青春は子供の顔をしていない   作:TTオタク

7 / 10
だいぶ期間が空いてしまいましたが7話投稿です。

今回の前半は1年後の未来時空の話になります。混乱してしまうかもしれませんがよろしくお願いします。

追記)ユミの血縁についての設定をど忘れしていたので修正します


勝利の先で/忍び寄る影

───1年後。トリニティ自治区。本校舎面談室

 

 私は椅子にもたれながら話を続けた。アツコに今までの苦労話を聞かせているのだ。

 

「野戦病院で怒られたその後も大変だったわ。あの子、人の話を聞きもしないんだから」

 

「ふふっ、ミネらしいね」

 

 そう言ってアツコは微笑む。この子は昔と違ってすっかり大人しい印象を与えるようになった、それを成長したと言うべきなのか、生来の気質を奪われたと憤るべきなのか、私は迷ってしまった。

 

「殿下も昔はあの子に怒られていたものね。覚えてる? 殿下が百合園邸の池で泳いで、体を拭かずに逃げ回ったの。あれで風邪ひいたせいで私までミネに文句言われたのよ。『ねえさまもお姉さんなのですから止めてください!』って」

 

「うん、覚えてる。懐かしいね……本当に」

 

 過ぎた過去を惜しむアツコの横顔を、窓から降り注ぐ陽光が照らした。かつてであれば屈託のない笑みを照らすスポットライトになったであろうその光も、いまや散る間際の花を照らすかのようだ。

 

 それが気に食わなかった。今や私に勝てる人間などこのキヴォトスに存在しえないのだから、何も心配する事は無いだろうに。

 

 そう思った私は、アツコに努めて優しい声で言った。

 

「そう不安がる必要はないわよ、向こうじゃ『全ては虚しい』だとかバカみたいな事を教えられていたのでしょうけど、一秒でも早く忘れてしまいなさい。意味を都合よく歪曲させて教え込んだ冒涜者どもは、全員私が始末してあげるから」

 

 彼女たちが教え込まれた「全ては虚しいのだから希望を持つな、逆らうな」という教え。それを初めて聞いた時には怒りより呆れが先に出たものだ。

 

 なんたる無能、なんたる小人だろう。恐怖で縛り上げるより愛を与えて誘導する方が良いし、夢を奪って従属させるより、夢に向かって走らせて手綱を握る方が良いのに、アリウスの現支配者はそれを理解できなかったのだ。

 

「大体、あの戦下手のベアトリーチェが私に勝てるとでも? 内政もダメ、戦争もダメ、あの老婆できるのは陰謀と研究くらいのものよ。まともに兵士ひとつ育てる事も出来なかった奴が何したところで(トリニティ)の勝利は揺らがないわ」

 

 この私が、歴史上でも最盛期と呼んで差し支えないトリニティを率いて負ける事など、考えるのも馬鹿馬鹿しくなる難易度だろう。

 

 「誰かさん達(アリウス分校)が命運を賭けて起こした『第三次包囲網』ですら、トリニティに勝てなかったでしょ。もう無理よ」と私が笑いかけてやると、ようやくアツコの表情から暗い色が消えた。

 

「そう……だね、先生も明日を信じて欲しいって言ってたし、信じてみる」

 

「……なんであの人がそこで出てくるのよ」

 

 ここは私に感謝するシーンじゃないのか? と私は思ってしまう。

 

 先生は統治者としては期待できないが、かなり優秀だし生徒の事を最優先にするから信頼する気持ちはわかる。安心して頼って良い年上を見つけたのは十年ぶりにもなるだろうから、その思いはひとしおだろう。

 

 日ごろから優秀だし、軍団の指揮官としてならキヴォトス最高の物を持っている。私ですら勝てるか怪しい。現に鉄火場で大立ち回りをしてトリニティの危機を救った功労者である。

 

 けど戦略家や組織者としてなら私が上だ、民衆の扇動やプロパガンダだって私の方が上手い。内政だってそうだ、私の方が政治の面では頼りになる筈だ。

 

 頼れる年上、そういう意味なら私もそうだろうに。アリウスの女王が手本にすべきは私だろう、なのになんで先生が───

 

