機動戦士バイファム   作:EINGRAD

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第七話 木馬

 無限に広がる大宇宙。

 そこを舞台にした恒星間戦争で最大の障害物は何か。

 それは単純に母星系と侵略先までの膨大な距離である。

 単純に兵力を輸送するだけで労力を使うのに、侵攻先の拠点を定めて定期的に兵器や生活物資、交代人員などの補給を行わなければ兵站が破綻してしまう。

 歴史的に見れば、豊臣秀吉が朝鮮出兵を行ったのも、フィリピンを拠点として極東の支配を進めていたスペインに対して膨大な兵力を以てしなければ日ノ本を軍事的に侵略は出来ない事を誇示する事が戦略的な目的であったとする説まである。

 当時大明帝国の征服を狙っていたスペインは橋頭堡として日本列島を狙っていたが、スペインが侵略時に行っていた政治的人道的免罪符である『勧告』(レケリエミント)が日ノ本に宣告された場合、日ノ本の民は正義の名の下に大虐殺されてしまいその国体を失っていた可能性がある。

 当然それを防ぐ為に日ノ本としては武威を誇示する必要があった上、地球の裏側のスペインからそれだけの兵力を航海によって送るのは費用対効果に於いて難しく、実施していれば王国の財政破綻する時期が早まっていたはずだ。

 距離の暴虐は文明が地球外へ発展しようとも無くならず、ましてや大宇宙が相手である。

 移動の規模も相手が兵力の少ない植民星なら兎も角、文明の中心地たる根源地を相手にするのであれば相当数の兵力の輸送が必要となる。

 その点、異星人ククトニアンは幸運であった。この地球は恒星間航行技術どころか重力制御システムすら保有していない未開の原住民であったのだ。

 この点、豊臣秀吉支配の日ノ本クラスのバイファム世界ではなくインカ帝国クラスのガンダム世界と例えられるだろう。

 だがしかし、既に宇宙進出の手掛かりを掴みつつ重力制御技術の習得を急速に進めている地球連邦は反抗の牙を研ぎ澄ましつつあった。

 まずは地球圏に土足で足を踏み入れているククトニアンの軍勢をどうにかしなければ安定した発展は望めない。

 地球連邦政府およびジオン自治区は敵勢力の把握から調査を進めていた。

 

  ◆ ◇ ◆ ◇

 

 サイド7、グリーンノアには最新鋭のモビルスーツ運用能力を付加したペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベース(SCV-70)が入港していた。

 現在、ミノフスキー・イヨネスコ核融合炉と熱核ロケットエンジンを装備した通常型宇宙船であるペガサスの船体を実験型人工重力発生装置の取り付け及びエンジンブロックの交換により試作型恒星間航行用ドライブを艤装する作業に入っていた。

 ただ、飽くまで実験的に作製した部品がどれだけの効果を持ち、実用性を図る目的での実験艦であり、正式な人工重力対応の恒星間航行型宇宙強襲揚陸艦としては完成が遅れた1番艦ペガサス以降が予定されている。

 ホワイトベースは地球上の連邦軍地下基地ジャブローの建艦ドックで起工され、1番艦ペガサスにエンジンの不具合が見つかったが起工が遅かったホワイトベースはエンジンブロックの設計変更を行い不具合の改善を行った。

 だが実際に運用した際にエンジンの不具合が見つかったのだが艦船用ブースターで地上より打ち上げられて、エンジンの不調を騙し騙しここへ入港していた。

 艦長はパオロ・カシアス中佐であり、新造艦である事から集められた士官の中にはブライト・ノア少尉の姿もあった。

 やはりこの世界の士官としては異世界の恒星間航行技術を搭載した宇宙船は興味の対象であるらしく、半舷上陸の際に艦長のパオロは新任少尉のブライトに声を掛けた。

 

「ああ、ノア少尉。私はこれから例の外宇宙練習艦へ見学に行くのだが、一緒にどうかね」

「は、同行させて戴きます。パオロ艦長」

「うむ。いや、興味深い存在だ。今後、我々人類も太陽系外へ、深宇宙へと足を伸ばす時が来る。私がもう少し若ければそれを体験出来たかと思うと、新任の君を羨ましく思ってしまうよ」

