鮫と石竜子は知っている   作:ミトコンドリアン

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どうも、ミトコンドリアンです。
ゆっくり執筆しているうちにもうゼンゼロでは六課の新ストーリー。もちろんやってきましたよ。
そして今回、クラウスの過去に迫るんですが……
………………これ、初期段階からずっと変えてない設定なんですけど………







やばいな、本編に照らすとクラウスくんがニネヴェレベルの化け物になる。


皿の上のホロウ

 

「J'aime l'oignon frît à l'huile,J'aime l'oignon quand il est bon〜♩」

「「「「『…………』」」」」

 

 ホロウ内、バレエツインズ構内…。重苦しい沈黙も構わずやわらかく響く、澄んだ鼻歌。彼は生身のまま足を大きく蹴り出し、ずんずんと暗闇を裂いて進んでゆく。

 

「…あの…失礼ながら…本当に大丈夫なのでしょうか、彼は」

『あー、うん、いつもあんな感じだよ…』

 

 今回ばかりは時と場所を選んで欲しかったな、と、イアスの中から“パエトーン”は言った。ボンプ特有のぽてぽてと鳴る足音を伴って、家政の面々をエスコートしているパエトーンの前を、クロウラーがまるで近所の公園を散策するかの如き足取りで先行していく。

 

『クロウラー!きちんと警戒はしてくれ!』

「わかってますよ…露払いは任せてくださいな…っ、と」

 

 パエトーンの忠告に軽く返したクロウラーは、その後突然ピタ、と歩みを止めた。つられて停止する一行。怪訝な顔をするライカンを他所に、クロウラーは目の前…照明の切れた暗闇を、縦に割れた瞳孔をまるく拡大させ見つめている。不意に彼は口を開いた。

 

「いますね。幽霊みたいのが二匹、ストール巻いたの(タナトス)が一匹」

「…なんも見えないけど」

「君よかよく見えるからね、僕」

「…ウザ」「ウザくてごめんね」

 

 エレンが暗い顔で言った言葉を適当に流し、彼は前傾姿勢をとった。尾が上を向き、体重が前に出した右足にかかる。

 

「とりあえず、ここは僕に任せてください。()()()のあんた方が出る必要はないでしょ」

「え、えっ、ひとりでは危険なんじゃ…!?わ、私も一緒に…」

「…いえ、行かせてみましょう」

「いいの?ライカンさん」

「………実力を見ておきたいのです。カリンとリナはご主人様と一緒に照明のスイッチを探してください」

 

 ライカンの鶴の一声により、リナとカリン、パエトーンが照明のスイッチを探し出す。それを他所に、クロウラーは脚を踏み切り…

 

 

 音を置き去りにする。

 

「はや…ッ!?」「…」

 

 一瞬にして暗闇に消えたクロウラー。残ったエレンとライカンが注意深く暗闇を見つめていると、暗闇から音が聞こえ出した。

 

 何かを殴りつける音、何かが砕ける音、何回も何かを叩きつける音、エーテルの小爆発の光によってコマ送りのビデオのように映し出される人影…暫くして、音は聞こえなくなった。程なくして、パエトーン達が照明を復旧させたらしく、辺りの闇が晴れる。そしてライカン達の目の前には…()()が飛び込んできた。

 

 床や壁はあちこちにヒビが入り、壁に生えていたものであろうエーテル結晶の欠片が床に散乱している。そしてそこにはボロ雑巾のように投げ捨てられたエーテリアスの残骸が、コアを破壊されたおかげで崩れかかっていた。そして、こちらに背を向けて立っているクロウラーが、何か固いものを引きちぎるような音を立て…ぽーん、と、部屋の隅の屑籠にティッシュを投げ入れるが如く放られた高危険度エーテリアス(タナトス)が、ライカンたちの足下にぼて、と落ちた。手についていたはずの鎌は無惨にも腕ごと捥げ、頭部のコアは砕けてしまっていた。死体もそのうち崩れ去るであろう。

 

「…これは…っ」

 

 ライカンの頭に浮かんだ二文字は“暴力”…圧倒的な力で捩じ伏せ、後に残るは勝者と敗者…かの老人が言っていた光景が、今目の前にあった。エレンと共に様子を窺っていると、背を向けていたクロウラーが何かをぶつぶつと呟いていることに気がつく。

 

「ほーん…これはなかなか…渋い葡萄ジュースみたいな…」

 