 私がそんな事を考えていると、アツコが私の目をじっと見つめてきた。

 

 その垂れ目気味の大きな赤い瞳はしばらく私を見つめると、ふと愉快そうに細められた。

 

「……嫉妬してるの?」

 

「ハァ⁉」

 

 何を言い出すのかこの子は。先生に嫉妬する理由なんてない。

 

 自意識過剰だ。こういう所は本当に親子そろって変に自信家なのだ。

 

「なんで嫉妬してるなんて思ったのよ。今やキヴォトスのほとんどを握った私が、あの一介の教師に嫉妬する理由なんてないわ」

 

「『全てを手に入れたからこそ、手に入らない物に執着する』ってこの本に書いてあったから」

 

 アツコはポケットから取り出した本を見せる。『常勝皇帝に求婚されても私は未婚を貫きます!』というタイトルだ。

 

「下世話なタイトルね、王女の読む本じゃないわ」

 

「うん、だけど面白い。ヒヨリのおすすめだから」

 

「……あの子を盾に使うのはやめなさい」

 

 そう言われると困ってしまう。思い入れのある部下の身内にあまりとやかく言いたくないのだ。

 

 それにヒヨリも別に戦いが好きな子ではない。女学生らしい生活を送って欲しいと言った手前、趣味に文句を言うのは何か不義理なようにも思えてしまう。

 

「まあ、程々にしなさいね。アリウスの継承権があるのが、殿下とあの子ぐらいだし、今のうちにしっかり為政者としての貫禄を身に着けて貰わないと」

 

「ユミも継承順位自体はあるんでしょ」

 

「無いようなものよ。ロイヤルブラッド以外が生徒会長になった前例が無いんだから───と言っても、今じゃ私も第三位か」

 

 ロイヤルブラッドがほぼ死に絶えた今、血を引いてすらいない高位貴族の私も繰り上げで有力候補になっていた。

 

 全くばかげた話だ。今の継承順位ならわざわざ共和派を乗っ取らなくても、正当なやり方でアリウスを掌握できただろう。皮肉にも、ベアトリーチェの蛮行が私のアリウス併合の正当性を確立したのだ。

 

「『学園連合軍』のアリウス併合指揮と、弑逆者どもの粛清は私がやるわ。その後、殿下が正当なアリウスの後継者として統治を行えばいい。優しくて聡明な君主像を演じてトリニティとの融和さえ促進してくれればそれでいいから」

 

 残的掃討と本拠地制圧だけのアリウス併合は特に問題なく終わるだろう。三大学園の連合ともなれば、キヴォトスに存在する殆どの学園は瞬時にひき潰される位の戦力になるからだ。

 

 だが弑逆者の処理は凄惨な物になるだろう。先代のアリウス生徒会長、つまりアツコの叔母をかなり惨たらしいやり方で『処分』した連中だ。私ですら直接は越えなかった一線を平然と踏み越えた連中である。

 

 それ相応の対応をしなくてはならない。ましてこれから『アリウス=トリニティ融和の象徴』になる姫君に非人道的な行いをした。その報いを全キヴォトスに示さなければならない。彼らの悪鬼の如き行いが決して許されざる間違いであると知らしめる必要があるのだ。

 

 恐怖のみによる統治は愚行だ、だが恐怖無き統治は無力だ。

 

 アリウスの大人たちの罪に対する罰を受けさせられる力を示さなければ、アリウス統治は安定しないだろう。

 

 今後の展望を思案する私の手を、アツコが握った。

 

「ユミ、こっち見て」

 

 アツコの方を見る。悲しみと、心配だろうか。そんな感情が浮かんだ表情を見て、私は眉をひそめた。

 

「サッちゃんもね、時々そういう顔をしてた。すごく怖い顔。良くない事を考えてる顔。そんな顔も、そんな顔をするくらい怖い考えもしたらだめ」

 

「あの単純ちゃんが考えてるような事と同じなら問題ないわね。あいつ軍才はある癖に単純なんだから。部隊指揮と作戦以外では大したこと考えてないわ」

 

「話をそらさないで」

 

