機動戦士バイファム   作:EINGRAD

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第十話 雌伏

 月軌道の外側、太陽系の辺縁から姿を現せた小惑星改造の人工遊星は地球圏の最も外側に存在するサイド3へと接近して来ていた。

 即応戦力として遊弋していたジオン軍の艦隊はムサイ級の利点、主砲が階段状に配置された艦砲の前方投射能力の高さを活かした横隊にて防衛線を形成。

 稼働時間の短いMSは仮設のプロペラントタンクを増設し、即時発進準備を掛けて待機している。

 敵軍は接近しつつある機動要塞を前面に押し出しつつ、後方に艦隊を編成し始めていた。

 恐らく、それら準備が終了すると同時に攻勢が開始されると予想され、その規模はサイド3のコロニー群を壊滅させ、余波を駆ってコロニーを地球に落とす事も可能であると計算されていた。

 人類の興廃この一戦に有り、とジオン軍総裁ギレンが檄を飛ばした程である。

 だが、後の事は考えずにジオン軍はこの防衛戦に総力を以て挑もうとしていたが、敵の総質量は圧倒的にククトニアン側に傾いており、正攻法による防衛戦闘でこれを支える事は絶望視されていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 遡る事数日前。

 連邦軍の中枢は地球上の南米大陸の熱帯地区ジャブローの地下基地に存在する。

 その連邦軍の軍政を司る最高指揮官の1人であるゴップ元帥は、参謀本部に存在する執務室に於いてジオン軍から要求された作戦実施の許可と必要な機材の調達についての書類を確認していた。

 ゴップはそれを読みながら不意に思いついた様相を装い秘書官に声を掛ける。

 

「そう言えばジオンのギレンは銀英伝の対要塞戦を再現すると言っていたそうだが、イゼルローン要塞攻略戦を再現するつもりかね? だとすれば敵艦船の鹵獲艦でも要求してきそうな話だが」

「いえ、何でも『ヤン提督は作中で「兵は詭道なり」と云う方針は取るべきでは無いと云っている。寧ろ圧倒的な兵力による正攻法こそ取るべき方法だ』との事で、『我々が参考にすべきはヤン提督によるイゼルローン要塞攻略戦では無く、ガイエスブルク要塞を躊躇いなくイゼルローンへぶつける事だ』と方針を定めたそうです」

「なるほどな。そもそも敵艦の鹵獲は成っていない訳だし、ククトニアンのネイティブスピーカーもいない。敵の継戦能力を喪失させるには最も効果的な戦略でもあるか」

「はい。ですが敵は重力制御技術と恒星間航行能力を持つ異星文明人です。軌道変更用の核パルスエンジンの核燃料ペレットの補給が申請されています」

「ふむ。許可するしか有るまい。一刻も早い戦争状態の解消が望ましいからね」

「了解しました。連邦駐屯地に保管してある核融合弾他のサイド3への輸送を開始します」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 サイド3の存在するL2にはアステロイドベルトから運んできた資源衛星を組み合わせたア・バオア・クーと云う宇宙要塞が存在していた。

 当初は資源衛星として、戦争の影が見え始めてからはサイド3の防衛を担う最終防衛線として要塞化が進められていた。

 現在、結合は解かれ円盤状の上部と円柱状の下部に分離していた。

 理由は重心位置が複雑だと軌道修正時に負担が掛かるからだとされていた。

 ア・バオア・クーの岩塊は資源調達の為に内部がくり抜かれていたが、分厚い岩盤は艦砲射撃にも耐えられる質量を持ち、内部に設置されていた生産工場の施設や要塞として必要な与圧区画の移設工事も済んでいた。

 今現在となっては単なる弾丸としての価値しか求められていない為、余計な設備は取り外しているのだ。

 だが逆に増設された設備も存在する。

 僅かにでも軽量化が進められたのは、敵の機動要塞が反動推進のみならず重力制御されている可能性が高い為だ。

 何Gであるかは不明だが噴射ノズルの方向に寄らず、360度への方向変換が可能な重力制御技術は運動性と云う意味では格別で、その機動性によっては避けられてしまう可能性も高い。

 よって増設された設備の中でも核パルスエンジンを中心とした推進エンジンと姿勢制御エンジンによって機動性能を高めていた。

 ア・バオア・クーの上部、算盤の珠の様な形状をした岩塊には多数の技術者と作業用のモビルスーツ、旧式化したMS06F等が群がり大掛かりな土木作業が突貫で進められていた。

 特に核パルスエンジン部分の作業はこの為にわざわざ残していた核兵器運用を目的としたMS06C型が担当しており、過去に運用された際にこびり付いた高放射能付着物から放射される高レベル放射線を物ともせずに作業を行っている。

 その様子をテレビカメラで観察していたギレン・ザビは満足した表情で頷く。

 

「なかなか順調な様じゃ無いか。進捗に遅れは無いのだろう?」

 

 傍らで報告書に目を通していたちょび髭の技術顧問のアサクラ技術大佐は目線を大きく左右させ確認を取ると頷きながら返答する。

 

「ハッ、機動ユニットの取り付けは順調に進んでおります。ただ気密区画の解体作業が1%の遅れが出ており、ただいま作業人員の増員を行っております。予定時刻内には終了の予定です」

「優先すべきは機動ユニットの取り付けだ。もし間に合わないのであれば捨て置いて構わん。重量バランスに問題は無かろう」

「ハッ、ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

 