「…クロウラー様、終わったのですか?」

「ん、あー、はい。もう大丈夫ですよ」

 

 違和感を覚えながら声をかけると、彼は振り向きざまにそう言った。彼の片手には…タナトスの手についていた円弧。彼は徐にそれを…口に入れる。

 

「「……………」」

 

 もご、ぼりっ、ぼりっ、ぼりっ…と、飴を噛み砕くような咀嚼音が響く。エレンとライカンの意識はしばし広大な宇宙へと飛び…戻ってきた瞬間、エレンの肌からぶわ、と冷や汗が吹き出した。

 

「なッ、何やってんのクラウス!!!!!吐き出せ!!!!!」

「ごほっ、何すんの痛いじゃないか!」

「黙って吐き出して!死ぬよ!!」

 

 ばすん、ばすん、とシリオンの膂力から繰り出された打撃がクラウスの背中に何発も叩きつけられる。クラウスは抵抗を続け、なんとかエレンを振り払った。

 

「…ごめん、そういや事情を言ってなかった」

「危険物を喜んで食べる事情があるわけ!?」

「食ってんだからあるんでしょうが…」

『ちょ、ちょっと、なんの騒ぎだい!?』

「………エレン、落ち着いてください」

 

 戻ってきたパエトーン達と、宇宙から戻ってきたライカンの制止でしぶしぶクラウスから離れるエレン。クラウスはため息をつき、パエトーンに目配せをした。パエトーンはそれを受け、なんとなく事態を理解する。

 

『あー…なるほど、見ちゃったんだ、彼の()()

「食事って…なんかの比喩?」

「文字通りですよ。生きるために食べなきゃいけないんです」

「…お待ちください。まさか、エーテリアスを()()にしているのですか?」

 

 ライカンが問いかけると、ご名答、とばかりにクラウスが指を指す。

 

「ちょっと違うけどまあ大正解…()()のせいでして、定期的にエーテル物質を摂取しないと体を壊しちゃうんですよね」

「…そ、そんなことがあり得るんですか?」

「さあ、前例があるかはわかんないですね。少なくとも僕はそうです。最初の頃はこれに気づかなくって、本当に()()しかけたんですよね…」

 

 やれやれ、と言った様子でクラウスは首を振り、床に散らばったエーテル結晶の欠片を広い上げ、まるでポップコーンのようにひょい、と口に入れた。ぼり、ぼり、ぼり…と、またもや咀嚼音が聞こえる。

 

「うん、美味しい!」

「…エーテルにも味があるのですか?どんな?」

「ホロウによって違いますね。ここは…こう、渋い葡萄みたいな」

「要するに、ワインの味ですか」

「へー…まあつまり、これは僕にとっての食事なんです。飯を食べるのに文句を言われる筋合いがどこにあると?」

「依頼料が安いのも、食事の“ついで”だからだ、と?」

「勘のいい大人は好きですよ」

 

 くすくす、と妖しく笑いながら指を振るクロウラーに、いつもの彼…“クラウス”の面影は少ない。まるで何かに酔っているかのような雰囲気で…エレンは困惑していた。

 

「てなわけで…話しているうちにまた来ましたね」

 

 そんな家政たちを他所に、クラウスは再び進行方向へと目を向ける。そこからゾロゾロと現れるエーテリアスたちは無感情にも感じられる足取りで、ヨタヨタとこちらに近づいてきていた。家政のメンバーは皆戦闘体制をとる。

 

「では、次は我々も行きましょう。あなたばかりに任せているわけにはいきません」

「そりゃ重畳。僕も貴方達(プロ)がどんなふうに闘うのか見てみたいです。特にエレンさんのが」

 

 ちら、とエレンの方を一瞥するクロウラー。かちん、とエレンの脳裏に火花が散る。

 

「…やったろうじゃんか」

「エレン、くれぐれも冷静にお願いしますよ」

「わたくし達もフォロー致しますわ」

「わ、わたしもがんばります…」

『みんな、よろしく頼むよ!』

 

 各々の神経が研ぎ澄まされ…纏うオーラは“プロ”のものと化した。背後で起きたその変化に少し驚いたような表情を浮かべたクロウラーは不適な笑みを浮かべ…両腕を胸の前に交差させる。

 

「じゃあ僕も本気出せますね…いや、エーテリアス相手ってやっぱり()()

