結局は、こうなる運命だったんだろう。
社築は、椅子に座らされていた。
自分の意思で座っているのではない。座らされている。
場所は学校の裏手、部活等の一室だ。
築は両の手をガムテープでぐるぐる巻きにされ、自分の足と椅子の足を、これまたひとまとめにガムテでひとまとめだ。
拉致監禁されている。
犯人は目の前にいる。
女だ。小柄。薄い髪色と瞳の色。容姿は整っていると言えるが、表情がそれを台無しにしている。
表情の種類としては笑顔だ。だが薄皮一枚の向こうに、こちらを旨くハメてやろうという邪悪さと、三下っぽい自虐の気配が匂ってくる。
そんな女は笑顔のまま、独特の甘みのある口調で
「やしろぉ」
と、手に持った紙―――入部届を差し出しながら
「野球、やろうぜっ!」
「やんねえよ!!!」
ガムテープ(紙)を引きちぎって立ち上がりながら、社は声を張り上げた。
社築はこの春、にじさんじ高校に入学した。
にじさんじ高校は秋田県にある、何の変哲もない公立高校だ。
特に進学校というわけでもなければ、治安の悪い不良高校というわけでもない。
生徒会が妙に強い権力を以て自治を断行していたり、変な校則がありそれにより生徒達が日々争っていたり、
妙な部活動やらクラブが巣食っているわけでもない。
カモシカや熊はたまに出るが、鹿と人間のハイブリットな少女が、虎視眈々と踊ったりもしない。
制服も男は詰襟、女はセーラー服。特徴があるとすれば、女子の制服のリボンが、ちょっと派手な蛍光ピンクなところくらい。
強いて特徴を挙げるとすれば、市だか県だかの取り組みで、海外からの留学生を多く受け入れていることくらい。
そんなどこにでもあるような田舎の高校。それがこのにじさんじ高校だ。
社もその普通の中に、埋没して過ごすつもりだった。
部活なんてとんでもない。所属は帰宅部か、せいぜいPC部。勉強そこそこ、友人そこそこでゲーム三昧。
そんな三年間を過ごそうと、部活の勧誘を横目に見ながら、帰宅しようとしていたまさにその時だった。
「築さぁん!」
『社さん!』
「社ぉっ!」
と、複数の小柄な影に飛びつかれ、あれよあれよという間に連れていかれて今である。
実行犯の正体は分かる。窓の外にモフモフしたコンビと、小柄なコンビがわちゃわちゃしているのが見える。さらにそれを見守るのは、ピンクと金で髪を染め分けた女子生徒。小柄組に足止めされた社を、実質締め上げ部室まで連れて来たのは彼女だ。
あいつらは従犯だ。主犯はというと
「やろうよやしきずぅ。やししぃの教えはどうしたんだよ、教えはよぉ」
「ええい、古いミームを持ち出してくるんじゃない!」
と、すり寄ってくる、というよりRPGに出てくる軟体系のモンスターのごとくまとわりついてくる。
女の名前は椎名唯華。昔からの腐れ縁で、この学校の野球部を乗っ取り、甲子園へ行こうとのたまうヤバい女である。
「野球しようぜぇ、キャッチャーやれよぉ!社家の家長としての自覚はねえのかよぉ」
「あるわけねえだろそんなもん!」
どうにか押しのけようとしつつも、妙に強い腕力、というか粘着力でどけられない。
悪戦苦闘しながらも、社の心の隅には諦観が生まれていた。
(ああ、結局は押し切られるんだろうなあ)
何の変哲もない学校で、何の変哲もない3年を過ごすはずだった社築の、かけがえのない三年間が始まった。
しぃしぃの配信見ながら一本。
なんとかリアルタイムに追いつきながらかければいいなあとは思いつつ、無理だろうなとも思いつつ。