坊と魔剣と崩壊王国   作:穴熊拾弐

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第35話 今日も魔剣は暇である

 

 

 

 暇だ。

 あまりにも、暇だ。

 

 こんな状態になってから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。

 

『……まだ10日も経ってませんよ?』

 

 ……そうだった。今はこいつが一緒にいるんだった。

 

 しかし、まだそんなにしか経ってねえのか。

 もう長い時間が経ったような気もしたけれど。

 あいつは……坊は今頃何をしてるのかねえ。

 

『話聞いてました? 坊様は残った3つの五家桜解放のために各地へと向かったのではないですか』

『……そうだったか?』

『そうですよ。どうせサボって聞いてなかったんでしょう?』

『ぐっ……』

 

 全く覚えてないが、多分図星である。

 魂だからって疲弊はするのだ。もう何も考えたくないと、長い魔剣生活で身に着けた『何も考えない技術』でぼおっと漂っていた気がする。

 

『いいじゃねえか。もう俺らにできることはなくなったんだ』

『そりゃあ、そうですけどね……やることがなくなると、途端に暇になりますねえ』

 

 ……それでいいと思うけどねえ。

 まあ俺と違って、こいつは魂になりたてだ。

 そのうち時間の使い方を覚えていくだろう。

 

 というわけで、俺は時間消費術の1つ。

 少し前――あの大赤桜解放の後のことを思い出すのだった。

 

 

***

 

 

 大赤桜の破壊の後。一行は大忙しであった。

 なにせ大赤桜の幹、その奥深くまで根付いた澱みを尽く破壊したのだ。

 当然大赤桜の幹は崩れ落ち、それはその上に建造された都も例外ではなかった。

 

 ひび割れ崩れ始める都を大慌てで脱出し――坊たちは大赤桜と都の崩壊を、最後まで眺め続けた。

 幸い、封から解放された人々は根猫たちが逃がしてくれていた。

 おかげで生き残った者は全員が無事に脱出することができた。

 

 100人近くいた人間たちは大混乱だった。

 目覚めたと思ったら巨大猫に無理やり移動させられ、何とか地上にたどり着いたら、目の前で真っ黒になった大赤桜がいきなり崩壊を始めたのだから。

 

 だが彼らは皆、樹者と遭遇し逃げ惑っていた者たちだ。

 御屋形猫や詩乃が説明して、直ぐに事態は理解してくれた。

 

 そしてなにより、大赤桜の崩壊とともにあれだけ暗かった空が晴れ、大地から黒い塵が還っていく様子は、説明が不要な程の強烈な光景を映し出していた。

 

 赤桜の都は、根元周辺の僅かな土台を残して、それは見事に崩壊した。

 

 今度こそ完璧に、全てが終わったのだ。

 だが、新たな問題も起きた。この100人と数十匹の根猫たちを一体どうするか……である。

 

 そのまま大慌てで菖蒲邸へと向かい、落ち着いたのはその日の深夜であった。

 

 そして翌日からは、生き残った者たちで協力し、新たな日常を構築していっている。

 坊と仁桜、詩乃と御屋形猫が中心となって、皆を分け、復興部隊を編成した。

 

 詩乃は菖蒲邸および菖蒲領内のまだ無事な集落の修復・拡張。

 御屋形猫は根猫たちを連れて都跡地の調査と魚捕り。

 そして仁桜と坊は、手分けして他の領地――五家の探索へと向かったのだ。

 

 ならばどうしてキュウたちを置いて――というよりは魔剣を持たずに行ったのかといえば。

 

『もう樹者はいませんから、魔剣を持っていくのは危険ですものねえ』

 

 触れれば魂にされる魔剣を、戦う必要もないのに持っていく理由はないのである。

 大赤桜の破壊によって、この国を覆っていた澱みの全ては消えた。

 それは根猫たちが確認したので間違いはない。

 

 そもそもなんだかんだ坊や仁桜、詩乃は平気だったが、これは魔剣なのだ。

 倒すべき相手がいなくなったこの地ではもう無用だろう。

 

 というわけで、キュウたちは菖蒲邸の最奥、古書殿で留守番をしていた。

 ここならば誰かが触ることもないだろうから。

 時折詩乃が顔を出してくれたから、大体の事情は伝え聞いている。

 それも無かったら暇で死んでいただろうと葉月は思う。

 ……せめて本が捲れればいいのに。

 

『……この国はどうなるのでしょうか』

『さあな。それはあいつらに任せようぜ。……お、帰ってきたみたいだぜ』

 

 外へと顔を出していたキュウが声を上げた。

 葉月も慌てて顔を突き出すと、途端に賑やかな声が聞こえてくる。

 屋敷の前に人だかりができているのだ。

 

 キュウの言う通り、根猫に乗った坊と数名の勇士たちが帰ってきた所であった。

 彼らは東にある2つの五家へと向かい、五家桜の無事を確かめていたが、問題はなかったようだ。

 

