ジオン軍のエースパイロットであるシャア・アズナブルは階級を順調に上げ、現在では大佐になっていた。
彼の率いる部隊は拡大を続けて大隊となり単純な制宙戦闘を熟すモビルスーツ隊だけではなく、対艦対要塞に対する攻撃能力に特化した攻撃機的な役割を持つ部隊も配下に入り、単純な制宙任務だけを目的とした部隊では無くより高度な目標を熟す為に補給も自前の部隊で行える様に輜重部隊や整備部隊も組み込んだ自立性の高い部隊編成を整えていた。
もはや一軍団の長となってしまったシャア大佐の持つ権限と戦力は幅広く強大な物となっていた。
そこで活用される機体は、対艦対要塞攻撃に史実では専用のモビルアーマーが開発されていただろう所が、戦っても得る所の無い対異星人相手の防衛戦闘と云う無駄の極地に対して、消費する戦費に対するアンサーからその部隊に所属する機動メカは旧式機の再利用を行いコスト削減を図る目的もあったのだ。
大隊規模となり既にムサイ級軽巡洋艦一隻では部隊の運営を賄えない事から、軽巡ムサイ級3隻に補給艦パプワ級2隻、徴用した民間の整備艇を数隻で戦隊を組み作戦行動を行っていた。
その内の1隻、軽巡ムサイ級に搭乗している攻撃機隊の部隊へとシャアは顔を出していた。
この時点でジオン自治区防衛隊の主戦力たるMSはザクⅢとギラ・ドーガの混成部隊と成っていたが、攻撃機隊はコスト削減の為にそれとは異なる機種を採用していた。
その部隊を率いる隊長はその機体のコクピットハッチを開いて整備兵と会話中であったが、シャアの顔を見ると直ぐに敬礼の姿勢を取った。
「やあ、ジーン中尉、部隊の方はどうかな? 統制は取れている様だが」
「はっ、シャア大佐! 部隊の皆は意気軒昂にして士気の方は充分であります」
「うむ。知っての通り新設された攻撃隊は火力の充実した敵に対して突撃して攻撃を敢行する必要があり、それだけに胆力の必要な役割だ。今回の訓練でその成果を見せて貰いたい」
「勿論です。まあ見ての通り乗機はMS-06Fなんですが、本体は背中に背負ったスーパーパックみたいな物ですし、アーマード装甲を装着してますからやたら硬いんで敵の弾幕の中に突っ込んで攻撃するのにブルッてる奴なんざウチの隊にはいませんよ」
「そうか。我々護衛隊が敵から守るからしっかりと戦果を上げて貰いたい。頼んだぞ中尉。ジーク・ジオン」
「はい大佐。ジーク・ジオン」
ジーンは花形の最新MSで構成されたMS隊からは外されたが、それよりも度胸が必要なこの部隊の事が気に入っていた。
下士官から士官へ昇格する際に士官学校で教育を苦労して受けた甲斐が有ったという物だ。
彼が見上げる機体は本体のMS-06よりも大きな二つのアクティブバインダーを背負い、増加装甲を纏った攻撃機本体はアクティブバインダーに大型のミサイル(模擬弾)と小型のミサイルポッドを装備しており、他の機体が大型の盾を装備する所をジーンの機体だけが両手にザクバズーカを二丁装備していた。
隊長機の印であるモノコーン・アンテナが命知らずと呼ばれる様になる突撃攻撃隊の攻撃性を象徴するかの様だった。
◇ ◆ ◇ ◆
戦闘用の飛行機の歴史を顧みると、まず最初に敵陣の偵察を行う偵察機、そしてレンガやダイナマイトを落として攻撃した攻撃機や爆撃機、そしてそれらを妨害攻撃する為に拳銃やライフルを積み込んだ戦闘機が出来た。
もちろん最初は全部同じ種類の機体で、積んでいるのが双眼鏡か爆弾か拳銃かで分けていただけであるが。
そしてモビルスーツも最初は連邦軍の艦船を攻撃する目的で作られ、連邦の宇宙戦闘機との交戦は二次的な役割を持つ戦闘攻撃機でしか無かった。
