地球のある太陽系からイプザロン星系へと進出準備が進む中、サイド7に暮らしていたジェイナス号の13人の子供達の内、軍役に就いているロディを除いた全員が集まっていた。
彼らがこの時間線の地球に来てから早くも8年間が過ぎていた。
最年少のマルロ・Jr.・ボナーとルチーナ・プレシェットも5歳から13歳になっている。
各々それぞれが違った人生を送っていた訳だが今までも連絡は取り合っていた為、全員集合となった今も懐かしいといった感情はなかった。
現在彼らはジェイナス号のブリッジに詰めており、手順書と睨めっこしながら嘗ての担当部署のコンソールに齧り付いていた。
長いブランクはあった物のこちらの世界もコンピューター在りきの世界だった為にメインフレームの取り扱いは慣れたものであった。
「やあ、皆(みんな)揃った様だね。残念ながらロディはローデン大佐の下で働いているからここに来れないけど、あれから8年、皆(みんな)が無事にこの時を迎えられた事が喜ばしいよ」
サイド7の大学で経済学を習っていたジェイナス艦長代理のスコット・ヘイワードが艦長席から皆を見渡しながら言った。
彼だけは8年間このジェイナスで管理を続けてきた関係からジェイナスについて細かい所まで把握しており、この度のイプザロン星系への渡航を控えて老朽化で航行に不安な箇所の補強修理の艤装委員長も務めていて彼だけは常にこの船に関わり続けていた。
ブリッジのコンソールも釦の接触不良他の不具合からこの世界で代替出来る部品で修繕が済んでいて、久しぶりのコンソールも普通に扱えた。
着席する感触は変わらないけど随分と小さく感じるのは全員が成長期だからだろう。
年長組は全員が二十歳過ぎであり、以前紹介したバーツ以外は大学にてそれぞれが学んでいて、それ以下は高校や中学で学んでいる最中であった。
基本全員がホストファミリーに迎えられており、家庭の中で育てられた為に歪んだ精神の持ち主も居らず、そして先日お別れも済ませてここに望んでいる。
彼らの目的はただ一つ、家族に会う、それだけである。
「僕たちはジェイナスに乗ってイプザロン星系へ戻り、そこから僕たちの居た地球へと戻るんだ。基本ジェイナスは戦わない」
スコットがこれからの基本方針を説明していると、戦わないと云った彼に噛みついた者がいた。
「何だよスコットさん! 我々地球連邦宇宙軍は敢闘精神を以て戦場に望むんだぞ! 俺たちもRVにのって参戦するべきだ」
「ケンツ。僕たちは民間人なんだ。ロディだって民間人は戦争に出さないって言われたから軍に志願した訳だし。無理だよ」
「そんなの関係ないってっ! 自分達は別系統の軍組織なんだし、命令される謂われは無いんじゃ無いのか!?」
「今ククトニアンと戦争をしているのはこの世界の地球連邦軍なんだ。それに僕たちの世界の軍隊であるローデン大佐も許可しないって念を押してたんだぞ」
スコットがそう断言するとケンツ・ノートンは意気消沈しながら口を噤んだ。
「そんなの! そんなのってないぜ。俺だって軍隊に」
「なーっはっはは。ケンツ君はチビだから軍隊募集に撥ねられて拗ねてんだよなー?」
「うっせうっせうっせ! 頭撫でんな! シャロンには関係ないだろう!」
「ほーっ? んー、文句アんのかね? うりうり」
シャロンは見事に育った胸部装甲を前面に出しながらケンツににじり寄る。
自分の目の前に迫るそれに、見事に鍛え上げられた筋肉と裏腹に155センチの小柄な体格をしたケンツは思わず後退る。
「チミはダンサーの私のP兼マネージャーになって一緒にドサ回りするんだから、軍人は諦めなって」
「!…うっせ。分かってんだよ、軍人に成れないなんて」
「エンターティナーの才能あるんだけどなぁ、裏方だけど。って事でスコット、説明続けてよ」
「! あ、あぁ。じゃあ説明を続けるぞ」
「えー、夫婦漫才もう終わりなの?」
「ダメだよルチーナ、ケンツが怒るよ」
「そんなぁ夫婦なんてお上手ねぇ、マルロは」
「僕じゃなくてルチーナだよ?!」
「説明続けさせてよ」