 

 ざわ、と、クロウラーの背中から何かが吹き出す。繊維質のそれはあっという間にクラウスの身体を覆い、ぴたりと張り付き…その身を人外のそれへと変えてゆく。その様子に、家政たちの間には一瞬の緊張が走る。

 

「殺していいから手加減する必要ないし、なによりとっても美味しくて…」

 

 変化が止まる。家政たちの目の前にいたのは…()()()()()()()()()()

 

『さあ…喰わせろ!!!!!!!!』

 

 本能のままに、獲物に飛び掛かるように…“クロウラー”は駆け出すのだった。

 

ーーーーー

【編成】

◇エレン・ジョー ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

“強攻 氷 陣営:ヴィクトリア家政”

◇アレクサンドリナ・セバスチャン ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

“支援 電気 陣営:ヴィクトリア家政”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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◇“クロウラー” ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

“撃破 エーテル 陣営:???”

 

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ーーーーー

 

『はぁい、いっちょあがり!』

「あっ、ありがとうございますぅうう!!!」

『もういっちょ!』

「助かりますわ」

『いいって事ですよ!よぉし、次だこなクソァァァァァァア!!』

 

 ちぎっては投げ、という表現がある。まるで紙屑をちぎって捨てるように、という文字通りの表現であるが…まさに、ここでそれが行われていた。

 

『お前だ盾持ち(デュラハン)この野郎!美味そうなの持ってんな、寄越せ!!!』

何をするのですかー!!』

『黙らっしゃいこのボケっ!!!』

ああーっ!なんてことをーっーー!!』

 

 自分より一回りも背の高いエーテリアスに突貫し、打撃を数発打ち込んでから盾を鷲掴んだクロウラーは、そのまま力任せに盾を引き剥がす。まるで痛みでも訴えるようにコアを振るわせ音を出すデュラハンを、剥がした盾でそのまま殴りつける。

 

『えいっ!えいっ!むんっっっ!!!!!』

ああ!痛い!やめてー!!!!』

 

 どしゃ!ばし!ばき!と、執拗に盾を両手で打ちつけ…膝で盾を二つに折り、割れて鋭くなった部分を向け…突き刺す!

 

『ッッッッしゃオラっ!!!!!!!!』

ひえええええーーーーー!!!』

『よおし、こんくらいにしといてやる…』

 

 クロウラーはそんなことを言ってすぐに、膝をついた(ブレイクされた)デュラハンを両手で鷲掴み…

 

『ほいエレンよろしくっ!』

 

 ぽーん、と後方にいたエレンの方へ放り投げた!!

 

「気ィきくじゃん…ハアっ!!」

『ーーーー!!!!!』

 

 放物線を描いて飛んでくるデュラハンを、構えていた鋏で受け止め…冷気と共にバチン!と閉じれば、デュラハンのコアは砕けてしまった。死体がボロボロと崩れ去る。それを見たクロウラーはサムズアップ。

 

『いいね、すごい切れ味』

「…クラウスもね。やり易くて助かる」

『お褒めいただきドーモ。…さて、他の人たちはどうかな』

 

 二人は他方へ視線を向ける。そこでは、リナ・ライカン・カリンが巨大なエーテリアス…ファールバウティを相手取っていた。

 

「あの二人、良い仕事ぶりですね…負けていられませんわ。二人とも頼みましたよ」

『アイサーッ!』『ワカッタ〜ッ』

 

 リナの指揮に合わせ、彼女の戦闘用改造ボンプであるドラシラ、アナステラが雷光を纏う。彼女らはファールバウティの周りを飛び回り、あちこちから突っついて翻弄する。

 

くそっ、うっとうしいぞ!!!!』

「ありがとうございます、リナ!ハアッ…!」

ぎゃっ、冷たいぞーーー!?』

 

 ハエを鬱陶しがるような仕草をしたファールバウティの隙を見逃さず、ライカンが前へ。自身の脚甲を稼働させ、冷気を纏った蹴りを次々と、一定のリズムで打ち込んでいく。その所作は優雅にして冷酷無比であった。そのうち、ファールバウティの身体に変化が起きる。

 

オ、オデの手がぁ〜ッ!!!?』

「さて、仕上げにしましょう!」

 

 ファールバウティの肥大化した腕が、ライカンの放っていた冷気により凍りついてしまっていた。うまく動けなくなったファールバウティのコアを狙って、ライカンは後ろ回し蹴りを放つ!