何しろMSを有するのは自陣だけであり、少数の鹵獲されたMSとの戦闘は考えられたが、わざわざ対MS戦闘を主要目的とするのは無駄だった為にザクⅡは設計段階では対MS戦闘を考慮されてはいない。
しかし、敵の機動兵器ARVの攻撃から艦船やコロニーを守る必要が出来た。
その為にMSは機動兵器との交戦を主目的とした戦闘機へと役割を変えていったのだ。
つまり初期のMSであるMS-06は元々戦闘も行える攻撃機であり、設計思想的に対MS戦には向いていない機種であった。
MS-06のルーツは作業用機械であり、その為に第一線から退いた後は後方の警戒任務や工兵部隊、施設部隊への転身が行われたのであるが、この時点でMS-06シリーズは膨大な数が揃っておりモスボールされた機体も含めれば可動機の数もまだ多い。
アナハイム・エレクトロニクス社でOEM生産されたコロニー自治軍で稼働している機を勘定に入れれば優に一万機を超えるMS-06A~FZが存在していた。
そしてMSは汎用機である以上宙間で必要な雑多な雑用任務には支障が無い。
通常のMSで艦船を攻撃する事は難しくない、肉薄して火砲を叩き込むか近接武器で艦橋やエンジンブロックを破壊すれば無力化出来る。
しかし接近しなければその任務は熟す事が難しい、なのでジオン自治軍兵器装備局は過去の機動戦の戦訓を振り返り必要な機能を選定した。
その結果バーニアを備えた推進装置と推進剤と武器弾薬を積んだ増加ブースターの制御装置として直接対機動戦闘をする役割では無く、専用の対艦対要塞攻撃機として使用する役割を与える事にされた。
基本的に敵機との交戦は想定せずに目標に攻撃を届ける事が第一任務なので、接敵した場合は俊足を活かして逃げるのが戦い方になる。
増加ブースターは背部と腰部に固定したジョイントでMS本体と繋がっていて、ある程度の自由度で噴進方向を変える事が出来る様になっている。
史実のMSからすると大型化したスリング・パニアーと云うよりもシュツルム・ディアスのアクティブバインダーに大量のミサイルを増設した様な感じである。
ほぼ重心その他の問題からほぼ宇宙空間で専用として使用される攻撃型増加ブースターは、と或るSFロボットアニメからインスパイヤされ、スーパーパックと呼ばれる様になった。
使用時の名称はスーパーザクであり、同系統の装備をガンダムMkⅡに使用した時はスーパーガンダムと呼称され、ⅡとかMkⅡは省略される傾向にある。
目的からすると強力なエンジンと大型の武装を積んだ増加ブースターが本体の様な物で、MS自体は増加ブースターの制御用と脱出ポッドみたいな物であって、MS本体のコンピューターに制御用アプリを導入するだけの簡単仕様である。
ただそれでは防御力に難が出て本体のMS-06が撃墜される可能性が高い為、前述のアニメからアイデアを流用した様な増加装甲をアタッチメントで取り付けるアーマード装備をMS本体に纏い、機体の各所に防御用のマイクロミサイルポッドを装備する事で生存率を上げている。
アーマード装備だけを着けた時はアーマードザク、両方装備した時はスーパーアーマードザクと呼称される。
因みにアタッチメントを変えれば他のMSも使えるが、性能に差は無いので安く済ませられるMS-06が多く使用される。
スーパーパックの採用により対要塞対艦戦闘の火力不足を補う事に成功した。
この時代は既に二線級の戦力として半ば引退していた戦闘攻撃機であるザクⅡを攻撃機に特化する事で対艦対要塞戦闘に投射出来る火力を大幅に引き上げる事に成功した。