ぐだぐだなままスコットは気力が挫けそうになるが、パンパンと手を叩きながら茶髪の美人が声を上げる。
「はいはい、皆(みんな)スコットの話に注目してね。大事な事なんだから」
「すまないクレア。こほんっ、ジェイナスは連邦軍の後方部隊として後ろからついて行く予定だ。ローデン大佐達のレーガンも護衛に就くし、だけど安心は出来ない。これから行くのはククトニアンの母星なんだから。ここでレジスタンスと連絡を取って現地で合流する予定だ」
「なんでレジスタンスと連絡を取るんですか?」
少年期を脱し始めた短髪の少年、フレッド・シャッフルが疑問の声を上げる。
「うんそれなんだけど一応秘密って事なんでローデン大佐に話す事を止められているんだ。すまないなフレッド」
「いえ構いません。だけどあれから8年も過ぎてますけど、レジスタンスってまだ無事なんでしょうか」
「分からない。その時は別の方法を採るさ。とにかく覚悟だけはしていてくれ。それと僕たちはククト星へは降りない。ジェイナスには大気圏突入機能はない、と云うか一度大気圏に突入したらもう二度と宇宙へは出られない。だから僕たちの中でククト星に降りるのはロディだけって事になると思う」
唯一この場に居ない自分の兄を案じたのかフレッドは思わず呟く。
「兄さん」
「心配すんなってフレッド。お前さんの兄貴は立派な士官様なんだぜ。ちゃんと帰ってくるさ」
「バーツさん。うん。分かった。皆(みんな)で一緒に地球へ行くんだ」
「そう言うこった」
フレッドを慰めるバーツ・ライアンであったが、彼の姿を見て思い出したのかスコットはバーツに提案する。
「あ、そうだバーツ。艦内食堂はバーツに任せるよ。料理人を目指してるんだろ」
「おうさ、自動調理器じゃ出せない手作り料理の味って奴を見せてやるぜ」
「期待してるよ」
スコットの提案に乗ってきたバーツは気持ちよく返事を返す。
「ちょうどいい、さっき良い野菜をジミーから貰ったからよ。腕を振るってやるぜ。ありがとうなジミー」
「へへ。ちょっと自慢の野菜なんだ。コロニーの生産区画って温度も湿度も自由に変えられるからね、だから本物の畑じゃここまで上手く作れないんだけど」
麦わら帽子を斜に被った長身の青年は屈託のない笑い顔で頬を掻く。
仲の良いケンツの身長が伸び悩んでいるのと反対に、ジミーは身長も体格も良く発達した身体をしていた。
自分の身体に不満が多いケンツもジミーが相手だと嫉妬も湧かないらしく、羨ましげではあるが苦笑しつつ肘でジミーをつつくに留めた。
「まったくこんなに立派に育ちやがって、少しはこっちに分けて貰いたいよ」
「本当、立派に育ったよねジミー。農業学校じゃモテたんじゃないの?」
短く切りそろえた金髪の女性、マキ・ローウェルもからかいつつ見上げる。
「昔はケンツと同じ位の背丈だったのに。凄いわよ。ジミー君。私も背が高くなりたかったなぁ」
「ペンチはそのままで良いのに」
「むっ」
「おっと」
ペンチ・イライザが愚痴を零すと空かさずフレッドが呟く。
それを耳聡く聞き逃さなかったペンチはフレッドを睨み付けるがフレッドは知らんぷりを決め込む。
「ふふ、皆さん変わってませんね」
事情があってサイド7から唯一地球に降りる機会の多かったカチュア・ピアスンはホストファミリーのセイラ・マスの影響を受けたのかやたら上品なしゃべり方で笑みを浮かべる。
彼女は長期に渡って地上の学園都市で教育と検査を受けていた為、この時間線の地球では最高峰の高等教育を受ける機会があった。
もともと学者夫婦に養育され天才的な能力を持っていた彼女はそこで才能を開花させていて、彼らの時間線との縁を絶つと云う絶対条件がなければこのまま引き留められてしまったかも知れない才媛になっていた。
最悪、レジスタンスが壊滅していた場合は彼女がモノリスの処置を行う算段すら着けられているのだ。
「こほん。それでだ。僕たちが最初に向かうのはアルファ・ケンタウリ恒星系だ」
スコットがそう宣言すると皆の顔が引き締まった表情を浮かべる。
◇ ◆ ◇ ◆
「遠い遠い、ケンタウロスより遠いお星様。私のお願いを聞いて欲しいの~か。懐かしいね、ペンチ」
