俺の個性?別に大したことねえよ   作:カバー

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甘さに穢される

 

 

 

耳郎視点

 

義爛さんとの会議で、アーティカさんはノリノリでウチのコスチュームのデザイン面の微細な決定を任せたいデザイナーの名前を挙げていた。ウチも聞いたことがあるフランスの有名ファッションイベント常連の有名デザイナーだ。近頃名前を聞かなくなったと思ったけど…。敵と商売してたんだ。

 

 

 

「相変わらず贅沢だねェ、あんたは。分かった。掛け合ってみよう。悪に堕ちた少女のコスチューム…あの野郎泣いて喜ぶぜ。」

 

そうなんでもない事かのように義爛さんは煙草を灰皿に落として淡々と言葉を続けた。

 

「その後は俺のツテの組合でコスチュームの改良…というかここまでくると作り直しだな。そこまでやっとくよ。」

 

アーティカさんはニヤリと笑って、とんでもない言葉を放った。

 

 

 

「金なら心配すんなよ。可愛い耳郎ちゃんのためだ。いくらでも出してやるよ。」

 

「そりゃあ景気がいい話だ。オールマイトが台頭して以来珍しいよ、あんたほど景気がいいお得意様は。」

 

 

そう言って、義爛さんは心の底から楽しそうに笑って、コスチュームの大まかなデザイン案の書かれた紙の束を鞄に戻した。

その後、ウチの体をアーティカさんが採寸して、その数値を義爛さんに紙に書いて手渡した。

 

彼はアーティカさんと果実酒の瓶を開けて軽く一杯やってから、酔う前に退散した。

 

「毎度あり。」

 

義爛さんが去ってから、ウチはどうしても聞きたくてアーティカさんに尋ねた。

 

「…ほんとに思ってるの?ウチがその…可愛いって…。」

 

そうモジモジしながら自分でもどうかと思う質問をする。でもアーティカさんは端正な顔で柔らかく微笑んで、ウチのことを抱きしめてくれた。

それが、答えだった。

 

 

**********************

 

 

アーティカ視点

 

 

俺は耳郎ちゃんを連れて死柄木の坊主の様子を見に行くことにした。…耳郎ちゃんの洗脳がほぼ上手く行った今、久しぶりにバーに行く余裕ができた。

 

 

『来週から予定されていた雄英高校体育祭ですが、なんと予定通り実施されることが分かりました。耳郎響香さんが未だ行方不明な中、警備を通常の8倍に強化し、あのNo2ヒーロー、エンデヴァー事務所を始めとした精鋭ヒーロー達への応援要請も行われるということです。』

 

『この件について、不謹慎だと言う声や、(ヴィラン)に屈しない力強さを感じるなど、様々な意見が…。』

 

 

 

「はっ。たかがガキ一匹行方不明になっただけで随分な騒ぎようだな。なぁ黒霧。」

 

 

死柄木の坊主はテレビ画面のニュースを眺めてこちらに気付いていない様子だった。黒霧のワープゲートで移動してきた俺たちに気付いて振り返ると、ぶっきらぼうに呟いた。

 

 

「…お前のおかげでラスボスに行き着くのが余計難しくなった。流石にエンデヴァーとオールマイトを同時に相手取るなんて自殺行為だ。」

 

「だろうなァ。今一番ニホンで守りが硬い場所だろうぜ。だがこうなることは想定できたろ?」

 

俺はそう首を竦めて死柄木の坊主に言葉を返した。

仮にもニホン最高の施設を備えたヒーロー育成校に正面から喧嘩を売ってガキを攫ってきたのだ。そりゃこうもなる。オールマイトを殺すという目的しかいまいち見えていない今の死柄木の坊主には嫌な状況だろう。

 

 

「ニホンの諺で言うだろろうが。将を射んとする者はまず馬を射よってな。ほら。耳郎ちゃんはでかい成果だったぜ?こんなに可愛いんだからなァ。」

 

そう言って耳郎ちゃんを右手で抱き寄せる。耳郎ちゃんは照れて慌てたように言葉を口にした。

 

