俺の個性?別に大したことねえよ   作:カバー

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変化 その2

 

 

 

 

アーティカ視点

 

 

そもそも、この隠れ家は五人など泊められるようにできていねェ。それも当然だろう。日本での俺の愛人は、雄英で耳郎ちゃんを攫うまで、隠れ家に俺以外を泊まらせるつもりなどなかったからだ。オールマイトが健在で、AFOが陰に潜んでいる状況で、あまり派手に私生活で騒ぐのもな…と控え目にしていた。図体のデカいアイツと違って、俺は目立ちはしねェし、ドクターの協力があれば別人になるのも難しくはないが、かといって隠れ家を他人に晒すことなど、論外だったのだ。

俺の主な日本での愛人は、今まで二人程度だった。他はそれなりに楽しく遊んで、別れる程度だ。

 

一人は公安所属の、例の彼女。この国でオールマイトが衰えた以上、最も警戒すべき存在は公安だ。奴らは他のヒーロー達と違い、必要であれば殺しを辞さねェからな。内部情報を得るのは必須と言っていい。また狙撃されるのはごめんだ。あいつは事務係で地味なタイプだが、なかなかどうして着痩せするタイプで体つきがいい。眼鏡地味女のちょっとぽちょっとした感じの下腹が、嫌いな人間など居るのだろうか?

 

二人目は、とある思想団体の幹部の一人だ。表の顔は…出版社の編集長だっけか?一度彼らの仕事を受けたことがある。その縁で何だかんだでくっついた。まあ俺より自分の所属する団体を取るタイプだが、それでなければ情報は流してくれる。まあ金はかかるがな。この世界で生き抜く鉄則は、何よりも情報戦で遅れを取らねェこと。それに尽きるからだ。

 

一人目は立場上ここに泊まるわけにはいかないし、二人目は黒霧のワープなしでここに招くには、ちょっと信用がな…。

そんなこんなで、密会はいつも目立たない、田舎の駅前の寂れたラブホ辺りで済ますのが定番だった。そういうところで致すのは、実に愉しかった。

ミルコは…まあ今はまだ、腐れ縁だしな…。いや、あの褐色の筋肉と柔らかな巨乳のコントラストは、実に素晴らしいものなのだが…。あんなに美味しいウサギちゃんはそういない。

 

「アタシは自分より強ェ奴が好きなんだよ!お前ヒーローになれよ!」

 

最後の一線はまだ超えさせられてないんだが。アイツは本当に芯が強いというかなんと言うか…。ま、アイツの誘いを数十回以上断ったのに、まだ諦めてない俺が言えた義理でもねェか…。

話が逸れたな。

 

そんなわけで、うちはそれなりに手狭だ。

ダブルベッドの寝室が一つに、キッチンが一つ、それなりに広いダイニング兼リビングに、シャワールームとトイレが、同じ部屋で一つ。(シャワールームは二人一緒に入った時に体が密着するように、敢えて狭く作った。八百万ちゃんと入った時が一番気持ちよかった。そう彼女に言ったら、真っ赤になっていた。「は…破廉恥ですわ…!」それが一番の成果だな。)

 

そして何より一番の特徴を言うなら、ドアがない。一部屋に居て全体が監視できるように、敢えて付けていない。開放感なんぞを求めて後悔する今どきの家族とは違うわけだな。ただまあ、開放感を感じ、精神的ストレスを削減する、副次効果もあったのかもしれねェな。ただ、どうしても手狭だ。やっぱり増築するか…。義蘭に頼めば信用できる業者程度見つけるのは容易いしな…。

 

昨晩は冬美ちゃんと美神さんに、ダブルベッドで寝て貰った。あの二人が一番体が弱いだろうし、洗脳しきっている耳郎ちゃんや、理念に心酔させた八百万ちゃんと違って、敵である俺と居ることの心労は激しいだろう。寝させた方がいい。

 

「美神さん、お疲れでしょう。気にせずベッドで休んでくれ。」

 

「………ぇ…その…ありがとう…ございます…。」

 

小声ではあったが、確かに応答した。そして揺れる瞳から微かに感じる、安堵と感謝。冷静に考えれば俺はただの極悪誘拐犯である。当然、感謝する謂れなどない。だが、極限下で冷静を保てる人間など、常在戦場のヒーローと一部の敵、そして警察と公安…日本では居ないが軍人程度のものだろうな。

