坊と魔剣と崩壊王国   作:穴熊拾弐

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第20話 菖蒲邸③

 

 

 古書殿に封じられた者たちが目覚めてからは慌ただしく時間が過ぎた。

 まずは目覚めた13名の世話や治療。

 彼らは戦闘の最中に封印されたため皆多かれ少なかれ傷を負っていた。

 

『布と水……全然数が足りないわね! 動ける人はついてきて!』

『近くに止血に役立つ植物が生えていた筈です。……まだありますかね?』

『知らない! とにかく探して来て!』

 

 よくよく考えれば数百年前の怪我を治療するという貴重な経験だが、そんなことを気にしていられないくらい慌ただしかった。

 とりあえず全員が治療できる水と布の確保のため、詩乃はまだ動ける人々を伴って森に飛び出した。

 その後は真っ先に治療。それから寝床の作成を全員で行った。

 

 そしてその上で、詩乃が「彼らの封印後に何が起きたのか」の説明を行った。

 当然彼らにキュウと葉月は見えないので、説明役は詩乃に任せて坊は調理に専念。

 

『皮をはぎ終わったら真っ二つに割って、骨を取っていきます』

『こう? ……あ、折れちゃった』

『丁寧にやってる時間はありませんから、ある程度は無視しましょう!』

『いいのかそれ……まあ、死にはしねえか』

 

 幸いなことに猪を狩れていたので量には困らなかったが、困らない程の量を一人で捌くのには限界があった。

 途中から葉月と2人で目を回し始め、遂には魔剣や緋太刀を持ち出そうとしたのでキュウが慌てて止めに入った。

 最終的には心得のある何人かに手伝ってもらってなんとか食糧の準備を終えたのだった。

 

 その過程で坊も全員と面識が生まれた。

 特に詩乃と年齢も近く、彼女の従者も務めていた若菜という少女は色々と世話を焼いてくれた。

 彼女と並んで骨から肉を削ぎ落している最中に、詩乃は一通りの説明を終える。

 

「――以上が、私が目覚めてから起きたことよ。正直、私よりも彼……坊君がしたことの方がとっても大事ね」

「なんと、そのようなことが……我々は、遥か未来まで封印されてしまったというのですか……」

 

 最初は起きたことの重大さに戸惑い泣き出す者もいたが、星弓の矢が大量に突き立った屋敷の周囲と、明らかに風化した屋敷の様々なものを見て次第に納得していった。

 ……キュウと葉月の説明をした時が一番悲鳴が上がっていた気もするのが、キュウとしては不満であったが。

 

『――何とか落ち着きましたね』

『ああ。俺たちは殆ど何もしてねえけどな』

『あなただけでしょう? 私は料理のお手伝いをしていました! ……でも、こういう時は不便ですよねえ、この身体』

『ははっ、楽できていいじゃねえか』

 

 今は諸々落ち着いた、夜半。

 騒がしかった屋敷も静まり返り、男女分けて用意した大部屋それぞれで皆が眠りについている。

 

 明日以降は屋敷を奇麗に掃除して部屋を増やしたり、まだ使えそうな装備などを集める予定だ。

 何せまだこの国全てを解放できたわけではない。菖蒲領内から樹者は消えても、周辺の領地にはまだまだ樹者が残っている。

 特に菖蒲領の隣には、奴らの発生源とされる赤桜の都がある。

 坊の都攻略の間に樹者が攻めてきても耐えられるように、戦う用意はしなければならない。

 

『――ただ、こいつも使いようがあるぜ。ついてきな』

『なんですか……?』

『いいから来てみな。おっと、俺が合図するまで黙ってろよ』

『……?』

 

 葉月がこくこくと頷いたのを確かめてから、キュウは天井をするりと通り抜けて屋根裏に潜ると、滑るように目的の場所へと向かう。

 まだきちんと屋敷の構造を把握していない葉月ではあったが、進むにつれ、向かう先は朧気ながら理解できた。

 

 ――ここ、古書殿……?