「いや、ちょ…!死柄木の目めっちゃ怖いんだけど!いやアーティカさんに褒められるのは嬉しいですけど!」

 

 

「………はぁ。乳繰り合うなら他所でしろよ。何しに来たんだ?」

 

 

 

そう割と本気で苛ついた声で死柄木の坊主は問いかけてきた。こういう時は何でもない様に振る舞うのが一番いい。俺は気さくに死柄木の坊主に呟いた。

 

「なに。(ヴィラン)同士親交を深めるのも悪くねェだろ?特に新入りの耳郎ちゃんとはな。」

 

「…そいつの声聞いてるとガキの頃の俺思い出すんだよ。鬱陶しいからやめろ。殺すぞ。」

 

 

…どっちがガキなんだよと一瞬言いたくなったのを飲み込み、俺は諭すように話し始めた。

 

「お前ってゲーム好きだったよな?ネトゲとかよくやってたろ。」

 

「あ?なんの話だ。」

 

「そのゲームでもよ、勝てねぇボスが居たらどうするよ。」

 

「レベルを上げるに決まってんだろ。…それと仲間を作る。」

 

「だろ?つまりはそういうことだっての。」

 

俺がそう言い切ってウィンクすると、死柄木の坊主はガリガリと首を爪で引っ掻き始めた。

皮がめくれて首が赤ばんでくる。やがてパタリと動きを止めると、死柄木の坊主は虚空を見つめて動きを止めた。

 

 

「…………なるほど、そうか。俺はゲームの"ジャンル"を間違えてたのか。そうだよ。だから勝てなかった…。」

 

 

耳郎ちゃんは俺の影に隠れて死柄木の坊主を困惑した様子で見つめている。最初に会った頃からこの二人はあまり噛み合わせが良くなかった。

死柄木の坊主は耳郎ちゃんに対して明らかに鬱陶しそうに対応したし、耳郎ちゃんも死柄木の坊主の、死体の手を身体中につけた独特なファッションにドン引き気味だった。

だが、今の死柄木の坊主は違う。…やはりこいつはいい。敵としての才能と伸び代に満ちている。

 

傭兵然とした俺とは違う、純粋な暴力機構としての敵の才能。

 

「あー…耳郎だったか。まあ座れよ。黒霧。二人になんか出してやれ。」

 

 

そう言って死柄木の坊主は、(死柄木の坊主にしては)穏やかにカウンターを差し示した。黒霧も少し戸惑った様子だったが、すぐにグラスにバーボンを注いで俺に出すと、恐る恐る座った耳郎ちゃんに問いかけた。

 

「ジロウキョウカ。何にしますか?」

 

「えっと…じゃあ…なんかジュース貰えますか?」

 

「ええ。どうぞ。」

 

そう言ってカットグラスに炭酸系のジンジャエールと氷を入れ、黒霧は慣れた手つきで耳郎ちゃんへと差し出した。

耳郎ちゃんは恐る恐る口にジュースを含んだが、美味しかったのか緊張が解けたような感じがした。

 

「で、どうだ?敵としてやっていけそうか?」

 

「え?ああ…うん。アーティカさんのおかげで。まだ実戦に出してもらえてないけどね。」

 

そう唐突にフレンドリーになった死柄木の坊主に困惑しながら耳郎ちゃんは答える。

 

 

「そうなのか?…お前が敵として動けばそれだけで雄英は傾く。お前は考えれば、確かに重要ユニットだ。」

 

「考え方一つ変えるだけで、こうも色々見えてくるものか。」

 

 

そう自分に言い聞かせるようにぽつりと死柄木の坊主は呟いた。…やはり実戦は素晴らしいな。一回経験して諭されるだけでここまで成長する可能性がある。

 

 

「アーティカ、どれぐらい掛ければこいつは実戦で使えるようになる?」

 

「…ざっと二週間だなァ。耳郎ちゃんは才能がある。そんぐらい経ったら、初任務の前に景気良く実戦…つってもまあ、雑魚ヒーロー狩りしてもらおうと思ってる。」

 

