機動戦士バイファム   作:EINGRAD

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第十九話 逆襲

 目的の恒星系であるイプザロン星系は地球圏から約43光年離れた位置に存在していた。

 恒星系には主星であるG型の恒星であるイプザロン星と8つの惑星から成り立っている。

 イプザロン星系のハビタブルゾーン、恒星からの距離が地球型の生物の生存に適した環境を維持出来る範囲には三つの地球型惑星が存在している。

 それぞれが地球型の大気組成と液体の水を湛えた海を備えた惑星であり、それぞれに固有の生物相を持つ豊かな恒星系である。

 過去に地球人類が最初に接触し入植した第5惑星ベルウィック星、続いて入植した第3惑星クレアド星、そして知的生命体であるククトニアンを育んだ第4惑星ククト星が生物の生存が可能な惑星となっていた。

 しかしククトニアン達は故郷のククト星にもクレアド星、ベルウィック星にも住んでいなかった。

 彼らは約1400年前に自らの手で自らの故郷とクレアド星、ベルウィック星の3惑星を核の炎で焼き尽くしており、人の住める環境で無くなった3つの惑星から離れて巨大ガス惑星である第7惑星のラグランジュポイントL4にスペースコロニーを建設して歴史を築いてきた。

 その間にテラフォーミングにより3つの惑星の再生事業を続けて、漸くククト星への実験的な植民を開始した時点でイプザロン恒星系へとやって来た地球人との接触が行われてしまった。

 長く閉鎖的な環境で言論統制を続けてきた彼らの文化は旧世紀の中華人民共和国や北朝鮮よりも酷く言動が抑制された社会を形成しており、「悪い事を悪いと言ってはいけない」とされており、実験植民には言論統制で検挙された犯罪者達と続いて行われた地球人との戦争で得られた軍人や民間人の捕虜達が使われた。

 積極的に虐待されている訳では無いが、文明の痕跡が微かに残っているだけの不毛の大地に放り込まれて、屋外での活動(穴を掘って埋める等の無意味な軽い運動程度の作業)を行った後に実験用のマウス宜しく体調のデーター取りを行うだけの日々は酷く精神が消耗される。

 捕虜収容所の周りは岩と砂と河川の不毛な大地になっており、敷地の周囲は柵が巡らされており外部からの侵入は監視塔で監視されていた。

 彼らの生活も9年を数え、終わり見えない状況に神経をすり減らしていたのだ。

 

 アルファ・ケンタウリ星系からイプザロン星系まで約40光年、超光速航行中に船内で経過した体感時間は約1ヶ月ほどであった。

 艦隊はイプザロン星系の北極方向、恒星系外縁に超光速航行を終了した。

 基本的に恒星系は平面を一定方向に回転している。

 一般的にその恒星系に侵入する際には軌道平面外縁から、太陽系なら冥王星から順に内側へ惑星軌道を横切るイメージがあるがわざわざ障害物が多く敵の哨戒網の中に侵入する必要は無い為に極軌道方向からの侵入が選択された。

 恒星系の惑星軌道を俯瞰構造で観測した結果、ガス状惑星である第7惑星の軌道上にあるラグランジュポイントL4に多数の人工物、恐らくはククトニアンのスペースコロニー群が存在していた。

 その他に恒星規模から考えてハビタブルゾーン内に3つの岩石惑星が存在しており、それぞれ全てに広大な海と生命反応がある陸地が存在している。

 恒星系を開拓するには実に都合の良い惑星配置であり、金星と火星がもう少しでこうなったかも知れないと云う理想の状態であった。

 さて、軍事的な面で走査すると宙間での戦闘行為は行われていないがククト星上で光点が確認されていて、恐らくはレジスタンスか地球人捕虜が反抗している物と考えられた。

 この状況から、レジスタンスと接触を持ちククト星と終戦を結べる状況に持って行くにはククト星を攻略の中心に据え、周辺宙域の封鎖とククト星の攻略を進める事になった。

 実は地球連合軍には地上戦用の機動兵器の用意が少ない。

 これは対異星人用の兵器が宇宙空間での迎撃に特化している為であり、MS開発に於いて惑星上での活動に重きを置いておかなかった事から最初期に開発された物を除けば地上でも使えるMSがほとんどであったからだ。