この様に既存の機体をコントロールユニット化して高火力機を運用する形態はある程度流行し、スーパーパックは連邦でも行われたのだが、その他ではアナハイム・エレクトロニクス社では同じく普及しているMS-06をコントロールユニットとして首から下を覆う形にし、ククトニアンの飛行機械の重量制御システムを解析して作られた円形で下部にファンが付いた(台座)ダイザー・タイプ(MS-06の他にRB-79ボールでも可)がコロニー自治軍に売り出されたし、似たような補助兵装が連邦でもGファイターとして試作される事になった。
◇ ◆ ◇ ◆
ジオン軍の機動部隊、シャア大佐が率いる第3機動戦隊の演習は月軌道から離れた地球公転軌道の下流側の演習宙域にて行われる事となった。
ビーム兵器なら兎も角、ミサイル(模擬弾)や実弾を使用する際に、公転軌道の上流側へは弾丸の保有する運動エネルギーのポテンシャルから必然的に地球圏へと至るのが難しく行方不明になった実体弾も宇宙船の航路に影響を与える可能性は天文学的確率に低下する、スペースデブリの観点からも安全策を採る必要があったのだ。
もっとも通常の訓練であればこれほどの配慮は必要ないのだが、模擬弾とは云え宇宙で高速に移動する飛翔体を運用するのであれば仕方の無い所ではある。
現在、演習宙域にはシャア大佐の率いる戦隊とエギーユ・デラーズ少将麾下の機動軍団が詰めていて、演習内容の確認に両者は通信にてリモート会議を行っていた。
地球圏の下流宙域は外惑星系から来た資源船舶の通行も無く静かなものであったが、下手をすると死人の出かねない演習であるので打ち合わせは綿密に行われていた。
エギーユ・デラーズ少将はギレン・ザビに心酔する禿頭(とくとう)の艦隊指揮官で、ザビ家でないもののグワジン級宇宙戦艦を有し、将旗を掲げている実力派でありタカ派でもある。
現在の所はギレンが外宇宙開拓に邁進している為にアストロゲーター勢力との軍事的衝突に関心が集まっているが、ジオン自治区内の別派閥の増長が無いかを麾下の情報組織を使って調べても居る。
表沙汰には成っていないがギレンがシャア・アズナブルと秘密裏に接触した旨の噂が流布している現在、シャアとの関係も微妙な雰囲気を抱かせられていた。
さて、設定された演習宙域の両端にシャアの座乗するザンジバル級機動巡洋艦ラグナレクとデラーズの座乗するグワジン級宇宙戦艦グワデンが対峙していた。
『久しぶりだな、アズナブル大佐』
ザンジバル級機動巡洋艦ラグナレクの艦橋に設置されたメインモニターに禿頭の将官が姿を現す。
シャアは重力制御が効いた艦橋の床に直立不動の姿勢で立ち、敬礼を返礼する。
「はっ、デラーズ閣下も壮健な様で幸いであります。今回の演習では閣下の優秀な部隊に胸を貸して貰う所存であります」
『うむ。貴官の部下も歴戦をくぐり抜けてきた猛者揃いだ、正に油断大敵だな。今回の演習では実戦以上に気合いを入れて貰いたい』
「はっ、望む所であります。さて、今回の演習の目的ですが」
『うむ。我らの艦隊に対して機動兵器のみで攻撃を仕掛け、艦隊戦は無し、こちらは防戦のみでどれほどの攻防が可能かの戦術研究も兼ねている。そちらは機動部隊構想を推し進めた制空戦闘機と対艦攻撃機の複合部隊による航空戦を基にした作戦を立案したそうだが』
「はっ、従来までのMSが対艦攻撃を仕掛けるのは白兵戦に近い攻撃が必要であり、損耗が激しい事から専用の対艦攻撃兵装を有する攻撃機が有効であると判断しました。ただ、予算の都合上、新規に設計したMSを用意するよりもダブついている06を流用した機体にならざるを得ませんでしたので、機体自体は対MS戦には向かない程鈍重になりましたが」
