カミーユ・ビダンはハイスクールの学生で有り、青春まっただ中の少年であったが両親が共に連邦軍の技術将校で有りアナハイム・エレクトロニクス社に出向して新型MSの開発に関わっていた事により運命は変わってしまった。
本来の時間線ならばグリプス戦役にて反連邦組織エゥーゴに参加しMSパイロットとして活躍していたのだが、この時間線では違った。
アナハイム・エレクトロニクス社にて開発中のTMSであるアナハイム・ゼータ機の開発に父親のフランクリン・ビダンと母親のヒルダ・ビダンが熱中していた事から彼も親の都合で開発が行われているコロニーへと引っ越していた。
父親のフランクリン・ビダンは元上司であるテム・レイに対して強いコンプレックスを有しており、打倒テム・レイ、打倒ガンダムを標榜して止まなかった。
元々カミーユは自身のコンプレックスであるカミーユと云う名前が女性的な響きを持つ事から殊更男っぽい言動や行動を取る事が多く、長く空手の修練を積み、ミドルスケール・モビルスーツの開発や操縦を行ってきた。
そしてフランクリンは思ってしまった。
倒すべきテム・レイの息子は彼の開発したガンダムのパイロットとしてテストパイロットを若い頃から行っていた。
自身の血の繋がりを持つテストパイロットが開発に役立つのではないか、と考えてしまったのだ。
当然の事ながらその矛先は自身の息子であるカミーユに向けられた。
幸いな事にカミーユもMSに興味があり、空手で鍛えた強靱な肉体と健全な精神を持っている!
彼は強権を振るい、ゼータ機のテストパイロットに自分の息子を就ける事に成功したのだ。
彼のコンプレックスはそれだけでは無く、MSの頭部デザインにデュアルアイとV字アンテナを採用し、自分の開発したMSこそテムの開発したMSよりも優れた存在だと主張した。
だがトランスフォームモビルスーツの開発は難航し、結局はイプザロン星系へと移動してからも機体の改良は続いておりビダン一家もアナハイム・エレクトロニクス社開発チームとして全員がククト星まで出張していたのだった。
親のエゴによって遠いイプザロン星系へと連れてこられてしまったカミーユは当然親に対して言いたい事があった。
だが自分が今違う星に宇宙旅行していると云う事実は嫌いじゃ無かった。
自分がテストパイロットをしているゼータ機は複雑怪奇な変形機構を有し、高性能を誇っていたのだがそれ故に変形時に異音が聞こえたり、妙な振動が止まらなかったりと開発が順調では無い事が感じられたが、それでも父と母が作り上げたMSに乗っているのだ、誇らしい気持ちだって持っていたのだ。
そんな彼に思いもしないトラブルが降りかかったのはククト星上に展開した前線基地での事だった。
アナハイム・エレクトロニクス社は前線基地にアーガマ級で乗り付け、一角を開発チームの工房として使用していた。
イプザロン星系への侵攻部隊にはアナハイム・エレクトロニクス社の顧客となっているコロニー群が連合部隊を結成して参加しており、基本的に宇宙軍に配備されていたのだがそれら顧客のサービス部隊は宇宙に残りゼータ計画開発チームだけが地上へと進出していた。
やはり地形の影響が戦場に出る事から地上に降りたのだ。
さて、テストパイロットとして忙しいカミーユだが、メインの扱いはハイスクールの生徒身分で有り、通信は出来ないが通信教育にて単位の取得をしている。
しかしテストパイロットとしての任務が終了してノーマルスーツを着たまま軍人が多く居る軍事区画のアナハイム・エレクトロニクス社出張所へ戻る時、同じアーガマに乗っている整備員のアストナージ・メドッソが後ろから近付いて来た。
彼は優れたメカニックとしての腕を買われて連邦軍で整備兵をしていた時にフランクリンに抜擢されてゼータ計画に参加していた。
