実験機、RX78ガンダムはテスト機であり技術検証機である。
そのメインパイロットは設計者テム・レイ博士の子供であるアムロ・レイが務めている。
RVバイファムのパイロットが同い年のロディ・シャッフルであり、比較検討の為にアムロがVRシミュレーターの相手を務めていたがその成績が優秀であったので実験機のサブパイロットに登録された。
ガンダムの動作パターンは確立して無くほぼマニュアルでの対応になってしまったのだが、アムロの操るガンダムはシミュレーション上でバイファムに対して対等以上の成績を叩き出してしまった。
その後、シミュレーターの結果だけで無く実機での有用な技量を発揮して貴重な動作データーを提供した事からテストパイロットとして正式に登用されてしまった。
そこで得られた動作パターンは量産型GM79ジムの基礎データーとして性能向上に役立っていた。
実はテム・レイ技術将校はアムロ・レイの登録に反対したのだが、テスト機専用の実戦には出さないと云う確約の元、渋々と従ったという顛末があった。
現在ではガンダムの持っていた、ジムの動作パターン習得と云う役割はほぼ無くなっていたが、実験機で有り拡張性の高い機体はオプション開発の開発母体として運用が続けられていた。
宇宙世紀0079年11月中旬、アムロ・レイはサイド7の軍事区画にてガンダムのコクピットに座って起動準備に入っていた。
本日は軍事区画の中心軸にある無重量区画の桟橋に係留してある外宇宙練習艦ジェイナス号に訪問する事になっていた。
アムロは既に実機の起動にも手慣れたもので、起動スイッチを押して内蔵するミノフスキー=イヨネスコ核融合炉を立ち上げて行く。
火が入るとガンダムの機体を動かす為のエネルギーが貯まって行き、起動シーケンスが進んで行く。
ガンダムは屋内の駐機スペースに立て掛けてあり、既に直立状態であった為に自律歩行システムが動作して機体を固定していた支柱から切り離されても2本足で自律的に立っていた。
アムロが徐に操縦桿を倒して機体を前進させて建屋から外へ出ると、そこにはロディの乗ったバイファムが待っていた。
「遅いぞアムロ」
「別にそんな事無い。燃料電池よりも核融合炉の方が立ち上げに時間が掛かるだけだよ」
「そうか。準備が出来たならジェイナスへ行こうか」
そう言うとロディは上を指さす。
コロニーの中心軸に小さく見えるが、鉄骨の骨組みみたいな桟橋に馴染みのあるサラミス級巡洋艦の他にガッシリとした艦とお椀が付いた骨組みみたいな船が接舷している。
アムロは普段から見ては居たが、接近禁止区域の為に見ていただけであり実際に近付いたり乗艦するのは初めての経験だった。
バイファムとガンダムの2機は近くの演習場へと歩行させて行くと、長く平坦な地面の端に辿り着いた。
「それじゃ、先に行くから、付いて来いよアムロ」
「分かったロディ、だけどガンダムにはスリングパニアーは付いてないんだからさ」
バイファムは背中に背負ったスリングパニアーを起動させて主翼を拡げると、コロニーの回転方向とは逆方面に向かって走り出し、自機をコロニーの内側に貼り付けさせていた遠心力を打ち消しながらメインスラスターを大きく噴かして空中に浮いた。
主翼による揚力も相まって急上昇すると、そのまま大きな弧を描いて空中待機した。
続いてガンダムも走り出し背中のランドセルのバーニアを噴かしてジャンプした。
一度遠心力の軛から離れて上空に上がると自機とは関係なく地面が流れて行き、地面と同期して流れて行く空気が機体正面に当たり抵抗となって後方へと押し流そうとする。
アムロはランドセルのメインバーニアだけで無く、足裏に設置されたバーニアも噴かしてベクトルを調整してバイファムへと接近して行く。
中心軸に近付く程に風の影響が少なくなり、また若干気圧が下がる為に抵抗が少なくなる事で操縦し易くなっていった。
「アムロ、ジェイナスの人工重力はメイン格納庫のカタパルトから有効になるから注意しなよ」
「分かった。遠心力じゃ無い本物の人工重力を経験するのは初めてだから緊張するよ」
「ははは、慣れればそんなに緊張する事も無くなるさ」
ロディは慣れた感じでバイファムを接近させてカタパルトから着艦する、それをアムロは見様見真似でトレースするが人工重力が働いている区画に入った途端に急に1Gが掛かった為に反射的にバーニアを噴かしてしまう。
機体制御のコンピュータープログラムにも対応するパターンが入っていなかった為、ガンダムはバランスを崩したまま格納庫の床に足を着いてしまい大きくバウンドしながら着艦した。
「だから言ったのに」
「こんなの言われたって分からないよ。でも次はちゃんとやって見せるさ」
アムロは負けず嫌いを発揮してロディに言い返す。
「そうだな。それじゃ遺跡がある格納ポッドは船体とエンジンユニットを繋ぐブームの後部にあるんだ。テム博士もそこに居るって話だから行こうか」
「うん。行こう」