 

その言葉に、耳郎ちゃんはかすかに喜んだように顔を綻ばせ、死柄木の坊主は嬉しそうにほくそ笑んだ。

 

 

「へえ、それいいな。ならカメラでお祝いにその現場を撮ろう。そして全国に知らしめてやるんだ。」

 

「正義とはどれほど脆弱なのかを!ヒーロー共の不甲斐なさを!」

 

「…オールマイトのヘラヘラ笑いが消えるのが楽しみだぜ。」

 

 

バーで三人はグラスを傾ける。悪意というスパイスを楽しみながら。…無垢な少女は、もう居ない。死柄木の悪意は、熟成されていく。

 

**********************

 

 

 

耳郎視点

 

そしてアーティカさんからの訓練の日々は続いた。拳銃による銃撃練習に、ナイフを基礎としたアーティカさん流格闘術の体得。今までは動きを真似て人形を切り付けるだけだったが、今日からアーティカさんが直々に組み手をしてくれるようになった。

 

「…あの。ウチ今ナイフ持ってるんですけど。本気でやるつもりですか?」

 

「ああ。いつでもいいぜ。」

 

そう言ってアーティカさんはウチの正面に立つと、綺麗なまつ毛の目を閉じて、視界を封じたままウチを手招きした。武器は持っていない。アーティカさんは素手だ。

…流石にこれにはウチもちょっとムッとした。

なので、ナイフで傷が残らない程度に軽く切り掛かったんだけど…。呆気なく躱され、手首と首を掴みながら、地面に押し倒された。手首を捻ってナイフを落とされ、ナイフを蹴り飛ばされる。

 

 

「これはガンヘッド・マーシャル・アーツと呼ばれるニホンのヒーローの体術だ。ま、傷つけず相手を無力化するなんてしけた体術だ。」

 

「…さて、耳郎ちゃんはどうすれば良かったか分かるか?」

 

 

その問いかけに、ウチは真面目に考えて悔しさを噛み殺しながら答えた。

 

「…重心がガタついてたから簡単に転ばされたので、もっと実力をつけてからじゃないとどうにも‥。」

 

「固い固い。そりゃヒーローの考え方だ。簡単だ。正面からなんて相手せずに背後から斬りかかれば良かったんだ。」

 

「えぇ…?組み手でそれ言います?」

 

 

「物の例えだ。それぐらい思考を柔軟にしろって事だ。格闘術ってのは基本的にノーマルの人型を相手にする事が前提なものが多い。」

 

「だから耳郎ちゃんの場合は音の衝撃波で先手を取ったり、個性のイヤホンジャックで相手を撹乱しろ。あるいはそうだな…」

 

 

次の瞬間、目の前に居たはずのアーティカさんが視界から消えた。

 

「ッ…!?え?」

 

 

すると、背後から抱きしめられて耳元で甘い声で囁かれた。

 

「こんな風に、相手の視界から一瞬で消える動きも慣れりゃァ可能だ。隠密には便利だぜ?」

 

そして、ウチの耳元で言葉を続けた。

 

「お前にはこれからは格闘術だけでなく、静かな息の仕方、足音を出さずに素早く走る方法、視界から消える技…ま、一言でいやァそんな隠密の技法も教えてやる。」

 

「俺がみっちり仕込んでやる。耳郎ちゃんが負けないようにな。死なないように。…君が、大事だからだ。」

 

ウチはその言葉に胸が熱くなる。ウチの今の唯一の居場所。人殺しのウチを愛してくれる唯一の人。

…ウチが大好きな、憧れの人。

 

「ウチも…ウチも頑張ります!アーティカさんの役に立てるように!」

 

そんなウチを見て、アーティカさんは、優しく微笑んでウチの頭を撫でてくれたのだった。少し恥ずかしいけど、嬉しかった。

 

**********************

 

 

それから一週間ぐらいして、雄英体育祭が始まったようだった。でも、ウチには"何の関係もない。"

