『ただ今より、入国審査を開始します』
いつもより"低い目線"で搭乗口を出る。I・アイランドは、エキスポプレオープン開始の一週間半前なので、人混みはなく、閑散とした雰囲気だ。入国審査官も、暇そうに欠伸をして、こちらの姿を見て慌てて案内をし始めた。子供の目線にはいつもイライラする。昔を思い出すし、大人達に見下されるのはイライラする。いや、正確には子供と言うほどでもないのだが…おっと、苛立たしげな心ではよくないな…いえ、よくありませんわね。
私は軽くため息を吐きそうになったのを無理やり押し込んで、ニコニコと笑みを浮かべながら入国審査を受ける。この、"私"のパーソナルデータが、空中のモニターに映し出されていく。そして、今の私の、まるでお人形かのような、翡翠色の目と、カーブのかかったブロンドヘアがにっこりと微笑んでいる写真が表示される。まるで西洋人形だ。丸みのある顔は、未成熟で儚げな少女の印象を植え付ける。
ヘザー・グレイス(15歳)
身長150cm
大富豪であったオセアン在住の両親のビジネスマンは、4年前に敵の襲撃によって誘拐、その後行方不明。それ以降は、心的外傷もあり人里離れた実家でひっそりと、ただ一人の肉親である叔父と過ごしていた。
現在は、心的外傷も復帰に向かっており、彼女の両親の知人でもあった、デヴィット・シールド氏の助手であるサミュエル氏の招待で、I・エキスポに招待された。
無個性であり、幸の薄い少女。
と、いう設定ですわね。
そう独り心の中でモニターを見ながら呟いた。
当然、こんな人物存在しない。ただ、全てが嘘ではない。"ヘザー"の両親であるというビジネスマン二人は存在した。ただ、彼らを攫った敵とは、AFOである。彼の"友人"の為に、そのビジネスマン二人を、誘拐して、そのまま殺害したのだ。
殺したついでに、生体データをドクターに保存させていたのだ。
こういった時のためにね。
指紋、眼球、背丈、骨格、肉付き…声帯etc。その全てを細かく調整するドクターの神技。…まあ、彼ほどに今現在生体学に精通しているのは、そうは存在しない。遺体を手駒として使う脳無を見れば良くわかりますわね。アレを兵隊として欲しがる国も、ごまんとあるでしょうよ。ドクター自体がAFOに心酔しているので、他の誰も手に入れられませんけど。
ちなみに、表示されていないが、ウエストは56.4cmで、バストは80.0cmのGカップだ。そこは弄らなかった。多少不自然ではあるが、今の個性で色々と多様化している時代では誰も気にも留めない。
母も巨乳だったのだ。痩せ細っていても、体目当てのクズ男が寄ってきては、断られて母に怒ることもあった。それがどうしようもなくやるせなかった。そんな母と似ている巨乳は私の誇りでもある。
そんな母を守るために、宗教系の自治団体とか名ばかりのごろつき集団に入ったのだ。まあ、それも結局は…。
…おっと、いけない。お母様は行方不明の、グレイス家の令嬢ですわ。それらしく振る舞いませんと…。
私の背後には、荷物を持った黒服の、スーツ姿の人間が六名連なっている。私のお付きの、デヴィットさんが気を遣って手配してくれた、ボディーガード兼お手伝い…。
と、いうことになっていますわね。
だが実際は、AFOが雇った、ハッカー系の敵と傭兵達だ。それなりに、"お行儀良く"できる人材を雇ったらしい。
まあ、要は使い捨ての駒で、とにかく暴れるしか脳のないバカ以外の連中ということだ。
問題なく入国審査を通過する。
I・アイランドは、ヒーロー関連技術の進展のために技術者とその家族、そして技術者志望の学生などを囲っている、巨大な島…要塞?船?
