私立願ヶ丘高校はミッション系の学校だ。
黒に灰味のある青の差し色が入った制服のデザインが人気。進学校として近隣では有名ではあるが、その一方で部活動、特に運動部の活躍はあまり目立たない。
そんな状況の改善の為に招聘されたのが叶監督だった。叶監督は若いながらもチームを率いて甲子園まで連れて行った実績がある。惜しくも決勝で敗れたが、無名のチームの快進撃は一時期世間の話題を独占していた。
そんな叶が監督として赴任して、最初に手を付けたのは、栄養教育だ。適切かつ十分な栄養は肉体作り、選手のパフォーマンス向上に必須。特に朝食は重要である。
そういうわけで、野球部は朝練の後、チームで朝食をとることとなっている。
今日も早朝連が終わった後、学校の家庭科室を借りて野球部員達が朝食を摂っている。
経費の問題もアリ基本は自炊だ。
本日のメニューはベーコンエッグとコールスローサラダ。そして、カレー粉で味をつけた鶏むね肉のオーブン焼き。
汁物としてタマネギ主体に具材たっぷりなコンソメスープ。浅漬けと梅干、そして白米はおかわり自由。
全体として大味な出来だが、高校生達が少ない時間をかけて作る料理としては上出来だ。
「ガっくんおかわり」
「あいよとやさん」
どんぶりを差し出すのは投手の剣持刀也。それにごはんをよそうのはキャッチャーの伏見ガク。
この二人は、自炊に当たっては『出来る』カテゴリーである。特に伏見はこの朝の食事会においてエース級の働きを見せている。
「ガクさん凄いよね。味噌汁作りながら別の事してるし」
「マルチタスクとか無理」
と言いながら味噌汁をすするのは鏑木と栞葉の1年女子コンビだ。
こっちは手伝ってはくれるもののメイン戦力とは言えない組である。工程を一つずつこなしてはいけるが、慣れないためか気質ゆえか、並行しての作業が出来ないのだ。
そして
「得意料理はカップラーメン!」
「カルボナーラならキッチン火事にしないで作れるよ!」
「ごちになりまーす」
と、こちらは上から出来ない、させられない、何かにつけて韜晦するの戦力外3人組。
上から内野の風楽、マネージャーのペトラ、そして外野の魁星だ。
騒がしくも楽し気に朝食を摂る面々を見て叶は思う。
(みんな、どんな風に成長するんだろう)
みんなまだ実力は足りない。天才でもない。だが可能性を感じている。
彼らの行く道は苦難の道かもしれないが、それを乗り越え強くなる。いや、強くするため、叶はここに呼ばれたのだ。
「さて、ご飯を食べたらまたちょっと練習しよう」
私立願ヶ丘高校は、静かに、おもむろに始動する。