理解できないが頼りになる。
これが新3年生堀口の五十嵐監督に対する評価だ。
五十嵐監督はギャルだ。それもかなり可愛いくノリがいい。
引退した服部先輩や佐藤先輩はその内気さゆえに、終始押されていた。そのくらいノリが良く、可愛いギャル監督だ。
部員のことは積極的にあだ名よびして、試合の時は
「ヴぁっ!?」
とか
「アッッハァ"ア"↑!」
とか、ことあるごとに奇声を上げる。
「下まつ毛がかわちいんだから堀口は~」
などは勘弁して欲しいなとは思っている。
しかしその印象とは裏腹に、かなりやり手の監督でもある。
弱小と呼ばれていた野球部を、中堅関之尾を下して地方大会で準決勝にまで導き、強豪日南相手にも1点差まで競ることができた。
秋大会は2回戦尾鈴山西に敗れたが、相手の実力や試合内容を考慮すると決して悪い成績ではない。
チームの育成力の面でも有能だ。1年の周央サンゴ――なぜかンゴ、あるいはドミンゴと呼ばれる――を中心に順調な育成を成し遂げている。2年も堀口自身含め着実に強くなっているのを感じている。
五十嵐梨花監督は有能だ。それは理解できる。だが一個人としての五十嵐梨花のことを、男子高校生堀口は今一理解しかねていた。
3月の末。
年度末ということで、大規模なグランド整備が行われ、練習は数日のまとまった休みになっていた。
練習もなく、どうしようかと思った時、監督から呼び出しがあった。
「彼女とデートの予定だったらごめんね!少しでも早く見せたいものがあって」
「いえ、なんでしょうか?」
「見てこれ!スカウトした子達、全員来てくれることになったんだよ!」
そう手渡してきた資料は、この春に来る新入生達の情報だった。
堀口は、これ生徒に見せていいのか?と思いつつも、結局は好奇心が勝って読み進め、そして驚いた。
全員、極めて優秀だ。
スカウトしてきたのだから多少は一般入学組より優れているのは予想していたが、ここまでの粒ぞろいとは思わなかった。
ポジションの関係からコンバートの必要はありそうだが、皆、高い基礎能力と光るスキルを有し、そして何より
「……なんか一人、猫耳とか生えてるんすけど?」
「可愛いよね、ぷてち!」
ビジュアルに関しても、個性的かつ飛びぬけている者が多い気がする。
というか、既にニックネームがついている。
どうやってこんな逸材たちを見つけて来たのか?
どうやってそれを確実に引っ張って来れたのか?
ひょっとしてビジュアルとかそういうのも選考基準だったのか?
相変わらず底知れない、意味が分からない、理解のできない監督だが――それらは枝葉末節。どうでもいい。
「この資料を読み込んで、体のメンテの計画を立てればいいんですね?」
「そそ!練習の提案やポジションとかも、アイデアありけりならどんどん頂戴ね!一般入学の入部希望者の資料が手に入ったらまた渡すから!」
「はい」
重要なのは、理解するべきは、一つはこの監督が優秀であること。もう一つは野球に対して真摯であること。そして自分のことを理解し、信頼してくれているということだ。
重要なことは完璧に理解できている。ならば問題ない。
五十嵐梨花監督2年目。キャプテン堀口との相互理解は、完璧なようだ。