 

『ーーー!!!!!!!!』

「今です、リナ!」

「かしこまりましたわ〜」

『オリャーッ!』『トツゲキ〜ッ』

 

 大気を震わせ苦しみの咆哮をあげるファールバウティの体勢が崩れた。ライカンが指示を飛ばすと、瞬時にリナがふわりと接近し、ドラシラとアナステラに電気を纏わせる。勢いよく射出された二匹は螺旋を描き、追突。電光を迸らせ…まだ攻撃は終わらない!

 

「カリン、仕上げは頼みます」

「は、はひぃぃいいいいいっ!!!!!」

 

 情けない声でリナの要望に応えたカリンは、その身の丈に合わぬエンジンカッターを回転させ、遠心力と共に振り回し、ファールバウティのコアに叩きつけた!

 

ぶげらぐぎょぎょぎょぎょーーーーーーーー!!!!!!』

「は、早く死んでくださいぃぃいいいい!!!」

 

 涙目のカリンはその言葉と共に、エンジンカッターをさらに押し込んだ。氷とエーテルとをいっぺんに巻き込み、轟音と共にファールバウティのコアを両断せしめ…物言わぬエーテルの塊にしてしまった。

 

『さすがはプロだ…鮮やかって感じだね』

「クラウスが荒っぽすぎるんでしょ」

『はは、エレンの言う事にも一理ある…二人とも避けて!』

 

 二人と共にライカン達の戦いぶりを見ていたパエトーンが叫ぶ。それを受け、何かに気がついたクロウラーは、エレンの肩を掴んで自らの方へ引っ張る。

 

「ちょ、何ッ!!?!?」

 

 引っ張られたエレンの頭のあった部分を、鋭い()が通り過ぎた。恐るべき速さで姿を現したのは、先程も見かけたエーテリアスのタナトス…しかし、緑色の部分は赤く発光している。

 

『二人とも気をつけろ!そいつは活性が高いみたいだ!』

『そのようですね…美味しそう』

「ちょっ、クラウス近いって!」『あ、失礼』

 

 エレンをもたれ掛からせるような体勢になっていたため、急いでクロウラーは彼女から手を離した。エレンは踏ん張り直し、得物である大鋏を構える。

 

「クラウス、援護頼んだ!」『言われなくてもやるよ僕は!』

血を見せなさ〜〜い!!!!!!!』

 

 コアを振るわせたタナトスは、手についた鎌にエネルギーを集中させる。エーテルの塊を撃ち出す構えに、エレンは恐れず踏み出した。

 

「シッ…!」

 

 紙一重でエーテル弾を避け、エレンは赤い残光を纏う。素早い動きでタナトスの周りをぐるぐると周回し隙を伺う様は、まさに狩りを行うサメがごとし。しかし、タナトスはエーテリアスだ。気にする事なく、目の前の生き物を殺すためだけに動こうとする…が。

 

『させる訳ないだろ!』

なあっーー!!!!!!!』

 

 控えていたクロウラーが背鰭からエーテル弾を撃ち出す。その軌道は湾曲し、動こうとしていたタナトスを阻害するかのように辺りを舞う。それにより、エレンからクロウラーへと標的が移るが…それは悪い選択であった。

 

「せーーぇ、のっ!!!」

ぐう…ッーーーーーーーー!!!!』

 

 タナトスの背後からエレンの大顎が迫る。冷気を纏ったそれは、タナトスの背中に強かな一撃を加えた。が、タナトスは瞬時に動いた。

 

この私を舐めるなよおっ!!!!!』

 

 ふっ、とエレンの前から消える。タナトス特有の瞬間移動能力だ。霞のように姿を消し、現れるのは…エレンの背後。もらった、と言わんばかりに鎌を振り上げるが…エレンは動じず声を張った。

 

「クラウスッ!」

『よしきたっ、おーるrrrrrrrぁああっ!!!!!!』

何ィッ!!!!!!!』

 

 ばきぐしゃあ!という音と共に、タナトスの鎌が腕ごとひしゃげる。エレンの呼びかけ…いや、それより前のアイコンタクトで既に要請は済んでいた。タナトスの攻撃を、クロウラーの強力なアームハンマー(パリィ支援)が弾いたのだ。たまらずタナトスはよろめく。この隙を二人は逃さない。

