愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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7.相手の口元に付いたソースを拭う感じのムーブって実際にやろうとすると照れくさいからふつうに指摘しちゃうよね

 

「はい。アラビアータお待ちどうさま」

 

 カウンター席に座った二人に、マスターがスパゲティを出してくれる。

 

 ニンニクと唐辛子の効いたトマトソースパスタ。それがアラビアータだ。

 

 アントワープで出しているアラビアータは、基本的な具材としてベーコンとタマネギ。あとは季節モノが入る。

 今日の季節野菜は、アスパラガスのようだ。

 

「いただきます」

 

 紅久衣がそれを口に運ぶ。

 

「あ、美味しい」

 

 唐辛子もニンニクも、量が抑えられているのか、口に入れた時にガツンとくるようなインパクトはない。

 

 インパクトはないけど仕事をキッチリするニンニクの後を引く味。

 それと一緒にじわじわと広がる唐辛子の優しい辛さ。

 

 トマトソースの酸味と旨味に、ベーコンの塩気、タマネギの甘さもいい。

 

 全体的に優しい味でスルスルと食べ進められるけれど、でも決して弱いワケでは無く、ニンニクと唐辛子が、どんどんと味の奥へと引きずり込もうとしてくるようだ。

 

「美味しいよね。なんていうか、優しいのにのめり込むと深みにハメられて溺れさせられそうな危ない味がするアラビアータ」

「リヒトくん、もうちょっとマシな言い方なかった?」

 

 自分も似たような感想を抱いたことを棚に上げて、紅久衣はツッコミを入れる。

 

「粉チーズでコクをプラスしてもいいし、マリーシャープスで刺激を強めても美味しいんだよ」

「マリーシャープス?」

「タバスコ系のホットソース。ハバネロと柑橘で作られたヤツで、タバスコよりもシャープな味がするんだ」

「へー」

 

 美味しいけど刺激が物足りなかった紅久衣は、マリーシャープスなるソースを垂らす。

 タバスコ系のホットソースということなので、とりあえず少量だ。

 

「これ、いいわね」

「ちなみに、ここのアラビアータ……基本はこれだけど、辛さをプラスできるよ」

「次からは刺激が強いの頼むと思うわ」

「また今度食べるのは決定なんだ?」

「こんなに美味しいんだもの」

 

 ニコニコと訊ねてくるリヒトに、紅久衣も笑ってうなずく。

 

 リヒトは、自分が働くお店の料理を紅久衣が気に入ってくれたのは嬉しい。

 紅久衣は、美味しいモノが食べられて嬉しい。

 

 そうして半分くらいまで食べたところで、マスターがコーヒーを出してくる。

 

「アラビアータセット専用コーヒーお待ち」

「セット専用?」

「カレーとアラビアータだけは、料理に合う専用ブレンドのコーヒーを淹れてるんだよマスター」

 

 リヒトの解説に、紅久衣は「へー」と感嘆した。

 

「こだわってるんですね」

「ああ。趣味と実益を兼ねてるんだ。趣味を深掘りするのも悪くはないだろう?」

 

 ニヤっと笑うマスター。

 本当にコーヒーが好きなのだろう。

 

「海鮮丼に合うコーヒーってのも考えたいんだが」

「海鮮丼諦めてなかったんですか?」

「だって美味いだろ海鮮丼」

「美味しいのは認めますけど」

「喫茶店で海鮮丼――二番煎じとはいえまだまだ斬新で映えると思うんだがなぁ……」

「カレーやスパゲティよりも一杯あたりの手間、大きいと思いますよ。それにまとめて作るのが難しいですから。混んだ時、海鮮丼かまけるあまりにコーヒー淹れたりする時間が無くなってもいいんですか?」

「……なるほど。それは困るなぁ」

 

 リヒトの説得にマスターは嘆息すると、頭を掻きながら仕事へと戻っていく。

 

「マスターって何気に映えとか気にするのね」

「忙しいのは嫌だけど閑古鳥も嫌なんだって」

「それはまた難儀ねぇ」

 

 苦笑しながら、紅久衣はパスタの最後の一口を口へと運んだ。

 それからコーヒーを傾ける。

 

「美味しい……なんていうか辛さやニンニクの活躍を落ち着かせてくれる味っていうか」

「単体で飲むとフルーティな酸味が強いブレンドなんだけど、アラビアータを食べながらだと、それがちょうど良く感じるようになってるんだよ。

 トマトの酸味とはケンカしないし、苦みや甘みが、紅久衣ちゃんの言う通り唐辛子の辛さや、ニンニクの香りを落ち着かせてくれるみたいだし。

 配合比率が絶妙すぎてマネできないんだよね」

 

 自分でブレンドしようとすると、この味を作るのは難しい。

 リヒトがそう説明しながら紅久衣の方を見ると、彼女のほっぺたにトマトソースがついているのに気がついた。

 

(なんかこういう姿も可愛いなー)

 

 それを指摘しようとして、リヒトはふと固まった。

 

(ハッ!? こういう時、どう指摘するとスマートなんだろうか……?)

 

 素直にソースが付いているよと言えばいいのか、黙ってほっぺたを拭ってあげるのか……。

 あるいはマンガみたいに、指先で拭ったあと自分でペロリとするのか……。

 ダイレクトにほっぺたを舐めるというのも、見たことがある気がするが……。

 

(ダ、ダイレクトはダメだよね……すぐに仲良くなれたとはいえ、今日出会ったばっかりだし)

 

 指で拭ってペロリくらいはいつかやってみたいが、今はそれをする勇気はない。

 

「リヒトくんどうしたの? なんか百面相してるけど」

「ええっと」

 

 考え事が表情に出てしまったらしい。

 リヒトは誤魔化すように苦笑しながら、申し訳程度にほっぺたを示した。

 

「紅久衣ちゃん。ほっぺたにソースついてる」

「どっち?」

「えーっと、右」

 

 彼女は慌てて、テーブル備え付けのペーパーナプキンを一枚手に取って右のほっぺたを拭う。

 

「取れた?」

「うん。取れた。大丈夫」

「あやうく変なお化粧して外を歩くところだった。ありがと」

 

 そうお礼を口にしてから、紅久衣が、リヒトの顔へと手を伸ばしてくる。

 

「どうしたの紅久衣ちゃん?」

「リヒトくんのほっぺたにもついてる」

「え?」

 

 すると彼女は、リヒトのほっぺたを指先で拭うとそれをペロリと口にした。

 それから、リヒトに笑いかけてくる。

 

(もしかして、紅久衣ちゃんの方がボクより男前なのでは?)

 

 ドキドキしながら固まってしまたリヒトは、そんなことを思うのだった。

 

 

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