地球連邦軍のククト星前線基地には続々と物資が運び込まれて基地の設営が進められていた。
ここを拠点にククト星の制圧計画が練られていた。
ただ、連邦軍はククト星を恒久的に占拠する意図はないので、直ぐに撤退出来る形を優先しており後方にはククト星脱出用のロケットが準備されている。
プレハブ構造とコロニー建造で培われた速乾性コンクリート技術を使って、基地の造営と要塞化は進められていった。
軍人や軍属の宿泊する官舎や捕虜となっていた民間人の仮設住宅も区画内に設営されており、敵基地から奪還された民間人と軍人の姿も見られる。
流石に敵の反政府軍のメンバーは別の施設に隔離されているが、特に尋問されるでも無く健康診断の実施と傷病者の治療が行われていた。
そんな基地の周辺にはペガサス級強襲揚陸艦が着地して臨時のMS整備基地として機能している。
宇宙からの空挺降下によって敵基地を襲撃したMS隊も基地へと帰還を果たしており、順次整備が行われていた。
強いストレスが掛かる空挺降下後の戦闘をくぐり抜けたパイロット達は作戦から数日経った現在MSで訓練を兼ねた哨戒任務に就いていた。
哨戒任務から解放されたジェリドとカクリコンはジムⅢのコクピットから降りて、ノーマルスーツを開けてラフな格好で休憩室へと歩いていた。
遠くに見える滑走路にはフライマンタやセイバーフィッシュ、ドップと云った戦闘機の他にガンペリーやファットアンクルと云った輸送機の姿もあった。
だが、現在タキシングしている機体はそれらどれとも違った格好をしていた。
外観上からはキャノピーの姿は見えず、機体全体が装甲に覆われたモビルアーマーの様な航空機だった。
「何だあの機体は?」
ジェリドが訝しげに眺めていると情報通のカクリコンが目を遣ってから告げる。
「ああ、あれはアナハイム・エレクトロニクス社のζ(ゼータ)機、略称アナハイム・ゼータだな。試作機らしいが正直良い話は出てないぞ。性能は悪くないって話だが欠陥機って噂だ。何でもTMS(トランスフォーム・モビルスーツ)って区分らしくてアナハイムはこれが第三世代MSだって売り込んでいるらしいぞ」
「ふーん。TMSって事は人型に変形するのか?」
「ああ、だがムーバブルフレームの不具合で一回の出撃で2回しか変形出来ないらしい。何でも随分凝った変形パターンを熟す必要がある所為でそれ以上の変形は補償出来ないんだとさ。敵基地までひとっ飛びで向かって変形して攻撃してもう一度変形して戻ってくるってルーティンを想定しているらしいんだが、単機でなにが出来るってんだ」
「それはちょっと、よっぽどスペシャルなパイロット向けの機体だな」
「だろ?」
カクリコンの情報に感心しながらも見つめていたジェリドの視界の中でゼータ機はエンジン出力を上げて滑走を始め、離陸していった。
三角形のシルエットは僚機のトゥランファム2機を引き連れて地平線へと消えて行く。
またホワイトベースの格納庫の上、手摺りが付いた上甲板でテム・レイ技術大佐は消えゆくアナハイムのゼータ機を眺めていた。
彼もまた地上戦に於いて地上を歩行するしかないMSの欠点は認識していたのだが、MSの主な戦場が宇宙空間であった事から地上での運搬手段が乏しかった。
RX-78ガンダムにはGファイターがあったが、RX-178ガンダムMkⅡには専用の輸送手段は存在しない。
技術ツリー上の問題でジオン軍が地上で開発したドダイを祖とするフライングアシストユニットは開発されなかったのだ。
Gファイターにはジムを収納する事は可能だが、外形が違いすぎるMkⅡは格納出来ない。
ただし上に載せて移動する事は可能なので簡易的な構造のコアファイターにブースターをつけたコアブースターの構想はあるのだが、今次戦闘には間に合わなかった。
またMkⅡにはゼータ機の様な飛行能力は無いが、脆弱な構造のゼータ機よりもMSとしての完成度は高いと云う自負はある為に次世代のNEWガンダム(仮称)構想では更なる機能向上を目指していた。
なのでゼータ機に対してコンプレックスは無いのだが。
「ウェイブライダーとかって良いなぁ」
結果としてMkⅡとジムⅢに共通して使用出来るGディフェンサーの開発に繋がったのであった。