 

『エレン!』「わかってるッ!!」

 

 タナトスを周回する影が二つに増える。エレンが離脱すればクロウラーがぶちかまし、クロウラーが退けばエレンが斬撃を浴びせる。初めて共に戦うとは思えないほどのツーマンセルのチームワークは、タナトスが動く事すら許さない。じきに、タナトスの体勢が完全に崩れた(ブレイクされた)

 

『そおっ、るぁ!!!!!』

 

 クロウラーが背中をぐんと振り、体側をぶつけるようにして放った…所謂“鉄山靠”がタナトスを打ち据える。そしてクロウラーはすぐさま飛び退き…

 

「砕け散れッ!!!!!」

『ーーーー!!!!!』

 

 そこにエレンが()()()()()。暴風雪を巻き上げ、鋏で脚を切断。身体もめちゃくちゃに切り刻み、タナトスの身体を凍りつかせた。

 

「お待たせしましたご主人様、タナトスのシャーベット仕立てで〜す」

『ご苦労。美味しくなるおまじないは?』

「チッ、うっさ…」

『あーっ、どうかと思うよその言葉づかいーっ』

 

 やる気のない声色で、地面に突き立てた鋏に頬杖をつくエレン。クロウラー…“クラウス”の冗談めかした言葉に、エレンはフッ、と笑いながら返した。それにまた笑って文句を言いながら、クラウスはタナトスに近寄り…舌なめずりをする。

 

『さて、それじゃ早速…いただきます!!

 

 じゃくっ!と、“クロウラー”の大きく開いた口が凍ったままのタナトスのコアに齧り付く。良い音を立て砕けたコアを咀嚼し…ごくん、と飲み込んだ。それと同時にタナトスの死体は崩れ…クロウラーは声を上げる。

 

『ぶどうシャーベットだこれ!!!』

「…嬉しそうだね、クラウス」

 

 周りにはもうエーテリアスの気配は無い。頬を抑えるように歓喜の声を上げたクロウラーに、エレンは話しかけた。何かを迷うように視線を泳がせるが、意を決したように口を開く。

 

「その…この間は、ごめん」

『………』

 

 突然の謝罪に、クロウラーは少しだけ戸惑ったが…すぐに切り返す。

 

『ああ、あれか…もういいよ、うん』

「…え?」

『僕の“仕事”に対しての誤解も解けたでしょ?その件については水に流したげるよ…僕も言い方が意地悪だった』

「えっ、でも尻尾は…」

『ご心配なく。()()()()()()

 

 尻尾を身体の前に持ってきたクロウラーが指差したそこには、しっかりと切れた尾が再生していた。

 

『この姿のときは再生も早いから…だからもう、尻尾のことはいいよ』

「…そっか、ありがとうクラ『でも、でもだよ?』

 

 安堵の表情を浮かべるエレンに、クロウラー…クラウスは冷たい声色で指を指す。

 

『僕のことを殴っておいて、好きだなんだとほざいたことは許さない。好かれるのは嬉しいけどね…どう思った?“クロウラー”の僕を見て』

 

 その問いに、エレンは答えることができない。いきなりの問いだったのだ。無理もない。しかし、クラウスは気にしない。

 

『生憎…こっちも“僕”なんだよエレン。この、人間離れしたトカゲのエーテリアスの姿…こっちもクラウスなんだ。こんな人間、愛する方が難しい』

「…でもッ『そ、れ、に!!!』…?」

 

 強い声色で遮るクラウスは、寂しそうな声色で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…本当の僕を愛してくれる人なんて、いやしないんだ』

 

ーーーーー

 

『…照明の点滅が激しくなってきたな』

「ふむ、急いだ方が良いですね。行きましょう、プロキシ様」

 

 戦闘を切り抜け、バレエツインズを進んでいると、パエトーンは異変に気がついた。照明が点滅している…つまり、電力が弱まってきている。これでは、目指している場所へ至る通路の防火扉が閉まり、道が閉ざされてしまうのだ。一行が進む速度を上げると、必然的にエーテリアスに遭遇する。

 

「プロキシ様、敵は我らに任せて先へ!」

『わ、わかった!』

 

 寄ってきたエーテリアスを制しながら言ったライカンの言葉に、パエトーンはみじかい脚を必死に動かして走る。ボンプの身体で出せる最高速度で、護衛を受けながら目的地へ走る。