「は、恐縮であります。しかしパオロ艦長の深い経験こそ連邦軍には必要なのでは」

「宇宙海賊に対する戦闘経験しか無い私には過ぎた評価だな。寧ろ冷静にイレギュラーに対処出来る能力の方が重宝されると思うぞ」

「柔軟な対応が必要と云う事ですか?」

「行き当たりばったりとは違うがな」

 

 二人は連れだって造船ドックから回転軸近くの無重力区画に係留されている外宇宙練習艦ジェイナス号に移動する。

 歩哨に許可証を提示してから二人はジェイナスの入り口に近付くが、歩哨の兵隊から注意が飛ぶ。

 

「エアロック内部から人工の重力が効き始めますので、姿勢には注意してください」

「ありがとう。パオロ艦長、私から試してみますので」

「すまないな。最近足腰が弱ってきていてな。寄る年波には適わんよ」

 

 まずブライト少尉がエアロック内部に入るとふわっとした無重量状態から少しづつ床に対する重力が強くなっていった。

 エアロックの二枚の扉を潜り終えると通常の重力に変化し、ブライトは床を踏みしめる事が出来た。

 

「これは・・・、本物の重力だ。凄い、これが重力制御か。パオロ艦長、エアロックの内側から重力を感じます、気をつけて下さい」

「ああ、了解だ。ふむ、遠心力の疑似重力の違和感は無いな。純粋に垂直の引力を感じる。進んだ科学技術とは恐ろしい物だ」

「時期に私たちも手に入れられます。その為にホワイトベースをここまで運んできたのですから」

「うむ。期待に震えるな」

「ええ。ところで案内のナビゲーターがいませんね」

 

 ブライトがエアロックの周辺を見渡すが艦の上部構造に合わせて弧を描く通路は見渡しが悪く、周囲に人影は無かった。

 正面に大型ディスプレイがあったが、艦の構造と通路の表示がされているだけで特に興味のある内容では無かった。

 キョロキョロとした後、艦内通路の確認をしようとしたブライトであったがセンサーが起動したのか『ビキッ』と警告音が鳴った後、合成された女性の声が聞こえた。

 

『現在、ジェイナス号は省人モードで運用されています。御用の方は最寄りの受話器をお取りになり艦橋までご連絡下さい』

「あぁ、すまない」

『どういたしまして』

 

 アナウンスに従いブライトが受話器を取ると自然に繋がりPRRRと音が鳴る。

 

『はい、ジェイナス号艦橋です』

「ああ、今日見学を申し入れたパオロ・カシアス中佐以下一名だが」

『あ、もう時間でしたか。済みません今迎えに行きます』

「早くしたまえよ。軍人たるモノ、時間にルーズであるなど許される物では無いのだからな」

『すいません、直ぐ行きますので』

 

 ガチャッと受話器を置く音がして電話が切られた。

 ブライトが士官学校を出たばかりの生真面目さで憤慨しているのをパオロは微妙な表情で見ていたが、暫くすると通路の奥から走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「どうもすいません。遅れました」

「遅い。軍人ならば、って君は」

 

 ブライトが近くに走ってきた青年になりきれていないハイスクールにて高学年位の年齢の少年の姿を見て戸惑いを浮かべる。

 

「あ、はい。まずは自己紹介から。僕はこのジェイナスの元艦長を務めていたスコット・ヘイワードです。現在はサイド7のハイスクールに通っています。あとジェイナス号の管理の為、時折ジェイナスの様子を見にきているんですよ」

「艦長、って君がか」

「ええ、敵の攻撃から避難している最中に軍人の方達、民間の大人達が戦死してしまった為、僕たち子供だけでジェイナスを運用しなければならなかったんです。不本意ながら僕が一番年上だったので」

「そうなのか。取り合えず案内を頼みたいのだが」

「はい、それではエレベーターで艦橋に上がりましょう」

 

 スコットが案内しながら通路を歩くと艦の中心を貫く吹き抜けの構造となっていて、その中心にエレベーターが縦に走っていた。

 

「エレベーターに掛かっている通路には重力が掛かっていますが、吹き抜け部分には重力が掛かっていません。物を落とすと回収には手間が掛かりますので注意して下さい」

「ああ。なんとも凄い光景だな。艦の中に吹き抜け構造、気密が低下したら艦全体に影響が出そうだが」

 

 エレベーターに乗った三人はジェイナス号の艦橋に位置する階で降り、中央通路にあるリラクゼーションを目的としたレクレーション通路を通って艦橋へと向かった。

 

