お気に入り2551件、たくさんの感想どうもありがとうございます。
気がつけばもう師走、私生活が忙しすぎて長引きましたがなんとか書けました、次回までまた期間が開くかもですが、あしからず…。
書いてて態度悪いなこのクラウス、と思ってしまったよ。
「ん〜、おいひ〜!ケーキなんていつぶりだっけ〜!」
「確か…5ヶ月前の仕入れの帰りに買ったやつ以来だね。…でも、本当によかったのかい?ケーキなんてもらってしまって」
「…いいんですよ」
色々な機器やインテリア、ビデオの棚に囲まれた、どこかのバックヤードにて。僕の目の前で兄妹が美味しそうにケーキを味わっている。2人とも、久しぶりの上等な甘味にありつけて嬉しそうだったので、僕の心にかかるモヤも少しばかり晴れた気がした。
さて、ここは新エリー都は六分街の一角にある隠れた名店…ビデオ屋、『Random play』のバックヤード。目の前の兄妹は、僕の友人兼
「いーじゃんいーじゃん、クラウスがくれるって言ってくれたんだから!ありがと〜!」
「喜んでもらえてなによりです」
「そうか…じゃあ、気兼ねなく頂戴できる」
そう言いながら2人ともケーキを楽しんでいる。…誕生日ケーキもこれで報われるはずだ。ハッピーバースデーのチョコプレートは僕の腹の中なのだが。
さて、本題に入ろう。僕はなにも、ケーキを届けるためだけにここに来たわけではない。
「で…今回も僕を雇ってのホロウ行脚だそうですけど…どちらに?」
「あ、そっか、そういえばそれで呼んだんだっけ」
「リン、君って子は…。コホン、今回
アキラさんがスマホに写真を映し出す。そこには、川の対岸に鎮座する大きなホロウと…その上から少しだけ突き出たビルの屋上らしきもの。
「…バレエ兄弟の?よく幽霊だ妖怪だなんだと噂が絶えない場所ですけど…依頼主はオカルトマニア?」
「いや。今回は人探しさ。それも…きちんと実在する人間の」
アキラさんが続けて画面に映し出したのは、黒いパーカーを着た女子高生らしき人物の写真。
「彼女はレイン。僕たちが
「あー…で、彼女がバレエツインズに?」
僕が問うと、リンさんがパッド端末を持ってきて資料を映し出す。
「実は、彼女が行方不明になってから、彼女の知人たちに何度も空メールが届いてたの。それで発信源を調べたら…なんと、ココ!」
リンさんが指をさしたのは、ホロウから突き出たビルのてっぺん。…なるほど、そこからならばギリギリ発信できるのか。
「つまり…何らかの理由でホロウから出られなくなった彼女を助けに行く、と?」
「そういう事だ。僕たちも彼女にやって欲しいことがあってね…無事に助け出したいんだ」
「というわけで…クロウラーには、バレエツインズの最上階を目指してもらうことになるね!」
リンさんがそう言い切った。…まあ、別に断るほどの難易度の依頼でもないし、人助けのためだ。今のところ受けても良さそうな内容であった。
「なるほど。…エージェントは僕1人ですか?」
「あ〜…それが、ちょっと複雑なことになってて…」
リンさんが微妙な表情を浮かべる。
「一回だけ他のエージェントと一緒に潜ったんだけどね?そこで、その…“バレエツインズ”の所有者に雇われたエージェントさん達と会って」
「…ホロウの中の物件に買い手がつくんですか」
「ホロウが縮小してきてるから、いつか完全に消えるであろうことを見越して地価が安いうちに買ったそうだ。そこで中の状態がどんな具合かを調べるためにエージェントを派遣したらしい」
「で…………かち合った、と?」
「ううん、なんとか暴力沙汰は避けられて…それに、レインを探すのにも協力してくれるって!」
明るい表情で言ったリンさん。…しかし、僕にとっては、それは懸念材料だ。
「…………あまり“お得意様”以外にあの姿を見せるのは好きじゃないんですが…姿が拡散されないとも限らないし…」
「ごめん、もし嫌なら今からでも断ってくれていい。でも、一応信頼のおける人たちだよ」
「初対面なのにどうしてそれが?」
「彼らの雇い主は殆どが富裕層…そんじょそこらのホロウレイダーよりかは口は硬いはずさ」
「ほんとぉ…?」
