ガンタンクの両肩部に装着された主砲(低反動120ミリ砲)の射程距離は200キロメートル超を誇る。
頑丈ではあるが連邦軍に所属しているMSの中ではダントツに旧式のRX-76ガンタンクは敵地ククト星の攻略の際にペガサス級ホワイトベースに載せられて初出撃を果たした。
「ほぉ~こんな骨董品でも使えるんだな。整備がきちんと入っている」
リュウ・ホセイ大尉は分厚い装甲に囲まれたガンタンクの腹部にある単座コクピットの中で独り言ちた。
何しろガンタンクは連邦軍がMSの製作に際して試作された長距離支援用の戦車に上半身を取り付けた様な姿をしている。
最も無限軌道は長距離射程の2基の主砲の威力を受け止めるだけの安定性を有している。
今回、宇宙用に特化して進化を続けたMSの補完として初期に作られた地上戦用のMSを掻き集めて近代化改修を施していた。
ガンタンクは上部座席を潰して長距離レーダーと対空レーダー、対物レーザー測距儀を設置して単座席化しており、地平線の向こうに対しては観測員や観察用ドローンを派遣して間接射撃を行うとされていた。
反面近距離戦闘用のボップミサイルは大して効果は無いと評価されていた為に護衛用のMSが必ず就く様に規定されていた。
◇ ◆ ◇ ◆
敵基地上空を目指して宇宙空間から空挺降下を開始したMS達は無事に成層圏に到達し、バリュートを機体からパージしていた。
高度10000メートルの上空からの落下は幾ら推力の大きなMSのメインスラスターとは言えどスピードを吸収しきる能力は無い為に続いて隙間の空いた減速用の巨大なパラシュートが展開された。
高度500メートルを切った時点で減速パラシュートを切り離し、各自敵基地の決められたポイントに向かって落下を制御して近付いていった。
ただ、敵も黙って見守っていた訳では無く、地上に駐屯していた新型ARV-Jギブルが空に向かってエネルギーガンからビーム片をバラ撒き迎撃してくる。
初期の機体であるARV-Aウグを地球のRVを参考に改修した機体は素早い動きと強い跳躍能力で地球軍のMSを翻弄する。
「くっ、この敵は素早いな。このジムⅢじゃ追いつかない、か」
『随分弱気じゃ無いかジェリド』
「そうは言うがカクリコン、このままじゃ防戦一方だぞ」
『そういう時はこうするんだよ』
そう言うとカクリコンの乗ったジムⅢは肩にマウントしているマイクロミサイルを全弾発射させると直ぐにミサイルポッドをパージして身軽になると腰にマウントしていたビームジャベリンを展開して頭上で振り回した。
『やぁやあ我こそはってな。ジェリド援護射撃を頼む』
「任された。無茶するんじゃ無いぞ」
『へっ、誰に言ってんですかねぇ。そんじゃ行くぜぇ!』
左腕にマウントさせた連邦製の盾で半身を隠しながらカクリコンは黄色い敵機に向かって肉薄して行く。
堪らず敵機もビームガンを構えるが、ジェリドが後方からビームライフルと腰部の大型ミサイルで牽制してくる為に接近してくるカクリコン機まで手が回らなかった。
『隙有りぃ!』
死角から接近したカクリコンのジムⅢはビームジャベリンの石突きの部分で敵のビームガンを叩き、反動で回転するビームジャベリンのビーム刃で相手を切りつけた。
元々長い柄の先にビームの刃が付いたビームジャベリンは文字通りのジャベリンとして投げて使用する事も可能だが、ハルバートの様に振り回して長いリーチを活かした接近戦用の武器としての攻撃力が高い。
ズパッと敵機を袈裟切りにしてカクリコンは尚警戒の体勢を崩さない、機体を敵機と正対させて様子を伺う。
すると数秒遅れて機体を傾けた敵機は腰部が地面に付いた衝撃で爆発し、辺りに炎を撒き散らす。
『ふっ他愛も無いな。ジェリド、他の敵機はどうだ』
「ああ、この近辺に新たな敵影は確認されていない。基地の反対側に基地の司令部と地下格納庫があるみたいで、ここら辺はあまり重要視されていないみたいだ」
『だが、厳重に監視された建物はある。ジェリド、俺たちは運が良いかも知れん。もしかするとここが当たりかもしれんぞ』
「なに、どういう事だ」
カクリコンは返答の代わりに近くの監視塔をジャベリンで破壊し、電流が流れていた金網と塀を踏み潰す。
すると建物の影で姿を顰めていた人影がバラバラと姿を現し彼らのモビルスーツに近付いてくる。
大体の人達が驚喜している様子が見て取れる事から、彼らがここに囚われていた虜囚である事が窺えた。
その内の1人が手を振ってコンタクトを取ってきていたのでカクリコンは外部スピーカーをオンにして声を掛ける。
