機動戦士バイファム   作:EINGRAD

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第十二話 激突

 サイド3の最終防衛線に敵艦隊が接触。

 目下の敵の攻撃目標はア・バオア・クーの推進器である核パルスエンジンであると推測された為、防衛の為にジオンの艦隊が側面を固めている。

 ジオン軍の防衛指揮官コンスコン少将の作戦通りビーム攪乱幕によってビーム兵器主体のククトニアンの軍は中遠距離攻撃を封じられ、接近戦へと雪崩れ込んだのである。

 今回の会戦にジオン軍は全力を投じていた為、著名なパイロット達の多くがほぼ同時に戦闘に突入した。

 シャア少佐による戦闘前のブリーフィングは中隊内通信で行われたのだが、事前に得られていたデーターから敵艦の種類と数、そして敵機動メカの種類と数が報告されていた。

 

『今回の敵艦は大多数がXU23a中型輸送機だが前衛に戦闘母艦が就いている。それから前回の襲撃で確認されたARV-Aウグの姿は見られない。恐らくは最も旧式で有る事から出撃から弾かれた様だな。だがその分未知の新型機が確認された。まずはARV-A ウグの新型新世代機と見られるARV-J ギブル。見ての通り機体構成がウグと似通っており尚且つ高性能化されている事が見て取れる。又、ARV-L ディロムは機体構成はほぼ地球側のラウンドバーニアンと同等と見られる事から地球製のRVを解析して作られた可能性がある。他には既に確認登録されているARV-BルザルガとARV-Gドギルムも数多く存在している。性能が未知数の敵が数多く存在されている以上の点を留意して対応を行う事。以上だが、何か質問は?』

「主目的は防衛ですか? 攻撃ですか?」

「うむ。知っての通り我が軍のモビルスーツ、FZの性能は敵ARVに比べて機動性能に於いて遅れている、だが私の愛機106Bならば敵に劣る事は無いはずだ。君達は弾幕を敷いて敵の戦力を食い止めて貰えば良い、私が遊撃で敵機を落としてみせるさ」

「流石は赤い彗星だ。でも倒してしまっても構わないんでしょう?」

「ほぅ、良い自信だジーン。そう言ったからには落とされたら許さんぞ。では攻撃開始!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 近距離になってビーム攪乱幕も拡散し始めた為にその効果が薄くなったのか、敵のビーム攻撃も有効打が出始めた。

 シャア少佐からほど遠い場所に配備された深紅の稲妻ジョニー・ライデン、白狼シン・マツナガ等はMS-06R2の頃から高速戦闘を得意とし部下達にも脚部ロケットモーターの強化の方針を打ち立てておりヅダもかくやと云った高速度を稼ぎ敵ARVへと接近し、一撃離脱で攻撃を加えていった。

 また、女海賊然とした雰囲気を漂わせた海兵隊所属のシーマ・ガラハウは荒い言葉で部下達を叱咤しながら泥臭い迄にフォーメーションを重視した編隊機動で敵機を取り囲み、包囲殲滅して行く。

 

「ほらほらっ! 敵なんざ選り取り見取りさね。ここで戦果を挙げて故郷のマハルに凱旋するよ」

「へいっ、姐さん」

 

 そしてシャア少佐の部隊だが、シャア少佐自体の練度は抜群だが部下の腕前は平均以上であるが平均を大きく上回る事は無かった。勿論訓練時にシャアからの指摘が入り、センス自体は磨かれていたが。

 よって各小隊でフォーメーションを取りながら敵機を弾幕で牽制しながら、シャアが遊撃でトドメを刺す基本方針で防衛を続けていた。

 特に対空砲を増設した機体であるMS-06FZキャノン砲装備型はザクマシンガンだけでは無く両腰部に増設した2連装速射砲と右肩のキャノン砲で濃密な弾幕を形成、ARVの中でも特に高機動なARV-Bルザルガの接近をも阻んでいた。

 弾幕の勢いに回避行動が精一杯のルザルガを見てジーン伍長は引き攣った様な笑いを浮かべて引き金を引き続ける。

 

「へっ、ビビってやがるぜこのスカート付きはよぅ」

「侮るなジーン。迫って来ているのはARVだけじゃなくて敵の戦艦も来ているのだぞ」

 

 シャアの部下達がザクマシンガンや対空砲を乱射する事によって形成した弾幕に苦慮しているARV達の気の隙を突いて、彼は加速しながらビームガンを撃ちつつ接近して行った。

 シャアが目標とするルザルガが接近するとその周辺だけ弾幕が途切れ、同士討ちの心配なく格闘戦に持ち込んだ。

 モビルスーツもRVもARVもその先祖は宇宙用の作業機械にルーツを持つのだが、純粋な宙間戦闘用機動メカとして設計されたルザルガは近代戦に特化した兵装を有しているが白兵戦は考慮されていないのか、その武装は存在しない。