「この艦は新兵の方達が長期航海に慣れる為に自然の風景を活かしたリラクゼーション施設が充実しています。吹き抜け構造も閉所恐怖症対策に作られたと聞いています。恒星間航行は長期に渡る事が多いので」

「なるほど。戦闘艦にしては長閑な作りだと思ったが、そう云う」

「ええ、老朽艦ですが、沢山の兵隊さん達の練習艦として活躍してきたらしいです」

 

 艦橋に辿り着くと、スコットは頭上の大スクリーンにジェイナスに記録された戦闘映像を映し出す様に指示する。

 

「ボギー、記録映像を映してくれ」

『了解しました』

 

 そこに映し出されたのはクレアド星脱出から始まった異星人ククトニアンとの交戦記録の数々であり、作戦傾向とトラブル、指示の内容と敵戦力と味方戦力の比較などがグラフで映し出され、スコットは説明し慣れているのか淀みなく解説している。

 

「兎に角、僕の方針としては味方が被害を受けない様に、障害を排除する方針でやって来たつもりです。本物の軍人さんからしたら基本がなっていない、敢闘精神が足りないと叱られてしまうかも知れませんが」

 

 スコットがそう言うとパオロ艦長は直ぐに口を開く。

 

「いや、大した物だ。そしてそれは結果が示している。スコット・ヘイワード君。君は立派に艦長として、リーダーとして仲間を導いてきた事が見て取れるよ」

 

 自信なさげに云うスコットに対してパオロ中佐は手放しで褒めちぎる。

 照れた様に頭を掻くスコットであったが、ブライトは冷徹に疑問を投げ掛ける。

 

「だが、もっと敵戦力の削減を優先する方針も採れたのでは無いかな。敵に対する妨害が掛かっていたのならその混乱の隙を突いてだな」

「僕たちは自分たちが生き残る事で精一杯でしたし、敵の行動には困惑する事ばかりでした。それまで接近戦で確実に攻撃してきたのが急に超遠距離攻撃に切り替わったり、僕たちの状況は孤立無援で、少なくとも1光年の距離に戦力を持った味方は一人も居なかったんです」

「1・・・光年・・・」

「はい、少なくともイプザロン星系内の地球軍は軍隊組織として全滅していました。独立して行動出来る戦力は僕たち以外に存在が確認出来なかったんです。仲間が敵に倒される事なんて絶対に許されません。僕たちは全員で生き残る事が第一に優先される事だったんです」

「それは確かに、戦力の保持が優先される状況だと同意せざるを得ないな」

「そこまでにし給えブライト少尉。少なくとも実戦をくぐり抜けた彼は最善の行動を取った事は事実なのだ。士官学校で習った理想論は結果論の前には無力だよ。寧ろ貴重な戦訓として彼の行動を分析するべきだと考えられる」

「確かにそうですね。このシチュエーション。優勢な敵勢力の渦中から1艦のみで味方勢力まで移動する等と云うシチュエーションが有り得るとは考えられませんが。少なくとも味方からの補給は有り得る状況で無ければ継戦する事も危ういはずです。それを評価するならば、まさに奇跡的と云っても過言では無いかと」

「そう云う事だ。もしも積極的に敵に攻撃を等と考えていたら全滅も有り得る、と云うか、いや無事で何よりだよスコット君」

「ありがとうございます」

 

 少なくともベテラン士官から高評価を得て安心したのか、スコットによる以後の説明も問題なく行われてパオロ中佐とブライト少尉の見学も無事に終了した。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 ジェイナス号とファーストコンタクトを行ったマゼラン級宇宙戦艦ゲイバッハは一年近くになる地球帰還軌道を辿り漸く地球圏へと帰還していた。

 超光速航行技術を持たずに、それに追いつこうとした結果接触後の減速に一年近く掛かってしまった。

 だが、完全な無駄では無かった事が帰還後のフライトデーターから抽出された。

 小惑星帯付近まで移動したゲイバッハの記録映像に不自然に移動する小惑星のデーターが残されていたのである。

 それは一路に地球圏へと向かっていた。

 規模としては鉱山資源として運ばれてきた小惑星ソロモンよりも小型ではあったが、推進軸と思しき構造体が飛び出しており、ジェイナス号から提供されたククトニアンの人工惑星タウト星に類似していた。

 それが現在地球圏に侵攻してきているククトニアン軍の根源地として機能している正体であると結論付けられた。

 

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