機動戦士バイファム   作:EINGRAD

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 今回は話を終わらせる為の設定回と蛇足、そして終わりの始まり回です。
 


第十七話 準備

 しばし本筋から離れる。

 この世界の物理天文学者達は他の時間線からレーガンとジェイナスがこの時間線に現れた事に対しては納得していた。

 だが、それを追ってククトニアン達がこの世界に現れた事に対しては重大な疑問を持っていたのだ。

 ククトニアンが初めてこの時間線に接触したのはジェイナス一行が現れて以降なのは間違いない。

 この世界にも与太話としてオカルト染みた宇宙人の話は流れているが、実際に宇宙人と接触した事実は無い。ロズウェルは存在しなかった。

 つまりジェイナス一行を呼び水としてククトニアンがこの世界に現れて、そして今現在もククトニアンと接触が続いていると云う事実は明らかに異常なのだ。

 最悪の場合、太陽系自体が彼らの時間線に移動したと考えても間違いと云える証拠は無い。

 実際には彼の時間線の地球連邦政府はイプザロン星系以外の恒星系にも進出していたので、それらから帰還した恒星間航行船が存在しない事から『恐らく、イプザロン星系とのみ』世界が繋がっている状態であろうと推論されていた。

 だが、現状で他星系へ調査船団を派遣しても事件の終結後に同じ世界と接触出来るかは補償出来かねた。

 その状態で移民などは不可能であり、実際的に棄民と変わりない。

 少なくともジオンの総帥であるギレンにはその方針は採れなかったし、より遠くの星系に手を広げるには動脈となる植民星系は不可欠である。

 よってジェイナス一行の世界との縁が切れなければ太陽系外への進出は不可能であった。

 イプザロン星系で原因を調べる為に自由に活動するには敵地での敵戦力との武力抗争は確実であり、地球側から仕掛ける初めての恒星間戦争となるのだ。

 まずイプザロン星系まで移動する技術は手に入れたが、それを実装した恒星間航行が出来る宇宙船舶と補給物資、敵本拠地で敵と戦えるだけの戦力の確立、そして原因の排除によって縁が切れるこの時間線へと無事に帰還する為の技術、それが必要なのだ。

 最善としてはククトニアンは向こうの時間線の地球連邦により討伐、もしくは和平条約が結ばれていれば問題は無いのだが実際に現在も偵察部隊が散発的に現れている事から望みは薄い。

 未来を切り開く為にもこの問題の解決は不可僻であり、連邦が中心となってイプザロン星系成敗の為の準備は進んでいた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 ジオン自治軍のシャア大佐麾下の艦隊。

 ここに所属する対艦攻撃型MSの部隊のMSは前回の訓練の後、改善工事を受けていた。

 実は以前の演習の時にジーン中尉のスーパーザクは敵艦をやり過ごした後、距離を置いて減速し帰還ルートに入ったのだがジーン機のバーニアに不調が発生して回収するまで一週間ほどの時間が必要になったのだ。

 幸いにしてスーパーパックの推進剤(H2O)や二酸化炭素吸着装置、レーションなどを消費して生き延びる事は出来たが、救難信号を出すだけしか出来ずに仲間ともはぐれて孤独を味わった彼は精神的にも肉体的にも衰弱は免れなかった。

 このスーパーザクは任務の特性上、長期に渡る任務や回収までの期間が長引く事が予想されていて、現在は座席にマッサージ機能などを付加していたが長時間の操縦はストレスの蓄積が半端ではなく、以前より進められていた改善計画が前倒しで行われる切っ掛けとなった事故だったのだ。

 

「酷い目にあったが、この装備があれば長期間の任務も楽になるな」

 

 そう言ってジーンは改装されつつあるアーマードザクを見上げた。

 今までのアーマードザクには戦闘で必要となる装備、分厚い装甲と武装だけが扱らわれていたが、それ以外の設備が装備されたのだ。

 

「流石に一週間も座席に座ったままだと身体が鈍っちまうし、足の浮腫が限界だったからな。何しろ背を伸ばす事も出来ないし、外に出るには余計な空気を消費するし、腹は減るし喉は渇くしで」

 

 某SFロボットアニメの様に人工冬眠装置が開発されていれば生存率も上昇しただろうが、現実的に対処出来る範囲としてアーマード装甲のMS-06コクピット前に一畳ほどの広さの居室が設けられて簡易なインテリアと重力発生装置が装備された。

 立って半畳寝て一畳位の極小物件であったが長期間に及ぶ任務の際に最低限の空間を確保する事が出来たのである。

 

「これさえあれば、あの地獄も少しはマシになる」

 

 ジーンは設置された居住区画に入り込むと縦横180×90センチメートル高さ200センチメートルの空間が彼を迎えた。

 今は人工重力装置を切っている為に空中に浮遊しているが、居住モードに入ると開発されたばかりの重力発生プレートが人工重力を発生されて床に立つ事が出来るのだ。

 シャワーは付いてないが格納式の洋式トイレも付属された最低限の文化的生活が送れる設備となっていたのである。

 

「戦闘時には空間装甲としての役割を果たすとかあったけど、充分なレーションと飲料水が確保されているだけで安心出来るってものだよな」

 