訝しむように眉を顰めるが…この人たちはこの業界で伝説とまで言われている人たちだし、審美眼は信用していいだろう。
「ふーむ…。わかりました。ちなみに報酬は?」
「えーっとね…色々やって、これくらいかな」
リンさんが提示した報酬の額は、いつもの依頼よりもちょっと少ない。
「あれっ、何かあったんですか?ちょっと報酬少なくなってますけど」
「あ〜…実は、最近何かと出費がかさんでね」
「なるほど…まあ、別に僕はお昼ご飯代くらいでも働きますから、無理はしないよう」
「ありがとうクロウラー。切実に助かるな…」
目頭を抑えながらアキラさんは言う。相当やりくりに苦労しているようだ。伝説のプロキシといえど、生活費には勝てないのか…。
さて、今回の依頼について聞きたいことは聞き終えたし、受領の返事をしよう…と、そこまで考えてあることを思い出した。
「ちょっと失礼」
懐からスマホを取り出し、ノックノックを開いてジェーンさんとのトークを開き、文字を打ち込んだ。
『知人から依頼を受けようと思ってるんですが、一週間の間僕を使う予定あったりします?』
誤字がないかを確認したら送信。すると、珍しくすぐに既読がつき…スマホに電話がかかってくる。
「あー…すみません、ちょっと外出てますね。裏口使わせてもらいます」
「そうか。ご自由にどうぞ」
アキラさんに見送られながら、店の裏手の駐車場に出て、応答のボタンをタップした。
「もしもし、ジェーンさん?」
『ハロー、クロウラー。…珍しいわね、貴方が依頼を受けたいなんて』
ーーーーー
「クラウスくんも忙しいんだねえ…」
「たぶん“クロウラー”の方で何かあるんだろう。たぶんダブルブッキングなんかをしないための確認じゃないかな」
「そうだよね。……でも、彼女さんからとかだったらどうする?」
「それは…ない、とも言いきれないけれどさ…」
リンが冗談めかして言った言葉に、何か引っ掛かりを覚えたような苦笑いでアキラは答えた。…これがいけなかった。
『……了解しました』
H.D.D.のディスプレイから機械音声。プロキシ兄妹が少し前に手に入れた、超高性能AI“fairy”がささやく。
「…fairy、了解した、とはなんのことだい?」
『クロウラーの通話の相手が何者なのかの疑問解消のため、通話を傍受します』
「え、ちょっとfairy!個人情報だよ!」
『中止は不可能と判断。理由、私も会話の内容に興味があります』
「君にも私欲というものがあったのか…」
説得虚しく、スピーカーからクラウスと電話の相手の声が聞こえてくる。
『そうですか、ありがとうございます!』
『いいのよ。アタイも暫く会えなくなるから…むしろちょうど良かったわね』
「女の人っぽいよお兄ちゃん…!」
「待ってくれリン。この感じはたぶん別の仕事相手じゃないかい?」
面白そうに声を上げたリンを嗜めるアキラ。推測は当たっている…が、しかし、ここは流石のクラウスである。
『じゃ、もうしばらくウチには来ないんですね?』
『ええ、そうなるわ』
『さいですか。や、買い出しとかの量も来るか来ないかで調節してるんでね』
「…………仕事相手を家に上げるわけないじゃん!!」
「…いや、あのクラウスが彼女を作るなんてありえるか…?」
僕も少しご無沙汰なのに、とひとりごちるアキラ。気ぶるリンを他所に、2人は会話を続けていく。
『アタイがいないと寂しい?』
『特には。…………まあ、夜中少し寒いかもですね』
『あら、寝てる間に
「は!?!?!?!?!?!?!」
「………………………」
「た…たぶん、電話の相手、大人の女の人だよね…?」
「い、いや、まだ大人びた同級生のセンも…」
ガタッ、とソファから勢いよく立ち上がる2人。リンはおろおろと手を動かし、アキラは手で口を覆い動揺を隠そうとする、が…ここでポンコツAI一家に一台有能AIが余計な事ファインプレー。
『声紋を解析…………結果、電話相手は、最低でも23〜25歳の女性と推測』
「み…未成年淫行…ッ!つ、通報しなきゃ…!」
「落ち着いてくれリン!容疑者本人もいないのに治安局を呼んでどうする!」
慌てて携帯を取り出すリンを静止するアキラ。店番をしていたボンプの18号も何事かと足下をわたわた右往左往している。
