青春は子供の顔をしていない   作:TTオタク

10 / 10
正月休みを活かして投稿です。今回は対アケミ戦開戦直前の話です。次回からバトルが始まります。

もしよろしければ高評価、感想などよろしくお願いいたします。


さあ開戦まであと───

『それより、本当に良かったのですか? わたくし達を戦列に加え入れるなんて』

 

 交戦地域への行進中、セラが無線越しに私に言う。本隊である私の中隊の前を進軍するのはセラのスケバン部隊だ。

 

 セラと同様、学園への恩赦や情状酌量の余地を狙って私たちに協力する事を選んだ連中だ。

 

 あの性悪なトリニティ上層部が下々に同情するとは思えないが、一応サンクトゥス(セイア)ヨハネ(ミネ)、一応シスターフッド(サクラコ)にも伝手はあるのだ。なんとかなるだろう。

 

「戦争は数よ、セラ。ましてあの巨人(アケミ)を相手にするのだから壁役は多いに越した事はないわ」

 

『随分、はっきりおっしゃいますわね……』

 

 呆れたようにセラは言う。壁役がそんなに不満なのだろうか。

 

「分かり切った事を隠してどうするのよ。指揮統率ができない部隊の使い道なんて他に無いんだから張り切って頑張りなさい。別に死にはしないわ」

 

 そう説明するしかない。同数で戦うにしても抜きん出た強さをしているアケミは強敵だ。こちらには対抗戦力がない以上、数で押すしか無かった。

 

『中隊長、よろしいですか』

 

 そうこうして話しているとドローン部隊から連絡が入った。私はセラに断って通話を切り替える。

 

『敵部隊の規模ですが、想定よりも規模が大きいかもしれません』

 

 その言葉と共に端末に送信された動画を確認する。端末に映し出された映像には、撤退する第3分隊を追撃するアケミのスケバン部隊が映っていた。

 

「これは、600……700人くらいかしら。大隊規模はあるわね」

 

『はい、私たちもそう判断いたします』

 

 優れた軍人は瞬時に人数を数えられるのだ。私の目算に狂いは無いだろう。

 

 対して私たちはセラのスケバン隊を含めて200人強しか居ない。3倍以上の戦力差になる。正直予想外だ。なにせこれだけの規模の部隊の接近に気づかないとは思っていなかったのだ。

 

 だがそれ以上に気がかりな事があった。

 

「ドローンの監視体制に漏れは?」

 

 暗に「あなた達が見落とした可能性は」と私は部下に聞いた。普通なら責任転嫁の意図に聞こえてしまうだろうが、私の考えは別にあった。

 

『いえ、機材人員共に通常通り、監視体制に漏れはありませんでした』

 

「よろしい、ならあなた達に責は無いわ。監視を続けて頂戴」

 

 『了解、監視を続行いたします』という部下の言葉を聞いて、通信を打ち切った。

 

 私は部下を信じることにした。訓練でも問題無く動けていたし、偵察範囲を考えれば今の今まで気づかない事は考えにくかった。期待された役割を果たしている以上、部下を責めるのは酷だった。

 

 それに以前、第3小隊が奇襲され忽然と姿を消したことを考えれば、何かしら予想外の事が起こっている証左だ。

 

「こういう時、私ならどうするかしら」

 

 もし私が何かしら、敵の意表をつける移動手段を持っており、敵を大きく上回る兵力を有しているのならどうするか。それについて思考を巡らせる。

 

 少なくとも相手は警戒に当たっていた第3分隊に馬鹿正直に正面攻撃を仕掛けてきた。敵もあの分隊が本隊でない事は承知の上だろう、ならなぜ奇襲のチャンスを無駄にしたのか。

 

 スケバン達に隠密行動は不可能だし、大隊規模で全く発見されずに隠密行動は無謀だろう。だからと言って正規兵で構成された部隊を、民兵レベルのスケバン達がひそかに討ち取るのも無理だ。

 

 だから正面攻撃しかない。であるなら、根底から作戦プランが間違っている事になる。

 

 私たちとスケバンに決定的な機動力の差は無い。ひたすら撤退戦に徹して救援を待てば私たちは勝てるのだ。もともと行軍速度はこちらの方が速いのだし、自治区の領土内である以上、援軍も期待できるからだ。

 