アストナージは現場で良く連む年下の少年が不自由を囲っていないか気になっていたので、勤務後に良く声を掛ける事が多かった。
「カミーユ! 今から飯か?」
「アストナージ、それよりも先にシャワーを浴びたいよ。基地の待機室にもシャワールームとか作れないのかよ」
「まあまあ、今日の改良箇所の具合は…」
そこへ通り掛かった金髪リーゼント(ポンパドール)の何やら目を見張った男性の連邦兵が愕然とした表情で呟いた言葉が二人に聞こえてしまった。
「カミーユって名前なのに、なんだ男か」
コンプレックスを踏まれて一瞬で頭に血が上ったカミーユは振り返って拳を握る。
「! カミーユが男でなにが悪いんだっ!」
「カミーユ止せ」
アストナージが制止しようとカミーユに手を伸ばすが、空手で鍛えたカミーユの右腕は既に殴り掛かる覚悟を完了しており荒々しく突進する、がその男の姿が見えなかった。
空振りする正拳突きの姿勢でカミーユは一瞬固まるが、傍に居たもう一人の軍人が地面にしゃがみ込んだその発言をした金髪リーゼントに声を掛ける。
「傷は深いぞ~、大丈夫かジェリド、ジェリド?」
「なんだぁ~、おとこかぁ~」 orz
「致命傷だな。泣くなよ。ご愁傷様」
流石に地面に踞る男に追撃する気は無いのかカミーユは鼻息も荒く金髪リーゼント、ジェリド・メサに声を掛ける軍人に訊く。
「なんなんです? コレ」
「あ~、話すと長くなるんだが。以前遠目でカミーユと呼ばれる少女の後ろ姿を見て一目惚れしたらしくてな。その正体を知って今精神崩壊している所だ」
「うわっ、キモ! 俺、ノーマルですけど」
「そうだろうな。こいつもノーマルだし」
相棒のカクリコンがそう言うが、ジェリドはうつろう精神が変な方を向き始めたのかブツブツと不穏な発言を始める。
「ブツブツ、いやもしかしたら男でもいけるかも」
「いけねーよ!」
思わずカミーユが持っていたノーマルスーツのヘルメットでジェリドの後頭部をスパーンと叩くと漸く正気に戻ったのかキョロキョロと辺りを見回すと胡乱げな顔をしながら立ち上がる。
カクリコンの顔を見ると判断を仰ぐが、カクリコンはひと言だけ言った。
「ジェリドが悪い」
「そっか。…すまん、大変失礼な事を言ってしまった。俺は連邦宇宙軍のジェリド・メサ少尉だ。気を悪くしたなら謝る。すみませんでした。ごめんなさい」
「分かってくれたなら、良いよ。次からは気をつけてよね」
「ああ。二度と間違えないし、揶揄したりもしないと誓おう」
「だったら良いや。それじゃ」
まだ引っかかる所はあるようだったが、ジェリドが迷わず頭を下げて謝罪の言葉を述べたのが良かったのかカミーユは許した。
「良いのかカミーユ」
「…正直気分は悪いけど、ちゃんと謝ってくれたのって初めてだったから。許す事にした」
「そっか。偉いぞカミーユ」
「ちょっと、止めろよアストナージ」
こんな出会いをしたカミーユとジェリドであったが、これで後に親友になるのだから人間関係というのは不思議である。
◇ ◆ ◇ ◆
ククト星はククトニアン発祥の地でありイプザロン星系に三つ存在する可住惑星の中でも一番ククトニアンの生存に適した環境を持っている自然惑星である。
だが現在のククトニアンはイプザロン星系の巨大ガス惑星の軌道上にある小惑星帯に建造されたスペースコロニーにて文明圏を築き上げて惑星上には住んでいない。
彼らは過去の内戦で核戦争を起こしてこれらの惑星を放射能汚染によって人の住めない環境に置いてしまった過去を持つ。
千年を超える期間を経た今となってはもはやスペースコロニーが彼らの第二の故郷となってしまったのだが、大規模な惑星改造を続ける事で漸く惑星への可住が可能な状態にまで持ってくる事が出来たのだ。
だがそこに地球人達が移民先を探して進出してきてしまった。
生来の性質は穏やかなククトニアン達は話し合いで解決すべく動いていたが、地球軍は問答無用で武力侵攻によって惑星上に植民地を作ってしまったのだ。