『へんな言い方やめてくださいよ。アンタが勝手に抱き枕にしてるくせに』
『別にいいじゃない。…それに、誰にでもそういう事する程、アタイは安い女じゃないのよ?』
『…………そうですか』
18号を膝の上に置き、撫でながら平静を保とうとする兄妹。突然のよしよしにンナンナ鳴く18号をよそに、会話はさらに続く。
『そういえば…具合はどう?』
『尻尾ですか?まあ………すぐ生えてきますし、化膿もしてないので大丈夫です』
『………散々なファーストキスだったわね』
『ええ。………本当に』
『そのまま逃がしちゃってよかったの?警察に突き出そうとか思わなかったわけ?』
「…まさかクラウス、
「あれだけお兄ちゃんが説教してたのに…!?」
『や…あの時も互いに冷静ではありませんでしたし…互いに人生があるでしょ?』
『だからって乱暴されかけた相手を野放しにする?』
『………一応は友達だったので』
『ハア…いつか損するわよ』
「…どうしよお兄ちゃん、私達とんでもないこと聞いてない?」
「ああ…これは…少し後悔してる…」
2人して頭を抱える。これは盗聴をなんとしてでも隠し通さねば、と2人が決意した、その時。
『…やっぱりさ、これからもアタイと仕事を続ける気はない?』
『なんすか藪から棒に』
『だって…危なっかしくって見てられないし…アタイに任せてくれれば、君が学校出た時の就職先も用意してあげられる。…
『…
『その頃にはアタイも少しは偉くなるわ。だから自由もきくはず』
「ヘッドハンティングって本当にあるんだ…!?」
「リン、君ってやつは…」
『もし嫌なら…代替案として。フリーのホロウレイダーを続けていいけど…もっと、アタイと
『ハァーーーッ……………はいはい、始まりましたね』
『どう取るかは君の自由だけれど…アタイの本意はアタイにしか分からないわ』
『言っときますがね…今の関係だってごめんなんですよ?特定の相手に入れ込んで好きに仕事ができないんじゃクロウラーの意味がない』
『そう…アタイは、今の“クラウス”との関係じゃあ少し満足が行かないけれど…』
「な、なんか口説かれて…お、お兄ちゃん!?顔がすごいことになってるよ!?」
「クラ、ウ、スッ、君ってやつはぁぁあ……!!!!!あれだけ変な相手に隙を見せるなと…!」
『どういう意味ですかそれは』
『…この間は誤魔化したけど…そのまま行ってもいいかもしれないと思ったの。じゃ、アタイはそろそろ行くわ』
『あ、はい。終わったら連絡くださいね』
『ええ。………連絡届いたら、気楽にシャワーでも浴びて待っててね』
『え?あ、はい…』
『アンタには警戒心ってもんが足りないようだから…きっちり
『…通話が終了しました。本機はスリープモードに入ります』
「オイ待てfairy!逃げるな卑怯者!」
勢いよく立ち上がりH.D.D.に繋がれたディスプレイを引っ掴むアキラであったが、頼れるAIアシスタントはそれきり何も喋らなくなってしまった。
「はーい、お待たせしまし…た…」
ドアを開けてクラウスが戻ってきた。その途端、ぐるん!と勢いよく首を回してクラウスの方をぱっきりと見開かれた目で見つめる2人。クラウスは並々ならぬその様子にたじろいだ。
「え…なんすか…こわ…」
プロキシ兄妹の視線が、クラウスの上から下へ滑る。秋麗といったこのごろの気候にはまだほんの少し合わない薄手でハイネックのセーターに、黒のズボン。そして背後から邪魔にならぬようくるりと腰に一巻きされた尾は半ばから切れている…。
兄妹は察した。そして…イチ友達として、あまり触れてやらないことにした。言わぬが華、沈黙は金、触らぬ神に祟り無しというものだ。
「遅かったねクラウス。お返事はどうだった?」
「ええ、良いそうです!久しぶりに一緒にお仕事できますね!」
「ああ、こちらこそよろしく。じゃあ、このあと…二時間後にバレエツインズの川沿いの広場で。リンがイアスを連れて行くから、目印にしてくれ。遅刻厳禁だよ」
「よろしくクラウス、期待してるからね!」
「ええ、きちんとお仕事はしますとも…!」
ーーーーー