 

「階段はお任せください」

『わっ、ありがとうリナさん!』

 

 階段はリナが抱えてエスコート。その間にもドリシラ・アナステラ両名は辺りのエーテリアスを牽制している。

 

「どっ、どいてくださいいいいっ!!」

「邪魔ァ!!!!!!!!」

 

 轟音と共に回転する丸鋸が、冷たく光る刃がパエトーンを守護する。そのうち、目的地が見えてきた、が…それと同時に、防火扉が動き出す。

 

「しまりました…フッ…!!!!」

 

 それを見たライカンの行動は速かった。防火扉の先へ滑り込もうと、脚甲に動力を回し、全力で疾走する。進路上のエーテリアスを蹴飛ばしながら、もう閉まってしまいそうな防火扉に迫り…しかし、ここで邪魔が入った。

 

「くっ…不味い!」

 

 邪魔をしたエーテリアスを蹴飛すが、そのせいで失速。このままでは間に合わない…しかし、彼の横を一つの影が高速で横切った。

 

『任せてください!!!!!』

「クロウラー様!」

 

 そう。ライカンの背後を、クロウラーも疾走していたのだ。クロウラーは邪魔者のいない進路を駆け抜け…

 

『間に合えーーーーッ!!!!!!!!』

 

 スライディングの体勢で、閉まりかけた防火扉の下に滑り込んだ!!!

 

 重たい音を立て、扉が閉まる。クロウラーはなんとか扉の向こう側に行くことができたようだ。すぐにパエトーンがクロウラーに通信する。

 

『クロウラー、聞こえるかい?』

『あー、あー…ばっちし聞こえてますよ』

『そうか。インカムの不調もないみたいだね』

 

 扉の向こうから、クロウラーが通信に応えた。誰か一人さえ滑り込んでしまえば、あとは心配はない。ライカンもクロウラーに呼びかける。

 

「そちら側に、非常用の解放レバーがあるはずです。それを使えば扉も開くでしょう」

『分かりました、探してみましょう』

 

 扉の向こう側、渡り廊下でクロウラーは防火扉の周りを見回す。すると、扉の傍に開きそうなカバーを見つけた。きっとこれだ、とクロウラーがそれを開くと…

 

『え、嘘だろ…』

「どうされましたか、クロウラー様」

『いや、その…レバーがあるんですよね』

「はい、見取り図にはそう記述が」

『その…()()()()()()、レバーが』

「…何ですって?」

 

 ライカンが驚いた。クロウラーが言うには、レバーがあるはずの場所にはそれらしきものがくっ付いていた痕跡のみ。コードもご丁寧に短くカットされ、無理やり通電させることもできそうにないそうだ。

 

「困りました…これでは先へ進むのも難しいですね…一度ホロウを出て、計画を練り直すしか」

「えっ、じゃ、じゃあクロウラー様は置いていくんですか…?」

 

 カリンがクロウラーを案じる声を上げたが、扉の向こうから返答が返ってきた。

 

『安心してください。僕は()()()()()()()()。変身も体力を使いますけど、エーテリアスでお腹も満たせますから…何日でもいられますよ』

「…でも危険じゃない?ホントに大丈夫…?」

『大丈夫。信じておくれよ、元友達のよしみで』

「…………あ、そ」

『うん。…じゃあ、僕は僕で上へ向かいます。みんなは他のルートを探してください』

 

 クロウラーのその言葉に、エレンはつい、と後ろを向いた。

 

「じゃ、アタシたちは一旦退こう。クラウス、なるべく早く帰ってくるから」

『そっちは任せたよ。こっちも頑張ってみる』

『ええ、任せてください。僕も頑張りますよ!』

「…クロウラー様、ご武運を」

 

 ライカンの言葉を最後に、ヴィクトリア家政の一行は引き返していった。さて、と息をつき、クロウラーは振り返り渡り廊下の先を見据える。

 

『此処からはソロ…うん、いつも通りの…いや、ジェーンさんとのコンビが長かったから意外と久しぶりかな…?』

 

 独り言を呟きながらクロウラーは歩き出す。そして、少し歩いたところで何かがつま先に当たった。それを拾い上げると、何かの機械であることが分かった。文字盤のカウントダウンが減っていくが…

 

『…爆弾じゃないな、()()()()()()

 