 

 そう疑問に思ったのも束の間、葉月の耳に壁を通して声が漏れ聞こえてきた。

 

『――そうですか、坊様はそのような力をお持ちで……』

 

 古書殿の中に誰かいる。

 とっさに覗こうとした葉月を、キュウが腕を差し出して止めた。

 そのまま彼は屋根裏を滑って、声が一番よく聞こえる場所――恐らく声の主の真上へと移動する。

 

『――ええ、そう。見たこともないくらい凄い力よ。そうね、まるで御屋形の様な……。お父様は彼のことを知っていたのかしら』

 

 続いて聞こえてきたのは、詩乃の声だった。

 他に声はしない。恐らく下にいるのは詩乃と、蓮爺と呼ばれたあの老人の2人だけだろう。

 

 キュウが覗き込むのを止めたのは、詩乃がいると分かっていたから。

 彼女はキュウと葉月が見えるし、言葉も聞こえる。

 目の良い彼女なら、このまま覗き込んでいたら見つかっていただろう。

 

 ――まさか、盗み聞きするつもり……?

 

 なんと趣味の悪い、と思ったのだが、ちらと見えたキュウの表情は真剣そのもので。

 驚き、葉月はとりあえず黙って聞いておくことを選択した。

 

『だから彼の事を調べようと思って古書殿に来たのよ。ここなら、きっと情報がある筈だから。そうしたら蓮爺たちが出てきたんだから……驚いたわ』

『そうだったのですな……』

『そうだ、蓮爺は知らない? 彼の事』

『……そのことを、詩乃様にお伝えに来たのです』

 

 蓮爺の声が一際低くなる。

 その声色の剣呑さに、葉月も思わず息を呑んだ。

 これか、キュウが盗み聞きしようとしているものは。

 

 葉月も坊も気が付いていなかったが、詩乃が坊について語っていたあの時、この蓮爺の顔がこわばり、坊を見つめたのをキュウは見逃さなかった。

 あの目には恐怖が宿っていた。

 こいつはきっと何か知っていると確信したキュウは蓮爺の事を見張り、案の定、彼が詩乃を呼び出したのを目撃したのだ。

 そして今である。

 果たして、彼が知っていることとは一体――。

 

『あの坊という少年。間違いなく本家の血筋、御屋形様のお子でしょう』

『……!! そうなの? でも、御子息様は仁桜様では……?』

 

 この国では次の王たる親王には桜の字を名付ける。

 そして跡目争いを避けるために、御屋形様は1人しか子供を作らない筈なのだが……。

 詩乃の問いに、蓮爺は『いえ』と否定の言葉を発する。

 

『もう1人いたのですよ。御屋形様の――桜武様の子は』

『……どうして私も、皆もその存在を知らないの? だって、本家の子でしょう? お披露目だってされる筈で……』

『知られるわけには行かなかったのです。なにせ、彼は呪いの宿命を帯びた子なのですから』

『……呪い?』

 

 ――呪い?

 

 詩乃と全く同じ問いを葉月は思い浮かべた。

 だって呪いといえば、今この国を蝕んでいるものの呼び名だ。

 坊がその宿命を帯びているとは、一体……。

 葉月の思考に沿うように、詩乃が問いかけを続ける。

 

『どういうこと? 彼は本家の子なのでしょう? それが、呪いの宿命……?』

『……詩乃様は、大赤桜がどのようにしてあの強大な力を発揮しているか、御存知ですか?』

 

 問いに返ってきたのは、更なる問いかけであった。

 その意図もよくわからずに、詩乃は考えを巡らせているようだ。

 

『……そういえば、考えた事もなかったわね』

 

 確かに葉月も知らない。

 大赤桜は生まれたときからその力を国中に振りまいていた。

 当たり前のようにあった物の原理を疑う者は少ない。

 それは五家の次期当主でも変わらない様だ。

 

『大赤桜は、大地の更に下に流れる力の流れに根付き、その力を吸い上げて咲き誇ると言われております。大赤桜はあくまで力の中継地点。本来は地の底に流れる、この世界の血流とでも言うべき力を振りまいているに過ぎない……と。ただ、長い時を経ると、力以外の澱みも樹の中に溜まっていくのです』

『……澱み?』

『はい。海水に塩があるように、力にも不純物が混じっているのです。それが溜まりすぎれば、大赤桜とて腐り落ちてしまうのです。実際、この国の勃興期には大赤桜が腐り落ちた事があったと書に残されておりました』