もともとイプザロン星系を根拠地とするククトニアンが全力を以て戦いを挑めば植民地軍しか持たない地球軍はイプザロン星系から追い出されるしか無かった。
そして得られた地球人捕虜はこれ幸いと惑星上で人間が暮らす事が可能かどうか検証する為のモルモットとして最も重要なククト星に捕虜収容所が作られたのである。
この時間線の地球連邦政府は直ちに奪還の為に軍を派遣したそうだが、この時間線では何故かイプザロン星系へと至る事が出来なかった。
現在は近隣の星系にてキャンプしていざとなったら直ぐに駆けつける体勢を取って居るそうだが、その目処は立っていないしイプザロン星系との連絡は取れていない。
現在地球圏から派遣されてきた地球連邦軍とジオン軍、コロニー連合軍は地球人捕虜の奪還と反政府軍の支援を行う為にククト星宙域を占拠した。
地球圏がバイファムの時間線と半端に縁を結んでしまった星で他星系への進出が阻まれている為に、縁を切る目的だ。
地球軍がククト星に侵攻を始めてククト軍の戦力を叩くまでに3ヶ月掛かった。
その間にも宇宙ではククトニアンの現在の根拠地であるスペースコロニーから派遣されたククト軍との攻防が行われており、地球軍も戦力を消耗して充分に運んできた軍事物資も消耗が激しかった。
人類史上初めての恒星間戦争であり、根拠地が近い防衛戦では無く遠く離れた星系に自らが攻めるのは地球圏で内戦していた頃とは桁が違う兵站の苦労があるのだ。
現在、戦争計画の最終段階に入っており、ククトニアンの反政府軍との交渉と自分達の時間線とこの世界が繋がってしまった原因と目されるモノリス、リフレイド・ストーンの解析を反政府軍の精神的指導者で技術者のサライダ博士に依頼し、何時でも解除出来る算段が付いたのだ。
地球圏に閉じ込められた地球人類が自らの世界で大宇宙へと飛躍するにはこの世界との繋がりを断たなければならない。
その為には彼らが地球に帰還してからククト側でモノリスの作用を止めなければならないのだ。
その間、反政府軍と駆逐艦レーガンで地球の民間人を保護しなければならない。
よって地球軍は反政府軍の戦力増強を手伝い、ジュピトリス級大型艦の工業区画にてARVに似た機動メカの製造と譲渡を行い、反政府軍の軍事訓練を行っていた。
敵の敵対勢力の訓練を行う事は古今東西の国で行われており、古くは大日本帝国でインド独立の為の軍事訓練を行っていたし、中東の反政府勢力の訓練を米軍が行う事も良くあった。
手を噛まれる事も良くあったが。
さて、救出した民間人はこの世界の住民である、なので連邦軍がククト星を立つ際には反政府軍に護衛を任せた輸送艦に搭乗の上で軌道上で待機し、時空融合現象が解除された後に星系外へと待避する手筈になっていた。
その艦隊の中には駆逐艦レーガンと練習艦ジェイナス号の姿もある。
現在イプザロン星系にはバイファム側の連邦宇宙軍の戦力はその2隻しか存在していない。
その為にガンダム側の地球連邦軍が超光速航行でイプザロン星系から旅立って24時間はモノリスの効果を解除出来ない。
バイファム側の世界の連邦宇宙軍が最速で駆けつけたとしても24時間プラスαは2隻の戦力、実質駆逐艦レーガンだけの戦力とククトニアン反政府軍の戦力だけでククトニアン政府軍の攻撃から民間人の乗った艦船を守り抜かなくてはならなかった。
既にモノリス・リフレイドストーンはジェイナス号のカーゴから反政府軍の軍艦の格納庫に移されており、反政府軍の首脳級メンバーであるサライダ博士が何時でも機能を停止しエクストラ力線の放出停止を行えるように準備が進められていた。
時間稼ぎならばククトニアンの根拠地であるスペースコロニーに攻撃を掛ければ効果的なのだが、民間人が多く住む為に憚れた。