 クロウラーは動じず観察する。そして、カウントダウンがゼロになると…そこから、大音量で音楽が流れ始めた。

 

『わ、生きてるカセットプレーヤー…?蹴った拍子にボタン押したかな』

 

 クラシック、それも古風なバレエ音楽を流し始めたカセットプレーヤーに驚く。ホロウの中に長くあっただろうに侵食を受けていないとは…。

 

 しかし、その考えは間違いである。これは、待ち受ける悪党が、彼に仕掛けた罠であるのだ。それを知らないクロウラーは、興味を無くしたように後方に放り投げると…プレーヤーが落ちる音と共に、硬質なものが床に降り立つ音がした。

 

『…?』

 

 クロウラーが振り返ると…そこには、()()()()()()()がいた。

 

『…へーえ、見たことない形だ』

 

 シルエットはバレエダンサーそのもの…しかし、トウシューズは鋭い刃に、スカートは凶器の散りばめられた危ない物に、すらっとした手足は硬質な金属質に…そして、端正なはずの顔は、顔を全面覆う目や口のない仮面のように変形してしまっていた。静かにポーズを取っているバレエダンサー…エーテリアスは、不意に大気を震わせる。

 

『…ふしぎなひとね

『なるほど、()()()ですか』

 

 納得したようにクラウスは言う。

 

『バレエツインズの悲劇は知っています。…もしや、貴女は()()()()の…?』

『…どうだっていいじゃない

『意識もはっきりしているようですね』

 

 まるで街中の人にするように、クロウラーは目の前のバレエダンサーと会話を交わす。

 

さあ、あなたもそろそろおしずかに…じょうえんのじかんよ

『おや、一曲踊ってくれるんですか?』

ええ…あなたは、さいごまでみていてくれるかしら

 

 大気の震えがぴた、と止まった。それと同時に、プレーヤーからの音声が途切れ…次の曲が流れ始めた。それと同時に、じゃき!とバレエダンサーの纏う刃が立つ。

 

『なるほど、そういうことか…面倒臭いなあ』

 

 クロウラーも爪を立て、エーテルを身体に巡らせながら目の前の侵食体を睨んだ。

 

さあ…しっかりとめにやきつけて!

 

 然りと意味を持った大気の震えと共に、バレエダンサーは踊り出すのだ。その身が観客を傷つけるとも知らずに。

 

『今日のデザートですかね…しっかりと味わって食べなきゃね!!』

 

 その敵意のない、優美で危険なバレエに向かって、クロウラーは突貫するのだった…。

 

 

ーーーーー

 

「あ、帰ってきた…お疲れ様。大変だったね」

「プロキシ様、お出迎え感謝致します」

 

 バレエツインズの外。広場にて、ヴィクトリア家政の面々が休憩を取っていた。外で待っていたリンは皆に労いの言葉をかけ、自分も頑張ったよ、と言わんばかりにアピールするイアスをなでくりまわす。

 

「でも…クロウラー様は本当に大丈夫なんでしょうか」

「あー、あの子なら大丈夫!今まで何回も一緒に仕事したけど、どんなピンチも切り抜けてきたんだから!」

 

 心配するカリンに応えるように、ふんす、と鼻を鳴らすリン。そんな様子に、暗い顔で黙っていたエレンが口を開いた。

 

「そういえば…なに?()()

「…クラウスの身体のこと?」

「そうそう。エーテル食べたり変身したり、いくらホロウにいても大丈夫とか…あんな力、どうやって手に入れたの?」

「あー、それは…」

「何か知ってるんだ」

 

 エレンはずい、とリンに詰め寄る。

 

「教えてよ。知ってるんでしょ」

「え、いやでも…クラウスに悪いよ」

「でも、知っておきたい。だって…」

 

 エレンは、冷たく拒絶する時の彼の顔を思い出す。そして、あの夜…彼の誕生日に受けた、あの言葉を思い出した。

 

ーーーーー

『どうせ本当の僕を愛してなんてくれないくせに!』

『決めつける?僕は決めつけが一番嫌いなんだ!これは経験則なんだよエレン・ジョー………!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『父さんも母さんも、耐えられやしなかったんだから!!』

 

ーーーーー

 

「…何かあったんでしょ。あいつ、辛そうだった…。お願い、あいつをわかってあげたい」

 

 覚悟に満ちた表情で、エレンがそう言った。それに押され、リンはたじろぐが…むん、と口をつぐむ。

 