 

一般人が、常に監視され、緊迫した状況で優しくされた相手に、気を許さないことなど限りなく不可能に近い。この程度だ、人の心など。

 

トガちゃんは気がついたらどっかに消えた。書き置きがあったので問題ないだろう。まるで猫の様だ。一つ所に留まらない。

そんなこんなで、俺は耳郎ちゃんと八百万ちゃんと、居間で寝ることになった。となったらやることは当然、夜の女子会だろう。

耳郎ちゃんのシンガーらしいハスキーボイスが耳に響いて、心地よい。

 

「んっ…あっ…ちょっ…んん…ハズいから…あんまり見ないで…。」

 

俺の指でここまで悦んで、まだ15歳らしく、未発達で可憐な汚れを知らない、細身の少女の体を指で撫で回す快感。その度にぞくりと体を捩る少女の耳を、わざと強めに甘噛みする。

 

「ひっ…ちょ、それやめ…!」

 

それに興奮して更に攻めの手を強くしようとすると、拗ねたようにコホンと息払いをする、八百万ちゃんの、拗ねた顔が見える。そしてそのたおやかな果実に手を伸ばして…

そんなこんなで実質夜通し愉しんでしまったのだ。二人は今ソファと、俺が出してきた簡易ベッドで寝ている。

俺はと言うと、シャワーを浴びた後、ソファの斜め前の椅子に腰掛けてタバコをふかしながら二人の寝顔を眺めていた。

その穏やかな二人の寝顔を見て、安堵感と、保護欲を覚える俺も確かに存在する。

 

「イカれてるんだろうな…。」

 

自嘲の感情を乗せて、この銘柄独特の甘ったるいチェリーのしつこい味と、濃厚な香りを噛み締めた。俺はただのクズだ。そりゃそうだろ。

まだ20にもならない少女を攫って、洗脳して、挙げ句の果てに抱くやつがクズじゃないなら、何がクズだろうか。何ならそれに愛着を持ち始めてるなんざ、イカれてる以外の何者でもないだろう。

 

だが、そもそも正気とは何だ?

それは、普通から外れた者達への、レッテルだ。このヒーロー飽和社会じゃ、敵なんかやってる奴らは全員イカれてる。

だが、その数が逆転すれば、その認識はひっくり返るだろう。

かつては、そうだった。オールマイトという最強が、その認識をひっくり返すまでは。

 

「正気な奴なんて、所詮大衆一般に過ぎねえのかね…。」

 

世の中を変えるのは、大抵が、イカれた奴だ。その点では、オールマイトとAFOは似ている。イカれてて、力が信じられないほど強い。ま、そう言ったら両方とも怒るだろうが。理想が真逆なだけで、意外と根っこは近いのかも…。

 

そんな風に何気なく手持ち無沙汰で寝る気分でもなく寛いでいると、寝室から、ふらふらと雪のような白髪に寝癖のついた、冬美ちゃんがやってきた。…寝巻きの腹が捲れて、下腹部のおへそがチラチラと見える。チラリズムから得られる魅力も、なかなかに良きものだ。

 

「どうした?まだ朝の5時だぜ。」

 

「いや、…まあ、いつもこれぐらいに起きるから…。」

 

その言葉に、俺は煙草の火を灰皿で消して、足を組んで笑いながら語りかけた。

 

「なんだ。手持ち無沙汰だったか?悪いな。娯楽が欲しいなら、ある程度揃えるぜ。」

 

「あー…それなら家に帰して…「それは無理だ。」」

 

その恐る恐る絞り出したであろう冬美ちゃんの言葉に、俺は即座に否定の言葉を返す。すると、冬美ちゃんの顔は硬直して、震えるように声を絞り出した。

 

「なんで…。」

 

「俺が帰したくないから。冬美ちゃん好きだし。」

 

その一言で、冬美ちゃんは、困惑したような、率直な物言いに少し面食らったような顔をする。だがこれは俺の本心でもある。まあ、アジトと、今の俺たちの現状を知っている者をみすみす逃すのも、色々とまずいという打算もあるにはあるが…。

何となく、冬美ちゃんには、体つきがエロくて、顔が可愛い以上に、何か俺の中で執着が芽生えている気がした。じゃなきゃ殺すしな。

 

