今回はほぼオリキャラ回みたいになって居ますが、一応ユミ関係に関わる回です。
『桐藤さん』が何やら悪役にされて居ますが、彼女も巻き込まれた被害者な立場ですので大丈夫です。悪役ではありません。後からちゃんとそれがわかる展開をやりますのでどうかご容赦ください
「ここは……」
知らない天井が視界に入る。イチカはなぜ自分がこんなところで寝ているのかと思案し、状況を思い出した。
自分はスケバンの集団に突撃をかけて暴れた後に気絶したのだ。その後救助され野戦病院に運び込まれた。それを思い出したイチカは、体のあちこちを触ってけがの状況を確認した。
「痛ッ……」
脇腹だけでなく頭なども触れた時痛みが走った。無茶をしたものだとイチカは自分の行いにため息をつく。中々派手にやってしまったものだ。他の部員たちにも見られただろう。今後ずっと凶暴な人間としての扱いが続くとなると憂鬱な気分になるのはやむ得ないことだった。
だが、ふと膝上に落ちた桜色の羽が目に留まった。ユミの羽だった。
イチカは気を失う寸前、ユミが抱きしめてくれたことを思い出す。あの人はやはり怖がらなかった、その事だけは良かったのかもしれない。
「あ、眼覚ました?」
イチカの目覚めに気づいた衛生隊の部員が、イチカの方へ向かってきた。イチカは息を吞む。
なにせあの大暴れの後の初めて人と話すのだ。少し息が苦しくなり、背中に汗がにじむ。
しかしイチカの予想とは裏腹に、衛生隊員はニコニコとした笑顔でこちらに近寄って来た。
「大活躍だったね、やるじゃん。さすが中隊長が目をかけるだけはあるよ」
衛生隊員は笑顔を崩さないままイチカの労をねぎらう。予想外の反応にイチカが面食らっていると、衛星部員は筆記用具を取り出し、イチカの怪我の状態を纏めていった。
自分の事をどう思っているのか聞こうにも、適宜どこそこは痛むか、どのように痛むかなどの質問が挟まれタイミングがつかめず話しかけられなかった。
ほかにも負傷者が大勢いるのだろう。衛生隊員はテキパキと作業を進める。
そして作業を終わらせた後も「中隊長が呼んでたよ」とだけ言い残してこの場を去ってしまった。
「やっぱ怖がられてるんすかね……」
イチカはため息を吐きながら、簡易ベッドから立ち上がった。
道中他の隊員にユミの居場所を尋ねるが特に不審な様子は無かった。礼を言いつつユミのいる部屋まで歩いていく。
どうであれユミに相談しない事には始まらないだろう。そう思いイチカは扉をノックする。
「仲正入ります」
そう言いつつドアノブに手をかけるが返事はない。席を外しているのだろうか。イチカはそう考えるが、聞こえてきた音で異変を察知した。
すすり泣くような声と、続いて聞こえる苦し気なうめき声。そして何かにぶつかって倒れこむような音。
敵襲か、それとも急病か。どちらにせよ異常事態なのには変わりはないだろう。
「ユミ先輩! 入るっすよ!」
ライフルは無い、ベッド脇に置いてあった拳銃だけだ。心もとない装備であるもののイチカは躊躇せずに扉を蹴り開け、室内に突入した。
アドレナリンが体内を駆け巡り、節々に走る痛みを忘却させる。姿勢を低くして、俊敏に動く肉食獣のように室内を進む。
目の前の状況に集中しながらも自分の行動に驚いていた。
以前の自分なら応援を呼び、他の隊員を伴って室内に入っただろう。状況が不明な以上はそれが最善手なはずだ。
だがその考えが浮かぶより早く、イチカの体は動いてしまっていた。
そうしてしまった理由を、あと数秒もあれば思いついたかもしれない。だが、その思考は目の前に広がる状況にかき消されてしまう。
「わたくしだって! わたくしだって頑張りましたのに! どうして、どうしてこんなぁ!」
金髪と長身が目立つ生徒が、その大柄な身体とは真逆な子供っぽい仕草で泣き叫びながらユミに抱き着いていた。長い腕がユミの細い体を巻き取るように締め付ける様は、蜘蛛に囚われた蝶のようだった。
「うっ……ぐっ……イ……チカ……」
青い顔をしながらイチカの方に手を伸ばすユミ。怪力で有名な