少し時間が経って…バレエツインズの地下鉄駅を降りた。共生ホロウ近郊に立地するオフィスビル街であるが…少し歩けばくすんだ色のポスターが見え、交通量もごくひっそりとしたもの。がんがらがんと物静かな、色褪せたペナント募集の張り紙をしたシャッター。大通りでは見かけなくなった古い型の信号機が、ただ電力を与えられるままに青、黄、赤を往復している。かつての高級百貨店であったバレエツインズはホロウに呑まれ見る影もなく…ホロウに近接した街は、こうしてゆっくり死んでゆく。
そんな様子を見ていると…
さて、そろそろ集合場所の広場である。デッキから下の広場を見下ろすと、見覚えのある青みがかった髪の後ろ姿と、ちいさな身体のスカーフボンプ。どうやら先を越されたようだ…と、しようもない悔しさを感じていると、ふと、彼女らが誰かと話していることに気がつく。そして、その相手の姿は…僕を、疑問の渦に陥れた。
「……………ヴィクトリアンメイドだ…」
そう。頭に燦然と輝くホワイトブリムに、白黒のクラシカルなメイド服…所謂近代の“萌え”のためのメイドでなく、本当に家政婦さんが着るような丈の長いスカートを履いた、ヴィクトリアンメイドがそこにいた。
驚愕を抱えながら、リンさんの元へ行かねばと階段を降りる。…今思えば、あのヴィクトリアンメイドのメイド服は、どこか普通のメイド服とは違ったような気がする。赤いベルトのようなものが付いていたような気もするが…気のせいであろう。しかし、なぜリンさんはメイドさんとお話ししているのか。
そんなことを訥々と考えていたら、いつの間にか下に降りてきていた。広場に出ると、リンさんとお話をしていたメイドさんがこちらに気付き…そして、それにともなってリンさんもこちらを認識した。僕は少し早足で側に近づく。
「やったね、今回は私が早く来たよ!」
「ちぇーっ、今回も僕が早いもんだと余裕こいてたらこれですか…」
「ふふん!私とイアスだって偶にはやるんだからね!…車で来てるけど」
「ンナ、ンナ〜ナ!(クロウラーに勝った〜!)」
得意げなリンさんと一緒になって、ぽこぽこンナンナと足下を跳ね回るスカーフのボンプ…イアス。可愛らしい頼れるガイドの様子に、自然と頰が緩む。少しの間彼の相手をしてやっていると…不意に、リンさんと話していたメイドさんが口を開く。
「あの…失礼にあたるかもしれませんが、そちらの方は…?」
「ああ、紹介しようと思ってたの!今回同行してくれる、ウチが雇ったエージェントだよ!」
「なるほど、そうでしたか……随分とお若い方ですのね」
上品な振る舞いと話し方である。…おい待て、まさかこの人が例の富裕層専門のエージェント!?!?!?
「ア、はい、どうも…え、メイドさんが?エージェントでメイド?」
「あ〜…まあ、ちょこっとミスマッチだもんね」
「…自己紹介をさせていただきます。“ヴィクトリア家政”、メイド長のアレクサンドリナと申します。よろしければ、リナ、とお呼びください」
「あ、ご丁寧にどうも…」
上品なカーテシーに、なんだか緊張してぎこちない会釈で返す。
「あー…今回同行させていただきます、エージェントの…今は“クロウラー”と名乗らせていただいてます」
「…クロウラー、様ですか。どうぞよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ」
顎に手を当てて何かを考え出したアレクサンドリナさん…リナさんの様子に、僕の中で不安が大きくなる。まずい、なにか粗相をしたか…?と、所在ない心持ちでいると、他方からもう一人、シリオンの男性が歩いてきた。
「失礼しました、少々本部と連絡を…おや、プロキシ様、そちらの方は?」
「ウチのほうで雇ったエージェントだよ!」
「どうも、クロウラーと名乗らせてもらってます…よろしくお願いします」
「…………こちらこそ。私はヴィクトリア家政の執事、ライカンと申します。クロウラーさん、お噂はかねがね」
執事服を着たオオカミのシリオン…ライカンさんの最後の言葉を聞いて、僕は先程のリナさんの態度にも合点がいった。どうやらこのお二人は僕の“仕事”についていくらか知っているようだ。