まあその全てでしょう。そういった施設ですわ。
基本的にどの国にも属さない中立地帯ではあるが、それは建前。
当然出資した国の権利は大きいし、その一番の出資元はアメリカです。それはそうでしょう。世界の利権の大半は、ドルを牛耳っているアメリカ無しでは語れない。金、石油、そして次は個性技術というわけだ。ドル本位制は、どうやらどこまで行っても変える気はないらしい。
『入国審査が完了しました。現在、I・アイランドではさまざまな研究、開発の成果を展示した博覧会、I・アイランドのプレオープン準備期間中です。作業中の従業員の方の〜…。』
アナウンスを途中から適当に聞き流して、ふらりとゲートを潜る。すると、幾つもの巨大なパビリオンが、まさに今完成の間近だった。巨大な楽器にウォーターアトラクション…。
「いかにもアメリカ…西洋人の好きそうな感じですわね。」
まあ私もそこまで嫌いではないが。まるで力の誇示だ。まさにヒーロー社会の傲慢さをそのまま表している。それには少し好感は持てるが。
「え〜と…待ち合わせまであと10分でしたわよね?」
そう広間にある時計台を確認してから、後ろの黒服の、白髪頭の、不機嫌そうな眼鏡の男に話しかける。すると、後ろの男はビクリと一瞬たじろぐと、曖昧に頷いた。
「………あのですねェ、緊張は分かりますけど。少しぐらい受け答えできないと、怪しがられますわよ?」
「貴方一人程度なら、替えは利きますかしら〜…。」
そう遠回しに叱咤すると、その眼鏡の男は慌てた様子で言葉を返した。
「い、いえ!それだけは…その。大丈夫です。ええ。」
「…なら結構。」
黙って、翡翠色の目を細めて軽く一瞥してまた眼前のバビリオン群と入り口広間へと目を戻す。全く。あの骸骨頭でも呼べればよかったんだが。あいつは、雄英襲撃の際にバッチリ顔を見られてる。身バレのリスクを最小限にする為には、使い捨ての駒で何とかするしかない。ったく。面倒臭えな。
すると、黒スーツの中でも大柄な、ブルドックの顔をした、犬頭の異形の駒がフォローするように私に話しかけた。
「すいません。ヘザーお嬢様。どうもこいつ、まだぎこちなくて…。自分が交渉担当なんで!俺はお父様と結構仕事してたんで、慣れてるんで安心してください。」
「……そ。なら、頑張りなさいな。」
お父様とは、AFOの暗喩だ。まあ、AFOなら丁寧に仕事する人材ぐらい集めてるだろ。こいつはまだまともそうだ。
そんな風に思案していると、目の前から軽快にピョンピョンと何かに乗って跳ねている、明らかな不審物体が近づいてきた。
…ホッピングか。アレ前から思ってたけど、何のためにあるんでしょうね?移動するのに跳ねる必要あると思った奴、イカれてんだろ。
だが、乗っている人間は見覚えがある。この任務の第一ターゲットの一人だ。
癖っ毛のある金髪のロングヘアに、美形の顔立ちを、若干オタクっぽく…というより真面目な委員長感というのだろうか。純朴な印象にしている丸眼鏡。
だがそれより何よりも…
「美味しそうですわね…。」
小声で思わず小さく呟くほど。
白いTシャツの上に、明るくかつ品のある赤色のベスト。そして華やかなオレンジの蝶ネクタイ。品のある格好だ。…純朴な印象を服装でも醸し出している。だがそれでも隠せないほどの、圧倒的な凶器。
…おっぱい!
なんて恐ろしい巨乳ッ!年の瀬はまだ17のはず。それであの、白人の中でも屈指のロケット爆乳…!まさに黒船到来の衝撃ッ!ただおっぱいがデカいだけじゃない。あそこまで均等に左右の大きさが整った爆乳は滅多にお目にかかれないッ!…恐らくかなりのハリがあるだろう…!