『ガトル攻撃機も良い機体だが、それがどれだけ有効かかもこの演習で判明する訳か。しかし八艘飛びで有名なシャア・アズナブルからそのような発想が出てくるとはな。良かろう、全力を以て迎撃する事を誓おう』
「はっはっは、お手柔らかに願いたい物です」
『ふふ、そう言えばウチの方にも06を改造した高機動MSのドラッツェを配備しておる。迎撃は激しい物となろうな』
「望む所です。では事故の無いように願いたいものです。ジーク・ジオン」
『うむ、ジーク・ジオン』
デラーズの返答を確認したシャアはメインモニターを閉じて、部下へと命令を下す。
「只今より我が艦隊は敵艦隊に対して攻撃を仕掛ける。ただ、これが演習とは云え腑抜けた事をしていてはやらない方がマシとなるだろう。実際の戦闘よりも気合いを入れて望めよ。ジーク・ジオン」
シャアが命令を下すと、麾下のMS部隊が艦隊の前方で編隊を組んで出撃をする。
ただ対MS戦闘を任務とする制宙戦闘部隊と攻撃機の護衛任務の護衛戦闘部隊に分かれており、制宙部隊が先行するが、護衛部隊も攻撃機部隊を待たずに出撃する。
これは攻撃機がMS-06を素にしているとは云え、増加ブースターのスーパーパックにより巡航速度が速く、下手に同行しようとすると置いて行かれる事態が発生するからだ。
制宙戦闘部隊のMSは指揮官機はMS-111ザクⅢに統一され、配下の機体はMSー119ギラ・ドーガとなっていた。
ザクⅢとギラ・ドーガだが、高級機として開発されたザクⅢの性能は一般用汎用機として開発されたギラ・ドーガよりも高く、そしてコストも高い。
よってコストに優れた汎用機であるギラ・ドーガが一般兵用に量産されていて、先に開発されたザクⅢは指揮官用に受注生産の形で生産されている。
一方の攻撃部隊のMSは一週間戦争時には旧式化していたMS-06ザクⅡにスーパーパックを装備したスーパーザクであり、機体本体よりも巨大なスーパーパックには対艦攻撃用の対艦ミサイルが鈴生りに装備されている。
スーパーパック自体は単純な作りであり、それこそガトル攻撃機と同様のコストで生産されている為にコストパフォーマンスに優れた組み合わせとして量産化が進められていた。
単純な火力で見るとスーパーザクはザクⅢの5倍以上の弾薬を装備出来、対艦攻撃の鬼と呼ばれるようになるのだが、この時点では鈍重な機動性能がどれくらい響くか予想されて居らず下手をすると宇宙世紀のSBDドーントレス呼ばわりされる可能性すらあった。
対してエギーユ・デラーズ少将率いるデラーズ艦隊にもコストを抑えた高機動兵器が開発配備されていた。
その名はドラッツェ。
ドラッツェはMS-06の上半身にガトル戦闘攻撃機のプロペラントタンク兼スラスターふたつを下肢の代わりに取り付け、多用途スラスターとして肩の装甲をRVから技術流用した簡易なラウンドバーニアに換装した簡易な高速戦闘MSである。
その出力からハイザックよりも高い加速性能と最高速度を誇っていたが、本体から離れた場所にメインスラスターが付いている事から推進方向の制御が難しく、直進の安定性に欠けた酷くピーキーな性能を持つに至る。
因みに両陣営共に対MS戦闘用にはザクⅢとギラ・ドーガの混成編隊を組んでおり、ザクⅡやハイザックなどの旧式機は引退している。
シャア大佐側が制空戦闘隊と護衛隊を艦隊から発進させた後、時間を置いて攻撃隊を発進させた。
流石のスーパーパックは豊富な推進剤を熱核ロケットに注ぎ込み、莫大な推進力で機体を加速させ、敵艦隊に接触しようとしていた制空隊が形成する前線の脇に回り込み、攻撃機の傘の下、フルスロットルで加速を開始した。
「こちら攻撃隊リーダーのジーン中尉だ。これより敵艦隊に対して突撃を開始する。怖じ気付いた奴はいねぇよな」
