せめて、全高校の1年目春だけでも書きたい。
「ンゴは野球部に入ることにしたんだ。健屋さんもどう?」
TRPG仲間のその言葉が、健屋花那が野球部のマネージャーとなる切っ掛けだった。
春、健屋が進学したのは梨海高校。どちらかと言えば進学校。制服が可愛いことと、水産科で海獣、特にアザラシの飼育研究をしていることが特徴。部活、それも野球が強いとかいう話は聞かない。
そこでなぜ、友人の周央サンゴが所属しようとしたのか?
そこに疑問と興味を持ち、健屋は野球部の見学に行き、
「よしっ!ナイスプレイ!いいよいいよ!いい子いい子してあげる~!」
ギャルと出会った。それもめっちゃ可愛い。
どのくらい可愛いかと言うと、2,3年の先輩男子達の、特に内気な面々が
「……ウッス」
としか返事ができないくらいに可愛い。
最初はマネージャーだろうかと思ったら、話してみたら
「監督です!」
と言われて2度びっくりした。
ともあれ、見学したいと申し出たところ。
「オーケーオーケー!完璧に理解した!」
と、何を理解されたのかはわからないが、許可されたので、健屋はその練習を見ることにした。
監督の個性に押されて気付かなかったが、選手達もまた個性的だ。特に1年生がその傾向が顕著に見える。
小柄な体でバットをぶんぶん振り回す友人の傍らでは、ふわふわと印象の白髪の1年生と、どこか浮世離れした印象の長髪の一年が守備練習をしている。
ブルペンの方では1年女子が二人、それぞれ交代で投球練習をしていて、それをキャッチャーマスクをつけた1年男子が受けていた。
マスクの下は、モノクルの怪しげな男だった。
「怪しいものではございません」
と何かにつけて言っているところが特に怪しい。
「……あれ?なんか1年男子ってSAN値が低めだったり下げてこようとしたりするタイプしかいなくない?」
などと思っていると
「あいたっ!」
と、サンゴの声がした。
手の豆がつぶれたようだ。
健屋が絆創膏か何かあったかな?と咄嗟にポケットを探ろうとしたとき
「はい!お願い!」
と、救急箱が差し出された。監督だ。一瞬戸惑ったが、健屋はそれを受け取った。
「なんで、私が医療系進学希望ってわかったんですか?」
サンゴの手の処置を終えた後、健屋は監督に尋ねた。
救急箱を差し出してきたのは、それを知ってのことだとしか思えない。
問われた監督は笑顔で
「言ったじゃん。完璧に理解したって」
答えになってない答えを言う。
ただ、その明るい笑顔を見ていると、まあ、そんなもんかな、と思えてしまう。
「ところでさ?―――練習、必要じゃない?」
「ぴえん」
監督が指摘したのは、サンゴの手の処置だ。
消毒したのはいいが、その後の傷の保護が問題だ。アレではミイラである。
「でさ、野球部って結構こんな感じでケガすることも多いんだよね。
だから、練習するにはもってこいだし、マネージャーとかになってくれると、とっても助かったりすることもありけりの鎌足なんだけど……」
と、そんなことを、少し上目遣いに言ってくる。
健屋は少し悩んだ後、
「よろしくお願いします。五十嵐監督」
「りかしぃ監督でいいってば」
こうして健屋花那の、高校球児とその監督と、一緒に駆ける日々が始まった。