「なにしてるんすか。とりあえずユミ先輩から離れてくださいっす」
イチカが困惑しながらも強い口調で尋ねると、泣いていた生徒の金髪が動き、こちらを向いた。
「えっ、セラ先輩?」
なぜスケバンたちの首魁がここに居るのか。改めてイチカは警戒し銃を構える。
しかしセラは拳銃の存在などまるで認識していないように緩慢な動作で立ち上がると、イチカに向き直った。
でかいな。とイチカはありきたりな感想を抱く。もともと飛びぬけた長身で有名だったセラだが、こうしてみると威圧感はすさまじいものだった。
なにせ長身で有名なユミやハスミよりさらに一回り大きいのだ。163cmとそこまで高いわけではないイチカにとって190cmに迫るセラの上背は、さながら立ち上がった熊のように感じられたのだ。
そんなセラは涙をぬぐってイチカに言った。
「あなた、わたくしが誰かご存じですか」
「セラ先輩っすよね。パテル分派の弁護士の」
イチカは困惑しながらそう返すと、セラはぴたりと動きを止めた。
そしてプルプルと体を震わせ始め、再び泣き出してしまった。
「わたくしが、弁護士! どうしてこんな事になりますの!」
イチカは何事かと不可解な行動に混乱しながらも銃を構え、次の動作を警戒するがセラは悲嘆にくれるばかりでこちらに攻撃する意図は無いようだった。
何か間違えたことを言っただろうか、イチカが混乱しながら思索を巡らせていると、いつの間にか復活したユミがイチカに近づいて言った。
「あなたねぇ、先に教えなさいよ。セラがメジャーリーガーだったなんて私聞いてないわよ」
「メジャーリーガー?」
主流の大会を意味する言葉にイチカは首をかしげる、だがしばらくして一つの情報に思い至った。
「あっ、思い出したっす。野球の大会っすよね、クリケットの親戚みたいな競技の───」
「全然違いますわ!」
「───そうっすね。違う競技でした……」
イチカは少し後ずさる。セラは身長と同じくらいの声がでかいのだ。銃撃戦の中でもよく通る声だったが、アレは素の声量がデカかったのだと再確認できるほどだった。
直接鼓膜にその大声を喰らったイチカと違い、サッと手際よく耳を塞いだユミをイチカは恨めしそうに見つめる。
知っていたのなら警告してくださいよ。声には出さずとも伝わるイチカの視線に、ユミは肩をすくめてセラの隣に立った。
「コホン、じゃあ紹介するわよ。昨シーズンに首位打者、本塁打王、打点王に輝き、ベストナイン、ゴールデングラブを獲得したMVP。獅子王セラ捕手よ」
「いわゆる三冠王、はい拍手」とユミはイチカに拍手を促した。
イチカは拍手したものの、ユミが読み上げた賞の内容が理解できないでいた。
だがそれもやむ負えない事だ。トリニティにおいて野球はクリケットの亜流であり、全く人気のない競技なのだから。
†
「つまり、クリケット協会の妨害を訴えようと幹部の家に直訴しに行ったら、そのまま逮捕されたって事っすか?」
「そうですわ、謂れのない横領の罪まで科されて。停学かチームを潰すか選べと脅されましたの」
これがセラが起こした『トラブル』についての内容だった。
「わたくしがクリケットへの転向を断り続ける限り妨害するつもりのようで。いいえ、それだけでなく。単純に気に入らないのでしょうね、野球が。『競技人口が少ない癖に主流文化を気取っている』などと仰ってましたもの。専用スタジアムがある事も気に入らない様子でしたわ」
セラは再び泣きそうな顔になりながら言う。
なるほどセラの長身と高い身体能力はどのスポーツでも役に立つだろうし、目立つ風貌も相まって広告塔の役割もこなせるだろう。
アリウス出身の私ですらクリケットの方が詳しい。それほど学園を代表するスポーツを無視してマイナースポーツに打ち込んでいるのはプライドに障ったのかもしれない。
だが、それでも妨害行為をして良い理由にはならない。
「しかし連中も馬鹿みたいね。67本塁打でしょ? 百鬼夜行だったら自治区の英雄になれる成績だわ。対外的な広告塔にでもすれば良いのに」