その頃、アムロ・レイは友人のロディ・シャッフルと連んで居住区のPXで休憩を取っていた。
ふたりは激しいGの掛かるMSパイロットをしているだけに健康に気をつけている為、禁煙と節酒に努めているので休日と云えど喫煙と飲酒に勤しむ様な生活はしていない。
またいつスクランブルがあるかも分からないので連邦軍の制服を着用して公園の様になっている広場のベンチに座って駄弁っていた。
ここには軍人だけではなく民間人の姿も多く、用事があるのか散歩しているのか多数の人が行き交っていた。
ふとロディは懐かしい雰囲気を感じて周りを見渡してみた。
「どうしたんだ? ロディ」
「いや、ちょっと懐かしい様な? ああっ!」
突然ロディは目を見開くと猛然と立ち上がり離れた所を歩く壮年の男性に駆け寄って行く。
「どうしたって云うんだ?」
突然若い連邦軍人に詰め寄られたその男性は立ち止まって目の前の青年を訝しげに見た。
「君は」
「クレーク博士ですよね! 僕です、ロディ・シャッフルです。ジェイナス号でお世話になって」
「…っあぁっ! あの時の子供達のひとりの、ロディ…君だね。無事で良かった」
「済みません、クレーク博士!」
「いや謝られる事はなにも」
「ケイトさんの事です。あの後僕たちはジェイナス号へ戻って地球へ脱出している途中で敵の攻撃に遭って、ケイトさんを…死なせてしまった…。仲違いした僕たちを助けようとしてケイトさんは……っくっ」
「うむ。私がククトニアンの捕虜となった後の事はケイトに訊いたよ。大変だったみたいだね」
「はい。ケイトさんが、……ケイトさんから聞いた??」
「ああ、彼女ならククトニアンに救助されて助かったのだよ。まあ、当初は記憶喪失になってしまっていてね、収容所で再会した時も最初は私が誰か分からなかったようだが、徐々に記憶障害も治って来たんだよ」
「ケイトさんが…生きていた。ケイトさんは無事だったんですか!? あぅあわ会わせて下さい!」
「あー、それなんだが、残念な報告をしなければならないな。ケイトは今、Bポイントの捕虜収容所に囚われているんだ」
天国から地獄とはこの事だろうか、ロディは愕然とした顔で地面にへたり込んだ。
「地球軍が来る三日前に捕虜の移動があってな、民間の副リーダーをしていたケイトはその集団に付いていったんだよ。女子供の多い集団だったので彼女が責任者となっていたのだが。こうなっては無理にでも私が付いて行くべきだったと後悔しているところさ」
「いえ、ケイトさんらしいです。そうですか、無事が確認出来ただけで僕は、嬉しいです」
「この情報を聞いた軍は奪還作戦を練っている筈だが」
「志願して来ます、無事で良かったですクレーク博士、では!」
ロディは歯を食い縛って一目散に司令部のある方へと走っていった。
クレーク博士もアムロも茫然と見守ってしまったが、アムロは苦笑しながら旧友の後を追い掛け始めた。
◇ ◆ ◇ ◆
捕虜奪還作戦は難航しそうだ、と云うのが参謀本部の見解だった。
円形の敵基地の中心部に敵司令部と捕虜収容所が固まっており、周囲を囲む様に戦車壕の拡大版の陣地が構築され、ARVや機動兵器が配置されていて、周囲の電磁柵の外側には地雷が埋設されているのがセオリーだったからだ。
陸戦部隊で莫迦正直に攻略すると云う手段が執れない事は明白だった。
時間を掛けてプレッシャーを掛けるつもりは無かった。ククトニアンは民間人でも躊躇無く攻撃すると云う認識が出来上がっていたからだ。
ならば奇襲戦法を採るしか無い訳だが、如何なる方法が考えられるのか。
ここは戦訓を参考にすべき場面だった。
IQの高い参謀達は幾つもの作戦案を提示したが、採用されたのは意外な物であった。
そしてそれにうってつけのMSが存在したのだ。
疑念を抱いた連邦士官がジオンの士官に「こんな特殊なMSはジャブロー攻略以外に使い道は無いんじゃないですか?」と訊いても「都合の良い機体があって良かった」とはぐらかされるばかりであるのだが、有るのであれば使うのが軍人の性である。
ジオン軍が持ち込んでいた両腕が巨大なドリルになった特殊MSアッグで坑道作戦を実施する事が決定した。
作戦名《金庫破り》はこうして始まった。
すみません、少し短めです。