よって現在はククト星軌道上にRB-79Mボール機雷散布ポッド装備タイプを動員してMNB-05E浮遊機雷の散布を行っており、機雷原にて敵の動きを抑制しようと画策している。
とは云っても機雷の数は限られているので敵の想定航路上へ航行を阻害するように機雷散布を行っており、どれだけ時間を稼げるかは時の運次第であった。
地球連邦軍が帰還の為の準備を整えていると、駆逐艦レーガンからバイファム7号機がククト星から宇宙(そら)へ上がってきていたホワイトベースの前へ移動してきた。
FAM-RV-S1バイファムは模擬戦用の練習弾と破壊力の無いレーザー発振器を取り付けたビームライフルを携えている。
それに応えるようにホワイトベースからRX-178ガンダムMkⅡがカタパルトを使わずにMSデッキから姿を現した。
こちらもバイファムに合わせるように火器管制システムのモードを訓練用に切り替えていて、ビームライフルの出力を訓練モードに変更している。
最後の模擬戦。
アムロのガンダムMkⅡとロディのバイファム改7号機は艦隊の外側に移動した。
他の機体が存在しない空虚な空間で2機の機動兵器は100メートル程の距離を開けて向かい合った。
「やあロディ、こうして演習をするのは何回目だったかな」
「さあ。もう憶えていないけど、僕の方が勝ち越しているんじゃ無いかな」
「はは。じゃあこれが最後の演習だ。決着をつけようじゃ無いか」
「掛ぁ~かってきなさいぃ」
「言ってろ」
既に幾度も訓練で対決してきた二人は合図も無しに空気で試合は始まる。
ロディは対アムロ用にセッティングして来た乱数プログラムのパターンAをバイファムに走らせ、適宜新しい乱数パターンに切り替えながらランダムな機動を織り交ぜて回避しながらガンダムMkⅡの周囲を飛行して行く。
RV、ラウンドバーニアンにもアンバックの概念がある。
ただMSほど利用率は高くない、機体各所に配備された姿勢制御用のバーニアが最適な働きが出来るようにビームライフルを構えた基本姿勢を保ったまま、そして態とバランスを崩す為に足の角度を変えたりしてニュータイプ、つまり高い理解力と直感を持つ能力者に対する欺瞞(フェイント)を織り交ぜる。
アムロは相手機の動きを見て直ぐに回避パターンを理解し未来位置を予測してビームライフルを構え直すが、アムロの理解力を識っているロディがパターン変更を次々と行う為に引き金を引くと外れてしまう事が理解出来てしまうので迂闊に撃つ事が出来ないで居た。
「ちぃっ相変わらずちょこまかと」
「へんっ! 何度アムロと戦って来たと思っているんだ。今度こそ決着をつけてやる」
「望む所だっ! ロディィイイイッ!」
接近戦用の武器を持っていないのがRVだ。
よってMkⅡは無理にでもバイファムに接近を試みるが、バイファムの機体各所に内蔵されたバーニアは伊達じゃ無い。
最大出力で左サイドのバーニアを噴かすと右にスライドするように機動が変化し、空かさずビームライフルを発射する。
だがアムロもNTの素質を持つエースパイロットである。
機体をロールさせつつ回避行動を取り、返す刀でビームライフル(出力低下中)をバイファムへと向けた。
ロディは複数のバーニアを使い、直線運動しか出来ない宇宙(そら)で大気内の様に曲線を描いて回避行動を取らせていた。
2機は入れ替わり立ち替わり有利な位置を取ろうとしてドッグファイトを続けていたが、遂に時間が来てしまった。
『兄さんっ』
無線のスピーカーから流れてきたのはロディの弟のフレッド・シャッフルの声だった。
「フレッド、男の間に」
『時間だよ』
「…そうか。すまないな。アムロ、時間だってよ」
「しょうがないか。決着は、機会があればだな」
「ああ、それが限りなく零に近い確率だとしても、だな。サヨナラだ、アムロ」
「さよならロディ」
2機はそれぞれの母艦に帰還し、来たるべき時を待つ。