 つまり、私たちを正面攻撃で撃破するのは確実性に欠ける手である。できない事はないだろうが、未確認の移動手段という切り札を用いてまで行う作戦ではない。

 

 ならば、と。私は無線で指示を飛ばした。

 

「撤退用意! ブービートラップに警戒しながら北上するわよ」

 

 私なら、少数精鋭の潜伏部隊を用いるだろう。相手部隊の撤退経路はあらかじめ予測できるし、地雷や狙撃で行軍速度を遅らせ、橋や建物の破壊などで道を迂回させるなどして本隊が追いつけるようにする。

 

 キヴォトスでは傭兵業が盛んだ。特殊技能を持った人材だとて、金さえあればどこでも手に入るのだ。この規模の攻撃を行うのならばそれくらいはしてきてもおかしくはない。

 

 相手がこちらに悟られずに移動できる以上、相手は攻撃のフリーハンドを握っているのだから。

 

 だからこそ、一刻も早く撤退するべきなのだ。

 

 私は先遣部隊を派遣して退路を確保するべく指示を出そうとしたところ、無線が飛び込んできた。

 

『待ってくださいっす! 撤退ってどういう事っすか。第3分隊を助けに行くんじゃなかったんっすか!』

 

『そうですわ! 今なお絶望的な状況で奮闘している同胞を見捨てなさるおつもりですか!』

 

 イチカとセラだ。私はため息を吐いてしまう。道徳の上では助けに行くのが正しいのは理解できるが、今の状況ではどうしようもないのだ。

 

 それを説明すべく私は口を開いた。

 

「相手の戦力だけど、確認できるだけでもこちらの3倍強は居るわ。そこに近づいていくなんて自分から大砲の砲口に頭を突っ込むような物よ。私は自殺志願者じゃないし、部下もそうじゃないわ。道徳心で部下を道連れにしたくはないのよ」

 

『だからと言って同胞を見捨てる理由にはなりませんわ!』

 

 即座にセラが反論してくる。道理よりも倫理と道徳を重んじるような言い方、まるでミネみたいだった。

 

 私はまた一つため息を吐いて諭すように言う。本当はこんな事に時間を使っていられないのだが、セラを離反させてただでさえ絶望的な戦力差をさらに広げるような真似はしたくなかった。

 

 それに、セラやイチカが捕虜になる可能性も捨てきれないのだ。それだけは避けたかった。

 

「無理な物は無理よ。別に殺されるわけじゃあるまいし、勝って回収すればそれでいいでしょ」

 

『連れ去られて身代金を請求される可能性もあるっすよね。そうなればユミ先輩は応じるんっすか?』

 

「それは───」

 

 ───応じない。

 

 それが私の答えだ。やるとしても特殊部隊による救出作戦くらいだ。犯罪者の要求に応じるのは権力者として一番やってはいけない事だからだ。

 

 まして神出鬼没の相手である。進軍経路が不明な以上、逃走経路も不明だ。一度連れ去られてしまえばは絶望的だろう。

 

「それは上が決める事よ、私が断言できることじゃないわ」

 

『なら、彼女たちは見殺しになりますわね。わたくしがそうであったように』

 

 セラの声色はひどく冷めた物だった。まるで興ざめだと言わんばかりの態度で、私はそれが気に入らなかった。

 

 端的に言えば、拗ねたガキみたいな態度にムカついたのだ。

 

「あなた、もう少し賢いかと思っていたのだけど。買いかぶりだったかしらね。あなた手柄を立てたいんじゃないの? そんな近視眼的な見方しかできないから失敗したのよ、もう少し視野を広げて目標を見据えてみたら?」

 

 目標を見据えてどうするべきか、何をすべきか考えて行動しろ。そんなありきたりな説教だった。

 

 私の言葉にセラは少し待って、はっきりとした口調で話し始めた。

 

『ええ、おっしゃる通りですわ。わたくしは愚かで、馬鹿馬鹿しい事をしようと言っています。ですが、そうせよと仰ったのは他ならぬ貴女でしょう。ユミちゃん』

 

 セラの声色は聞き取りやすく、一言一句に含まれた感情すらも読み取れるようであった。

 

 まるで優れた楽器が奏者の感情の発露を豊かに伝えるように、セラの言葉には不思議と感情を読み取らせる力があった。

 

『わたくしの誇りを守れと、意地を押し通せと、あんなに必死に説いてくださったではありませんか。そんな貴女だからわたくしは信じたのですよ? 他ならぬ、トリニティの貴種である貴女を』