 基本機体の操縦と通信はエアロック規格で気密されたコクピット側で行われる事になっていたが、最低限の通話はインターホンでやり取りできるように設備が整っていた。

 装甲材の外板と居住区の間にはレーションや飲料水、排泄物の処理設備が設置されていて、最長一ヶ月位なら問題なく生活が出来る性能を持っている。

 外観は三段腹とか山岳救助犬の首に提げられたブランデーの瓶の様な形をしていて、悪く云う奴は妊娠したグッピーそっくりと馬鹿にするレベルである。

 

「とか言う奴はいるが、実際に宇宙で漂流した身からするとこんなに安心出来る装備は無いぜ」

 

 よっぽど飢餓と広大な宇宙空間にひとりぼっちと云う経験が堪えたのか、頬ずりしそうな感じで壁に縋り付くが、そこは仕舞われたトイレの格納板だ。

 

「頼りがいのある設備も付けたし、最高だな。おい」

 

 ひとしきり堪能するとジーンは満足げに機体を後にした。

 恒星間航行が通常的に行われる時代になるとどうしても長時間機体に拘束される機会が多い。

 艦船ならば居住区画が広く取られる為に乗員のストレス緩和も容易であるが、一人乗りの機体の場合は自由に出来る空間は座席のみと云う事も多い。

 簡易的ではあるがパーソナルスペースの確保という点に於いて、この居住区画という概念は画期的な存在であった。

 後の時代には巡航追跡機(クルーズチェイサー)として恒星間航行時代に発展する事になる機種の始まりとなった。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 宇宙世紀0087年初頭。

 本来の歴史であればティターンズの専横が始まり、反地球連邦組織エゥーゴが抵抗を始めた頃この時間線では全く異なる社会を構築していた。

 宇宙世紀0079年に発生する筈のジオン公国独立戦争は未然に防がれ、そして異星人が侵略してきたのだ。

 まるで作り物の映画の様な展開に地球連邦とそこに所属する人間達は驚愕し、そして新たに手に入れた技術を使って閉じ込められていた地球圏から羽ばたこうとしていた。

 だが、地球圏に知らずに掛けられている軛から脱出する為にはイプザロン星系まで侵攻してククトニアンを撃退しなくてはならないと云うミッションを熟す必要がある事が判明してしまった。

 ククトニアンによる地球圏侵攻作戦、通称一週間戦争を戦い抜き地球圏の安全を保持していたが外圧の除去と外宇宙への進出への足掛かりとして宇宙世紀0080年から地球連邦政府とジオン自治区では恒星間戦争の準備が着々と行われてきた。

 実際は連邦では政権与党によって外星系への植民を進める外征派の意見が強くなったり地球圏内だけで積極的に進出を行わない内政派の意見が強くなったりと変動はあったが、地球より優れた科学力を持つ異星人による武力による侵略と云う出来事は連邦市民に強いインパクトを与えた様で継続して戦力の涵養は続いたのだった。

 そして7年が過ぎた宇宙世紀0087年、恒星間航行用のシステムを搭載したマゼラン級宇宙戦艦とサラミス級宇宙巡洋艦、ペガサス級宇宙強襲揚陸艦の他に外星系進出用にグワジン級を参考に連邦軍で開発した大型宇宙戦艦ベクトラ級や新たに建艦された通常サイズ且つMS運用を前提にしたクラップ級巡洋艦とラー・カイラム級機動戦艦が進宙していた。

 勿論戦闘艦だけで外征型の艦隊を維持出来ない事からジュピトリス級大型輸送船を補給艦として帯同させている。

 また、結局連邦宇宙軍だけで外征艦隊を賄えない事から、そして主力艦隊が太陽系を離れた後にコロニー自治軍が武力行使する事を防止する事からも各コロニー自治軍も一定数の艦船と機動兵器の提出を余儀なくされていた。

 特に突出した戦力を保有するジオン自治区コロニー自治軍、通称ジオン軍も多数その姿を確認出来る。

 特に元々内惑星間航行が可能な大型の宇宙戦艦グワジン級はその威容を誇っており、恒星間航行ユニットの増設もあってジオンの魂を具現化した様な姿だと誇る将官もいた位である。

 その他にもザンジバル級機動巡洋艦やムサイ級軽巡洋艦も恒星間航行ユニットを装着している。

 ただ、ムサイ級は艦体のバランスの問題か艦の上下を逆さまにした姿で、本体から斜めのブームで支えた格納庫と二本のブームを上に伸ばし2基のエンジンを後部上方に支えた形に変更されている。

 それら外征艦隊は現在月軌道上に編隊を組んで遊弋しており、出撃の合図を待っていた。

 現在既にイプザロン星系へ偵察艦隊を強行偵察へ派遣していて、帰還した艦隊からイプザロン星系の現状報告も行われていた。

 現在は連邦宇宙軍の旗艦であるドゴス・ギア級宇宙戦艦ゼネラル・レビルにて連邦政府大統領が演説を行っており、それが終了次第進発が始まる予定になっている。

 地球圏の総力を束ねた大艦隊の中に異彩を放つ艦艇が存在した。

 元々ククトニアンとの戦いから逃れてきた別時間線の連邦軍所属である恒星間航行型駆逐艦レーガンと練習巡洋艦ジェイナスである。

 レーガンは兎も角、老朽艦であるジェイナス号は一番SF染みた艦景を有しており勿論戦闘の主力編成から離れた特務艦として予備編成の一部として参加している。

 




 次回から地球圏の反撃が始まります。
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