「知ってんですね、僕のこと…富裕層専門のエリートの方々に認知されているとは、光栄なことです」
「ええ。当方はあちこちにコネクションがございます故…同業者の噂も自ずから入ってくるのです。その中でも、貴方は特に話題でして」
「へーえ…例えば?」
「“仕事が確実”“融通がきく”…それに、他のホロウレイダーに比べて依頼料も破格の安さだ、というのが正直な感想ですね。…ある種の価格破壊のようで感心はできませんが」
「エ、価格破壊ですか…お金もあんまり要らないから安くしてたけど…そっか価格破壊になるな…」
虚をつかれ考え込む。確かに僕がホロウに入るのは金のためではなく生きるため。商売目的でないので金額が安くなるのは当然だが、しかし同業達の生活を壊すことになってしまうとは…
「…まあ、互いに此度は同僚、という立場になります。互いにこれ以上踏み込むのはやめておきましょう」
「そうですね。じゃ、よろしくお願いします。…店長さん、メンバーはこれで全員?」
「いや、あと2人いるね。…そういえば2人ともどこに行ってるの?」
リンが辺りを見渡しながら聴くと、リナさんがそれに答えた。しかし、その内容は…
「カリンとエレンなら、2人ともお手洗いに…」
…僕の中の時が止まった。
「ふむ、では2人とも戻ってから一応のブリーフィングを…クロウラー様!?クロウラー様どうされたのです!」
ぶわ、と汗が出て止まらなくなる。落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。同名の別人かもしれない。
「えーと、えーーと、あの…エレンさん?っていう人も同僚なんですか…?」
体が震える中、必死に声を絞り出してライカンさんに聴いた。言葉の裏に別人であってくれ、と祈りを込めて。しかし嗚呼無情…。
「…?…ええ、彼女はまだ若いですが、立派な我々の仲間です」
「彼女!!?!?!?!?!?!?!」
「ど、どうしたのクロウラー!具合悪いの!?」
手で口を押さえながら脳をフル回転させるうちに、パズルのピースが次々とハマっていく。エレンという名前、まだ若い女性であり、おそらくリナさんのようにメイド服を着ている。そこまではまだ良かった。しかし、しかしだ。
「…まさか」
リナさん、ライカンさんを一瞥する。2人とも召使の基本を抑えたメイド・執事服だが…所々に奇抜な意匠が施されており、一般的とは言えなくなっている特徴的な召使の格好だ。そして、それは…
かち、という音と共に最後のピースがはまる。そして僕の選んだ行動は…
「ボ、僕やっぱ帰ります!!!!!!!!」
「あっちょっと待ってよ!」「ぎゃん!!!!!」
勢いよく回れ右をし、ダッシュで逃走しようとすれば、隣のリンさんに尻尾を掴まれ、イアスに背中に飛びつかれ止められた。引っ張られた拍子につんのめり、コケて身体を地面に打ちつけた。先端の切れた尻尾が持ち上がる。
「いきなりどうしたの!?」
「は、離してください…今回ばかりは無理ですッ」
「なんで!?納得できる理由がないと離さないよ!!」
「僕の精神衛生上ですよ…ッ!気まずいままホロウ探索なんて嫌ですから…ッ!」
「意味わかんないよ!ほら、落ち着いてこっち来て!」
イアスにわっしとしがみつかれながらリンさんに抱き起こされ、その辺のベンチに座らされる。ヴィクトリア家政のお二人が怪訝な表情でこちらを見て何やらヒソヒソと話し合っていた。
「どうしたのクロウラー…気に入らないことがあったからって、もう依頼料も払っちゃってるからさ…」
「きっちり返金しますから!いや、なんなら倍にして返しますから、今回ばっかりは…!」
「クロウラー様…落ち着いてくださいまし。なにかこちら側に事情があるのなら、お話をお伺いします」
リナさんが僕の隣に腰掛け、物腰柔らかに話しかけてきた。…丁寧だ。これは、こちらも丁寧に対応しなければならない…。
「…エレンって、エレン・ジョーのことでしょう?」
「あら、エレンをご存知なんですのね」
「ご存知も何も…同級生ですよ。隣の席です」
その言葉を聞いたリナさんと、リンさんと話をしていたライカンさんの目が見開かれる。…さてはこの2人、この間の“アレ”も知ってるな?