 地球圏の外側から接近しつつあるククトニアンの機動衛星は艦隊を引き連れて接近を続けていた。

 もはや絶対防衛圏と化した最前線では1隻の艦船も通さない警戒振りで、ピリピリとした空気が漂っていた。

 シャア・アズナブル少佐の乗艦も最前線に配備され、敵が迫り来る方向へと鬼気とした迫力で睨みを効かせていた。

 現在、ムサイ級巡洋艦のブリッジではブリーフィングが行われており、シャアがMSパイロットでもある事からブリッジクルーの他にパイロット達も参加していた。

 シャア直属の小隊にデニム曹長、ジーン伍長、スレンダー伍長。その他アンディ少尉とリカルド少尉がそれぞれ小隊を率いている。

 シャアは天井に設置された大パネルに表示された宙域図を指し示し、解説を入れる。

 

「基本的に今回の戦いは防衛戦となる。外宇宙から飛来してくる敵の機動要塞はほぼ真っ直ぐにサイド3の宙域に向かっており、L2から月を抜けて地球侵攻を行うと考えられるのだ。その際にコロニー群を無視するとは考えられん。何故ならば敵ククトニアンはイプザロン星系で軍用も民間人も関係なくスペースシャトルや避難船を悉く撃破しているからだ。よってサイド3宙域に侵入した敵軍がコロニー本体に対して攻撃を掛けてくる可能性は非常に高い。だが、分厚い岩盤に覆われた機動要塞の耐久性は非常に高く、艦砲の集中砲火を浴びせても撃破は望めないだろう」

「それでは見す見す見逃せって云うんですか!」

 

 ジーン伍長は思わずシャアに対して激高するが、シャアは冷静に受け止め、説明を続ける。

 

「まぁ待て。それに対してジオン自治区は宇宙要塞のア・バオア・クーの改造を行った。これが映像だ」

 

 映し出されたのはア・バオア・クーの傘の部分に巨大なパラボラ状の円が複数着けられた姿だった。

 その他にも全体的に複数のバーニア類が増設されていて機動性の高さが窺えた。

 

「核パルスエンジンを多数取り付けて高機動を確保したア・バオア・クー要塞の上半分だ。まずL2宙域に接近して来た敵機動要塞に対して、これを直接ぶつける」

「えっ!? 要塞を接近させて牽制しつつ敵艦隊を叩くのでは?」

 

 士官学校を出て、戦略と戦術を学んできたアンディ少尉が思わず声に出してしまったが、ギレンの話を聞いていたシャアは皮肉も込めてからかい半分に返答する。

 

「正攻法ではあるが、ヤン提督に笑われるぞ」

「ヤン提督、中華系の名前のようですが。連邦宇宙軍にその様な人物は思い浮かびませんが」

「ヤン・ウェンリー提督。銀河に存在する可住宙域のほとんどを支配する銀河帝国に敵対する自由惑星同盟宇宙軍の第13艦隊の提督だな」

「銀河帝国、自由惑星同盟・・・もしかして銀河英雄伝説ですか?」

「そう、たびたびリメイクされている旧世紀からの大ベストセラーだな。我々の宇宙に羽ばたく心が、あの物語を忘れさせてくれない」

「はい。それでしたら確かに憶えていますが。ああ、ガイエスブルク要塞ですか」

「そうだ。我々の戦略目標としては敵ククトニアンの戦力を太陽系から放り出す事が必要だ。なので兎に角敵の基地を潰して長期作戦行動を阻害する事が第一目標となる。恐らくこちらの動きに気がついた敵はア・バオア・クー上部の機動性を削ぐ為に艦隊を派遣してくるだろう。それこそケンプ提督が操るガイエスブルク要塞のエンジンをヤン提督が破壊した様に。なので我々は敵艦隊の動きを阻害してア・バオア・クーに対する攻撃を防ぐ為に艦隊護衛に付く」

「それなら了解です。しかし、高速で移動する宇宙要塞に追随して敵の攻撃を防ぐと云うのは些か難しいかと思われますが」

「我々の技量ならばやれるさ。尚、要塞後部は核パルスエンジンの影響を強く受ける為に進入禁止だ。それだけは厳守しろ」

「確かに、常時爆発し続けている水爆に突っ込む様な物ですからね」

「そう云う事だ。では全員これより第一種戦闘配置、艦隊旗艦ファルメルの機動に合わせて編隊を組み、敵機動要塞破壊作戦『ガイエスブルク』を開始する」

『ハッ、ジーク・ジオン!』

「ジーク・ジオン」

 




 注:アンディ少尉とリガルド少尉はZガンダムに出てきたアポリーとロベルトの本名です。

 余談。

 ここからは読まなくても良い個人的な話で済みませんが、ちょっと衝撃的な事があったので喋りたくなりました。

 先日スマホでラーメン屋を検索していたら「盗撮しただろう、お前は犯罪者だ」「警察呼ぶぞ。写真を消せ」と知らないおばさんに10分位纏わり付かれました。
 そんな事はしていないと云っても「嘘を吐くな」と人の話は聞かない上に決めつけが激しく、その上自分は私の写真を撮りまくると云う訳の分からない事をされました。
 本当にあんな人が存在するのだとビックリです。
 皆さんも気をつけましょう。
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