みの時だけだが。
「何だい、死柄木弔に随分と過保護だね?君らしくもない。」
「…別に?あいつのことはそれなりに見込んでるんだ。敵としての素質を感じる。無駄に使い捨てにされるのを見るのは気分が良くねェんでね。」
そう。死柄木弔からは底知れない悪意を感じる。憎悪と呼んでもいいかもしれない。それは敵の成長には欠かせないものだ。
それに、あいつは聞いた話だと家族を個性の暴発で殺したらしい。
…そういう不運な地獄を知っている奴は好きだ。
平和ボケした連中で溢れているニホンでそういう奴は珍しい。
「ならば、君に彼を守ってもらいたい。そのために君も参加させようと思ったんだ。」
「当然、報酬は出るんだよな?」
「ああ。勿論だよ。通常の倍だそう。」
倍か。オールマイトを相手にするにしては正直心許ないな。あれを相手に割に合わない仕事をするのはごめんだ。
俺の無言の圧を感じたのか、AFOはこう付け加えた。
「なに。今のオールマイトは、君が以前対峙した彼より弱いよ。」
「あ?どういうことだ?」
「今の彼は弱っている。…じゃなきゃ僕だって弔にそんなことさせないさ。」
俺は瞬間、ベッドから飛び上がって冷蔵庫からバーボンの瓶を取り出して上機嫌で答えた。
「おい。それを最初に言えよ。いいぜ。その仕事受けてやる。」
氷をグラスに入れてバーボンをロックで飲む。最高の気分だった。AFOはこの手の話でまず嘘はつかない。
「ははは…君のそういう所は嫌いじゃない。ああ、それと段取りは弔に任せてある。君もあくまで見守る形で参加してくれ。」
「彼にはまず自主的に動くことを理解してもらいたい。駒の使い方もね。」
「要は、駒として最低限動けばいいって話か。ま、それなら容易いことだな。じゃあ切るぞ。」
「ああ。吉報を待っているよ。」
彼はそう締めくくると電話を切った。俺は晩酌をして、ビーフジャーキーを噛み締めながらあの憎きオールマイトの笑みをどう消してやろうかと思案するのだった。
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それから一週間ほどの間に、雄英絡みの一つのニュースがあった。
『暴走した一部マスコミの記者達が、違法に雄英の敷地内に侵入した。雄英セキュリティの扉を破壊した個性については、未だ不明…。』
俺にはニュース番組で紹介された、その扉の破壊跡を見るだけですぐにピンときた。こんな芸当が出来るのは、死柄木の坊主の個性だけだ。
「早速下準備ってわけか…狙いは大方、授業のカリキュラムだろうな。悪くない初手だ。」
俺がそうあたりをつけて煙草を吸っていると、何もない空間から黒霧のモヤのワープゲートが現れた。
「レディ・アーティカ。死柄木弔がお呼びです。どうぞこちらへ。」
「はいはい。んじゃ仕事といきますか…。」
俺がワープゲートを潜っていつもの薄暗いバーに現れると、何やらファイルに纏められた紙の束を眺めていた死柄木の坊主がこちらに振り向いた。
「…来たか。いよいよだ。これを見ろ。」
そう言って坊主は俺にファイルを放り投げた。俺はパラパラと紙の束を捲る。そして感心して声を上げた。
「雄英の授業カリキュラムか。よく盗れたな。ほぉ…これなら来週のUSJの救助訓練の時が狙い目だな。」
対象学年は一年生のA組。訓練場所は校舎から離れた
これなら問題なくやれるだろう。
AFOの話通りオールマイトが弱っていればの話だが。
「ああ。有象無象だがチンピラ連中も集めた。生徒程度ならそれで事足りるだろ。」
「通信妨害担当が要るだろ。そっちのアテはついてんのか?」
雄英ほどの学校となれば警備も厳重だ。そして何より教師は全員プロヒーロー。まともに全員と戦ったら流石に勝ち筋はない。だからこそ俺はこの隔離された
俺がそう尋ねると、死柄木の坊主は頷き、黒霧に手で指示を出した。すると、黒霧のワープゲートから、一人の長身な骸骨頭の男が現れた。
「こいつだ。…流石に通信妨害用はプロを用意した。すぐゲームオーバーになるわけにはいかないからな。」
その骸骨頭の男は、その紹介を聞いて満更でもなさそうに、だが冷静に俺を見据えて言った。
「あんたが話に聞いてたアーティカか。世界中で傭兵活動をしてきたあの…。」
「へえ。俺のことを知ってんのか。ま、今回限りだが仕事はしっかり頼むぜ。」
死柄木の坊主はその俺の言葉に、淡々と予想外のことを呟いた。