「もう、フレッドったら。小さい頃のポエムをからかうなんて。意地悪だわ」
「からかってなんか無いよ。僕たちの両親に会いたいって気持ちがこもった良い詩じゃないか。もうじき会えるんだよね」
「フレッド。うん、早く会いたい、会ってそれから」
「それから?」
「まだフレッドは私の両親に会った事無いわよね」
「うん、君が引っ越してきて直ぐにアストロゲイターの攻撃があったからね。あ、別に君が来たからって訳じゃ無くて」
「もう、そんなんじゃないの」
◇ ◆ ◇ ◆
地球圏から出立したククトニアン征伐艦隊はまずアルファ・ケンタウリ星系を目指した。
ここが最も最寄りの恒星系である事が大きい、つまり敵の中継基地がある可能性もまた高かった。
事前の偵察ではその姿は確認出来なかった。
そして本格的な恒星間航行、しかも集団での大規模な物は初めての経験なのだ。
何らかの不具合があればここならまだ問題なく引き返せる。
艦隊の周りの指定された空間の重力定数を書き換えて光速度を引き上げる事で最光速度とウラシマ効果の軽減を行う事の出来る超光速航行技術によって連邦宇宙軍とジオン軍と各コロニー軍の艦艇は4.367光年の距離を約一ヶ月、体感時間約一週間で踏破する事に成功した。
アルファ・ケンタウリ星系伴星の赤色矮星であるプロキシマケンタウリの近傍で通常航行に移った艦隊は乱れた陣形を整えて警戒態勢を取る。
アルファケンタウリ星系の主星はケンタウルス座α星aリギルケンタウロスとα星bトリマンの連星であり重力による軌道の変化が複雑な為に比較的安定しているプロキシマ星が選ばれていた。
幸いな事に機関や船体に支障の出た宇宙艦艇は無く、事前の予定通りに三日の準備期間の後に敵地であるイプザロン星系へと出立する事となった。
だが警戒の為の哨戒活動は通常通り行われた。
ホワイトベースからはRX-178 ガンダムMkⅡが1機だけ哨戒活動に参加している。 重力的拘束が小さいプロキシマ・ケンタウリ近傍のハビタブルゾーンでの機動行動が機体に与える影響を見る目的もあった。
外宇宙でのMSの活動に関しては研究が進んでいない事もあって連邦のMS開発の第一人者であるテム・レイも艦隊に同行している。
テムはホワイトベースの艦橋からMkⅡに対して通信を試みる。
「アムロ聞こえるか?」
「聞こえるよ、あ、いえ聞こえますテム博士」
「機体の状況はどうだ? 赤色矮星の光量は小さいからハビタブルゾーンとは言え何らかの影響があるかもしれん」
「オールグリーン。問題ありません」
「うむ、設計通りだな。そのまま哨戒を続けろ」
「了解」
アムロは『設計通りならわざわざ確認しなくても良いのに』と思い浮かべたが口に出さずに警戒を続ける。
艦隊の周囲を流していると特異な形状な宇宙船を見掛けた。
長年見てきたサイド7の天井にぶら下がっていた宇宙船、ジェイナス号だ。
こうして動いている姿を見るのは初めてであった為に近くをフライバイする時に視線を遣る。
すると緊急発進してきたのか、急激に大きくなるMS、ではなくRVの姿があった。
ピッと警告音が鳴り音声が流れる。
『接近する機体は友軍機、友好的マーキング済み。アムロ通信が入っているゾ』
「ハロ、繋いでくれ」
『了解だアムロ』
「P! こちらバイファム7、そこのガンダムMkⅡ接近しすぎて居るぞ、応答せよ」
「やあロディ、ご挨拶だな」
「こちらの警戒距離に入ってるんだよアムロ、迂闊だぞ」
「特別接近している訳じゃ無いんだけど?」
「こちらには民間人の乗ったジェイナス号があるんだ。警戒もするさ」
「それは悪かった。が、こちらには指定された指示は聞いてないんだ。事前に言っといて貰わないと」
「えぇ、本当かよ。分かった後で確認してみる。…いよいよ初陣だな」
「ああ、本当なら戦争なんて真っ平なんだけどな。僕たちの太陽系にちょっかいをかけ続けるなら話は別さ」
「そうだな。それじゃ次に会うのは戦場でだな。MkⅡ、君に幸運を」
「こちらこそ。グッドラック、バイファムセブン」