『こちらは地球連邦軍の者だ。ここは地球人の捕虜収容所で間違いないか』
その男、四角い頑健な体つきをした成人男性は野太い声で返事を返す。
「そうだ! 私はここの地球人民間人捕虜のリーダーをしているメルビン・クレークだ。大学教授をしていた」
『了解した。これより本部に連絡を入れるから、いつでも脱出出来る様に体勢を整えて貰いたい。荷物は最小限度に頼む』
「ありがたい。直ぐに準備を整える」
『敵襲撃があるかも知れない。迅速に頼む』
◇ ◆ ◇ ◆
ペガサス級ホワイトベースに搭載されていたガンペリー、そして後続の大気圏往還用のHLVに搭載されていた航空機の連邦製戦闘機フライマンタやセイバーフィッシュ、ジオン製戦闘機ドップ、小型輸送機ドーラ、輸送機ファット・アンクル、偵察機ルッグンが敵基地に向かい、ガンペリーとドーラ、ファット・アンクルが強行着陸して未だに戦闘が継続されている基地の片隅にある地球人居住区画から俘虜となっていた民間人と軍人数百人の奪還に成功していた。
また、ククトニアンの政治犯として拘留されていた反政府軍(レジスタンス)のメンバーとも接触している。
◇ ◆ ◇ ◆
数日後。
基地の攻防戦は地下基地に籠もって籠城するククトニアンの政府軍に手を焼いた連邦軍の指揮官により支援砲撃が要請されて、前線基地に配備されたRX-75ガンタンク4機とRX-75R量産型ガンタンク4機による長距離砲撃による援護射撃が敢行された。
『そうだ。前線砲撃観測員による座標を伝達する。目標座標はゲル・ドル・バだ』
連絡を受け取ったリュウ・ホセイはガンタンクに諸元を入力すると無限軌道で大まかな方向へと向きを転換し、両肩に装備した低反動120ミリ砲の角度を調整した。
戦艦大和の46センチ砲の射程約40キロを遙かに凌駕する超射程約200有余キロはロケット推進砲弾を使用しての物であり、地平線の向こうへ砲弾が落下する事から直接照準でもレーダー射撃は当然の様に用いられるし、地平線レーダーでも捉えられない遠方は現場観察員による間接照準による数値射撃が行われている。
暗号による座標から、ガンタンクの位置と照準先の位置までに存在する直線距離と惑星の曲線による重力偏差、惑星の回転による転向力、大気の濃淡、風向きと風力による空気抵抗を加味して角度を調整する。
ただ、放物線を描くコースではなく、大気の薄い成層圏を通る事で待機の影響を少なくした軌跡を描くコースを通るので放物線よりも高く主砲の角度を上げている。
コンピューター制御により精密にコントロールされた砲身はピタリと止まり、代表してリュウ・ホセイが乗ったRX-75ガンタンクが試射を行う。
「いよいよ実戦参加か。緊張するぜ。諸元設定良し。弾種は徹甲榴弾を選択、OK。オート射撃、一斉射。ロック解除。行くぜ」
リュウが操縦桿の武器トリガーの覆いを外し、直接指を触れる。
軽く引き金を絞るとカチッと言うクリック音と共にモニターに赤文字で《FIRE》と表示された。
直後に轟音と衝撃が響いてガンタンクが激しく揺れるが、地面に接地した無限軌道のズレは出ていない。
砲弾は一瞬で虚空へと消え去り、視界には捉えられないがレーダースコープには高速で飛び去る二つの砲弾が確認出来た。
やがて地平線に遮られてレーダースコープからは消えるが、モニターに弾着までの予想時間がカウントダウンされていた。
成層圏に突入した二つの砲弾は薄くなった空気を切り裂いてほぼ惑星の曲線に沿う様な弧を描いて落下し始めていたが、目標に近い時点で急激に地面に向かって方向を変え重力加速を得ながら速度を上げて目標へ向かった。
広い敵基地の一画に敵の装甲された地下格納庫が存在した。
地球連邦軍が空挺降下したMSで周囲を取り囲み攻撃しているが、ビーム兵器でも対装甲用のミサイル兵器でも分厚い土を掘り返すばかりで有効打とはなっていなかった。
このままではMSの稼働時間が過ぎてしまい撤退も余儀せざるを得ない状況に陥りつつあるのだが、支援砲撃を依頼した攻撃指揮車では指揮官と管制官がレーダースコープとカウントダウンを睨んでいた。
「弾着まで後30秒です。バスク大佐」
バスクと呼ばれた柔和な大男は優しげな瞳を顰めて車窓から見える敵基地の残骸と傍に隠された地下基地を睨み付けた。
「そうか、ククトの軍人には悪いが我らの地球に侵攻してくるのが悪いのだよ。徹底的に叩かせて貰う」
「弾着まであと10秒、9、8、7、6、5、4、弾ちゃーく、今」
ズシンとした地鳴りと共に土煙が上がり、『不発か?』と口にするまもなく地下から火炎が吹き上がる。