『こちとら命知らずのカチ込み隊ですぜ。今更そんな事訊くまでもありやせんよ』
「おうっ! ならデラーズ艦隊の肝を冷やしてやろうぜ。アターック!」
十二機のスーパーザクは急激な加速で遠くに視認出来る敵艦隊のど真ん中、艦隊自体と敵護衛MSから降り注ぐビーム(練習用の弱エネルギー弾)の弾雨の中を最高スピードで駆ける。
重厚な装甲に守られた機体を大出力によるスラスターにて行われる一撃離脱戦法こそが攻撃機スーパーザクによる真骨頂だ。
その様子を艦隊旗艦から眺めていたシャア大佐は『この戦い方なら百年は戦えるな』と感嘆の言葉を漏らし、突撃を受けたデラーズも迫力のある戦法に同様の言葉を漏らしていた。
もちろん弾幕の中を突撃しているので多数の被弾が有りそうなのだが、正面と云う投影面積の一番小さな角度で重装甲を纏った攻撃機は時には盾で時には装甲で弾き飛ばし艦隊の絶対防衛圏に突入する。
『構わんっ! 全機全弾発射っ! 出し惜しみ無しだぁ!』
全十二機はスーパーパックに装備されている対艦ミサイルとチャフ、そしてダミーバルーンをバラ撒きながら艦隊の真ん中を通過する。
因みに真空の宇宙空間では風船と云えども抵抗が存在しない為に機体と同じ速度で同じ方向へと進む。
内蔵されたバーニアがランダムに軌道を変え、敵艦や敵機に近付くと内蔵された小型爆雷が破裂し熱源とビーム攪乱幕と爆風(衝撃波)を撒き散らす。
こうなると弾を撃ちつくし艦隊を通過しつつある敵機よりも接近しつつある対艦ミサイルの迎撃に重点を置かざるを得ず、目の前を通過する攻撃機隊をみすみすと見過ごすしか無かった
敵の不意を突いたとは云え、攻撃隊のほぼ全数がかすり傷程度の小破のまま敵陣を突破し、そのまま再突入する事は無かった。
とは言え少数の防空隊に配備されていたドラッツェが追い縋ろうと加速したが、防空網の破れたデラーズ艦隊に制空戦闘隊が突撃し、被害判定を受けて対空砲も撃てない間にトドメを刺して回っていたので管制の指示で呼び戻されてしまった。
デラーズ艦隊の大半が小破以上の被害を判定で受けた所でこの演習は割とあっさりと終了してしまった。
演習終了後のデラーズもこうまであっさりと被害甚大の判定を受けてしまうと笑うしか無いらしく、皮肉な笑みを張り付かせながらシャアとの会談に臨んだ。
『酷く良い成果じゃないか、シャア大佐』
「はっ、いいえ正直私もここまでの効果が出るとは思っても居らず」
『いや、これは大した成果だよ。ギレン総帥も満足されるだろうとも』
「そうであれば宜しいのですが」
『ふむ。そう言えば貴官は最近ギレン総帥と会談を行ったそうだが?』
「はは、なに世間話ですよ。大した内容ではありません」
「…なるほどな。ともかくも戦場の後片付けを済ませたらば疾くサイド3へと帰還とするとしよう。敵は未だに地球圏へ偵察部隊を送り込んでいるのだからな」
◇ ◆ ◇ ◆
数日前、未だに地球圏に侵入してくるククトニアンの偵察部隊に対するサイド3近辺の哨戒任務に就いていたシャアの艦隊は任務終了後宇宙港にて半舷上陸にて休憩となっていた。
だが艦隊の長であるシャアは首都のズムシティーの艦隊本部に書類の提出やミーティングの為に赴いていた。
後日行われる実践的な演習で実質的な新兵器であるスーパーパック装備のザクⅡの運用法方を検討すべく兵器装備局の担当との打ち合わせもあり、大忙しの日々を充実した気持ちで送っていた。
別に戦争が好きなのでは無い、現場で身体を動かす仕事が妙に性に合っているのだ、それが軍人であったのは皮肉な物だが、本来の才能としては大衆を導く為のスキルが充実しているのも彼なのだ。
