帝国立ふれんず学園高校♡ 1年目夏
天宮こころのみた彼らは、夏の日差しのように熱く、陽炎のように儚かった。
その日、こころが野球場を訪れたのは偶然だった。何か気落ちすることがあって、たまたま通りかかった野球場で、何か試合をやっているので、気晴らしに見に入ったのだ。
何に気落ちしていたかは、覚えていない。なぜならば、そんなちっぽけなことなど消し飛んでしまうほどに、峻烈な物を見たからだ。
夏の地方大会だった。
帝国立ふれんず学園高校対うるま高校。
試合は7回まで0-2でうるま優勢だったが、8回表、エラーを起点にふれんず学園高校が一気に12点を入れる大攻勢。
これで試合は決まったかと思ったが、8回裏。今度はうるまが反攻。ふれんず学園は投手3名を投入するも11失点。
点の取り合いは9回も続き、9回表、ふれんず学園は5点獲得して17-13と突き放す。
そして9回裏、うまる高校は3点を返すが、そこで力尽きた。最後のバッターが打ち上げた、あわやホームランかという特大のアーチを、フェンスギリギリで外野がキャッチ。
17—16でふれんず学園が勝利した。
こころはどちらの高校とも縁があるわけではなかった。
ただ何となく入った側がふれんず学園ベンチ側のスタンドだったので、なんとなくふれんず側を応援していた。
ふらふらになりながらも最後まで投げ切った、長い髪の女の人の投手にがんばれと声援を送り、打たれた時は悲鳴を上げ、最後の打球がキャッチされたのを見て歓声を上げていた。
しかし、試合が終了し、挨拶を終えた後、自陣に戻り泣き崩れるうるま高校の選手たちを見て、同時に胸が締め付けられるような気持になった。
家に帰った後、こころは改めて高校野球や甲子園、そして今日応援したふれんず学園高校について調べてみた。
ふれんず学園高校の野球部は弱小と呼ばれているということ。最近新しい監督が赴任してきたということ。
彼らが戦う地方大会は甲子園と言う全国大会の予選であること。トーナメント制で1度負ければ敗退だということ。そして――この大会を最後に、3年生は引退をするということ。
「もう、あの人達は、同じチームで野球をすることはないんだ」
川の流れと同じだ。たとえ同じ川でも、そこにある水は同じではない。同じチームは続くが、今この夏の、このチームは二度と存在しない。
あのふれんず学園高校のチームと、あのうるま高校のチームの試合は、もう二度とないのだ。
そう思うと、また胸が苦しくなった。
数日後、ふれんず学園高校の第二試合を見に行った。
相手は座間味北高校。調べたところうるま高校と同格、ふれんず学園からみると格上の高校らしい。
試合は激闘だった。
座間味北が表、ふれんずが裏。1回表に座間味北が1点先制。5回、座間味北のエラーをついて1点を返し追いつく。
7回表に座間味北の打線がつながり2点を追加するが、その裏にふれんず学園の9番打者のピッチャーと上位打線が奮起し3点を返し逆転。
ふれんず学園のエースピッチャーは完投するも9回表、3ランホームランを含む4失点。
9回裏、7-4となったフレンズは安打を繋ぎ、満塁。最後に1年生の少し浮世離れした印象の白い髪の選手がフェンスに届くような引く三塁打を打ちサヨナラ勝利となった。
歓喜に沸き立つふれんず学園ベンチを見て、こころも自分のことのように嬉しくなった。
また数日後。準々決勝の相手は石垣東。名門と呼ばれる強い学校だ。
「何回でコールドかな?」
石垣東高校の応援に向かう人がそんなことを言ってるのを聞いて、こころはむっとしたが、同時に仕方ないな、とも思った。
相手のチームの選手は皆強そうだし、応援団も多い。インターネットや新聞を調べても、石垣東がこのまま準決勝に駒を進めるだろうという予測ばかり。
(もう、ダメなのかな?)
