突如鳥取砂丘に現れたダンジョンは、異世界に通じていた。
異世界との交流の最前線となった鳥取に、若者たちの交流を目的に設立されたのが、英雄アカデミーだ。
英雄アカデミーの学び舎では、異世界からの来訪者と地球側のヒーロー達が、日夜自己研鑽と異文化交流に明け暮れていた。
部活動もその一環だ。科の垣根を越えた生徒同士の、そして他校との交流を進めることを目的として、部活動が推奨されている。
エクス・アルビオが野球部の監督を務めることになったのも、その施策の一環だった。
『英雄ファイトー!』
朝のグラウンドに、野球部員の声が響く。その声をさらにかき消すような大きな声の檄が飛ぶ。
「もっと声出してけー!」
声の主はエクス・アルビオ。
彼の声に応え、更に大きな掛け声が返ってくる。
そんなグラウンドの端から、練習とは違う声が聞こえてくる。
「――だから、やっぱり呪力の総量が問題なんだよ!
お互いのチームの能力から算出される呪力が領域の奪い合いを―――」
スマホを右手、ノートを左手。練習の声に負けないような声量で、電話越しの相手と激論を交わすのはイブラヒム。
期待の1年エースピッチャー。浅黒い肌のコーヴァス帝国からの留学生だが―――
「イブラヒム、サンは、ISEKAIの人、SpellCasterデシタカ?」
「いや、イブラヒムは一般人の元石油王だったはずだけどなあ」
同じ色白で銀髪の、けれども印象が正反対の二人がイブラヒムの会話の内容に首をかしげている。片方は少し背が高く鋭利な印象を受ける片言の日本語の少女。もう片方は小柄で丸っぽい印象の日本語が流暢な少女だ。どうやら呪力という単語に引っ掛かっているらしい。
ちなみに、彼が言う呪力とは魔法的な何かしらのことではない。最近の高校野球で噂されている、後半3イニング、および5イニング目に見られる、大量得失点現象を議論するにあたっての専門用語だ。
「ありがたいなあ」
エクスは野球を知らない、と言うほどではないが、造詣の深い方でもない。
そのエクスを知識面でも支えてくれるのが、野球に詳しく、頭脳明晰なイブラヒムだ。
今も彼は他校の知り合いと、今後のチームの育成方針について知見を得るべく激論を交わしている。
(とはいえ、そろそろ練習の方にも誘わないとな……)
とエクスが思っていると
「おーい!イブさーん!ピッチャー代わってー!」
マウンドの方から声が届く。
見れば同じ1年ピッチャーが手を振っている。地球の日本出身の女子生徒だ。
バッターボックスには少し背の高めの金髪の魔女、キャッチャーミットを被ってるのはヒーロー科の1年男子。
イブラヒムは電話を終えるとそっちの方に走っていった。
異世界人と、一般人と、魔女と、剣士と、ヒーローと、そして英雄と。
何というごちゃまぜ。だがそんな彼らが、ともに白球を追っている。この時点で交流という目的は果たせている。
だがまだだ。ここで満足してはいられない。転がる白球の先には全国のまだ見ぬ強敵が、友がいるはずだ。
攻めて、攻めて、攻めろ。
『英雄ファイトー!』
春の空に遠く、高く、どこまでも、ヒーローたちの声が響き渡る。
一般人の元石油王とは?