 ルザルガもビームガンを構えて牽制するがシャアの接近スピードに対応し切れていない為、頭部付近のバーニア諸共ハイザック用に大型化されたヒートホークの一撃を受けて火花を散らした後、爆散。

 シャアは敵が火花を散らし出した状態でルザルガの機体を蹴り次の機体に向かって跳躍し、少し離れた場所で爆風を背に受けて再度加速を果たした。

 ハイザックは敵のデーターに無い加速を果たした事で付近にいたARV-Jギブルが反応を示す前にシャアは接近する事に成功し、振りかぶったヒートホークを横腹に受けてギブルは『く』の字に機体を折った。

 同じくギブルに回し蹴りを叩き込み、反動で離れた所でビームガンを撃ち込みトドメを刺す。

 敵を倒しては蹴り飛ばし、敵の爆風をも利用して再加速し更なる敵に襲いかかる。

 これを数度繰り返して危なげも無くシャアは敵を屠って行く。

 

「すっ凄え。これが赤い彗星の5艘飛び」

「ああ、気を取られるのは分かるが弾幕を張るのを忘れるなジーン。シャア少佐の次の標的付近にも流れ弾を出すんじゃないぞ」

「は、はい」

 

 MS-06FZの持つザクマシンガンは貫通能力を強化した新型の弾丸を使用していて、機械式の次弾供給システムは順調に120ミリと云う現代であれば戦車砲にも使用されている口径の弾丸を機関銃並みの280(発/分)で撃ち出している。

 宇宙で使用する為、ジャイロ効果を持つライフル構造から高回転を与えて撃ち出す為に滑腔砲よりも初速は落ちるが、大気の無い場所で使用する為に必要不可欠なのだ。

 その破壊力はルナチタニウム合金さえ損傷を与えられるレベルにまで強化されており、初期型のザクマシンガンの低性能を後に知ったジオン軍パイロットの心肝を寒からしめたと云う。

 とは云え、FAM-RV-S1バイファムやFAM-RV-5ネオファムのビーム兵器を遠距離で避けて見せたARVの機体反応は早い、イージス艦並の空間把握性能を持つARVには遠距離では牽制が精一杯である。

 だがGM-79ジムがビームスプレーガンで対峙した時に比べて阻止率は大幅に向上しており、戦線の維持に貢献している。

 だがしかし、XU23a中型輸送機や大型戦闘母艦に対しては効果が薄く、それらの相手は専らムサイ級軽巡とチベ級重巡が担当しており、ア・バオア・クーの側面から核パルスエンジンへと攻撃が仕掛けられるのを阻害し続けていた。

 そしてア・バオア・クーがL2宙域から離脱し、接近しつつある敵機動要塞へ接近し続けていると軌道要素を無視して地球圏へ直進していた敵機動要塞の動きが変化し始めた。

 敵からすれば、ククトニアンの機動要塞の侵攻を阻害する為に前線に小惑星改造型の要塞を移動して、そこを根拠地に要塞砲をも用いた反撃を行うのがセオリーであると考えられたからだ。

 しかし、敵が描く軌道は機動要塞に対する最短落下軌道であり、敵要塞がその質量そのものを武器として接近しつつある事が計算で判明したのだ。

 流石にほぼ逆ベクトルで接近した天体規模の要塞が衝突すれば、相手が重力制御技術すら持たない原始文明人だとしても太陽系侵攻作戦の根源地としての機能を持つこの機動要塞が破壊されるのは確実。

 よって進行速度を減速する事で針路変更が容易でない地球側の要塞を空かす事にした。

 だが地球側もそれを最初から計算に入れていた為、直ぐさま軌道変更の為に姿勢を制御し核パルスエンジン全開で相手に追い縋る。

 だがこれは諸刃の剣なのだ。

 螺旋を描いて加速する事でもしも外れても地球圏外へ飛び去るだけであったア・バオア・クーは長楕円軌道に遷移する事で、敵機動要塞に当たらなかった場合は真上に投げた石ころが頭に当たる様に地球に激突するリスクが非常に高くなる。

 この軌道変更に関する計画は事前に地球連邦に許可を貰っており、最悪ルナツー駐留艦隊による処分も考慮されている。

 敵機動要塞の軌道変更により、侵攻してきた敵機動部隊も混乱に巻き込まれた。

 後詰めとして機能していた機動要塞が相対的に距離が遠くなり、作戦行動範囲から往復可能時間が延びる為に継戦能力に支障を来す可能性が高くなった為だ。

 また、護衛していたジオン軍もア・バオア・クーがムサイ級軽巡では追いつけない加速を開始した為、護衛のMS達をタンクデサントならぬアステロイドデサントとア・バオア・クーに取り付かせて、ムサイ級とチベ級は後から戦場に追いつくと云う非情な第二作戦へと移行せざるを得なかった。