 

 わがままを押し通すから協力しろと、先ほどの契約を持ち出してくるのだ。美しく響く声色で、私の感情に訴えてくるのだ。

 

 分かっているとも、だが現実はそうじゃない。そう説得しようにも、口下手な私は口を挟むことができなかった。

 

 なにせ、相手は女優で弁護士だ。言葉を発する事においては私よりも何枚も上で、割って入らせない呼吸の取り方は完璧だった。

 

『「三冠王」獅子王セラは戦列を共にした仲間を見捨てませんわ。例えそれが数合わせの肉壁としての役割であろうとも、見捨てるのは「憧れを背負うもの(トップスター)」の振る舞いではありませんもの』

 

 穏やかに、美しく、そう言い切ったセラに、私は言い返す事は出来なかった。まるであのすみれ色の瞳に見つめられているようで、詭弁を弄する気力すら無かった。

 

 いいや、本心は違うのかもしれない。セラの言葉に宿った誇りと信念に、少しばかりの尊敬を抱いていたからかもしれない。自らの道を誇れなくなった私と違って、まだ彼女には守れる誇りがあるのだから。

 

『私もセラ先輩に賛成っす。ここで見捨てたらスケバン達は付いて来ないっすよ。直属の味方ですら見捨てるのなら、外様の自分たちは……と考えるのが普通っす。それに───』

 

 イチカは咳ばらいをして言う。声色は緊張していて、察するに勇気のいる言葉のようだった。

 

『私に全部見せろとけしかけて、その通りに全部さらけ出して後戻り出来なくして、ようやく自分を見つけられそうな所でこれは、流石にどうかと思うっすよ。ユミ先輩』

 

 だから責任、取ってくださいね。暗にそう言い含めた言葉だ。

 

 別にあれはけしかけたつもりじゃない、そうなのかと推測を立てて、その特性を発揮できる場所を用意してやっただけだ。

 

 凶暴さが役に立つ自覚を得られる場所など後でいくらでもある。別にここに拘る必要はないはずだ。

 

「あなた達ね……」

 

 私は親切で言っているのだ。敵軍に包囲殲滅された末路がどういう物か、知っているからこそ言っているのだ。

 

 そんなに包囲下で冷たい泥にまみれながら救援を待つのが好きなのか? 捕らえられて敵の理性と温情に自分の身体を委ねたいのか? 自分の感情で部下を地獄に送り込んで、その縁者に顔向けできるのか?

 

 問いただしてやりたかった。あなた達は最悪の事例を見た事が無いからそんな暢気な事言っていられるのだと。

 

 『汚物を出すべき場所』から自分の銃で生きたまま串刺しにされた狙撃兵の顔を見たことがあるのか。

 

 『生命を生み出す場所』に照明弾を撃ち込まれて泣き叫び死を願う仲間を手にかけた事はあるのか。

 

 『女性美の象徴として誇るべき物』を刃物で切り取られさらし者にされた亡骸を片付けた事はあるのか。

 

 何も知らないくせに、まやかしの戦争で平和ボケしているくせに。あなた達がそうなる可能性がゼロじゃないから、私は気を使って危険から遠ざけてやろうとしているのに、それを無碍にするのだ。

 

 部下を犠牲にする苦痛からも、遠ざけてやろうというのに。

 

「ああああ! もう!」

 

 私は怒りに任せて廃墟の壁を蹴った。コンクリートの壁に穴が開いて隣に居た部員が青い顔をしていたが、気に留めるだけの余裕は無かった。

 

 私は無線のスイッチを入れ、怒鳴ってやった。もう知らない、意地を守って死ねの意図を込めての叫びだった。

 

「もういい! わかったわよ! 私が優しいからって調子に乗って! いいわよ、そんなに苦しみたいなら血反吐くまでこき使ってあげるから、あとで後悔するんじゃないわよ。今から一秒も休まさせないから覚悟しなさい!」

 

『ってことは……』

 

「そうよ、助けに行くわよ。お望み通りね。死に物狂いで頑張りなさいよ、あなた達が限界以上に働くこと前提で戦わせるから!」

 

 私は脳内でプランを再構築する。賭けだらけの勝ち筋だが、二人が死に物狂いで頑張れば達成できるだろう。

 