 なので地球連合軍の中で地上用の機動兵器を有しているのは連邦軍のRVとRX計画で作られたガンタンク、ジムキャノンと兼用機にジムⅢとRGMー89ジェガンの他、何故かジオン軍にヒルドルブやゾゴック、アッグがあった。

 ジオンは実験機で押し通していたが、独立戦争を鑑み地上侵攻作戦を見越して戦前に開発されていた機体ばかりだった。

 配備されたのはそんな状態だったので、基本的にジオン軍とコロニー軍は宇宙防衛に専念して、連邦軍の地上部隊が主にククト星降下作戦に参加が決定した。

 現在の位置、イプザロン星系の主星の北極方面にⅠ天文単位移動した位置に重力制御技術を使って恒星間航行用の補給船を中心に根源地を設定して、根源地防衛用の防衛隊を配備、他のジオン軍、コロニー軍、連邦軍がククト星周辺、特にククト星の衛星であり防衛拠点でもあるタウト星の制圧を敢行する事となった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 地上侵攻部隊に抜擢された部隊の中にはホワイトベースの姿があった。

 当然の事ながら地上へと侵攻するには大気圏突入を行わなければならない。

 重力制御を用いて軟降下を行う方法もあるが専用の艦が用意されている事も無く、従来の自由落下方式で大気圏突入を行う艦艇しか存在していなかったのだ。

 その筆頭がペガサス級強襲揚陸母艦であり、二番艦ホワイトベースを筆頭にペガサス、改ペガサス級グレイファントム、スタリオン、アルビオン、トリビューン、スレイプニール

=改の最多七隻が参加。

 他にアナハイム・エレクトロニクス社が建造を主導したアーガマ級強襲用宇宙巡洋艦アーガマが一隻参加している。

 ペガサス級はミノフスキーフライトにより大気圏内航行が可能である上に大気圏突破も可能であるので作戦の如何によってはククト星からの脱出にも使用可能なのだが、アーガマ級と未参加だがザンジバル級機動巡洋艦はブースターを取り付けなければ大気圏突破は出来ない、作戦終了後にククト星上に放棄する可能性も高かった。

 よって大気圏突入部隊は最大ペガサス級に乗り込める最大人数に制限されているが、固形推進剤によるロケットが持ち込めるのでペガサス級を発射機母体として宇宙へと往還は可能になっている。

 ペガサス級の他に大気圏突入用の降下カプセルが多数運用されていて、火器類の降下を補助している。

 今回のククト星強襲作戦は電撃戦の様相であり、タウト星攻略部隊とククト星敵基地強襲部隊、ククト星前線基地構築部隊そして予備戦力としてククト星軌道上遊弋部隊に分けられる。

 ホワイトベースを始めとするペガサス級艦隊は前線基地構築部隊に配属されていた。

 ククト星北極方向Ⅰ天文単位の位置でホワイトベースは大気圏突入と地上での展開戦力整備と補給を行っている。

 現在ホワイトベースに積まれた戦力は右舷格納庫にRX-178ガンダムMkⅡとRX-75ガンタンク4機、そして左舷格納庫に量産型ガンタンクRX-75Rが4機、FAM-RV-S1バイファムが格納されていた。

 他のペガサス級、改ペガサス級にはジムⅢとジェガン、そしてFAM-RV-S1Tトゥランファムが収納されている。

 ここでの主役は地球連邦軍であるが少数だが降下カプセルのジオン軍にはゾゴックやアッグ、護衛のMS-111ザクⅢとアーガマにはコロニー軍のMSA-002マラサイの姿も見える。

 事前準備が進む中、ホワイトベースのMS搭乗員用のスペースにはアムロ・レイ少尉とロディ・シャッフル少尉の姿があった。

 ふたりとも事前のブリーフィングや機体整備の合間を縫って顔を合わせていた。

 

「やぁアムロ、そっちはどうだい? こっちは会議会議で目も当てられないよ」

「こっちも似た様なもんさ。降下地点も決まったみたいだぜ」

「へぇ、敵の基地から200キロメートルかぁ。ガンタンクの性能を活かした適切な距離ではあるな」

「うん、ガンタンクも上部座席を潰して長距離レーダーや対空レーダーを増設しているから直接照準能力も高いし、一方的に攻撃出来る。勿論前線観測員か観測用ドローンを派遣して間接照準射撃が必須なんだけど。ただ」