ふたりは格納庫からエアロックを抜けて通常与圧区画にあるエレベーターに乗り込み船体下部にあるブームへの接続区画へと来た。
「ここから先は重力制御が切ってあるから注意して、通路の横に移動式のハンドルがあるからそれを掴んで」
「流石にそれ位は僕たちの船にも用意してあるよ。これだろ」
そう言うとアムロは通路左側の取っ手を握り、先端のスイッチを押し込みながらクンッと力の掛かる取っ手を放さない様に握り混んだ。
幸い加速はそれ程でも無く、放り出される事も無く順調に通路を引っ張られながら進む。
「あ、目的のカーゴは次だから」
「了解」
アムロは取っ手のスイッチを放しながら足を通路に床に触れさせる。
靴の中に仕込まれた磁性体が通路に吸い付き、天井に空いた丸い扉の下に直立する事が出来た。
続いてロディも横に立ち、天井に向かって飛び上がった。
天井の扉付近にコンソールが付いていてスイッチを押すと丸い扉が開く。
カーゴはブームから外して独立して運用する事も可能なので、丸い耐圧扉となっている。
そして一歩中に足を踏み入れると人工重力が効いている為、タイミングを見て縁に足を掛けないといつまで経っても真下に落ちて行って中に入れないのだがロディを見てコツを掴んだのかアムロも卒なくカーゴの中に入る事が出来た。
ニュータイプ能力の発現であった。
「おっ、来たかアムロ、ロディ君」
カーゴの中で線量計や計測機器を持った一団が遺跡の入ったコンテナの蓋を開けて調査を行っていた。
ほとんどが白衣を着て学者然とした格好をしていたが、中には連邦軍の制服を着た人物も数名居た。
内の一人がテム・レイである。
彼はアムロ達を認めると声を掛け手招いた。
「父さん。これが」
「ああ、対アストロゲーターの切り札となるかも知れん遺跡だ。調査中だがな」
テムは作動原理のサッパリ分からないモノリスを見上げながら呟く。
するとロディが口を挟んだ。
「守護神(ガーディアン)、俺たちはこれのお陰でアストロゲーターの攻撃から逃れる事が出来たんです」
「異星人から聞いたと云う話しだったな」
「ええ。異星人の反政府活動をしているレジスタンスの方が教えてくれたんです。これにはアストロゲーターの持つコンピューターを狂わせる能力を発揮する様に機能を切り替えたんだって」
「ほう、機能を切り替えたと。すると以前は別の機能を持っていたのかね?」
「ええ、話によると元は破壊された自然環境を甦らせる機能を持っていたそうです」
「ああ、なるほど。だからこんな所に苔が生えていたのか」
テムがコンテナの下部を見ると、宇宙船の内部には生えそうも無い苔の仲間が薄らと生えていた。
「機能を切り替えても効果がなくなる訳では無いんですね」
「うーん、どうにも分からないんだ。調べてみてもただの石のモニュメントにしか見えないんだが、確かにエクストラ力線と呼ばれる電波らしき物が放出されている。いるのだが、どうやって放出しどんな効果があるのか。現代地球の科学力では類推すら不可能なのだよ」
「そうなんですか」
「私は技術屋視点での見解しか出せないが、類似性のある技術は存在しないな。もしかするとピラミッドパワーに類似するかもだが」
テム・レイ技官としてはお手上げの状態であったのでそれ以上の見解を述べるのは止めて置いた。
そのエクストラ力線は出力、効果範囲、原理が基本不明であり、再現性も低い事から換えの効かない重要なファクターとして重要視されていた。
敵が注目するファクターであろうが、これを最優先で攻撃してくる程に重要視しているのか、そうで無いのか。
主流となっているのが、「敵が戦争を仕掛けてくるなら」、人口が密集しているコロニー群の多いサイド3の外郭からの侵入が可能性が高く、本丸たる地球本土への攻撃が目的となる可能性が高い。
地球連邦も恒星間戦争の経験が無い為、戦争の手順が掴めず四苦八苦しているのだ。「宣戦布告は行って来るのか」、「否、既にクレアド星で先に地球人が戦争を仕掛けているでは無いか」、「熱核兵器の運用は合法なのか?」、「核融合爆弾と核分裂爆弾では扱いが異なるのか」、「そもそも恒星間戦争に戦争法は存在するのか」、「講和を主とした戦略なのか、絶滅戦争が基本戦略では無いのか」、分からない事だらけである。
その混乱の中で、連邦政府は恒星間航行技術の塊である恒星間航行能力のある船が存在するサイド7を重要視して精鋭部隊であるテネス・A・ユング大尉が参加している連邦宇宙軍の艦隊が遊弋している。
かなり過保護な扱いとなっているが技術の保存の点では必要なのである。
そんな感じなので、バイファムとガンダムの宇宙空間での模擬戦でも監視の為のジムが部隊単位で張り付いているし、EWACS装備を搭載した戦闘艇の哨戒も厳しく行われている。
この時点でミノフスキー粒子の散布は戦術として採用されなかったので、電波探知は通常通り行われている。