ヒーロー候補生なんて敵でしかないし、それよりアーティカさんの為に頑張ることの方が大事だった。

敵になってからウチはほぼアーティカさんの地下住居だけで生活が完結していた。

でも別に不満はない。アーティカさんは優しい。

添い寝したり、筋肉痛の体をマッサージしてくれたり、その…ウ、ウチのことを自分の"女"として扱ってくれた。

優しく、気持ちよく、甘やかして、ウチという存在を解きほぐしていった。

 

もはや、アーティカさん無しのウチなんて考えられもしなかった。かつてのウチはよくアーティカさん無しで生きられたな、とすら思った。

 

そんな折、また胡散臭さの化身のような義爛さんが現れた。そして、袋から一つのドレスを取り出した。

 

「ほら、急ピッチで見本だけ仕上げたよ。どうだ?いいデザインだろ?」

 

「……すごい。綺麗…。」

 

そのドレスはヨーロッパのクラシカルドレスのデザインを踏襲しているようで、かつパンクかつ可憐なJ-GOTHのデザインも取り入れた見事な造りのドレスだった。

 

薔薇を基調とした黒色がメインのゴスロリのドレス型コスチュームだ。胸元には漆黒のリボンが強調され、長袖のフリルのついた黒のブラウスで上半身は露出が少ないが可愛らしさを強調している。

青薔薇模様に黒のレースがエレガントなコルセットで体のラインが強調されるデザインに、ブラックレースのミニスカート…。

 

 

「これ、本当にウチに…?似合わないよ、こんなの!ウチはサバサバしてるし、こんな女の子っぽい…。」

 

顔を赤らめて思わずそう否定する。ウチは女の子っぽくない。中学校から楽器をいじるたびに言われてきたことだし、そんなこと自分でも分かってる。…でも、心の奥底で憧れる気持ちは否定できなかった。

ドレスを着た綺麗で、可愛いお姫様。

映画でそんなお姫様を見るたびに、ウチもああなりたいと思ったことがないなんて、言えるわけない。

 

すると、アーティカさんは豊満な胸をウチの顔に押し当てて、ぎゅっと抱きしめた。そして、ウチをあやす様に言った。

 

「耳郎ちゃんは可愛いぜ。俺が保証する。このドレスの似合う女の子は他にいねェ。…愛してるぜ、耳郎ちゃん。」

 

「う、あ…アーティカさん…。」

 

その瞬間、ウチは心の底からウチを肯定してくれる人を大好きになった。好きだ。愛してると言っていい。

目が潤む。上目遣いで見つめるのがみっともなくないだろうか。

 

義爛さんは無言で口笛を吹くと、無言で手を振って見本のドレスを持って去っていった。

ウチは決壊した様に隠していたことを打ち明けた。

 

「ウチ、その…ドレスに、憧れてて。女の子っぽくて、可愛くて。ウチには似合わないと、思ってたのに‥。」

 

「そんなこと言われたら、好きになっちゃうよ。これ以上好きにさせて、どうするつもりなんだよ。…馬鹿。」

 

 

 

「馬鹿でいいさ。耳郎ちゃんのためなら馬鹿にだってなるよ。」

 

その一言で幸せで胸が一杯になる。ウチは告白するかのようにアーティカさんに囁いた。

 

「ウチ…前電話を盗み聞きしちゃったんだ。AFOって人と、オールマイトが弱ってるとか何とか、死柄木の成長がどうとか…少し、ほんの少しだけど、その時アーティカさんのことを怖く思った。」

 

「でも、今は違う。ウチはもう、アーティカさんのこと…誰よりも好きだよ。何でもしたいって心の底から思ったの、初めてなんだ。」

 

アーティカさんは笑顔で黙って聞いてくれる。胸の内の全てをぶちまけるつもりで語り続ける。

 

「だから…頑張るよ。ウチ、アーティカさんの女になれる様に。頑張るから、見ててね。」

 

そして、アーティカさんの唇を奪う。…これがウチの誓いのキス。ウチからの、初めてのキス。

ウチは、心の底から幸せだ。

 

 

 

 

 

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