『他の生き残りはいなかったようですね……』

『どうかな。連れてこなかっただけかもしれないぞ? ……あ? こっちに手振ってやがる』

『坊様! おかえりなさい!』

 

 葉月が手を振って応えていると、坊はお玉を飛び降りて駆け出し始め――建物の中に消えていった。

 

 しばらくするとどたどたと騒がしい足音が聞こえてきて。

 

「ただいま! キュウ、葉月!」

 

 古書殿へと坊が飛び込んできた。

 

『おかえりなさいませ、坊様』

『……お前、真っ先にここにきてどうすんだよ。報告とか色々やることあんだろ』

「大丈夫、それは皆に任せたから」

 

 そう言って、彼は魔剣を手に取り、背負った。

 

「さっ、行こう!」

『は? どういうことだよ?』

「だって旅、行くんでしょう?」

 

 入口に顔を詰まらせたお玉も鳴いている。

 ……どうやって入ったんだあれ。

 

『そりゃ言ったけど、今からかよ! 急すぎんだろ!』

「うん。むしろ待たせてごめんね」

『それはいいんですが……いえ、いいんですか?』

 

 さっきまで退屈していた魂2人が慌てて止めるも、坊本人は気にせずに入口へと歩きだしている。

 

「それに関しては大丈夫よ、2人とも」

 

 代わりに答えたのは、扉にぱんぱんに詰まったお玉の下から顔を出した詩乃であった。

 彼女を伴ってそのまま外へと向かって歩いていく。

 

『詩乃様』

「仁桜様や皆と話したの。坊君はずっと閉じ込められていたでしょう? なのにこのまま復興の手伝いをしてたら、この国に不可欠な人になっちゃう。だから坊君には自由に旅をしてもらおうって」

 

 それに、と彼女は笑みを浮かべる。

 

「ちゃんと坊君にも仕事はあるのよ? まず彼には玉塚領に行って、呪物殿の調査をしてもらうの」

『呪物殿に?』

「うん。使えるものがないか調べるんだ。後は母様の行方も」

『和泉様の……』

 

 確かに彼女は呪物殿を最後に消息不明になっている。

 生きているなんてことは信じていないだろうが、せめて最後どうなったかは知りたいはずだ。

 

『でも坊、兄貴はいいのかよ。一緒にいるって話してただろ?』

「兄様も行って来いって! それにずっとじゃないよ。ちゃんと戻ってくる」

「ええ。調査を終えたら戻ってきてもらうわ」

 

 外へと出ると、若菜達を始め、菖蒲邸に残った人たちが待っていた。

 

「そしてその後は国外へ行ってもらう。なにせここにいる皆、長い時間眠っていたわけでしょう? 他の国が、外の世界がどうなっているか知らなきゃいけない」

『……なるほど。そりゃそうだな』

 

 数百年経った世界は、驚くほど様変わりしていそうだ。

 そしてそれには坊とキュウ、葉月が適任であることも。

 

「呪物殿の案内は葉月さんが、外の案内はキュウに任せるわね」

『勿論です!』

『……しゃあねえな。約束したしな』

「うん。2人とも、よろしくね」

 

 はいお弁当、といつの間にか来ていた若菜に風呂敷を手渡され、お玉にも何かがパンパンンに入った荷袋を括りつけられている。

 キュウと葉月が知らなかっただけで、準備は進められていたらしい。

 

 坊はお玉に飛び乗り、お玉がみゃあと鳴き声を上げる。

 風が吹き抜け、その巨体を包み込んでいく。

 根猫の足は速い。目的の呪物殿まではあっという間だろう。

 つまりは明日から……下手したら今日から、あの広大な呪物殿の探索が始まるのである。

 

『はぁ、ようやくまたのんびりできると思ったんだが』

『休まらなさそうですね。でも、いいではないですか』

『……まあそうだな。長く寝てたんだ。ちょっとくらい忙しいのもいいかもな』

「じゃあ、行くよ!」

 

 そう言って、もうすっかり本来の緑を取り戻した森へと向かって、お玉は駆け出し始めた。

 崩壊した王国の西の果てで目覚めた少年と魔剣。

 その旅路は、まだもう少しだけ続いていくようである。

 

 

 

「……そうだ。キュウ。またお話聞かせてよ」

『あん? ……ふむ、そうだな。じゃあこんなのはどうだ?』

「なになに?」

 

 

『あれは赤桜の国っつう西の果てにある国に行った時の話だ。なんでも、そこにある呪物殿っつう物騒な場所で人を攫ってほしいっていう、妙な依頼が飛び込んできてな――』

 

 

 

 

 




本作はこれにて完結です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
こんなゲームがやりたかったシリーズ。メトロイドヴァニア、世界観が好きな作品が多くてとっても面白いんですよね。何故か国は滅びがち。オススメです。

最後のキュウの話は坊君とは無関係の、もっと昔のお話です。キュウの話が結局出せなかったのでおまけ。

並行で書いている新作が落ち着いたら王国魔法ギルドの続きか、ディストピア系っぽいSFを書くと思います。他の作品も、良ければ読んでみてくださいませー!
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