青春は子供の顔をしていない   作:TTオタク

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スケバン掃討大作戦
悪夢/イチカとの初陣


 宮殿の廊下を歩く私たちを大勢の人間が私を見ていた。青い顔をし怯え、あるいは赤い顔をして怒っていた。さぞ屈辱的で、恐ろしい気分なのだろう。

 

 それはそうだ、あれだけ見下し、馬鹿にしてきた私に負けたのだ。誰か適当に見繕って煽ってやりたいくらいだ。幸い言われた悪口もされた事も全部覚えているし、相手の顔も名前も経歴も忘れた事はない。

 

 だが、部下の手前流石にそれは自重する事にした。勝者とは寛容であるべきなのだから。

 

「見てたか、あのロイヤルブラッドがド平民の私に頭を下げたぞ」

 

「見てたわよ、スミカ。千年続く血筋とやらも、こうなったら形無しね」

 

 私の隣を歩く小柄な少女、スミカは嬉々として語る。私たちを取り巻く『お貴族様』たちとは全く違う、言ってしまえばガラの悪い雰囲気の少女だ。

 

 いや、別にガラが悪いのは彼女だけの話ではない。私たちの後に続く部下たちも、正直言って上品とは言えない連中だ。

 

 だが当然の事だ。血統主義の貴族連中と嬉々として殺し合いをしたい者など、『育ちの悪い』連中ばかりに決まっている。散々馬鹿にされてきた恨みつらみが彼女たちを団結させていたのだ。

 

「へっ、なーにが貴族だよ。苗字もロクに分かんねえ奴らに負けるんだったら、家名の誇りなんざ捨てちまえばいいのに」

 

「あら、私も『貴族』なんだけどその辺は良いのかしら?」

 

 ケラケラ笑うスミカに私は冗談を返す。既に没落済みとは言え、蒼森家はアリウスでも有数の歴史を持つ家名だ。

 大弾圧からのアリウス派亡命を指揮した一族、いわゆる『巡礼始祖』の一員である。だからこそ片親が不確かな私を、連中は蒼森家の後継として認めたがらなかったのだろうが。

 

「君は違うだろ。働きもしねえでプライドだけは一丁前のあいつらと、働きすぎで部下を倒れさせる君のどこが同じなんだよ」

 

 「ちったぁ反省しろよ?」と笑いながら肩をすくめるスミカ。それに私も笑顔を返した。

 

 スミカは私が皇帝になった後も気安いままで居てくれた。だからと言って私を侮っている訳ではない、むしろ私を熱心に尊敬している。だからこそ、その勇敢さも含めて私の一番の親友だった。

 

 そんな親友は、私よりも早くにある人物に気づいた。

 

「なあアレ、秤の継嗣サマじゃねえか?」

 

「……良く気付いたわね」

 

 帽子でその薄紫の髪を隠した幼子が、立ち並ぶ貴族の脚の間に立っていた。あの身内第一のロイヤルブラッドが敵対者である私たちの前に、身内の子供を出すとは思えない。大方、騒ぎに気づいてこっそり抜け出してきたのだろう。

 

「今、確か3歳だったわね」

 

 言葉は理解できる年齢だ。少なくとも私はそうだった。

 

「おい、君!」

 

 ちょうどいい。『あの女』の娘に文句でも言ってやろうと私は列を外れる。大急ぎで私の後を追う近衛を無視して、私は秤の継嗣の前に立った。

 

 周囲に居た貴族たちは私を恐れて蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。その結果、秤の継嗣は一人だけになる。

 

「あなたが秤アツコね」

 

 秤の継嗣、秤アツコは名前を呼ぶ私を不思議そうに見上げた。大物なのか、それとも愚鈍なだけか。周囲の怯えをまるで解さないようにその場に佇んでいた。

 

 アツコは垂れ目で、幸の薄そうな、母親とそっくりな赤い目で私を見つめた。あのバカ女と同じ目だ。愚かで、判断力が無く、自己犠牲を過大評価した裏切者と同じ目だ。

 

「あの人と同じで……知能の無さそうな顔してるわね」

 

 ようやく私が絞り出した言葉はそんな風で、自分でも呆れてしまう。私は帝政アリウスの皇帝で、あの女が屈した貴族連合に勝った英雄なのだ。

 