自分が求める幸福と他人が求める資質の差にストレスを感じてしまったのが本来の時間線での彼であったが、ここにいる彼は不満も無く存在している。
さて、様々な事務手続きも終え、艦隊本部からエレカで近傍の駅(コロニー外周を走る吊り下げ式モノレール)に向かおうと足を向けた所で一人の黒服がシャアの側へ歩いてきた。
「シャア大佐、こちらへ」
「・・・キシリア中将の手の者かな?」
「いえ、ギレン閣下から面会の要請です」
「・・・断る理由も無いな。分かった、同行しよう」
「ではこちらへ」
シャアが同意すると本部前のコンコースに黒塗りのリムジンが乗り付け、運転手が後部ドアを開けて搭乗を待つ。
「目立つのは苦手なのだがな」
苦笑しつつもシャアはリムジンに乗り込み、車は艦隊本部から総統府へと走り出した。
そうは離れていない総督府に到着するとシャアは直ぐにギレンの待つ執務室に通された。
「やあ、良く来てくれたなシャア・アズナブル大佐。護衛は良い、下がっていろ。さてキャスバル・・・ここでは仮面を被る必要は無いぞ」
「やはりご存じでしたか。罪状は反乱罪とでも」
「いや、その手の話では無い。今後の展望の為とでも言っておこう」
「我が父を手に掛けておいて信用出来るとでも」
「・・・そもそもそこから誤解を解いておくべきだな。君の父上、ジオン・ズム・ダイクンの検死結果だ。我らは一切手を入れていない生の情報だ」
「拝見しましょう」
ペラペラと紙を捲る音だけが執務室に響く。
むぅ、と唸る声が流れるが真剣にシャアの目線は字列を追って行く。
「・・・貴方方ザビ家から匿ってくれたジンバ・ラルは父が暗殺されたと」
「だがそこに書かれている事が事実だ。君の父上の死因は間違いなくカローシなのだ。心当たりはあるのだろう?」
「日本人だけが過労死するのかと思っていましたよ」
「あれだけ根を詰めればな。私としても彼の思想には共感したし、政治家としての彼を支え続けた自覚がある。だが、疲労を重ねる彼は我々の休息を取るようにと云う助言を聞き入れては呉れなくてな、連邦政府との折衝、政治的敵対者との確執。ストレスでボロボロになる彼を見るのは忍びなかったよ」
「だが私たち兄妹はサイド3から逃げ出すしか無かった」
「ああ、確かに我々は君達がサイド3から脱出するのを止めなかった。寧ろ秘密裏にバックアップさえしていたさ」
「なんと。しかし何故」
「君は幼く、政治的な判断が出来る年齢では無かった故に政敵に利用される位ならサイド3から脱出位は許容するさ。実際に危険もあったしな」
「キシリア中将の影を感じましたが?」
「あいつはどうにもな、それも危険の一つではあった。だがな、今となっては状況が変わったのだ。人類は地球から離れて大宇宙へと散らなければならない、母なる地球を守り、地球人類を未来永劫の繁栄へと導かねばならない。それが出来るのは私だけだと自負している」
「ほう。ザビ家ではなく?」
「ジオンによる優性論は方便だよ。結局は人類でしか無い。ニュータイプは寧ろ外宇宙に出てから獲得する資質だと私は考えているのだ」
「連邦のアムロ・レイはニュータイプだと私は見ましたが」
「私もそう考えている。だがニュータイプは戦争の道具では無い。アレはニュータイプとしての能力を戦いに使いすぎている。その結果、キシリアはニュータイプ部隊だの影響され過ぎてしまったがな。本来のジオン・ズム・ダイクンの唱えたニュータイプとはもっと総括的な、平和的な発展を遂げるべきなのだ。そしてそれは今では無い」
「私はどうにも困惑しております、ギレン閣下。貴方は寧ろ積極的に利用する方向かと思いましたが」