『まあ、それは素敵ですわね。その方がきっと楽しいですわ』

 

『使えるものは全部使うのはいつも通りじゃないっすか。平気っすよ』

 

 平然とそうのたまう二人に、地獄を見るプランを立てながら私は地図を見渡す。

 

 合流までは良い、問題は撤退時だ。三倍の敵を相手取りながら、伏兵や罠に気を配りつつ撤退するのだ。前衛にイチカ、後衛がセラだとしても指揮官が足りない。

 

 激戦になる以上、信頼ができて粘り強さと勇敢さが持ち味の指揮官がもう一人くらい欲しいのだが。

 

「ない物ねだりをしても仕方がないわね」

 

 そう言って私は撤退の命令を撤回し、再び第3分隊と合流する進路に進み始める準備をした。

 

 その時だった。

 

『第1中隊へ、こちら救護騎士団所属、蒼森ミネ。感度良好でしょうか』

 

 聞こえてきたのは、ひどく聞きなれた声で。

 

「こちら第1中隊長、蒼森ユミ。聞こえているわ」

 

『正義実現委員会本部より救援を要すると連絡を受けました。10分ほどで合流可能な位置に居ます。いかがなさいますか』

 

 ああ。素晴らしく勇敢で、粘り強く、何よりも信頼の置ける指揮官。今まさに欲していた存在。だが何より、誰よりも危険な目にあってほしくない存在が近くに来ていた。

 

 ミネがあんな目に遭ったら、きっと私は耐えられないだろう。

 

 だが勝ちを確実にするためにはミネの力が必要だ。

 

 私は迷った。だが、すぐに結論を出すことができた。

 

「座標データを送信するわ。ここで合流しましょう」

 

 結局のところ、勝つしかないのだ。私は常に賭けに勝ち続けてきたのだ。勝利こそが私の立場と未来を切り開くのだから。

 

 

 セラはユミの指示の通り、第3分隊や救護騎士団との合流地点まで進出し、待機することになった。

 

「それでは、よろしくお願いいたします。セラ先輩」

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

 セラの目の前で上品にお辞儀をする生徒、蒼森ミネ。彼女とは早めに合流することができたのだが、その風貌をセラはまじまじと見つめていた。

 

 ユミの姉妹と説明されたのだが、全く似ていないのだ。身長も体型も顔だちも、翼が生えている以外は似ている要素は皆無だった。

 

 そんなセラの疑問を感じ取ったのかミネは苦笑しながら言った。

 

「似ていませんよね、義姉妹ですから当たり前なのですが」

 

「まあそんな、美人姉妹でとっても羨ましいですわ」

 

 うふふと笑いあう二人。セラの言う『美人姉妹』の評は何もお世辞だけという訳では無かった。

 

 実際ミネは年齢に不釣り合いな位に大人びた美貌の持ち主で、スタイルも出るところは出ているグラマラスな体系だ。それで背も高いのだから、いわゆるスーパーモデル体型という奴だろう。

 

 だがその義姉(ユミ)は全く印象が違った。やせぎすの貧相な体つきに、女性としてはかなり高い背丈。スタイルの良いやせ方と言うよりも、痩せた子供のような寸胴体型だ。

 

 その上顔だちも少女然とした可愛らしい雰囲気をしていて、背丈が無ければ子供っぽい印象を与えただろう。だがその無垢な雰囲気が不思議と人を惹きつける魅力になっているような人だ。

 

 背の高いセラにとっては二人とも10cm以上低い関係上、背の高さによる威圧感が通じないため体格と顔の印象をもろに受ける事による感想だった。

 

 だからセラは、最初はミネが姉かと思ったものだ。だが義姉妹という話には驚かなかった。容姿もそうだが、雰囲気があまりにも違いすぎたからだ。

 

 そんなミネに、セラは改めて礼を言った。

 

「それに加勢していただけて大助かりですわ」

 

「いえ、救護騎士団員として当たり前の事をしたまでです」

 

 つくづく似ていないな。セラはそう思って苦笑する。毅然と答えるミネの姿は清廉潔白な理想主義者そのものであり、理想家でありながらも諦観を抱いた現実主義者なユミとはやはり違っていた。

 

『三人とも聞こえる? 改めて作戦を説明するわよ』

 

『聞こえてるっすよ。乾度良好っす』

 