装甲板と思しき破片と共に砲撃以外の炎が吹き出し、徹甲榴弾が効力を発揮した事が分かった。
「バスク大佐、追撃を依頼しますか?」
「ああ、勿論だ。修正座標と共に連絡を頼む」
「了解です」
地上に構築した最前線にして攻略の根拠地であるベースの砲撃陣地に置かれたガンタンクと量産型ガンタンクの計8機は前線偵察員の齎した諸元に従って周辺へ支援砲撃を敢行、釣瓶打ちにて地下基地を徹底的に攻撃した。
極めて精度の良い砲撃は散布界も狭く、狙った範囲内の人工設備は完全に破壊され尽くした。
「我々の勝利だ。だが、同じ知的生命体同士で戦い合う事が第一のコミュニケーションであると云うのも空しい物だと思わんかね」
「は。バスク大佐。ですが私は軍人なので、どのような相手でも防衛の為に力を振るう事は躊躇いません」
「知能はあっても知性の無い相手であれば躊躇う事は無いのだがな。宇宙で活動する蟲の類いならば。いや、仕方の無い事なのだがな」
その後もガンタンクは周辺地域に睨みを効かす事になった。
超射程を活かした半径2百キロメートルの範囲内に存在する固定目標は完全に撃滅し、移動目標にも容赦なく襲いかかった。
戦場に登場して暫く後の事になるが、一ヶ所に鎮座しながら戦場の神である砲撃の暴力によって広域を支配する安楽椅子の悪魔として恐れられる存在となる。
ククト星の前進基地には地上戦に有効な機体が集められ、試作された後出番が無く長らく保管されていたRX-75や大気圏を飛べるスリング・パニアーを装備したRVトゥランファム、旧世代の主力61式主力戦車やフライ・マンタが輸送された。
他にも何故この様な地上戦用の兵器があるのか訪ねられたら思わず目を反らすしか無い立場なのだが、ジオン軍からマゼラアタックやヒルドルブが輸送され更には上陸戦用の水陸両用の試作モビルスーツ・ズゴック等も派遣されていた。
基本的にククトニアンによる地球侵攻が明らかになってからMSの開発は宇宙用に特化した為に地上戦を念頭に置いた機種は別世界から齎されたRVの他にはMS-06F2型以前に企画が立っていた物しか無く、グフ、ゴック、ズゴック、ゾゴック、アッガイ等が試作され、一部が研究目的で少数量産されていただけである。
それが急遽、異星人の本拠地で地上戦を行うとなると使用出来る戦力や機種が限られており戦略や戦術に大きな縛りが出来てしまったのだ。
その為に最早二線級戦力として地方基地や武装警察に配備されている様な時代遅れな機種が戦力として掻き集められる事になった。
勿論、一線級のMSも耐地上用に改装されて順次使用される様になったが、相変わらず飛行可能なMSは開発されていなかった。
飛行可能な機動兵器がRVだけの状況は変わっておらず、地球連邦軍で運用されているRVは水素と酸素が化学反応時に発生する電気を用いた燃料電池から熱核反応炉に載せ替えられていて航続距離と稼働時間が大幅に伸びてはいたがコスト高とパイロット2名を必要とする事から生産量が少ない。
この状況で色々と試作機を投入したのがアナハイム・エレクトロニクス社で、先進技術の投入をスローガンにゼータ・プロジェクトを打ち上げて新型MSや可変MSの試作機を投入し始めたのだ。
ただし複雑な可変機構を持つ可変MSは構造的な脆弱性が克服出来ず、試作δ(デルタ)機、試作ε(イプシロン)機と非可変MSが続き、漸く可変試作ζ(ゼータ)機が完成して運用した所、ムーバブルフレームに故障が頻繁に発生するトラブルが起こった。
よって一回の出撃で飛行形態で戦場へ移動した後MS形態に変形、再度飛行形態への変形までは許されているが、それ以上の変形はムーバブル・フレームに支障が出る可能性が高い為に許可されていない状態である。
尚、試作δ機の開発主任はマモル・ナガノ博士であり、試作ζ機の開発主任はフランクリン・ビダン氏である。(フランクリン氏はテム博士に対してコンプレックスを有しており、わざわざ連邦のMS工廠からアナハイム・エレクトロニクス社に出向してまでしてガンダムよりも優れたMSを作るのだと意気込んでいた)
ゼータ・プロジェクトで開発されたMSの頭部デザインはガンダムに酷似したデザインが多く(アナハイム・エレクトロニクス社及びフランクリン氏のガンダムに対するコンプレックスの裏返しだと推測されている)、特にツインアイを有するζ機は外観からZガンダムと呼ばれる事もあったが、ガンダムの意匠権はテム・レイが有しており彼が開発した以外のMSをガンダムと呼ぶ事は現在までの所許可されていない。