そう思いながらも、せめて最後まで応援しようと思ったこころ。
そんな彼女の懸念や憂鬱を、ふれんず学園ナインは消し飛ばした。
試合は、ふれんず学園に厳しい流れだった。石垣東の猛攻を、エースピッチャー南とチーム全体が一丸となって耐え忍び、なんとか反撃を繰り出すという展開が続いた。
2-2。7回裏、石垣東の攻撃で本塁打含め4失点して2-6。そのまま9回表、ふれんず学園最後の攻撃となり、ふれんず打線が爆発。
プレッシャーによるものか、石垣東のミスも重なり大量10点獲得。9回裏、石垣東が意地の反撃で3点を返すも最後は内野ゴロで打ち取りゲームセット。
審判が最後のアウトを取った瞬間、こころは今までの人生の中で一番大きな歓声を上げたが、その声は球場を揺るがす大歓声にかき消されてしまった。
翌日の新聞にはふれんず学園の大金星について大きな特集が組まれていた。なぜか、こころは誇らしく思った。
そして、準々決勝の日。こころはまたふれんず学園の応援に来ていた。
相手は中堅宮古島工業。
ふれんず学園は絶対勝てる。だってあんなに強い相手にも勝ってきたんだもの。
そう思ってうきうき気分で球場に行ったこころだったが、野球の神様は残酷だった。
宮古島工業対帝国立ふれんず学園高校 10-2 8回コールド。
8回表にエースであるピッチャー南が捕まり7失点。ほぼ一人で激闘を投げ続けた彼の限界だったのかもしれない。
裏の攻撃で得点を得られずにコールド成立。ふれんず学園は敗退した。
試合が終わってしばらく、こころは観客席に座り込んで呆然としていた。
「終わった……」
人がまばらになったころ、ぽつりと零れた自分の言葉で、こころはようやく理解した。
終わってしまったんだ。あの人たちの夏は。もう二度と、戻らない夏が、終わってしまったんだ。
泣くこともできず、ふらふらと球場を後にしようとした時だった。
「ほんとがんばってくれたよ!みんなホントがんばってくれた!くやしいいいいっ!」
女の人の声だ。
なんとなく聞こえてきた方に行くと、そこにはふれんず学園の野球部達がいた。
その中心に、綺麗な女の人がいた。監督だ。
「南いなくなるの寂しいよぉ!丹羽もいなくなるの寂しい!っていうかみんな寂しい!」
「監督、3か月間だけだったっすけど、ありがとうございました」
監督やチームの1、2年が悲しそうにしている反面。南達3年生達は穏やかな表情をしているように見えた。
いや、きっと彼らも悔しくて、哀しくて、仕方ないのだろう。だけどそれを押し殺して笑顔で言う。
「中村、それと戌亥、メロコ」
南は後輩投手の3人に向き合う。そして2年の中村の手を取ると。
「甲子園の夢、お前らに任せるぞ」
「……っ!ハイ!」
中村と共に、1年投手の二人も頷く。
その光景を見て、こころは気付いた。
「そっか。終わるけど、何もなくなるわけじゃないんだ」
今のこの夏のチームは永遠になくなる。夢は消える。けどその思いは受け継がれ、また新しい夢の一部になるんだ。
終わるけど、終わるわけじゃない。
切なさと、嬉しさととが綯い交ぜになって立ち尽くしてると。
「あれ?いつも応援に来てくれてた子じゃない?」
金髪を二つにまとめた1年の女生徒が言うと、他の部員達も
「あ、ホントだ」
「毎回来てた、応援してくれてたよね」
「あー、あの可愛い子の」
などと、口々に言う。
うわ、見られたんだ。
そのことに若干の嬉しさと、莫大な気恥ずかしさを感じて固まるこころ。
そんな彼女に、監督の女の人――フレンが話しかけた。
「応援してくれてありがとう。どうしたの?何か用事かな?」
目線を合わせて聞いてくるフレンに、こころは言葉を詰まらせる。
どう答えたものか?ただ何となく、声がしたのでみにきただけなのだけれど。
そう、言おうと思った口からは、しかし別の言葉が出てきた。
「あの、あまみやも、なれますか?」
「え?」
「こ、高校になったら、ふれんず学園に入ったら、野球部に入れますか!?」
言葉にしたことで、想いは明確な形になった。
一緒に、このチームで、自分も夢と白球を追いたい。あの夏の日のように熱く、陽炎のように儚い瞬間を共有したい。
顔を赤くして言うこころに、きょとんとした表情をしたフレンだったが、すぐに笑顔になって。
「うん、待ってる!」
そう言って、自分のかぶっていたキャップを、こころの頭に被せたのだった。
なお、入学どころかその翌日から、ふれんず学園高校の野球部に入り浸る中学生が誕生することになるのだが、それはまた別の話である。
にじ甲が書きたいネタの宝庫すぎる問題