「だからモデルや女優業をしていたのですわ。試合と副業で忙しかったですのに、他自治区向けの商品展開のために協力しろと脅されまして」
「こんなのっぽを女優にしても役どころに困るでしょうに」と自嘲するように笑うセラ。すみれ色の瞳は下を向くばかりで、劇的な活躍をしたスター選手の雰囲気ではなかった。
「脅されたって事は、チームはクリケット協会の傘下なんっすか? その───」
「いいえ、
「それは……悲惨な状況っすね……」
イチカは眉を顰めた。トリニティ生として学園の醜い面は理解しているだろうが、それでもこうした囲んで棒で叩くようなやり方を見て何も思わないほど腐っては居ないのだろう。
それを見て少し安堵しつつ、私はセラに話を促した。
「それで追い詰められて、桐藤邸に突撃したと? あの桐藤に」
例のクリケット協会の幹部の家に直訴しに行った件についてだ。由緒のある家の一つである桐
藤家はクリケット協会でも主要な地位を占める家柄だ。そんな筋金入りの保守派閥に自ら出向くなど自殺行為ではないかという意図の言葉だった。
「パテル分派で仲良くしていた後輩の子が居まして、その子が桐藤家と強いコネを持っていましたの。その子に頼んで融通してもらえる様に依頼したのですが、それがこの様ですわ」
「その後輩に騙されたんじゃないの。パテル分派内での権力闘争を考えたら、有力者だったあなたは邪魔でしょうし」
「あの子はそんなことしません! やるとすれば桐藤さんの方でしょう。彼女は権力のためなら何でもしますもの。大体、わたくしが首長職に興味がない事は誰の目にも明らかですわ」
なるほど、セラの言はある程度正しいのだろう。野球にのめり込んでいる彼女が、それを放り出して政治に転向するとは思えない。それなら人望のあるセラに恩を売って味方につけた方が遥かに合理的だ。
桐藤の現当主の黒い噂は聞いていたが、噂に違わぬ冷酷ぶりだ。その強いコネとやらがどれ程か知らないが、コネよりも多数派である事を取ったのだろう。大した
まあ、冷酷無慈悲ぶりでは私の方が上だろう。人を殺していないだけ外道の私よりマシなのだ。
「これからどうするんすか? 私たちとしては逮捕しなきゃっすけど、そうしたら復帰が遠のく事になるっすよね」
イチカが気遣うような口調でそう言った。イチカの心情的にはセラに味方してやりたいのだろう。優しい子だ。つい一時間ほど前にセラの象撃ち銃を喰らったのに、なんと度量の広い事だろう。
だが気持ちもわかる。停学になって職にもつけず、名家と言えど貧乏なせいで実家を頼れず、こうした非合法な事業に手を出すしかなかった側面もある。それを罪として捕まえるのはあまりに酷ではないか。イチカもそう考えているのだろう。
セラはその様子に微笑んで、イチカの頭を撫でた。そのすみれ色の瞳は今にも泣き出しそうで、私の心も揺さぶられてしまう。
「いいのですよ、イチカさん。わたくしは罪人で、貴女は法の執行者。貴女みたいな優しい子の昇進の糧に成れると思えば、わたくしの人生も価値のある物になりますわ。ただ、一つ頼まれごとをしてくれませんか?」
「何っすか?」とイチカが問うと、セラは便箋を取り出した。獅子王の家紋が封蝋に押された、上品な便箋だった。
「この手紙を、1年の秋山マコという子に渡してくださる? 今ブルーエンジェルズで1番打者をやっているスーパールーキーで、明るくて真面目な、憎たらしいくらい可愛い子です」
セラは懐かしむように遠い目をすると、暗い表情に少しだけ笑みが浮かんだ。だがそれもすぐに申し訳なさそうな顔になり、暗い雰囲気に戻ってしまう。
「あの子、凄く怒っていましたのよ。『あんなの
セラは自分の胸を持ち上げて揺らして見せた。なるほど、体格から見てもかなり豊満と言える大きさだろう。ミネより大きいかも知れない。それを『牛乳』のCMに。ああ、なるほど。
随分下品な連中だ。いや下劣なのだろうか。晒上げて、貴人の誇りを傷つけようと言うのだろうか。