 アツコは私の手をさらに強く握った。握る力は強い癖に、決して怒らず顔は酷く悲しそうなまま。見覚えのある癖だった。

 

 母親だ。アツコの母親と叱り方が同じなのだ。あの人も喧嘩をする私の手を握って、いつも怒らずに悲しそうな顔をしていた。

 

 あの人を思い出させる仕草が、私の胸を揺さぶった。

 

「離しなさいよ、不愉快だわ」

 

「話を───」

 

「離しなさいっていってるでしょ!」

 

 私がアツコの手を振り払うと、何かにぶつかったのか鈍い音がする。机か何かに当たったのだろう、銃弾に耐えられる私たちには大したこと無い。そう思っていたのだが、アツコの反応はちがった。

 

「ちょっと、どうしたの」

 

 ぶつけたであろう腕を押さえて蹲っている。その様子が尋常ではない事を察して私は近寄って声をかけた。

 

「ごめんなさい、そんなに痛かったの」

 

 私の声は聞こえていたようで、アツコは絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「……古傷に……ぶつけちゃって、怪我じゃないから……」

 

「見せなさい」

 

 私はアツコの衣服をめくると、件の古傷を発見する。

 

 なるほど。文書と報告の上では彼女たちが受けて来た『教育』を知っていたが、こうして実物をみてより理解が深まった。

 

 古傷は複数あった。大きさからして子供の頃から現在に至るまでの長期にわたっていたのだろう。キヴォトスの人間に古傷を残すような、そういう教育を。

 

「ごめんなさい、痛かったわね」

 

 何をやっているのだ、私は。過酷ではあっただろうが今のアリウスの子供たちに比べれば、遥かにマシな環境で育つ事が出来たのに。

 にも関わらず自分の感情も制御できず、3歳も下の子に手を上げた。

 

 これでは連中と変わらない。いつまでも横暴なままで居るべきでは無いのだ。

 

「ミネを呼ぶわね。あの子の方が古傷の対処に詳しいでしょうし」

 

「待って」

 

 頭を冷やそう。そう思って私がスマホを手に取った所で、アツコがそれを止めた。

 

 別にミネを呼ばれても困る事は無いだろう。そう思い私はアツコに言う。

 

「あの子が忙しいからって別に遠慮する事は無いのよ。今回は私が悪かったわけだし、被害者で怪我人の殿下はきちんと治療を受けるべきよ」

 

「うん、けどミネを呼んだらユミは帰っちゃうでしょ」

 

「それは……」

 

 確かにそうなるだろう。ミネは私たちが喧嘩をしたとして一度距離を置くように言うだろうし、私もやる事が何もない状況なら山ほどある業務の処理に向かう必要がある。

 

 後日、正式に謝罪する場面まで会う事は無いだろう。

 

「せっかく時間が取れたんだから、もっと話を聞いておきたい。あまり予定に余裕が無いんでしょ」

 

「それはそうだけど、結構痛むのでしょう」

 

「大丈夫、痛いのは慣れてるから」

 

 そう言ってアツコは微笑んだ。

 

 苦痛に慣れているから、我慢できるから大丈夫。そのような理屈で私を納得させようとしたのだろう。苦痛に慣れるくらい酷い目に遭った。その経験があるから大丈夫だと言うのだ。

 

 私に苦痛だけでない人生を教えた大恩人の娘が、苦痛に満ちた人生を送った。その事を知って、怒りと後悔以外の何を抱けば良いのだろうか。

 

 アツコが苦痛に慣れてしまった事実は、守るべき者を守れず、倒すべき敵を倒せなかった私の失態の証明ではないか。

 

 何が皇帝だ、とんだ大間抜けだ。

 

「ユミ?」

 

 アツコが困惑した表情を浮かべる。私は恐ろしい顔をしているのだろうか。

 

 それも当然か、幸いな事にアツコはまだ人殺しに手を染めていないが、私の手はとっくの昔に血塗れだ。大量殺人者の私に嫌悪を抱いて当然だろう。

 

 ならば早くミネを呼んで私は立ち去るべきだろう。

 

 だがそんな考えも、アツコの言葉にかき消された。

 

「どうして泣いてるの?」

 

「泣いてる? 私が?」

 

