にじさんじ甲子園2024   作:詞連

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準備期間内にできる限りたくさん書きたい


私立願ヶ丘高校2年目夏

 栞葉るりには悩みがある。

 一つではない。年頃の症状である彼女には、悩みと呼べるものはそれなりにある。

 野球部外の友人とあまり時間が取れないことや、お気に入りの化粧品が高くてなかなか手が出ないことや。三半規管が弱く主観視点ゲームですぐ酔ってしまうことや。

 だが現状最大の悩みが何かと言われれば、これだと断言できるものがある。それ即ち――

 

「お兄ちゃんに任せなさい!」

「ごめんなさい、妹ではないです!っていうか、私、先輩!!」

 

 ――最近、部活に、兄を名乗る不審な後輩が出来たことである。

 

 

 不審者の名は葛葉。野球部にひょっこり入って来た天才だ。

 そう、葛葉は天才だ。捕手志望で入ったがポジションの兼ね合いからショートに転向。そのコンバートをあっさり済ませ、なんと1年ながらレギュラーに抜擢される。

 そして夏の県大会第一戦で、打ってはホームランを含む2安打の活躍。守っては試合を決めるダブルプレイ。その後の試合でも着実に活躍を重ねている。

 また試合での活躍のみならず、野球の知識の面でも造詣が非常に深く、練習姿勢だって真面目だ。

 文句のつけようのない願ヶ丘高校野球部期待の星。そんな彼に欠点があるとすれば

 

「栞葉の兄です」

 

 と、なぜか栞葉の兄を名乗る点である。勿論事実ではない。

 

「兄とかいないです」

「全く、恥ずかしがり屋なんだから」

 

 と、ことこの件に関しては梃でも話を聞かない。

 天才は変わり者が多い、という話を聞くが、こんな尖り方ってあるものか?

 しかも葛葉が兄を名乗り続けた結果、部員達も葛葉=栞葉兄という図式を受け入れ始め

 

「栞葉君!葛葉君を知らないかい?」

「いえ、知りませんけど」

「そうか。妹の君が知らないとすると……」

「ちょっと待って」

 

 葛葉と同じ1年部員のレオスが持ち前の大きな声で教室で言われた結果、クラスメイトから葛葉と言う兄がいる、と誤解を受ける羽目になった。

 なにが起きているんだろうか?

 市に虎ありとはいうけれど、その為には最低限3人くらい必要なはずでは?葛葉さんは知らないうちに3人くらいに分身している?

 知らん兄という謎の存在が生まれるという、ちょっとしたホラーな環境が、今の栞葉の日常だった。

 

 

 そんな日々を過ごすうちに、願ヶ丘高校の夏は準々決勝にて終わりを迎えた。

 中堅福知山南に対して10-12で敗北。9回表、最後の攻撃。2アウトから葛葉がデッドボールで出塁。4番福田の打順となったが、力及ばず3アウト。

 試合を終えて撤収作業をする時だった。

 

「るり嬢。葛葉の事、みてやって」

 

 こっそりと、叶監督が栞葉に言った。

 

「監督も気づいてたんですか?」

「うん。けれど俺が言っても効かなそうだからさ。妹の君からなら効くと思って」

「妹じゃないですけど、わかりました」

 

 栞葉は葛葉の手を引き

 

「デッドボールの痕、処理するのでついてきてください」

 

 

 球場裏手のスペースで、栞葉は顔をしかめた。ユニフォーム下、葛葉の肩には内出血が広がっていた。デッドボールによるものだ。色白な分、内出血がより痛々しく広がって見える。

 

「湿布を当て、その上からテーピングしておきます。明日には病院に行きますよ」

「えー、大丈夫だって」

「大丈夫じゃないです」

 

 子供っぽい挙措で言う葛葉を座らせて、栞葉は処置を勧める。

 しばらくの無言の後、包帯を巻きながら栞葉は言った。

 

「……わざと当たりに行きましたよね」

「んー、どうだろ」

「誤魔化さないでください」

 

 斜め上を見てとぼける葛葉の横顔を、栞葉は睨むようにして見つめる。

 葛葉は天才だ。あのボールを咄嗟によけることくらいはできただろう。だが、あえてそれをしなかった。

 

「危険ですし、そういう風にされて勝てても、嬉しくないです。」

 

 葛葉は気まずそうに言葉にならない声をこぼした後、観念したように

 

「わかった。もうしない。――妹にそこまで言われたら、お兄ちゃんとして断れないや」

「兄とかいないです!」

 

 そんなこんなで、願ヶ丘高校野球部新体制は始まるのだった。

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