 ア・バオア・クーが加速を増して行く程に敵機動要塞は減速して行き、遂には逆ベクトル方向へと進路を変えてしまった。

 この針路変更は現在の地球の技術では不可能な事で有り、もし無理に実現すれば中の人間毎バラバラに吹っ飛んでしまうだろう。

 無論、ア・バオア・クーの進行を止めようとククトニアンの機動部隊はより過激に攻撃を行ってきたが、全部隊の7割程が軌道変更に手間取っており追従し切れていない。

 MS達はア・バオア・クーに設置された塹壕や障害物を用いて敵ARVの攻撃から身を潜めており、事前に用意されていた武器弾薬で反撃を開始した。

 現在のア・バオア・クーの加速度は1Gを越えており、進行方向に頭を向けるとそのまま岸壁上に直立出来る程であった。

 既にア・バオア・クーの速度は9.0km/s近くまで加速しておりこのままでは計画上の最高速度の第二宇宙速度(11.2km/s)に達してしまいそうな様子である。

 これ以上の加速はMS隊が地球に戻れなくなる為、武器を捨てて予備のプロペラントタンクを積載したMS達はア・バオア・クーを脱出し、ア・バオア・クーは無防備となった。

 ア・バオア・クーを追い掛ける形となった敵機動艦隊は背後から艦砲射撃を行い、核パルスエンジンの破壊を目論む。

 実際にお椀状のパラボラの一部が破壊されたのだが。

 だが遅かった。

 敵機動要塞の方向転換がもう少し早ければ第三宇宙速度(16.7km/s)も越える速度で移動出来る敵機動要塞に逃げられてしまっただろうが、相対速度が小さくなり切る前にア・バオア・クーは敵機動要塞へと辿り着いたのだ。

 相対速度は僅かに50(m/s)、ア・バオア・クーの尖った部分がメコリと機動要塞にめり込んだ状態で止まり、敵の損害はそれだけで納まったのだ。

 

「えっ?」

 

誰が漏らしたのか、きっと世界中から聞こえていただろう。

敵に突っ込むア・バオア・クーに対して世界中の監視の目が集中していたが、大規模な天体同士がぶつかったと云うのに端同士が少し凹んだだけで望んでいた敵の機動要塞が破壊される光景はなかった。

ただ敵の機動要塞の加速は停止した様で、そのままの状態の光景が凍り付いた様に流れ続けた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 同時刻、サイド3総裁執務室。

 ア・バオア・クーが敵機動要塞に衝突した映像を眺めていたギレン総帥は右眉・・・のあるだろう場所の筋肉を顰めると、傍らの秘書官に語りかけた。

 

「私は中世の、そう西暦の20世紀後半から21世紀にかけてのハリウッドで作られた古典的宇宙映画が好きでね、ビデオ映像も所有しているし、リバイバル上映の際も良く出かけた物だよ。

「低軌道用の往還機にブースターを着けて炭鉱夫が地球に迫り来る巨大な小惑星を破壊に行く物語など、当時の科学技術を垣間見れて興味深い物だし、人間の底力が齎す奇跡の結果に感動すら憶えた物だ。

「そうそう、宇宙世紀に入ってから実際に地球壊滅クラスの小惑星が地球衝突軌道に入った事件も度々、十数回は発生しているな。

「だがそれらは隕石破壊用として各コロニーに配備されていた核弾頭によって排除されてきた歴史を持っている。

「ましてや地球侵攻に来た異星人の小惑星要塞だ、念を入れる為に地球連邦も快くツァーリボンバー級の水爆を用立ててくれてね、要塞の数カ所に設けた重水を詰めた気密室の中に設置してある。

「あとは、このボタンを押すだけだ」

 

 そう言ってニヤリと笑ったギレンは躊躇いも無く起爆スイッチを押し込んだ。

 発信された電波がア・バオア・クーに届く時間、リレー回路を通じて同時多発的に起爆した地球連邦政府ロシア自治区から提供されたツァーリボンバー級2個と日本自治区物理化学電磁生体航空総合研究所から入手したH級4個のTNT火薬換算でギガトン級の破壊力を持つ水爆の閃光、それがサイド3に届くまで約2秒の時間が経過した。

 ア・バオア・クーの先端部分に集中的に配置された6個のギガトン級の水素爆弾は充填された重水を媒介としてその破壊力を存分に発揮した。

 強力な放射線と熱量が機動要塞とア・バオア・クーを飲み込み、重水と岩石を蒸発させた衝撃波がそれらを吹き飛ばす。

 真空の宇宙空間であるにも関わらず激しい衝撃波が周囲に伝播し、爆発の威力の程を示した。

 実際、地球を挟んで反対側に位置するサイド7で震度1に相当する揺れを感知している。

 激しい閃光が納まると敵機動要塞の一部とア・バオア・クーの核パルスエンジンの一部が確認できたが、それ以外の部分は完全に破壊され消滅していた。

 人類は己の生み出した兵器の威力に恐怖すら覚えた、と後の時代の歴史学者達は書き記すだろう。




ちょっと描写が足りなかったので、ちょっとだけ追加しています。
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