 なのになぜ気の利いた言葉も、格好の付きそうな皮肉も言い出せないのか。

 

 そうして私が次の言葉を継げずにいると強い力で腕を掴まれる。

 

「落ち着け、いくらあの暗君の娘つってもガキに喧嘩を売るもんじゃねえだろ」

 

 振り向くとそこにあるのはスミカの顔。いつもなら気分を落ち着けらっれるその存在も、今は無性に神経を逆なでした。

 

「離しなさいよ、平民のあんたに何が分かるの? 馬鹿なんだから大人しくしてなさいよ!」

 

「はぁ?」

 

 勇敢さの裏返しか、元々短気で喧嘩っ早い性格だ。スミカの表情はすぐに怒りに染まり、顔を赤くして怒鳴り始めた。

 

「その平民(わたし)が散々守ってやった君が言うのか? 私が今の地位まで押し上げてやったのに! その恩も思い出せねえなら皇帝なんてやめちまえ!」

 

「なんですって?」

 

 カッとなってスミカの胸ぐらをつかむ。私を守るのは役割として当然だろう。それを勝手に誇って偉そうにしやがって。むしろロクな教養が無かった所を色々教えて育ててやったのは私だろうに。

 

 私はそんな事を口にしようとした所で、何者かが服のすそを引いているのに気づいた。

 

「けんかは、だめだよ」

 

 アツコだ。小さな手で私の服を掴んで、じっと私をみつめている。

 

「黙りなさい、蹴り飛ばされたくなきゃ今すぐその手を───」

 

「けんかはだめ」

 

 怒る私にも全く怯まず、確かな意思でアツコは言う。宮廷育ちらしい気の強さで私を見つめ、世間知らずの善性で私たちの喧嘩を止めようとしているのだ。

 

 その姿が、あの人(母親)に重なって見えてしまって。

 

「離しなさい!」

 

 私は、私を掴む二人を振り払って突き放した。手は震え、呼吸が難しくなる。

 

 ムカつく、イライラする、私は未だにあの人の死を引きずっているのか。アリウスの支配者に成ろうという女が、そんなこまごまとした事を引きずっているのか。

 

「───気持ち悪い」

 

 私は感情の整理が追い付かないままそう呟き、踵を返して逃げ去った。後ろから聞こえる「見せもんじゃねえぞ!」と怒鳴るスミカの声も、必死に私を呼び止める近衛の声も無視した。

 

 なんて愚かな事をしているのだろう。自分でもそう思いながら足を止められない。

 

 走れと命令する本能を理性で必死に抑えながら、だが殆ど走るようなペースで足を進める。惨めな気持ちだった、だが上出来ではあっただろう。

 

 なにせ涙は流さなかったのだから。

 

 

 

 

 

「お目覚めっすか?」

 

「ああ私、寝てたのね」

 

 移動中の車内で、隣に座ったイチカの青灰色の瞳が私を見ていた。どことなく優雅な雰囲気を感じさせる眼だ。将来的にその端麗な容姿も相まって人気の先輩とかになるのかもしれない。

 

 私がそんな事を思っていると、イチカは安堵したように笑みを浮かべて言った。

 

「心配したっすよ、結構うなされてましたから。悪い夢でもみてたんですか?」

 

「別に、昨日寝不足だったから寝苦しかっただけよ」

 

 私は強がって嘘を吐いた。こういった夢の内容を誰かに話す気になれなかったのだ。

 

 それに寝不足なのは事実である。昨日ミネと一緒に寝た時、あの子の抱き着き癖のせいで夜中に起こされる事になったのだ。

 

 小さい頃は可愛らしかったあの癖も、今ではすっかり殺人業である。死した仲間たちの元に向かう理由が、死因『義妹の胸で窒息死』であったりしては面目が立たない。

 

 ミネ。

 

 私は心の中で義妹の事を想った。今は少しばかりあの子が恋しかった。

 

 私はミネにも悪夢の内容を話したことは無い。話したところで平穏な暮らしをしていたミネには理解のできない事ばかりだし、変に重く受け止めて心を傷つけてしまうのは嫌だからだ。

 

 それに悪夢の内容は多種多様に渡り、話しきるまでに長い時間をかける事になる。ミネとの大切な時間をそんな風に消費したくはなかった。

 

