9月。夏の頃の熱気が幻だったかのように、グラウンドは涼しく、閑散として、そして寂しげだ。
そこに、モコモコとしたシルエットが二つ。
「負けちゃったな」
「そうですね」
でびでびでびると、黒井しばだ。
思い出すのは先日の秋大会の第一回戦だった。
総力戦だった。
3年が抜けて、ポジションもギリギリのにじさんじ高校野球部は、格上の秋田高校と戦った。
春から正捕手として活躍していた社はもちろん、コウとでびはスタメン。コトカも抑えとして出て、しばも代打。リリムも代走を務めた。
全員で一所懸命に戦った。だが――
「もうちょっとだったんだけどなあ」
「チャンスはあったんですよねえ」
よく投げた。よく打った。よく守った。よく走った。けれど、届かなかった。
「ボク達、いつになったら勝てるんだろうなあ」
しばは答えられなかった。
しば達が入学してから、練習試合1回、夏秋と公式試合が2回。勝てていない。勝負にはなっていた。流れ次第では勝てていた。けれど勝てない。
まるで泥沼に沈んでいるようだ。進めない。それどころかどっちが前かもわからない。
このままずっと、勝てないんじゃないだろうか?
どちらかともなく、そんな言葉が零れそうになった時だった。
「お?二人とも早いじゃぁん」
独特の声音と口調。椎名監督だ。
その手には何かが入った段ボール箱を持っている。
「しいなじゃん。お前こそ早くね?」
「監督って呼べよぉ。特訓の準備のためにきたんだよ」
そう言って、彼女はあれこれと道具を取り出し、並べていく。
その横顔に、悲壮も絶望もない。試合の時は声がかすかすになるまで叫びまくり、負けた時は誰よりも悲鳴を上げていた彼女だ。現状に思うところがないはずがない。
「あの、監督は……」
何を言うべきかわからないまま、しばは口を開き、言葉を探し、けれど何も言えない。
不意に生まれた沈黙。それを破ったのは、椎名だった。
「うちら、まだ負けてないから」
「いや、負けたじゃん」
「負けてねえよ!まだ勝ててないだけだぁ!」
やや呆れたようなでびの言葉に、椎名が大声で言い返す。
「勝ててないだけであきらめてない!あきらめてないから負けじゃない!」
それは強がりだった。だがその強がりも、信じ貫くなら、それはただの強がりではない。闘志だ。
「今はまだでけぇバネ貯めてるだけだから!キャリーしてるだけだから!次こそ絶対勝つぞぉっ!そのための特訓だ!つかお前らも手伝えよぉ」
そう言って、椎名は今日の練習の準備をしていく。その姿を前に、しばとでびは目を合わせ
「やるか」
「そうですね!」
頷いて、立ち上がる。立ち上がらなければ、進めない。進まなければ栄冠には届かないのだ。
にじさんじ高校野球部は、まだ勝ててはないが、負けてはない。
でびとしばのキャラメイクが上手いと思った