 セラとミネの耳に無線越しのユミの声が聞こえる。三人というのはイチカを含めてだ。イチカは現在二人から大きく離れた地点で任務をこなしているため、ここに居ないのだった。

 

『ミネ・セラ部隊は進出して第3分隊を回収。そのまま遅滞戦を行いながら12km先にある橋に後退して頂戴。イチカ部隊はその橋までの経路を確保、到着したら橋と渡河準備に移ってもらうわ。私の部隊は部隊間の隙間を攻撃されて包囲されないように機動防御に動くわ、道中の罠の解除は私とイチカが担当するから、後衛の二人は速度重視で撤退して。ここまではいい?』

 

 作戦はありきたりな後退戦だ。撤退路を確保する前衛部隊と、敵軍を抑え込む後衛部隊。中衛を務める部隊は二つの部隊の間隙を突かれないように動くことになる。

 

 そのため部隊編成も目的に応じて分かれていた。ミネ・セラの後衛部隊は歩兵部隊を主体とした編成で、重機関銃も装備していて火力は十分だ。

 

 スケバン達はまとめてこの部隊に入れた。行軍速度よりも少しでも頭数を用意したいのと、前衛にして勝手に逃げられるのを防止したかったからだ。

 

 逆にイチカの部隊は周囲からかき集めた自動車やバイクを装備して速度を優先して移動させた。トラップの危険はあるが、それ以上に退路の橋を破壊される危険の方が問題だった。多少の犠牲は出るだろうが回収するなり逃がすなり、イチカに何とかさせるつもりだ。

 

 そして中衛の私の部隊は中隊本部付小隊とドローン部隊、工兵部隊、セラの砲兵、歩兵戦闘車で構成されていた。撤退する後衛の支援と、前衛の支援のための偵察、残ったトラップの解除をする段取りだ。

 

『いいっすよ、問題ないっす』

 

「ええ、わたくしも問題ありません」

 

「私も同意です、姉様」

 

 その解答を聞いたユミは作戦の注意事項を説明した。

 

『それで注意事項だけど、相手は多分、地下経路で移動しているわ。おそらくだけどね。だから空爆や砲撃の類は効果が薄いかもしれないし、いきなり不意を突いた位置に攻撃をしてくるかもしれないわ。それには十分注意する事』

 

 これはイチカとセラはこの説明前に聞いていたので驚きはしなかったが、それでも困惑する気持ちはあった。このトリニティ自治区の長い歴史で地下経路を使った犯罪など聞いたことも無いのだ。

 

 だがユミとミネは違う。アリウス自治区の存在と、地下墳墓に繋がる巨大な地下通路の存在を知っている。特にユミなどは自らが地下経路を通った経験がある以上、その認識を強く持っていた。なおかつ、アリウスが攻勢に出てきているのを察知しているのだから当然だ。

 

『以上よ、いいわね。そろそろ第3分隊が合流する頃よ、ミネとセラは備えなさい』

 

 そうして通信は切られた。ユミの言う通り、ほどなくして周囲が騒がしくなってゆき、静けさが銃声と怒号でかき消されてゆく。

 

 物陰から一人の部員が姿を現す。酷い姿だ、制服は度重なる攻撃でボロボロになり、血と土埃の混合物が付着したせいで本来の意匠が分からなくなってしまっている。

 

 特に頭と足から流れる血の多さにミネは顔を強張らせ、今にも飛び掛からんばかりの様子だった。

 

「セラ隊長! ミネ隊長! 第3分隊長のミズキです。援軍ありがとうございます!」

 

 フラフラとよろめきながら敬礼するミズキの後ろから、一人二人と分隊員たちが姿を現す。その恰好はミズキと似たり寄ったりのひどい状態で、激戦の程をうかがわせた。

 

「セリナ聞こえますか、こちら要救護者多数。キットを纏めてこちらに来てください」

 

 ミネはその言葉と共にミズキの方に進む。救護対象として『救護』すべく武器を握りしめて力強くミネは歩いた。

 

「いや大丈夫ですよ。あたしはまだ戦えますって。ほら、血ぃ止まってますし!」

 

 ミズキは帽子を取って傷口を見せる。本人としては血が止まりつつあると認識していたのだろうが、それは盛大な誤認だった。

 

「えっ、うわっ! 目に入ったぁ!」

 

 帽子を取った途端、防止によってせき止められていた血がどくどくと流れ出し、ミズキの顔を覆う勢いで滴ってゆく。

 