「ていうか"私"も聞きたいな。何でわざわざ帰りたいんだ?言っとくが、君の面倒は見るよ。」

 

「欲しいものは何でも買うし、散歩がしたいなら、毎日とは言わなくても人気のない森とかにワープして、森林浴をしよう。…あの父親の下に帰る理由って何?」

 

その言葉に、冬美ちゃんは目を伏せて少し黙った。そして、ぽつりと呟いた。

 

「家族だから…。」

 

「家族?」

 

その言葉に、俺は呆れを隠さずに、本音をぶちまける。

 

「あの父親は君を見捨てたよ?そりゃ誰が悪いかって言ったら私が悪いが…。だからって、そう簡単にまた家族に戻れるのか?」

 

「血の繋がりがなくても、私の家族って自信を持って言えるほどの信頼があるのか?」

 

我ながらかなり理不尽な言い様だとは思う。だが、その問いかけに目の前で押し黙って、豊満な胸の前で、ぎゅっと胸の形を崩しながら、手を握りしめる冬美ちゃんの姿を見れば、俺の問いかけもそれなりに効いたらしい。

 

「でも…それでも…私が居なくなったら…。」

 

「母さんと焦凍が…悲しむから…。」

 

…責任感、か。最後に絞り出したこの一言が、紛れもない本音だろう。弟と母のため、か。エンデヴァーの結婚は、個性婚だと聞いている。AFOの情報網は尋常ではない。燈矢という、長男が個性訓練中の、事故で亡くなったというのも知っている。下らないな。子供が家庭に責任感とか持ったらおしまいだろ…。

 

「じゃあお前が家族に居たいわけではないのか?」

 

「…………………わから……ない………。」

 

難儀な話だ。

俺はため息をついて、立ち上がるとポンと冬美ちゃんの肩に手を置いて語りかけた。

 

「なら分かるまでここに居ろ。今度義蘭から便箋と手紙を買ってやる。…俺が送る前に検閲するが、手紙ぐらいは母親と弟達に送ってやれ。」

 

「え……。」

 

「お前が生きてて、俺に殺す気がないと分かれば、それなりには安心もするだろう。」

 

何をやってんだがな。

俺はどうやら本格的に正気じゃないらしい。

そう頭を掻きながらも、満更でもない自分に嫌気が差した。

 

「ありがとう…!その…お願いついでに、朝ごはん作らせてもらえる?私…なんか手を動かしてないと落ち着かなくて…。」

 

「………俺も手伝うから先にシャワー浴びてこい。」

 

 

まるで家族みたいだ、と。そう思った俺は、本気で狂っているのだろう。

 

 

 

 

**********************

 

アーティカ視点

 

それから五人で食事を取った俺は、久しぶりに一人で死柄木の坊主の拠点である、黒霧のバーへと向かうことにした。冬美ちゃんの作った煮魚は、なかなかに品が良い甘さと旨みを感じさせて、とても…とても美味しかった。

何となく一人になりたくて、冬美ちゃんの監視という名目で、ふらりと一人で黒霧に連絡し、モヤのワープゲートを潜る。いつもの薄暗い間接照明の灯りに、品の良い雰囲気。そして、いつも通りの白髪のボサボサ頭の二人…二人?

 

黒のシンプルなTシャツを着た、死柄木の坊主の背中が…二人に見えた。

その二人は、カウンターの椅子に座って、こちらに気付く様子もなく、自前と思われる、ノートPCに齧り付いてる。

…俺マジでイカれたのか?

 

そう思って自分の頬を引っ張る。すると、ワープを終えてカウンターに戻った、バーテンの格好をした黒霧が、苦笑いをしているであろう声音で、俺に答えた。

 

「申し訳ありません、ミス・アーティカ。今、弔は新たな仲間と絆を深めている最中でして…。」

 

その言葉で気づいたのだろうか。いや、なんかオンラインゲームの試合が終わったからだな。派手な勝利画面と共に、二人の死柄木は拳を合わせる。そして俺の存在にようやく気づいたのか、二人して俺を振り返った。すると、片方の死柄木の顔は、人間のそれではなかった。ヤモリのような緑色の肌。死柄木に似た髪型は、カツラだろうか。

 