私も八百万ちゃんも十分巨乳だが、それに比するほどだ。Gカップか…。それに、冬美ちゃんもそうだったが、ヒーローや敵として体を鍛えていない分、太ってはいないが、アスリートともまた違った、豊満な体つきが存在する。それは腰回りに!微妙にモチっとしていそうな腰回り…はーっエロエロエロエロエロエロ…。ただ、冬美ちゃんの雪見だいふくのようなモチモチさと、おっぱいの重量感とは違う、純粋な少女らしさも強い。それがまた唆るのだが。
この世界が誰かのキャラデザで動いているコミックと仮定するなら、アスリート系エロ女子と一般のエロ女子の差異をここまで書き分けられる人はそう居ないだろう…。ありがとう…。
そんな風に謎の思考展開をしていると、つい鼻から鼻血が出てくる。私は慌てて品良い仕草でハンカチを取り出し鼻を丁寧に拭く。
このエッロイ少女が私の待ち人、メリッサ・シールドだ。
彼女は私の目の前までそのホッピングでうさぎのように飛び跳ねて眼前にまで来ると、ホッパーを停止させ、飛び降りると、心配そうに私に駆け寄ってきた。
「大丈夫?鼻血出てるよ!?えっと…ヘイザーさんだよね?取り敢えず救護室に…。」
心配そうにこちらを覗き込んでくる、今の私と同じ翡翠色の瞳に悟られない様に、表情を箱入りお嬢様らしく、心配げに、そして曖昧に微笑んで答える。
「お気遣いありがとうございます。その…久しぶりのお外なので、少し疲れた様で…。お構いなく。」
「それで、貴女は…?」
私の演技も堂が入っている。それはそうだ。こちとらこの道十数年だ。並の女優なんて目じゃありませんことよ。
「あ、ごめんね。自己紹介が遅れちゃった。私、メリッサ・シールド。パパの助手のサミュエルさんは知ってるわよね?」
そこで、私は不安げな顔つきから、パァッと華が咲き誇るような笑顔に顔を綻ばせる。
「まあ、貴女が!これは大変失礼しましたわ。そうだとは露知らず〜…。ヘザー・グレイスですわ。あの…お忙しいところに来てしまったかしら…。」
そう言って私はキョロキョロと不安げに、作業中の展示物を見渡す。手を口に当てるのも忘れない。
「ははは!気を遣わなくてもいいわよ!確かにプレオープン前で準備とか色々あるけど、私はパパの手伝い程度だから。」
「今はお昼近いし、研究室でパパとサムさんも作業に一区切り付いた頃だと思うわ!一緒に行きましょ!」
「…ありがとうございます。…ぅっ。」
答えた後、日差しでふらふらと眩暈が起きたような、軽い演技をする。すると、慌てた様子でメリッサが私の腕を抱き止めた。
「大丈夫!?やっぱり…貧血かしら…。取り敢えず、救護室に運ばなきゃ…!大丈夫!?立てる!?あ、あの…肩片方お任せしても…!」
メリッサは慌てた様子で私の片方の肩を担いで、私と一緒に来た黒服達にそう声をかけた。犬頭の黒服に視線をチラリと振り向きざまに私が向ける。すると、彼は慌てて駆け寄って私の肩の片方を担いだ。
「え、ええ、分かりました。長旅だったので、疲労が溜まったのかと…。お嬢様、大丈夫ですか?」
私はメリッサと犬頭の黒服に運ばれながら、体調が悪い振りのために、汗の機能を多少いじって冷や汗を流し、ぐったりとした感じを演出する。おっ、私の腕がメリッサのたおやかなおっぱいで挟まれて気持ちいいな。けへへ。やっぱりこれだよ。思った通りハリがある。
私は上擦った声で、苦しそうにしながら犬頭に囁いた。メリッサに聞こえないように。
「サミュエルだけ救護室に来るように調整しとけ。デヴィットは呼ぶなよ。忙しいだろうからとか適当言っとけ。わかったな?」
「……。」
犬頭の黒服は小さく頷いて、了解の意を示した。そしてメリッサに冷静に説明した。