 疑問を口にしながらも、私はすぐにアツコの言葉が正しい事が理解できた。

 

 滲んでぼやけてゆく視界と苦しくなる呼吸を前に、頬を流れる涙を確かめる必要など無かったのだ。

 

「別に、ただ───」

 

 私は袖で顔を拭う。私は泣いて良い立場ではない。結局何も過去から学べず、結局は戦争と独裁による解決を押し切ったのだ。

 

「───なんでもない」

 

 独裁者に感傷は無用だ。ここでもし罪悪感やら謝罪を口にした所で、相手に不要な物を背負わせるだけだろう。

 

 将来アリウスを背負う立場といえど、今くらいは不要な重圧を背負わせるべきでは無い。

 

「とりあえずミネは呼ぶわよ。殿下に何かあったら一大事だしね」

 

「けど……」

 

「ミネが来るまでは話をするから、来た後は言い訳に協力して頂戴。それでいいでしょ?」

 

 アツコはこくりと頷く。

 

 それにしても妙な物だ。成り上がった後の統治や内政について質問するならまだしも、アツコには再現不能だろう軍事的成功による成り上がりの話を知りたがるとは。

 

 だがいいだろう。聞きたいと言うなら聞かせてやるべきだ。

 

 私はアツコに椅子に戻るよう促すと、再び話し始める。

 

「その後サクラコに会いに行ったり、セイアと現政権の問題点について話し合ったり、ハナコと会ったりもしたわね。ただ蛇足だし省くわ、私の最初の成功であるアケミ戦について話ましょうか」

 

 そうして私はトリニティにおける栄光の始まりについて語り始めた。

 

 

───現在。トリニティ自治区。旧市街地。

 

「あれがアケミの部隊っすかね」

 

「情報によるとね。率いているのは背の高い金髪、それでやたら強いリーダー。らしいわ」

 

「どの道スケバンの集まりっすからね。やるしかないっす」

 

 私とイチカはある無人ビルの一角からスケバンの集団を偵察していた。

 

 双眼鏡の先に映るのはさびれた住宅街と、せわしなく物資を運ぶスケバン達。あれを物資保管場所に輸送するつもりなのだ。

 

「しかし、悪党の使い走りになってまで手に入るのが弾薬と食料品とは世知辛いわね。どうせ戦うなら公的な組織に入ればいいのに」

 

「成績不良者や経済的困窮が原因でスケバンになった生徒も多いらしいっすからね、学籍の再取得も厳しいんじゃないですか?」

 

「弱者は常に悪党の食い物にされるってわけね……」

 

 良くある話だ。無知で後ろ盾のない子供を手下にして危険な行為に及ばせる。戦争の無いこちら側でも、人の悪性は変わりはしないのだ。

 

 ならば、後ろ盾のある人間たちの代表として、まともな側に引きずり込んでやるべきだろう。

 

「さて、『善は急げ』よ。連中に正しい道徳と生き方を教えてあげましょうか」

 

「はいっす、じゃあ配置に着かせるっすよ」

 

 イチカは部隊に連絡を取り部隊に指示を出してゆく。私も直接指揮する部隊に合流するため荷物をまとめ始めた。

 

 今の私の中隊は第三小隊が不在で三個小隊編成である。全力とは言えないが向こうの戦力もこちらを上回る事は無いと偵察の結果判断できた。

 

 なら下手に他グループと合流するまえに仕留めるべきだろう。そういう結論である。

 

 私たちは指示を出し終え無人ビルを降り、部隊と合流を目指す。何も問題はない、だが妙な違和感はあった。

 

「イチカ、これが第三小隊を壊滅させたグループだと思う?」

 

「といいますと?」

 

「いくら何でも迂闊すぎないかしら、物資の輸送だなんて無防備になりやすい行動を白昼堂々と行うなんて。全く痕跡を残さずに襲撃を成功させた連中が急に馬鹿になったみたいじゃない」

 

 イチカは少し考え込む。他にめぼしいグループは無く、アケミと思われる情報の目撃談も無い。

 

 それなりの規模の集団で、なおかつリーダーがそれらしい見た目をしている。持ちうる情報の中ではこのスケバン集団が最も可能性が高い。

 