『そんなことが……』

 

 大赤桜が枯れる。それはこの国にとって滅びと同義である。

 実際、呪い――蓮爺の言う澱みに侵されたことで、この国は全滅したわけなのだから。

 ただ彼の語った過去の時代は、なんとか崩壊を免れたらしい。

 

『その時は大変だったようですな。混乱ぶりが文字だけでも伝わる程に。ただ幸いなことに、偶然その少し前に褒美として下賜していた接ぎ木があったようで、それを次の大赤桜として育て、難を逃れたとあります。……五家桜が生まれたのも、そう言った経緯だと聞きます』

『……なるほど。五家桜の由来として語り継がれていた逸話なのね』

 

 恐らくは民に広めるための逸話として残されたものなのだろう。

 古くから菖蒲家に仕えているとはいえ、彼が過去――否、もはや古代といっていい時代の、そんな深い事情を知っている筈もない。

 

『でも、五家桜を作ったとしてもその澱み?は溜まるのでしょう? ……私、大赤桜が枯れたなんて話は聞いたことがないけど』

『はい。五家桜はあくまで予備。大事なのは大赤桜自体を枯らさないことです。……そこで、大赤桜を真に守り続けるために、当時の御屋形様は、ある選択をしたのです』

 

 たっぷりと間をおいてから、彼はこの密談の目的であろう情報を告げた。

 

『――それは、赤桜の力ではなく、赤桜の澱みを人が受け入れること』

『……人? 人間って言ったの?』

『……はい。この国の人間は、赤桜から力を分け与えられて暮らしております。御屋形様たちをはじめとする、本家の方々はその容量も我らとは比べ物にならない程大きい。……つまり、本家の人間から1人、()()()()()()()()()()()()()を作ることでこの国は大赤桜を生き永らえさせてきたのです』

 

 ――ああ、なんてことを。

 

 そう叫んでしまえたらどんなに楽だったか。

 でも葉月はなんとか両手で口を塞いで――この身体でそんなことに何の意味があるかはわからないけれど、とにかく必死になって声が漏れるのを我慢した。

 今ならキュウの張り詰めた表情の意味が分かる。

 

 この先の話を聞かなければならない。彼を知るだけではなく、あの幼い身ながら懸命に戦い続けている少年を守るために。

 一方の詩乃は、驚きで声を荒げる。

 

『それって……本家の人が生贄を差し出していたってこと!?』

『そうです。この国の長い歴史の間、ずっと』

『それが、坊君だっていうの……? だって、そんなこと……どうして?』

『1人の犠牲で、この国が守れるのです。それでよいと判断したのでしょう。……ただ、決して非人道的だったかといわれると、そうとも限らないのですよ』

 

 ほんの少し明るい声色になって蓮爺は告げる。

 

『澱みを引き受けるのは、親王に当主の座を譲った御屋形様です。それも天寿を全うされるその直前――云わば、生前最後の儀式として行われてきたようです』

『……ああ、桜浸の間! あれはそのための施設だったのね』

 

 死期を悟った先代の御屋形様は、大赤桜の幹に作られた特別な寝所で最後のその時まで過ごす。

 長い間仕えた大赤桜の中で眠り、祖霊たちの下に旅立つための儀式と伝えられてきたが、まさかそんな絡繰りがあったとは。

 

『はい。二百年ほど前、当時の御屋形様が自らそう望まれてから、そのようになったと言われております』

『……昔は、違ったのね。まあでも、今の形になってよかったわ』

 

 ぶんぶんと葉月も同意の首肯をする。

 キュウがちらと鬱陶しそうな目線を向けてくるが、無視だ、無視。

 

『……あれ? でも、それと坊君に何の関係があるの? 御屋形様は健在だし、次期当主は仁桜様でしょう? ……なにより坊君はまだ幼い。彼がどうしてその呪いの宿命?を帯びてるっていうの……?』

 

 そうだ。今の話が事実ならば、坊がその役目を負わされる理由にはならない。

 そして、彼という『存在しないはずのもう一人の親王』が生まれる理由にはならない。

 それがどうして呪いの宿命なんかを帯びているというのか。

 当然の問いに、蓮爺の低くしわがれた声が響いた。

 