「とにかく…この調子では少し休まなくては。救護室には自分が運びましょう。サミュエル様と貴女のお父様を待たせると悪いとお嬢様は気を遣っています…。メリッサ様は先に、お二人にこのことをお伝えください。」
「そんな…こんな状態で気なんて遣わなくていいのに…。」
「…お嬢様はそういうお方なので。博士もお忙しいでしょう。お知り合いの、サミュエル様と二人でお話しした方が、お嬢様も気が楽だと思うので、そうしてくださいませんか…?」
私は人とあまり接したことがない、お屋敷暮らしのお嬢様。この犬頭、なかなか頭がいい。やるもんだな。どの程度アドリブに対応できるかの無茶振りもこなせるなら、それなりに悪くない。
「そう…ですね。分かりました。では、また後ほど!」
心配そうにこちらを振り返りながら、メリッサはホッパーにまた飛び乗って、ピョンピョンと、来る時よりも早めに去っていった。
さて、これでサミュエルと単独で話せる…。
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今回の依頼のお目当て。個性増幅装置。
個性の増幅は、ブーストやアクセルといった違法薬物で、ガチガチのリスク前提で無理やりブーストする手段しか今の所存在しない。
AFOならやろうと思えばやれるだろうが…。やらない理由はある。
「僕の個性は主導権が僕である限り問題ないんだけどねぇ…。個性増幅は、僕のような事例は想定していない。複数個性同時発動の場合、どういう挙動するのかよく分からなくてね。」
「失礼な話だよな!配慮が足りないぜ。この僕という支配者にとって害でしかない。」
「だからまあ、使い物になるとは思えなくてね。ただ…。」
ヒーロー側が切羽詰まって、自分たちの個性強化の為にその手札を切った場合、非常に困る。ブーストやアクセルなら、まだ一笑に伏せる話だった。そこにきて、タレコミが来たのだ。デイヴの助手のサミュエルから、機械の個性増幅装置の存在を。そして、その存在が、他ならぬ各国政府によって、闇に葬られたという現実を。
依頼主のサミュエルは、何でもいいからこの装置で金が欲しいと思っている。それこそ敵に渡してでも。
全く世も末だねェ。資本主義のアメリカ連中なら、金で秘密裏に買うぐらいするかと思ったんだが。…ま、現状のヒーロー優勢のバランスを壊したくないんだろう。
笑える話だ。平和の象徴がその貪欲さを消したのだろうか。もう風前の灯なんですけどねェ…その時代も。
話が逸れたな。要は、この個性増幅装置とデヴィット・シールドは邪魔って話だ。つまり、別に盗めなくても、装置の破壊とデヴィットの殺害さえこなせれば、それでいい。
痕跡を残さずに、サミュエルも始末できればベストだな。
黒服の駒も、捕えられそうになったら始末しろって指令だ。そのための細工もAFOには余念がない。結局、AFOにとっては使い捨てのコマだ。俺は、あまり今まで考えてこなかった。
AFOの仕事をこなして、殺しをやれば金が入る。それで好き放題愉しむ。ついでに残った一部を、故郷に送る。一貫して、自分のための、自分のためだけの殺し。
だが、最近、耳郎ちゃんや八百万ちゃんを調教して、長い間駒として教育してきて感じたこともある。
敵なんて所詮、AFOの駒に過ぎない。
私から見た彼女らは、そのままAFOから見た俺なのでは?
「好きな様に生きないと、勿体無いわよ?」
笑わせんなオカマッチョ。お前だって自由ぶっててもAFOの駒なんだよ。結局はその因果に絡め取られる。私は…被支配者のまま、地面を這いつくばるままか?
そんなのごめんだ。
………何か、この島で見つけるんだ。
俺が、空へ羽ばたく為の何かを…!