 それは双方同じ認識だった。

 

「ほかにアテがないっすからこの集団に当たるしかないと思うっすけど……」

 

「その通りよ、消去法になるくらい確定できる情報が少ないわ。まるで霧の中で戦ってる気分。諜報部はロクに情報を寄こさないし、犯人の情報もどこか曖昧だし。どうにもキナ臭いのよ」

 

 嫌な感じだ。流石に諜報部がグルだと思わないが、何か作為的な物を感じる。

 

 誰かが意図的に情報を隠している時特融の、不自然な自然さ。手品師がそうするように視線を望む方向に誘導されているような違和感。

 

「連中が何か仕掛けてくるかもしれないから、そのつもりで考えておいて。変に積極的に行動するより、不測の事態に対処できる余裕を持つ事。いいわね」

 

「了解っす」

 

 イチカはまだ一年だが優秀だ、こうして予想外があるかもと覚悟させておけばある程度対応してくれるだろう。

 

 奇襲とは最初の衝撃と混乱を乗り切れば案外何とかなる。ただしそれは、相手側にも言える事だった。

 

「じゃあ予定通り分かり易く行くわよ。私が二個小隊を率いて正面攻撃を担当するから、イチカは迂回して側面を突いて」

 

「攻撃のタイミングは無線で合図するって事っすか?」

 

「タイミングはあなたに一任するわ、好きなタイミングで攻撃を仕掛けて。攻撃開始の報告自体は欲しいけど、事後報告でも別に良いから。好きにやりなさい」

 

 それを聞いたイチカは意外そうな顔をした。私が部下に自己裁量を与えないタイプだと思われているのだろうか。

 

 だとしたら心外だ。私は部下の能力を信じて任せるタイプの指揮官なのだ。今回も別に私が合図を出してもいいのだが、今後私が大部隊を受け持った時に自己判断が出来て信頼のできる部下を作っておきたかった。

 

 それに、罠の心配もある。

 

「いかに無線があるといえど、完全に状況を理解し合うのは不可能よ。奇襲を受けたり予想外の状況に陥って正確に報告するのは難しいし、その間にも被害は増える。不確定要素が多い状態だから現場の判断を信じたいのよ」

 

 もしアケミのスケバン集団が完全に別に居て、それを完全に隠しきれるような情報隠蔽ができる組織力がある敵が存在するなら非常にまずい。

 

 その場合は攻撃を取りやめてでも撤退をする必要がある。

 

 ならば現場で判断してもらう方が都合がよかった。

 

「わかったっすよ。ただ、自己判断とかは期待しないで欲しいっす」

 

「まあ気楽にやってちょうだい。あなたなら何とかなるわ。それじゃ」

 

 そうして地上に着いた私たちはお互いの配置に向かう事にした。

 

 心配が杞憂であれば容易い任務だろう。相手は正規の訓練を受けていない不良生徒だし、統率もままならない筈だ。

 

 私は二個小隊に前進を命じる。相手はこちらの存在に感づいていないようだし、なるべく敵が集合する前に損害を与えておきたかった。

 

 そうして前進命令を出してから程なくしてスケバン集団と交戦を開始した。

 

 そのスケバンの戦列の中に、ひときわ目立つ存在を私は見つけた。

 

 金髪で、背が高い生徒。轟音を鳴らす大口径を使いこなすスケバンの長。ネットで検索をすれば的中しそうな存在が居た。

 

「皆さん、隊列を崩さないように! わたくし達が弱者でなく、まして臆病者でない事を示す時です!」

 

 演説めいた内容を口にしながら戦闘をこなすスケバンの指揮官を見て、いよいよ背中に嫌な汗が流れ始めた。

 

 彼女は背は確かに高いが、私よりも低い程度だ。陽光を受けて輝く金髪と、遠くからでも分かる特徴的なすみれ色の瞳をしている、スタイルが良いだけの少女だ。

 

「別人じゃない……」

 

 決して見上げるような巨人でも、筋肉ダルマと評されるようなゴリラじみた体形でもない。

 

 私たちが追っていたのは、ほとんど無名の、特徴が似通った別人だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。