下衆め。私はこぶしを握った。
セラは私の雰囲気を察してか、首を振って言う。
「良いのですよ、後悔はしていません。出演はわたくしが決めた事、自分で考えて決定した事ですわ。なら責任はわたくしに有ります。散々揶揄われた事も織り込み済みで受けた依頼です。ただ───」
セラの声が震える。彼女の嗚咽の理由は、無理して浮かべた笑顔の上に伝うものを見ずとも理解できた。
「───憧れで居てあげられなくて、弱いお姉ちゃんで、ごめんなさいって。謝らなくちゃ……いけませんの……」
イチカがセラに駆け寄った。もはやセラは立っている事すらままならなかったからだ。
嗚咽を漏らして、手の甲で涙をぬぐう様は子供のようだった。
いや、子供の頃に見せていた仕草なのだろう。プライドを傷つけられ、夢を踏みにじられて、体面をとりつくろえなくなっただけなのだ。
昔の私と同じで、見返すだけの力が無いだけなのだ。
「一緒に野球できなくて……ごめんなさい……」
謝る事など無いのだ。セラは、この子は私と同じで、周囲に阻まれているだけだ。
悪意や嫉妬は、夢を奪う理由にはならない。
あの声が脳裏に響く、延々と鳴り続ける忌まわしい声が聞こえる。
『売女の子だ、淫売の子だ』
声が響く。子供の声だ。
『病気の目だ、混血の目だ』
声が響く。大人の声だ。
『汚れた羽だ、穢れた血だ』
声が響く、老人の声だ。
ああそうだとも、私が間違っているんじゃない、私が悪いんじゃない、周囲の連中が間違っているんだ。
戦って、殺して、黙らせればいいのだ。お前たちが私を否定したように、私がお前たちを否定してやるのだ。
この私が持つ、天賦の才はそのためにあるのだから。
「ちょっと! 何するんすか!」
私はイチカの手から手紙を奪うと、そのまま細切れになるまで破り捨てた。
「どうして……」
セラが絶望した表情で私を見上げる。私は彼女の前に膝をつき、肩を掴んで言った。
「あなたはそれで良いの? 気に入らない連中に媚びへつらって、散々傷つけられた挙句、罠にはめられて夢を諦める。それがあなたの人生なの? 気に入らない連中を黙らせて、自分の夢を実現して、周囲に尊敬されたくないの?」
「わたくしは……トリニティの野球を盛り上げられれば、それで……」
「そんな事聞いてないわよ! もっと根本的な話よ!」
そんなお綺麗な御題目は望んでない。私が聞きたいのはもっと根源的な野望だ。
「あなたが夢を志したのは何歳の時? さっき二人の時に5歳の頃だって教えてくれたわね。5歳のあなたはそんな事を考えていたの? 違うでしょ! カッコいいメジャーリーガ―に憧れて、一直線に飛ぶホームランの迫力に魅了されて、そんな憧れの存在に成りたかったんでしょ!」
そうだ、みんな嘘つきなのだ。誰もが夢に蓋をして、己の幼い野心に目を逸らす。
大人になったんだ、成長したんだ。そんな言い訳をほざきながら、人の夢を無謀だと馬鹿にする敗北者に成り下がるのだ。
お前たちが諦めただけだろう。夢から逃げただけじゃないか。
「あなたは夢を掴んだじゃない! マコはあなたに憧れたから怒ったのよ? 憧れのメジャーリーガーが、凄いホームランを打つヒーローが、嫌な奴に媚びを売ってヘラヘラしてるのが許せなかったのよ!」
「あなたに『シンちゃん』の何が分かるのですか!」
セラが凄い膂力で肩を掴み返してくる。『シンちゃん』とはマコの事だ、二人の時にセラが教えてくれた。幼馴染で、大好きな妹分だと。
「分かるわよ、私がそうだったんだから」
忘れもしない。忘れられる訳がない。地獄の底で、あの人が私を助けてくれたあの日。私は本当の意味でこの世に生を受けたのだから。
祝福されて、望まれてこの世に居られる喜びを、あの人のおかげで知ったのだから。
「綺麗で、カッコよくて、誰にも負けないスーパーヒーロー。私の夢の体現者。私はあの人と違って足が速い訳でも、腕力が強い訳でも、血筋が良い訳でも無かったけれど。それでもあの人への憧れが私の全てだった。生きる理由だったわ」