「お前はこいつの護衛役だ。間違ってもしくじるなよ。じゃなきゃ殺すぞ。」
俺は思わず唖然として言葉を返した。
「あ?俺がオールマイト殺しの実行役じゃねえのかよ。」
「違う。その役目は…こいつがやる。」
そう言って、死柄木の坊主は黒霧の方を指差した。すると、ワープゲートの中から脳みそ剥き出しの、筋骨隆々の黒い大男が現れた。目はただ虚空を見つめている。
「…なるほどな。これが脳無か。」
確かにこれは中々だな。一目で分かる異質感。流石にAFOお気に入りのドクターの力作だけはありそうだ。今回は随分と太っ腹なようだな、AFOは。
「…なるほどねェ。よく準備したもんだ。これなら最低限勝負にはなりそうだな。」
俺がそう呟くと、死柄木の坊主は鼻で笑って答えた。
「ふん。偉そうなあんたの鼻っ面をへし折ってやるよ。クリア確定さ。…さあ、平和の象徴を壊す時だ…!」
そう言って、死柄木は心の底から憎悪と敵意を感じさせる、歪な笑みを浮かべた。
俺は静かにその笑みを眺める。やはりこいつは才能がある。
それに生意気な若手は嫌いでもない。
こいつの成長を見届けるのも悪くないなと、俺はそうらしくもなく思ったのだった。
そして、ついに雄英襲撃決行の日を迎える。
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俺と死柄木の坊主、そして黒霧と脳無、そして妨害担当の骸骨頭。
今回の作戦の中心部がまずバーに集まった。
「さあ…それじゃあ民衆と合流して…平和の象徴を殺そう!」
そう完全にイカれた笑顔を浮かべる死柄木の坊主の言葉で、黒霧はワープゲートを開いて、俺達を廃墟のマンションへと飛ばした。中ではチンピラ連中が酒を飲んだり適当に駄弁ったりしていた。
その光景を見て骸骨頭が顔を顰めて、同じくため息をついて呆れている俺に呟いた。
「おい…こんなチンピラ連中で大丈夫なのか?本気でただのイキってる民衆じゃねえか。」
俺もこれには同感だった。いくら生徒相手とはいえ、この質の連中じゃ時間稼ぎにしかならないんじゃないか?
雄英高校は、毎年多くのトップクラスのプロヒーローを輩出するヒーローの卵の優等生達を集めた学校だ。
マジで時間稼ぎにしかならねえな。
「だな…。まあ、時間稼ぎになれば良いだろ。俺たちだけで終わらせりゃ良い話だ。」
そう俺も言葉を返す。
俺たち…正確には死柄木の姿を見て、そのチンピラ達は湧き始めた。
「死柄木さんだ!待ってました!」
「うずうずして血が騒いでたんだよ!早く殺させてくれ!」
死柄木の坊主は満更でもなさそうにそのちんぴらたちの声援を受け止めると、黒霧に合図した。
「黒霧。まず通信妨害用のこいつとアーティカ飛ばせ。あと適当にチンピラ連中もな。」
「ええ。では皆さん、こちらに集まってください。」
その黒霧の指示でチンピラ連中がゾロゾロと集まってくる。そして、俺達をワープゲートで飲み込んだ。
次に目を開けると、岩肌の山岳地帯といった景色の場所に俺たちは放り出された様だった。
俺の隣には骸骨頭がいる。そして周りには有象無象のチンピラ。
周りを見渡すと、分かっていたがここは巨大なドームの中らしい。遠くには大きめの湖や、小型のドームが見える。正面入り口の方ではもうやり始めたらしいな。
「…ほんっとに贅沢なドームだな。腹が立つぜ。たかがガキにこんな贅沢な施設がねえ…。」
俺がそう呟くと、俺たちの目の前にまたワープゲートが開かれた。チンピラ達が歓声を上げる。
作戦通りならここから現れるのは散らされた生徒だ。適当に遊んで殺すか…それとも攫って手駒にするか‥。
後者の方が社会的ダメージはでかいよな。
それにオールマイトは嫌がりそうだ。
そう思案していると、ガキ三人がワープゲートから地面へと叩きつけられた。
…へえ。いい女が居るじゃねえか。
黒い長髪と艶やかな睫毛、そして何より露出の高いレオタード風のヒーロースーツ。…待てよ。あの顔どこかで見たことあるな‥。
あとの二人のガキは、金髪のチャラそうな外見の男と、小柄でボブカットのパンク風の衣装を着た女…だよな。
「まあまずは…チンピラ共でお手なみ拝見といくか。」
次の瞬間、チンピラの集団が三人に襲いかかった。
動きはザルだが、数は力だ。これで負けるなら、期待はずれだ。その時は殺そう。
もし勝ったら…。
面白いことを思いついた。俺はそうニヤケながら、のんびりと寛いで戦闘を眺め始めた。