 けれど、たまに昔の話をした時には泣いてくれるのだ。泣いた後に私を抱きしめて、一緒に居ようとしてくれる。

 

 再会してまだそれほど時間が経っていないが、あの子が向けてくれる好意に甘えてしまっている。年上なのだから何とかしないととは思うのだが、やっぱり熱心に自分を好いてくれるのは嬉しいのだ。

 

「妹さんの事っすか?」

 

「は?」

 

 イチカは私をじっと見つめた後、突拍子もなくそんな事を言い出すので驚いてしまう。ミネの事など一言も口にしていないのに、一体どこで察したのだろう。

 

 イチカは目を逸らしながら言い訳のように話し始める。

 

「いや、うなされてる時にミネさんの名前呼んでましたし、てっきりそう言う事なのかなと」

 

「えっ、嘘でしょ」

 

 悪夢にうなされて、再会して間もない義妹に助けを求めたのか? なんて情けない。散々年上ぶっておいて、帰ったらどうやってミネに顔を合わせれば良いのか。

 

 そう思った所で先に対処すべき問題に気付く。まず目の前の後輩に私が『悪夢にうなされて妹に助けを求める女』だと思われるのを防がなくてはいけない。

 

 そう思い、私は困ったような態度で言った。

 

「妹はいつも厳しいのよ。やれ食事をちゃんと摂れとか、睡眠は何時間だとか、挙句は適正な運動量にまで口出ししてくるの。その事でうなされてたのよ」

 

「仲良し姉妹なんすね」

 

 イチカが笑ったのを見て、私は胸をなでおろした。良かった、信じてくれたらしい。

 

 それならば、と私は話を切り替える事にする。

 

「話は変わるけど、これからの業務について打ち合わせましょう」

 

 そうして私たちは今後の予定について話し合った。

 

 

「昨日もあの子は私の行動に文句を言ったのよ、いつからあんなに生意気になってしまったのかしら」

 

「あはは、そうなんすね~」

 

 イチカは適当に相槌を打つ。最初こそ今後の話をしていたのだが次第に話が逸れ始め、気づいたらユミによる愚痴風妹自慢大会が始まっていた。

 

 ユミがシスコンであるという噂自体はイチカも聞き及んでいたが、まさかここまでの溺愛ぶりだとは思っていなかった。

 

 イチカはユミに対して、第一印象では背が高く、高慢で神経質なプライドの塊という感想を抱いていた。

 

 実際に表情の作り方も険しいし、先輩への態度もどこか上から目線な物を感じさせる。なのに妹の話になれば声が急に柔らかくなるのだ。人間わからないものだとイチカは思う。

 

「全く、過保護なんだから。まあそういう所も可愛らしいのだけどね」

 

 ふふふ、と上機嫌に微笑むユミ。ハスミは「少し気位が高くて怒りっぽいですが、悪い人ではない」と評していたが、その評価が正鵠を射ているのかもしれないとイチカは思った。

 

 そうして話していると、車は目的地に到着した。ユミの中隊との合流地点だ。

 

 イチカは車を降りたが周囲に迎えらしき人影が無い事に気づく。

 

「あれ、迎えとか無いんっすね」

 

「現代戦ではこういう将校対応は厳禁なのよ。ドローンとか狙撃とか手段は多いからね」

 

 得意気に答えるユミ。常在戦場の心得なのか、イチカはそう思いながら周囲を見回した。襲撃を警戒して停車位置に人を並べなかっただけで、流石に部員と合流はするはずだからだ。

 

 案の定、数名の部員がこちらへ向かって来た。

 

「さて、お手並み拝見ね。早速業務を始めましょうか」

 

 ユミがイチカの方を見て笑った。先ほどの淑女然とした優しい笑顔とは打って変わって、肉食獣のような獰猛な笑みだった。

 

 

 

 

 

 イチカは戦場に居た、合流初日に戦場に放り込まれたのだ。流石に作戦の説明こそ受けたが、噂に違わず人使いの荒い人だ。イチカはそう思いため息をつく。

 

 瞬間、周囲を爆風が駆け抜けた。スケバンの放ったロケット弾がほんの1m先に命中したのだ。

 

「陣形を崩さないで! 反撃するっすよ!」

 

 イチカは声を張り、指揮下の小隊に指示を出す。確かに爆発物による攻撃はキヴォトスの人間にとっても脅威だ。だが隊列を崩して地面に這いつくばる必要がある程ではない。

 