「ヨォ、あーと…死柄木の…坊主?」

 

「来たか、アーティカ。丁度いい時に来たぜ。ランクマが終わったところだ。」

 

そう、片方の、いつもの、家族だという手を身体中につけた、死柄木の坊主が俺に語りかけてきた。いつにも増して上機嫌だ。珍しいな。確かオンライン対戦のゲームで一度pcを破壊してから、ゲームやる度にイライラしてた気がするからなこいつ…。

 

「それでそのお隣さんは?」

 

「あぁ…俺たちの新しいPTメンバーさ。スピナーだ。」

 

その言葉で、スピナーという、死柄木のコスプレをしたような格好のヤモリ男は、PCから俺に目線を移すと、ぶっきらぼうに呟いた。

 

「このスピナー、死柄木の動画を観てな。この社会を壊すってんなら力になろうと思ったんだ。…お前も◯olはやるか?」

 

なるほど。当てられたタイプな…。パッと見だと、あんまり場数踏んだタイプにも見えねェが…。それはそれとして、死柄木の坊主とはやたら波長が合うらしい。オンラインゲームの仲間で、リアルで隣に居て、死柄木の坊主が八つ当たりしていない時点で、相当気が合うようだな…。

 

「よろしくな。俺はアーティカだ。あー…◯ol…?オンラインゲームのあのやたら治安の悪い…。」

 

「それがいいんだろうが!!で、やるのか?やらねェのか!?」

 

何だこの勢い…。こいつアレか。ゲーマーってやつか。

 

「悪いが俺はオフ専でな。暇つぶしに…あー…グラ◯フやったぐらいだ。」

 

「グラ◯フか…。じゃあ最新作の主人公三人の中で誰が一番好きだ?」

 

「ト◯バーだな。マイ◯ルは好きじゃねェ。身内を売るなんざ敵の風上にも置けねえだろ?」

 

その言葉に、目の前の男も同意だったらしい。力強く頷いた。それに死柄木の坊主も乗っかってきた。

 

「全くだな。まあ俺はフ◯ンクリン派だが。」

 

そのスピナーの言葉に、死柄木が乗っかって、ニヤリと笑って言葉を続けた。

 

「分かるぜ…。一から成り上がるってのが夢あるよな。」

 

「だよな!?」

 

そんな風に熱弁を振るう二人を、どこか微笑ましそうな雰囲気で黒霧は眺めると、黙ってグラスに炭酸飲料を注いで、二人の前のカウンターにそっと差し出した。そんなやり取りをやっていると、バーの扉が開いて、今度は見知らぬ赤い長髪にサングラスという、派手派手な大男が入ってきた。

 

「おまた〜。」

 

「ああ、ミス・マグネ。お戻りになられましたか。」

 

その黒霧の言葉で思い出す。確か強盗致傷9件、殺人3件やってて、今なお逃げ切っている凄腕の敵のはずだ。へえ。これはベテランだ。スピナーとは別の、実務的な意味で期待できそうだな。

 

「ダメね、この下のコンビニ。化粧品がろくすっぽ売ってないわ!あら、見知った顔。あなた、アーティカね?」

 

「あのエンデヴァーと鬼ごっこしてた。」

 

そう気さくに俺に目配せして、穏やかに握手を求めてくる。なかなかいい仲間見つけたな、死柄木の坊主。俺も笑顔で握手に応じる。

 

「そういうアンタも知ってるぜ、マグネ。それなりに名前の聞こえる敵だ。死柄木の坊主の仲間に?」

 

「ええ、そうよ。あなたもでしょ?よろしくね。」

 

言葉遣いが、まるで性別と真逆な二人だな。そう俺は苦笑いしながら、笑顔でマグネとカウンターに座る。黒霧も察したのか、黙ってグラスと氷の用意を始めた。

 

「まあ一杯やろうや。何頼む?」

 

そう促すと、マグネは柔らかにお礼を言って、にこやかに黒霧に指を立てて頼んだ。

 

「それじゃあ、取り敢えずトニックを一杯頼もうかしら。」

 

「じゃあ俺はカンパリで。」

 

「あら、甘党派?」

 

「口調は荒いが、俺は一応女だからな。ま、女子会と洒落込もうや。」

 