「…この尻尾、彼女がやったんですよ?」
「それは…うちのエレンが、大変申し訳ございません」
「いいんですいいんです。尻尾くらい生えてきますし。…しかしまあ、貴方達…あんたらはエレンの保護者ですか?」
「はい、そうなります」
その言葉を聞いて、やはりな、と首を傾げる。彼女の家庭環境を未だ知らなかったが、そういうことであったか。
「ハア…自分達の保護してる子供のメンタルの面倒くらいしっかり管理したらどうなんですか。仮にも保護者でしょ?アンタらはさ…」
「…それは我々の不徳の致すところでございます」
「ええそうですとも。…びっくりしましたよ。まさか友人に乱暴されかけるとは思わなかった」
ふつふつと湧いてくる感情に任せて言葉を連ねる。
「…あいつも高校生なのに、ホロウレイダーとして働かせてるんでしょう?メイド服着て御奉仕しまーす、なんて…僕よりずっと
「…、僭越ながら…エレンは自主的に我々と共に働いています。給料も払っていますし、それに…貴方様だって高校生でしょう。保護者の方は知っているのですか?この仕事は」
「…父さんも母さんも知りませんよ、もう
「ええ、それは存じ上げております。私が言っているのは貴方の“叔父さま”の方でございます」
「…エレンから聞いたんすか。ええ知ってますとも。僕の
ふるふると首を振りながら言葉を連ねていくと、不意にリナ女史がこちらをじっと見つめているのに気がついた。
「…なんですかジロジロと。なんか変な物ついてますか?」
「いえ…エレンから聞きましたが、あなた様のお名前は…クラウス・ヴィオレンツァ、で合っていましたでしょうか」
「ええ、それが?」
「…………やはり、貴方は」
彼女の目が哀しみと
「…おい、まさかあんたら
「いえ。これは私が元々知っていた事…まだ私が見習いの時分に、“ヴィオレンツァ家”で働かせていただいていた事がありました」
「……………」
こいつ…知ってるのかよ。
「
「…はい」
「…………それ以上喋んないでくださいね、虫唾が走る」
「いえ、ですが「それ以上喋ったら喉笛噛みちぎりますよ」………畏まりました」
「ええ、それでいい。………あんたらに何がわかる」
「ちょ、ちょっとクラウス、流石に態度悪いよ…!」
嗜めるリンさんを無視して感情のままに吐き捨てた後、ふと顔を上げれば…遠くの方から人影が近づいてくる。片方は背の低い女児、もう片方は…やっぱり見覚えのあるメイド服。
「お、お待たせしました…!」
「ごめん、変なのに絡まれてて遅れちゃ、っ…………!?」
オドオドと謝罪を述べた小さい方とは違って、ふてぶてしく謝意を述べるサメのシリオン…エレンと、視線がかち合った。
「ク、クラウス…なんでここに…!?」
「エレンさん、お知り合いの方ですか?」
「知り合いも何も…ホラ、昨日のさ…、ッ!」
徐に立ち上がり、エレンの方に向かって歩いていく。
「ッ、あの、クラウス、こんにちは」
無視して一歩踏み出す。
「…あの、さ、なんでここに…」
また一歩。
「あ、いや………もしかして、仕事って…これ?」
一歩。
「…ッ、クラウス、その、昨日は…………ごめ」
そのまま無視してエレンの横を通り過ぎる。
「みなさんそろそろ行きましょう。時間が惜しいですからね」
振り向いてそう言った時のエレンの表情を見て、ちくりと心が痛んだ気がしたが…そんなもの無視して言い放つのだ。
「気安く好きだなんて言うなよ。きっと嫌いになるクセに」
【To Be Continued…】
クラウス:本来はきっつい性格。身内に甘く他人に厳しい。
手土産のケーキ:パエトーン2人のお腹に美味しく収まった。ハッピーバースデーのチョコプレートだけは、2人の目の届かぬところでクラウスのお腹の中へ。
パエトーン兄妹:ここではアキラがダイブ役、リンはイアスの送迎係。アキラはクラウスの朴念仁ぶりにキレた。リンは見たことのないクラウスの様子に困惑している。
ライカン:胃がキリキリ痛んでいたりする。
リナ:彼女は何か知っているようだ…。
カリン:エレンが何かしでかしたことしか聞いてない。かわいいね。
エレン:心ボロボロ。
ーーーーー
いかがだったかな。
性根のひん曲がったクソカス意地悪クラウスも書いてて楽しいね。
よければ感想などよろしくお願いします。