「私とてジオンの思想に傾倒していたのだ。彼が本来のスペースノイドの未来として掲げたのがニュータイプであり、地球の重力に魂を引かれずに地球と云う母の呪縛から解き放たれた人間こそが必要だと・・・私は考えている」
「・・・私は、シャア・アズナブルではなくキャスバル・レム・ダイクンである私は貴方を誤解していた様だ。私のニュータイプとしての資質が嘘を言っているのでは無いと囁いている。複雑な気分ではありますが」
「安心するのはまだ早いぞキャスバル。私は君に酷く嫌がる提案を呑ませにここに呼んだのだ」
「聞きましょう」
ギレンは咳を一つ咳くと目を据わらせて告げた。
「キャスバル・レム・ダイクンには最初の植民地となるシリウス星系の盟主になって貰う。これは君の政治的アジテーションが新しい植民地を纏めるのに必要な為だ。人類最初の外星系の植民地の運営には絶対的なカリスマが必要不可欠だ。君にはそれを担って貰う」
「お断りする! 私には過ぎた話だ。失礼する」
シャアが席を立とうとするとギレンは呟く。
「ならば次善の策を打たねばならん。アルテイシア・レム・ダイクンと我が弟ガルマ・ザビを政略結婚させて新たなる求心力にする。ザビ家の影響力を少しは残して置かんとキシリアが五月蠅いからな」
「アルテイシアを・・・破廉恥な」
「ああ見えてガルマも落ち着いてきた事だし、植民地での人気取りにも苦労はなさそうだ。アルテイシア、今はセイラ・マスと名乗っていたな。私たちが保護しているアストライア様と合流すれば納得して貰えるだろうよ」
「母上が! 無事なのか」
「政治的に狙われていたから秘密裏に匿っているが、無事だよ。穏やかな環境で安静に過ごされている」
「母上が、無事か。そうか」
「キャスバル、お前がシャアとして政治的な世界から離れたいのは報告書から見て取れた。だがな、そろそろジオンの息子として課された運命から目を反らさずに生きる時が来たと考えられないか?」
「自分でレールを敷いておいてそれを言うか」
「なに銀河に伸びる鉄道に行き先はあれどレールは無い。銀河鉄道999でもそう描写されていたからな、彼の地にてどう生きるかは自分の責任の下に決めたまえ。私はここから地球人類を送り出す仕事で手一杯なのだ」
「ザビ家の繁栄を画策しないのか」
「そこら辺は妹弟に任せるさ。私はこの狭い地球圏に住む人類を導くのは無理だと判断し、人類の半数を粛清すると決めた。だが、地球圏に拘る必要がなくなり、無限の可能性が開かれたのだ。私はこの事業に満足している」
「ふむ。考える時間が欲しい」
「構わんぞ。だが準備期間が必要だ。ククト征伐までには決めて貰う。我々がククトニアンと縁が切れたら外宇宙への進出が始められる。今のままでは外宇宙への進出は出来ないからな、漸く我々は自由を手に入れられるのだ」
「・・・失礼する。ああ、それとガルマから電子レターが今朝届いて、『恋人のイセリナに子供が出来た、父にどう報告すべきか』相談されたのだが、初耳だったようですな?」
「! ガルマ、・・・。そうか手早い報告感謝するよ、シャア・アズナブル大佐」
「いえ、それでは失礼します。ジーク・ジオン」
「ジーク・ジオン」
その会談の後からシャアは仮面を外して大きめのサングラスを掛けており、イメチェンの切っ掛けは女が出来たからと云う噂が流れたがシャアは笑って誤魔化すばかりであったと云う。
ギレンを聞き分けの良いいい人にし過ぎたかな?
でも良いのです。
ウチのギレン・ザビはこんな人物です。
ちょっとベターマンが入ってます。
あとモビルスーツの独自展開も他に無いでしょうが、こんな感じで続きます。
ではでは。