ミノフスキー粒子による電波障害や電子回路の動作不良現象は恐ろしい事に地球の技術にしか効果が無いらしいと云う事が判明していた。
遺跡の格納されているカーゴにミノフスキー粒子を充満させてみたが遺跡にもエクストラ力線にも何の変化も現れなかった事が実験で示されていたのだ。
この結果を得て、ミノフスキー粒子の散布は自分の首を絞めるだけだと判明したので有視界攻撃だけが使用出来る訳では無くて、普通にレーダー射撃が可能なのだが機動兵器に対して誘導ミサイルは効果が薄い。
実際、RVはその環境でも有効に使用され戦果を上げた。
人型兵器無用論を声高に上げる派閥も多かったのだが、進んだ科学を持つ別の地球で採用されたのだという事実。
その為も有ってMSの採用は進められたのである。
閑話休題。
カーゴ内にはアムロとロディの二人が揃っており、ここの所テムを悩ませていた事柄を説得するには最適な場所で有ると気がついた。
普段アムロの僚機を務めるリュウ・ホセイとジョブ・ジョンの意見も聞けるし、説得力が増すと思われたのだ。
「あー、アムロ。そしてロディ君」
「なんだい父さん」「はいレイ博士」
「君達が軍に志願したと云う報告を受けているのだが」
「僕はこんなに上手にガンダムを使えるんだ。皆(みんな)の役に立てるんだよ父さん」
「そうです。それに俺はすでに敵と戦った経験があるんです、ここで戦わなければ何時戦うって言うんですか」
「本当にそんな事を言ったのか。ダメだ。私は私の考えの基に反対する」
「一方的すぎる。決めつけないでよ父さん」
「敵が攻めてきてるのに黙っていられません。俺たちが戦えば戦闘が有利に進むんですよ」
テムは頭痛を堪える様に額に手を当てるとかぶりを振って否定する。
「まず聞いてくれ。君達が興奮しているのは分かった、敵が攻めてきているのに、味方がやられようとしているのに何しないでは居られない、座して待っては居られない、それは理解した。そうだな?」
テムが確認するとアムロとロディは言いたい事はありそうだが、頷いた。しかし、周りに居る軍人達の顔は不満げだ。
「まず社会的な理念として少年兵は禁止されている。実戦に参加して良いのは成人後となる」
「そんなに待ってられないよ」
「そうです、味方が殺(や)られる所なんてもう見てられない、我慢出来ません」
「ロディ君、君はそういう経験をして来たんだね。報告書は読んだよ。イプザロン星系第三惑星クレアド。そこがアストロゲーターに襲撃され脱出、逃避行の末に軍人達、民間人の大人達が君達未成年者を守る為に次々に犠牲になり、そして未成年の君達自身が戦わざるを得ない状況に追い込まれてしまった。だから君は自ら出撃しようとしている、そこで培った経験が自信がそうさせるんだ。君にとっては軍人であっても守る対象なんだろうな。だがそれは傲慢という物だよ」
「だけど俺たちはそうやって生き延びてきたんだ。俺が戦わないと軍人でも大人でも死んでしまうんだ!」
「ロディ君。私がモビルスーツを開発したのは子供達を戦場に出す為じゃない。子供達を私にとってはアムロを戦場に出さない為に開発したんだよ。我々軍人が命を掛けて戦うのは民間人を守る為なんだ。それは我々軍人が軍人として立っている何よりの誓いなんだ。なあ、リュウ・ホセイ君、ジョブ・ジョン君」
テムがそう呼びかけると後ろで黙って聞いていたリュウ・ホセイは堰を切った様に口を開いた。
「そうだぞアムロ、ロディ。確かに生活の為という面もある。だが、軍人として戦いに身を投じる覚悟をしているのは民間の人達を守りたいからなんだ。連邦政府の暴力装置として銃を掲げているのは伊達や酔狂じゃあないんだぜ」
「俺もだよ。軍隊に入隊した時にも連邦に忠誠を誓ったけど、正直実感したのは実際に戦争が始まるってなってからだけどな。俺が生きている内は未成年の君達を戦場に出す気は無い。モビルスーツの操縦ではまだまだ君達に負けるかも知れないが、民間人を守る為、共に戦う仲間を守る為、俺は戦えるのさ」
二人の話しを聞き終えてもなお、アムロとロディは不満げで表情を消し切れていないがテムは話を進める。
「私は息子を戦場に出したくなくてガンダムを作り上げた、アムロが一番上手く扱えたのは意外だったがね。今の連邦軍に未成年の少年兵を在籍させる制度は存在しないし、民間人のまま戦争に参加するのは論外も良い所だ。寧ろ味方の邪魔にしかならないからね。だが、将来の君達の針路を縛るつもりは無い。もちろん親としての私はアムロが軍人の道に進むのは大反対だ。だが職業選択の自由は連邦市民の基本的人権のひとつだからな。邪魔立ては出来ん。もっとも早い道なのは連邦士官学校予備校の受験が15歳から、士官学校は18歳から受けられるぞ」
「別に士官なんか」
「一歩兵として前線に出たいというのかね? 君達が希望の任務に就ける自由はほとんど無い。士官としてならある程度選択の余地はあるがね」
「・・・考えて置きます」
「それが良い。逸る気持ちは分かるがね」