私にとって、かの女王はそういう存在だった。あらゆる悪は彼女の前にひれ伏し、敗北するしかないような、勝利の体現者。絶対的な統治者。
大切な何かを、守り通せる力を持った人。
「そんな人が、嫌な奴に媚びを売るしかない状況は、最低最悪だったわよ。いつもみたいに蹴散らして、黙らせてやれば良いのに。媚び売って、言う事を聞いて……それで───」
───子供まで作って。
思い出しただけで吐き気がする。虫唾が走る。今だって何で未来に来たんだ、過去に戻ってやり直せないんだと呪いたい気分だ。
政略結婚など別に構わないし、王族とはそういう物だ。だがあの人が、散々自由恋愛に憧れて、平和になったアリウスで普通の子として生きたいと言っていたあの人が、その餌食になるのは嫌だった。
まして、まだ16歳だったのだ。いくら何でも早すぎるだろう。
花屋さんに成りたいんじゃないのか、血の臭いが嫌いなんじゃないのか、大切な誰かを守りたいんじゃないのか。そう問い詰めても、あの人は一言『諦めたの』と言うだけで。それが許せなくて。
何よりそれを、見ているしかなかった自分が。許せなかった。
だけど、今は違う。私は才能を開花させた、誰にも負けない戦争の才能を。夢を叶えるための手段を手に入れた。
「だから私は嫌よ! 夢から目を逸らして生きるなんて、まして諦めさせられる人生なんて。好きな人がそんな風に成るのはもっと嫌。そんなの死ぬよりも酷いじゃない!」
私は立ち上がり、セラのすみれ色の目を見つめて言った。
「あなただってこのままは嫌でしょ。なら夢を掴みなさい。この私が力を貸してあげる」
私は手を差し伸べる。
「けど……私は犯罪者ですわ……」
「ごちゃごちゃうるさいわね。あなた副業とはいえ弁護士でしょ? 何とかする方法を考えなさい。手なら貸してあげるから。ほら」
私は再び手を伸ばす、セラはようやく、おずおずと私の手を握った。
私は力いっぱいに握り返すと、セラに行った。
「契約成立ね。あなたは夢を追って、私はそれを助ける。途中離脱は許さないわよ」
アリウスの、ロイヤルブラッドに育てられた私の言う『契約』の重さをセラは知らないだろうが、そんな事はどうでもよい事だ。私が助ける限り、彼女が夢を捨てる事は無いだろうから。
「わかりましたわ。せいぜい厚かましく、あなたを頼らせていただきますわ。ユミちゃん」
そう言ってセラは笑う。
立ち上がったセラの背はやはり高くて、自信を取り戻した豪胆な笑顔は記録を打ち立てたスター選手のそれだった。
「そうこなくちゃね。さて、方法を考えましょうか」
「む、無計画なんっすか」
今まで流れを静観していたイチカが私に文句を言う。
「うるさいわね。今決めたんだから策があるわけないでしょ。あなたも何か考えなさい」
私がそう言うと、セラはおかしそうに笑う。
「ふふっ、いつもこんな風ですの? ユミちゃんは」
「いつも即断即決で、だいたいこんな感じっすね」
「時は何よりも重いのよ。兵は拙速を尊ぶの」
私たちがそんな風にわいわいと騒いでいると、にわかに建物の外が騒がしくなる。
それから程なくして、部屋の扉がノックされる。
「入っていいわよ」
ユミがそう言うと、慌てた様子で中隊の部員が駆け込んできた。
「北部の警戒に出ていた第3分隊がスケバンの別部隊に接触し、交戦状態に入ったとの事です。規模は不明ですが、少なくとも中隊規模です」
私がちらりとセラの方を見ると、セラは首を横に振る。彼女の部下ではないらしい。セラの言葉が嘘でない事の裏付けは必要だが、構成員の関係からして、おそらく連携はしていないだろう。
それよりも私の興味は、報告の次の言葉に集中した。
「スケバン達の部隊長は、栗浜アケミです。間違いありません」
そう言って部員は端末を見せる。そこに映し出されているのは、間違いなくアケミの姿だった。
「ようやく姿を現したわね」
私はにやりと笑うと、セラを見て言った。
「さて、準備しなさい。策ができたわ」
私は部屋を出るため支度を整えつつ、鼻を鳴らして言う。
「恩赦狙いと行くわよ」