 飛び散る破片や爆風も、キヴォトス外の人間が感じる『脅威』とは比べるべくもない。破片に当たったところで痣ができるくらいで、当たり所が悪くても気絶するくらいだ。爆風も同様である。

 

 なので連携が取りやすく、気絶した仲間の援護をしやすいよう緊密に部下を配置する事が多くなった。それに正義実現委員会の部員たちの本業は学生である、あまり複雑な作戦や自己判断は望めなかった。

 

 それに、密集した陣形の理由は攻撃面にも存在した。

 

「よし、今っす!」

 

 イチカは小隊に射撃をするように促す。部員たちは小銃を一斉に発砲し弾幕を形成する。キヴォトスの外の基準で考えれば明らかな過剰火力で、弾薬の浪費であった。

 

 だがこの行動が正解である事は、結果として表れていた。

 

「うわっ!」

 

 弾幕に曝されたスケバン達は何発か被弾しよろめく。だが倒れる者は少ない。

 

 ヘイローの庇護の無い人間であれば一撃必殺の威力のある銃弾も、破片や爆風と同じで決定的な威力を持たなかった。なので複数人による一斉射撃はキヴォトスでは珍しい光景ではなかった。

 

 むしろ問題は、銃撃戦の決定打に欠ける事だった。

 

「う~ん、しぶといっすね」

 

 イチカは銃撃戦をしている相手のスケバン達を見る。数としてはほぼ同数の一個小隊ほどで、練度や装備の面はこちらの方が上回っている。だが決定的に状況を覆す程の差ではない。

 

 お互い被弾して倒れる生徒は出るものの、すぐに仲間の援護や救助を受けて戦闘に復帰する者が多い。隙を突いて接近戦を仕掛けるなり、士気を崩壊させて敗走させる事ができれば決着はつかないだろう。

 

「けどまあ、想定通りっすね」

 

 イチカは無線機で連絡を取る。

 

「ユミ先輩、ちゃんと敵部隊を拘束したっすよ」

 

『やるじゃない、流石は副委員長の推薦ね』

 

 この場合の拘束は敵部隊を攻撃して機動などを妨害し自由に動けなくすることだ。イチカが命じられた任務はそれだった。

 

 スケバンのある集団が二個小隊ほどの部隊を二つに分けて活動していた。一網打尽にされるのを避けての事で、片方が襲撃を受けたらもう片方は逃げるなり、背後を突く算段だったのだろう。

 

 なのでイチカは一個小隊を率いて片方に攻撃を仕掛け、相手の動きを止めていたのだ。

 

 そしてもう片方の方は───

 

「おっ、来たっすね」

 

 イチカの目にボロボロになった数名のスケバンが、交戦中の部隊と側面から合流するのが見えた。それを追う正義実現委員会三個小隊の姿も。

 

『待たせたわね、もう片方は完全に潰したわ』

 

 現れた正義実現委員会はユミの指揮する部隊だった。そして到着するなり早速、攻撃の準備を始める。

 

 作戦は簡単な物だ。ユミ中隊から一個小隊を足止めに使用し、動きを止めている内に残りの三個小隊の兵力で敵一個小隊を撃破。反転してもう片方を始末するという算段だった。

 

 一対一の兵力差であれば拮抗するスケバンと正義実現委員会も、三倍の兵力差となれば圧倒的な差である。速やかに殲滅し、ユミは敗走する敵を仕留めながらここまで来たのだ。

 

『さて、仕上げと行くわ。イチカ小隊は攻撃を援護しなさい』

 

「了解っすよ、中隊長」

 

 そしてユミの部隊は攻撃を仕掛けた。攻撃は成功するだろう、イチカはそう思った。

 

 なにせ先ほどよりも優勢な四対一の兵力差だ。しかも大部隊から側面攻撃を受けて動揺している。勝てる要素ばかりだ。

 

 だから無理に暴れる必要はなかった。

 

「……本隊の射撃支援をするっすよ」

 

 『突撃用意』の号令をどうにか飲み込んで、イチカは命令を出す。今なら白兵攻撃は成功するだろう。敵の意識は完全に本隊の方に向いている。陣形は崩れ、士気は崩壊寸前だ。

 