『詩乃様。親王が――子供が2人も生まれることに、1つだけ例外があるのですよ』

 

 老いた当主ではなく、未だ若い子供に澱みを受け継がせる、その理由。

 それは――。

 

『それは生まれてきた親王様が双子だった場合です』

『……あっ』

 

 例え特別な力を持つ一族でも、人間ならばその可能性は常に付き纏う。

 本家の人間は頑丈に生まれ、死産も早死もしないという。だが、生まれてくる子どもの数までは選べないようだ。

 むしろその頑丈さが、この国においては問題になる時がある。

 

『同時に生まれた2人の親王。それは間違いなく争いの火種となるでしょう。例え周囲にその気がなくても、必ず。故に、双子は忌避されてきたのですよ』

『だからって、子供なのよ?』

『……その通りです。そして、我らの知る御屋形様も奥方様も、双子だからと子どもに害をなすとは思えません』

『……そうね、良く考えれば、坊君は今ここにいるんだもんね』

 

 すっかり白熱してしまっていたが、坊は当たり前のように生きていて、彼に全員が助けられたのだ。

 御屋形様が坊を生贄にしたわけではないと、葉月も安堵の息を吐き出した。

 

『でも、それならどうして坊君は無事なの……? その澱み?なんてものも感じ取れないけど』

『そこは分かりません。我らはあの子と先ほど会ったばかりですからな。それに、都で何が起きたのかも……』

 

 そこまで聞いていたところで、隣のキュウがふっと動き出した。

 慌ててついていって、2人して天井から外へと出る。

 

『……もういいんですか?』

『ああ。十分だろ。聞きたいことは聞けたからな』

『……坊様、本当に本家の方だったんですね』

『みてえだな。お前の言ってた通りだろ?』

『それはそうですけれど……でも……』

 

 自分の国の、知らなかった真実。

 本来ならばここにいない筈の坊の存在に、樹者の出現、この国の崩壊。

 ほんの少しの会話で知る情報量としてはあまりにも多すぎた。

 それらはきっとすべて、密につながっているのだろう。

 

『関係ねえさ。どれも。俺たちは坊が望むことを手伝うだけだ』

 

 あっけらかんとそう言って、彼は胡坐を組んで宙を漂い始めている。

 その言葉を目をぱちくりとさせながら聞いて、葉月は首を傾げる。

 

『……じゃあなんで盗み聞きを?』

『……』

 

 ぐっ、と一瞬表情を強張らせ、キュウはこちらへと手を払うように振った。

 

『……そりゃ、俺たちは知っておくべきだろ。もしもの時に、あいつを守らなきゃならねえ。いいか? あいつは気軽に振り回してるが、あの剣は普通の人間が触れたら死んじまう魔剣なんだぞ? もしあいつが倒れでもしたら、俺たちは終わりだぞ?』

 

 途端に早口になる彼の様子で察した葉月が呆れた息を吐く。

 

『……心配なら、そういえばいいのに』

『ああ!? ……ちっ、行くぞ』

『……はいはい』

 

 ぶっきらぼうに告げる彼に苦笑いを浮かべてから、日課になりつつある周囲の探索に戻る魂2人であった。

 

 

***

 

 

 詩乃たちが密談を行い、それをキュウらが盗み聞きしていたのと同じ夜、菖蒲邸にて。

 坊は1人、窓の外の景色を眺めていた。

 

「……」

 

 揺らめく瞳は、ほんの少し明るくなった夜空を眺める。

 坊の視力ならばもう灯りもいらずに外を歩ける位にはなった。

 状況は少しづつ、確実に良くなっている。

 後はこの先にある都で大赤桜に向かうだけ。

 

『――あなたが目覚めたら、大赤桜を目指し、それを治すのです。それが、あなたを、この国を――』

 

 無意識に坊は頬に手を触れる。

 目が覚め、キュウに出会った後にふと浮かんだその言葉。

 何故だかその願いを叶えなければいけない気がして、ここまで走りぬいてきたけれど。

 

「……どうして僕なんだろう」

 

 その疑問がずっと頭から離れなかった。

 