「なにか懸念でもあるのか?」

「敵基地に隣接している施設に捕虜が収容されている可能性が高いんだ」

「何だって?! そうか、敵戦力が大きいと人質に取られる可能性も」

「無い事は無いだろうな」

「…どうにかして俺たちも参加出来ないかな」

「気持ちは分かるが、無茶はするなよ? こちらの基地設営部隊に飛行可能な機動兵器はバイファムしかないんだから」

「分かってるって。捕虜か、地球人は脱出に成功したって信じていたのに」

「捕虜奪還には全力を尽くすさ」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 連邦軍の戦闘艦の中で最大級のベクトラを中心に雁行陣形で艦隊はククト星へと急激に接近を続けていた。

 軌道上に展開しているククト軍の艦船とタウト星への封じ込めを行い、ククト星から敵が繰り出さない様に制宙してしまおうと云う算段だ。

 ククト軍は油断していたのか本拠地のスペースコロニーとの間に連絡船が行き来している位で、目立った戦力は軌道上に存在しなかった。

 自軍が攻めたのに敵軍が攻撃してこないなんてロシア-ウクライナ戦争の初期の露みたいな認識をしていたのかも知れない。

 確かに敵地の地球は重力制御も出来ない原住民族めいた文明しか築けていなかったが。

 攻撃軍は大きく二手に分かれ、連邦軍主力とジオン軍、コロニー軍はククトの軍事衛星の攻略へ、ククト星攻略部隊は軌道上を移動していたククト軍の艦船を制圧した後低軌道へと集結し、隊列を組んだ。

 ククト星へと降下するペガサス級の艦隊とアーガマはダイレクトに大気圏突入し、その他の降下ポッドは予定では地上の拠点を確保した後サラミス級から分離される事になっている。

 そして地上拠点予定地から200キロ離れた敵基地には軌道上でバリュートを装備したMS隊が直接大気圏突入による空挺降下を計画していた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 タウト星攻略部隊。

 敵部隊が大規模に駐留している事が予想された機械化軍事衛星には地球連合軍の主力部隊が分派して向かっていた。

 最低でも軍事衛星内部に敵機動艦隊を封じ込める事を目的として艦隊は衛星の周囲を包囲し、断続的に砲撃を続けていた。

 奇襲が成功した為か衛星外部に戦闘艦の姿は無く、時折衛星のスリット部分から砲撃が行われるが防戦一方に徹していた。

 

 タウト星攻略部隊所属のジオン軍シャア大佐率いる機動部隊は敵のウィークポイントを探すべく衛星の映像を観察し続けていた。

 現在は艦砲射撃をメインに攻撃しているが分厚い装甲に阻まれて有効打を与えているとは言い辛かった、だが数機単位のMSが衛星に取り縋ろうと接近するとドーム状の装甲が開かれて中から敵ARVが迎撃に出現する行動が観察されていた。

 

「ふむ。やはりつけ込むとしたらこの敵機動兵器の出入り口だな。攻撃隊のジーンに連絡を入れろ」

 

 シャアが通信士に指示すると直ぐにジーンが通信画面に現れる。

 

『こちらジーン中尉です。お呼びでしょうかシャア大佐』

「うむ、膠着した状況を打破する為に敵基地に攻勢を掛けるのだが、その際に攻撃機隊には敵基地の出入り口を攻撃して貰う。ただ、扉の装甲は艦砲射撃にも耐えられる強度を持っているので敵が出てきたタイミングで攻撃を掛けて貰いたい」

『は、了解しました。ですが装甲扉が開くタイミングを図るのは』

「それはMS隊にやって貰う。今までの反応で接近するMSに対して基地に取り付かれない様に迎撃機を繰り出す様だ。アポリー隊とロベルト隊に攻撃を指示する、敵機が出てきたら空かさず攻撃だ。敵機に関しては無視して良い」

『了解です。タイミングを見計らって攻撃を開始します。ジークジオン』

「頼んだ。ジーク・ジオン」

 

 シャアはジーンとの通信を切るとアポリー隊とロベルト隊に対して指示を下して攻勢の糸口を掴むべく行動を開始した。

 




 とうとうバイファム世界サイドにガンダム勢が介入し始めました。
 全二十五話位でしょうか、予定は未定ですが、もうちょっとだけ続くんじゃ。
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