「コホン…エレン、そのあたりにしておいてください。人には知られたくない過去の一つや二つある物で…」

 

 ライカンが制する。それに不服そうな目を向けるエレンだったが…予想外の場所からエレンへの答えが飛んできた。

 

「関係があるかは分かりませんが…彼の家族のことならわかりますわ」

「…リナ?」

 

 静かに傍観していたリナが口を開いたのだ。エレンとカリン、リンは驚くが…ライカンはあまり動じない。

 

「そういえば…“ヴィオレンツァ家”に派遣されていた時期があったようですね」

「ええ、その通りですわ。そして、彼についても…多少は知っております」

 

 その言葉を聞いて、エレンはリナに向き直る。

 

「お願いリナ、教えてよ。私…知りたいんだ」

「それは好奇心?それとも猜疑心からかしら」

 

 試すような口調のリナに、エレンは真っ直ぐに声をぶつける。

 

「…謝りたいの。あたしがどうしてクラウスを怒らせたのか、クラウスを傷つけてしまったのか…それを知らないと、ホンキで謝るなんて無理じゃん」

「……………」

「ねえリナ、教えて。お願いだから。あたし、謝りたいんだよ…」

 

 真剣な表情でそう言ったエレンをじっ、と見つめ…リナは優しく微笑んだ。

 

「では、お教え致しましょう。しっかりと聞いておくように」

「リナ…!」

 

 こほん、と軽く咳払いをし、リナは語り始めた。

 

「まず初めに…クラウスさまの姓はヴィオレンツァ。これは旧エリー都においても素晴らしい栄華を誇った、“ヴィオレンツァ家”の一員である証ですわ」

 

 ()()()()ヴィオレンツァ家は、現在のtops企業に匹敵する企業を運営できるような富・名声・力を握った家だった、とリナは言う。

 

「あっ、あの…知識不足で申し訳ございません、ヴィオレンツァ家って、あまり聞いたことがなくて…」

「それは最もな意見ねカリン。なぜなら、もうヴィオレンツァ家にかつての力はないのですから」

「ふーん…どうして?」

 

 エレンが素朴な疑問を口にすると、リナは答える。

 

「実は、ヴィオレンツァ家にある事件が起こり、クラウス様のご両親が()()されてしまったのです。クラウス様のお父様以外に、ご兄弟が一人おられたようですが…なにしろ()()されていたらしく、跡を継ぐ権利は無かったのです」

「結果として、ヴィオレンツァ家の当主の座は分家の者が握りましたが…内部での確執や策謀により、前ほどの力は失われ…今では上流階級と言っても、あまり地位は高くありません」

 

 リナの回答を聞いていたエレンだが…頭の上に疑問符が浮かぶ。

 

「それが…アイツの過去に関係あるの?いや、あるんだろうけど…どう繋がるわけ?」

「…それは、ヴィオレンツァに起こった()()が関係しますわ」

 

 リナは滔々と言葉を連ね続ける。

 

「11年前、旧エリー都の崩壊の日…クラウス様は、ホロウに飲まれてしまったそうですわ。今もご存命ですから、抜け出せたことは確かですが…それは、彼の精神を…()を蝕んだのです」

「…脳?」

「ええ。それによって、彼はたいそう苦しんだと聞いております…そして、彼のご両親も、苦しみに耐えかねたのです」

 

 リナの肩に珍しく力が入る。目が真剣なものへと変わった。ゆっくりと、彼女は口を開き、次の言葉を発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーピテル区一家心中事件…彼は、そこで生き残ってしまったのです」

 

 

【To Be Continued…】




クラウス:謎の多いくいしんぼ。心に傷を負っているようだ。冒頭に歌っていたのはフランスの軍歌で、『玉ねぎおいしいよね』をひたすら言う歌である。………なんでそんなの知ってるの?

エレン:クラウスに謝りたい。たとえ許してくれなくても、真摯に。

ライカン:エレンの成長にちょっと感動している。

カリン:クラウスの過去にびっくりしている。かわいいね…。

リナ:誰かは知っている、家政婦は知っている!

パエトーン兄妹:旧エリー都崩壊被害者仲間な点が、クラウスと仲良くなれたポイントかもしれない。

ーーーーー
いかがでした?
よければ感想・評価よろしくお願いします。
さあて、どんどこクラウスの過去を詳らかにしてこう!
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