 詩乃や蓮爺たちは菖蒲文吾によって封じられたという。

 だが坊は1人、呪物殿で眠りについていた。

 しかもそれを、氷魚が異形となってまで守り抜いていたのだ。そこにはちゃんと意味がある。それがわからない程坊は馬鹿ではない。

 

 そして玉桜、菖桜と解放する度に、坊には何故か失くした筈の記憶が蘇るのだ。

 玉桜の時は誰かに抱かれて揺れる光景。

 そして菖桜の時は――1人、大赤桜を眺めていた。

 

 

 

 坊は1人、狭い部屋の中にいた。

 寝床と文机が1つ。後は一緒に暮らす猫が1匹。扉は固く閉ざされ、時折来る家族や教師のための応接間が開かれるのみ。そこから先の外に繋がる戸を通ることは許されていない。

 

 理由は分からないが、それを告げる皆の顔がいつも申し訳なさそうにしているから、それを受け入れた。

 あと少しだと、そう言われ続けたから。

 それでも、時折大赤桜の下で楽しそうに笑いあう家族を見ていると、胸の奥がぎしりと、軋むような気がした。

 

『――――』

 

 ふと、名前を呼ばれる。

 振り返れば、そこに女性が立っていた。

 顔は見えない。でも、彼女を見ると頬に暖かなものが触れる。

 

 彼女は何も言うことなく、ただただ坊の背後――窓の向こうの大赤桜を指さした。

 

『……うん、分かってる。もうすぐ行くよ』

 

 そう告げると、彼女は微笑んだ――気がした。

 そして、不思議な記憶はそこで途絶え、坊の意識は元の場所へと戻ったのだった。

 

「……あそこは、どこなんだろう」

 

 窓の向こうに見えた大赤桜は、とても大きかった。

 遠くに見える山や玉桜たち五家桜とも比べ物にならない程の巨大さ。窓の向こうの景色の大半が埋め尽くされていた。

 だからあそこはきっと、都の中だと坊は思うのだ。

 いつか葉月が言ったように、自分は都で暮らしていたのかもしれない。

 

 ならどうして自分は呪物殿で眠っていたのだろうか。

 わからないことは多いけれど、やるべきことは決まっている。

 もう一度、自分の力で大赤桜まで辿り着くのだ。

 

「もう少し。待っててね、皆」

 

 目覚めてからは想像もしていなかったけれど、ここにはまだ沢山の人が残っていた。

 キュウに葉月、詩乃に蓮爺たち。氷魚や藤雄、文吾といった接ぎ木の衛士たちも。

 皆必死に生きて、この状況を打破しようとしている。

 

 最初は、大赤桜を治せと告げたあの声と元気なキュウに導かれてここまで来たけれど。

 皆に出会って、その想いに触れて、坊自身にも強い意志が芽生え始めていた。

 

『――未来に来ただなんて、最初はびっくりして、悲しくて泣いちゃいました。だってもう、家族には会えないんですもん。……でも決めたんです。ここで私たちで新しい赤桜の国を作って、またあの幸せで大きな国にするんだって。それが、私たちにできる一番のことですから』

 

 解体作業の途中で、若菜が言っていたその言葉が坊の心に強く残っている。

 その目にはとっても強い意志のようなものが宿っていて、氷魚や藤雄に残っていた想いによく似ていた。

 だから、叶えてあげたいと思った。それができるのだ、自分には。

 

「新しい、国……」

 

 知らず知らずのうちに、坊の身体が赤く光を帯びる。

 今自分の体には、氷魚と藤雄が宿っている。彼らも坊と気持ちは同じということらしい。

 

「そうだね、頑張ろう」

 

 そのことに喜びを覚えながら、坊は埃の落とされた、少しだけふかふかになった布団で寝転んだ。

 閉じた視界に浮かぶのは、先ほど思い出した家族のこと。両親と子どもが1人。後は一緒に過ごした猫が1匹いたようだ。

 まだほとんど思い出せないけれど……。

 

「……思い出せるといいなあ」

 

 そう呟いて、坊は眠りに落ちていった。

 こうしてそれぞれの思いを抱えたまま、夜は明けていくのであった。

 

 

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