「あなたはやはり、『救護』が必要なようですね」

 

「いやこんなの、拭けば何とかなりますよ。ね、みんな!」

 

 ミズキがそう言いながら振り向くと、分隊員たちは各々「隊長の言う通りですよ」「ミズキっちの石頭はこんなもんじゃ割れませんよ!」とボロボロの姿のまま元気いっぱいに答えてみせた。

 

「だから大丈夫です! よーし、戦うぞー!」

 

 ごしごしと袖で血をぬぐった後、血で濡れた帽子をかぶり直しミズキは笑顔を浮かべる。

 

 そうしてふらふらとしながら振り向き、もう一度部下に声をかけようとした所で、ミネは行動を起こした。

 

「救護!」

 

「ぎゃっ!」

 

 鈍い音がした。ミネの剛拳で頭を殴られたミズキはそのまま突っ伏し、動かなくなる。そのまま素早く包帯を取り出し、頭部と脚部に巻き付けていった。

 

「ちょっと! 何するんですか!」

 

 憤る分隊員に、ミネは治療行為で血に汚れた拳を振り上げて言った。

 

「私は怪我や病の元を取り除く事もまた救護の内と考えています。傷を広げるような事をしようとするのであれば、実力行使もやむを得ないとも。さあ、あなたたちはどうなさいますか!」

 

 分隊員たちはミネの迫力のある言葉に「いや、傷広げてんのアンタじゃん……」と文句を言いながらも大人しく従い治療を受け、追って到着したセリナの救急車に回収されていった。

 

 その様子を黙って眺めていたセラはふと、虚空に向かってつぶやく。

 

「似てない、という評価は撤回いたしますわ」

 

 ユミとミネ、この二人は間違いなく姉妹だ。話を聞かない所も、強情な所も、手段を択ばない所はそっくりである。

 

 蒼森家の伝統なのだろうか。そんな風に考えながら、セラは呼び出しておいた部下に目をやり、微笑んで見せた。

 

「貴女もわたくしも、同じ目に遭わないように頑張りましょうか。ね、カズサ」

 

「はぁ、チョロい仕事だと思ってたのに、なんでこんな事に……」

 

 数時間前イチカに飛び蹴りを喰らった猫耳の少女、カズサはため息をついて首を振った。

 

「もう、そんなこと言って。ここに居てくれているじゃありませんの、貴女は恩赦が不要なのでしょう」

 

「そりゃあ、まあ。乗り掛かった舟だし……」

 

 そう言って照れたようにカズサはそっぽを向いた。自分より30cmほど小柄な『子猫』のこの行動をセラは微笑ましく思いながらも、耳は戦場の気配を感じ取っていた。

 

「さて、暴れますわよ」

 

 セラは気合を入れるために、拳を手のひらに打ち付ける。その音の大きさたるや作業と指揮に奔走していたミネが振り返る程で、彼女の怪力ぶりをうかがわせた。

 

「『圧し折り(へしおり)のセラ』の実力。今度こそ見せてもらうからね」

 

 そう言うカズサの声に答えて、セラはウィンクをして見せた。

 

 ユミも、イチカも、後ほど知ることになるのだが、セラは盛大に猫を被っていた。

 

 いや実際、セラは政治的闘争の被害者であるし、野球が大好きな貧乏貴族の女子高生なのも間違いない。

 

 ただ、少しばかり()()()()していた時期があったのだ。

 

 その凄まじい膂力による攻撃が、代名詞となって語られる程度に。学園を追われ、不良たちと合流した際にすぐさま頭目として祭り上げられる程度に。

 

 ユミが案外お姫様気質だったり、イチカが信じられないほど凶暴だったり、ミネがかわいい物好きであったりと、人はだれしも別の側面を持つものなのだ。

 

 その別の側面の被害者が、そうとは知らずに現れた。アケミの指揮下のスケバン部隊である。

 

「さあ、首か腕か! 好きな方を選ぶといいですわ!」

 

 セラは響き渡るような声で叫んだ。乗り気でなかったユミ達との戦いと違い、これは名誉ある戦いである。ならば死力を尽くすのみ。

 

 セラの顔には、凶暴な笑みが浮かんでいた。




今回もありがとうございます。次回は1/4くらいには投稿したいです
(訂正)すみません。来週末には投稿します…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。