その俺の受け答えが気に入ったらしい。にこやかにマグネは炭酸でしゅわしゅわと、淡い照明で輝くグラスを手に取ると、俺のグラスと合わせて、乾杯をした。このバーも賑やかになってきたな。

そんなことを考えながら、甘酸っぱいオレンジの風味を味わう。すると、俺の携帯が、一杯目を飲み終わったのを見計らったかのようにブザーで震える。

画面を見ると、見知った番号。…AFOだな。

 

ブー…ブー…ピッ

 

「悪いマグネ、電話だ。出るぜ。…俺だ。」

 

そう一言断りを入れてスマホを胸元から取り出して、電話に出ると、相も変わらず気取った声が流れる。

 

「やあ、アーティカ。マグネと盛り上がっているところ済まないね。」

 

「お見通しってか。何でわざわざテレビモニターじゃなく電話でかけてきた?」

 

敵連合への連絡は、死柄木に当然伝えるものだ。だから、このバーにあるテレビから、AFOが語りかけるのが通例になっている。

 

「君個人への連絡だからだよ。せっかく友人と盛り上がっている死柄木に水を差すのも忍びなくてね。」

 

相も変わらず、気を遣っている風を見透かすのが上手い男だ。まあずけずけと言われるよりは、建前でも取り繕ってる方が幾分かマシではあるが。

 

「I・アイランドの依頼は、敵連合のやった事と、認識されたくなくてね。君にはいつも通り、全身整形で、ドクターに弄ってもらおう。別人を演じてくれ。」

 

「……マジか。アレやんのか。しんどいな…。金払いはいつも通りマシマシにしてくれよ?」

 

「勿論だよ。じゃあ、そうだな…。義蘭もバーに呼んでるんだろ?なら今日の深夜で構わないよ。」

 

「あァ。じゃあな。」

 

そう応答して、俺は通話を切った。…全身整形。それはもう、ドクターが強力な麻酔をかけて、俺を文字通り"別人"に整形する。顔の整形は勿論、骨や神経を削って背を縮めるのも、奴の技術なら容易い事だ。ただ、被験体の方が、普通はその過酷かつ短期間での身体手術に耐えきれないのだ。脳無のように死体ならともかく、生きてるので耐久できるのは、今のところ俺ぐらいだ。きつい麻酔をかけるので痛みはないが、それでも違和感と不快感はある。

 

脳無のデザインはもう完全にドクターの趣味だが、俺の場合は、絶対に秘匿したい犯罪の場合に使われる。

元の身体データを完璧に把握し、任務が終われば、俺は元の俺に戻る。AFOは、自身の思い通りに動く者には、比較的寛容だ。

故に、俺の整形の条件も呑んだ。最低でも、見目麗しい美少女か、美女である事。

 

醜男や、不細工になるのは御免被る。女の子を抱けなくなるからな。もし仮に、ドクターに何かあればの話であって、元の姿に戻れないというのは、まずない話ではあるのだが。

 

 

にしても、I・アイランドが秘匿指令か…。まあ、何故かは想像がつく。敵連合は、耳郎ちゃん誘拐と敵堕ち、更に八百万ちゃんの誘拐のせいで、日本中、否、世界中から危険視されつつある。

ここで国際的な問題を起こせば、世界的な討伐チームを結成されかねない。

となると、耳郎ちゃんは使えないか…。残念だ。まあ、内部に助けがあるなら、ある程度AFOから人材を借りれば問題ないか…。

 

「どうしたの?今の電話誰から?」

 

俺の微妙な顔を不思議に思ったのか、マグネが声をかけてくる。俺は疲れ気味に答えた。

 

「クライアントからだ。金入りは良いが、面倒な依頼が入ってな。」

 

「あら?そういえば傭兵でもあるのよね、貴女。」

 

「まあな。」

 

「………でも、私たち敵でしょ?」

 

「好きな様に生きないと、勿体無いわよ?」

 

「…………まあな。」

 

俺は曖昧に言葉を濁すと、黙って二杯目のカクテルを飲み干した。…好きな様に、か。やっぱり俺とトガちゃんやマグネは根本から違うんだろうな。傭兵として生きてきた結果敵になった俺と、好き勝手生きた結果敵になった二人。

 

何となく、そんな二人を羨ましいな、とそう心の底で湧いた想いを、今の俺は見ないふりをした。

 

 

 

 

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