 突撃をすれば間違いなく大戦果を挙げられるだろうし、正義実現委員会の負傷者も減らせるかもしれない。

 

 だが、イチカはそれを避けたかったのだ。

 

「今度こそ、真っ当な学生になるんですから」

 

 イチカのその声は、戦闘の喧噪にかき消されて誰にも聞こえなかった。

 

 

 私たちの部隊は、トリニティ郊外に出没したスケバン達を無事に撃破した。

 

 結構な大戦果である。二個小隊分、大体80人近くを捕虜にしたのだ。兵力優勢を活かした戦法で勝って当然の戦だったとはいえ、戦果は戦果である。

 

「お疲れ様っす、捕縛した生徒の収容は完了したっすよ」

 

「お疲れ様、いい仕事ぶりだったわ」

 

 イチカが声をかけてくる。アケミの情報はこの後の尋問次第だが、そもそも規則違反者を結構な数取り締まれた時点で今日の成果に文句はない。

 

 イチカにしてもそうだ、私より2歳年下ながらほぼ初対面の小隊を指揮して敵の拘束を成功させた。正直、ここまで上手く成功させると思っていなかった。

 

「ユミ先輩も流石っすね。あんなに早く撃破して戻って来るなんて感動っすよ」

 

「部下が優秀だったのよ」

 

「またまた、謙遜なさらなくても」

 

 イチカはニコニコと笑顔で私をおだてる。まあ上官が戦果を挙げたのだから褒めそやして覚えを良くするのは、こういう組織では間違いではない。

 

 だから私もあくまで冷静な回答をする。

 

「本心よ、この規模の戦闘なんて兵卒の質と数が全てだもの。実際に戦術だって使い古されたありきたりな物だわ」

 

 だからそんなにおべっかを使う事はない。そういう意味を込めて私はイチカに微笑んだ。

 

 私は褒められるのは好きだが、別に心にもない称賛は必要としていない。特に轡を並べた戦友にそういう扱いを受けるのは苦痛ですらある。

 

「そんな事より一ついいかしら、なんであの時突撃を仕掛けなかったの?」

 

 だから私は話を逸らす意味を込めて聞きたかった事を質問する。

 

「別に文句がある訳じゃないのよ? あなたは十分な仕事をしたし、あそこで射撃支援に徹するのは間違いじゃない。ただ、私が到着した後の挙動はどうにもあなたらしくない様に思ったのよ」

 

 イチカは血に飢えている。しばらく狩りができずに苛立っている猟犬のような雰囲気の子だ。だから気を効かせて血を浴びる舞台を用意してやれば飛びつくと思ったのだが、どうにも消極的だ。

 

 なのでその理由を聞いてみたかったのだが、イチカの反応は芳しくなかった。

 

「……なんで、そんな風に思ったんですか?」

 

「だってあなた、暴れ足りないって顔してるもの。我慢は良くないわ」

 

「───ッ!」

 

 しまった、と私は思う。イチカの表情が露骨にこわばったからだ。

 

 もしかして秘密にしていたのだろうか? ツルギみたいに二面性のある性格なのだと思っていたが、どうにも事情が違うらしい。

 

 正直、こういうコンプレックスの類の対処は苦手だ。個人の問題なのだし、肯定しようが否定しようが恨まれるのだからロクな事が無い。

 

 いっそセイアにでも会わせて禅問答でもさせるか。

 

 私が対処を考えていると、ある部員が血相を変えて駆け寄ってくる。

 

「中隊長! 大変です!」

 

「どうしたのよ、スケバンは追っ払ったじゃない」

 

 部員は肩で息をしながら私の前で止まる。その顔は青く、手は震えていた。

 

 相当な事態なのか、私はそう思い改めて聞いた。

 

「何があったの?」

 

「あったんです、蠅が飛んでて、凄い臭いで……」

 

 私はため息をついてしまう。伝令に来たのなら正確に物事を伝えるべきだろうに。

 

 だが流石は私の部下、自分でその事に気づいて深呼吸をし始めた。そして冷静さを取り戻して私に言った。

 

「死体があったんです」




 なんとか3話を投稿できました。どこまで描き切れるか分かりませんが、どうにかアリウス復興まで描き切りたいです。
 感想、評価等とても励みになります。もしよろしければよろしくお願いいたします。
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