聖女の夢と過去の夢
side カミト
夢を見ていた。
ひどく鮮明なーーーーーそれでいて、夢であることが明白な夢。
閃く剣閃。響き渡る剣響。
大勢の兵士の血に染まった回廊を駆けながらーーーーー
光り輝く剣を振るうのは、美しい黄金色の髪の少女だ。
剣舞を舞うような流麗な剣捌きで、襲い来る有象無象の精霊を斬り伏せていく。
その少女の姿には、見覚えがあった。
彼女の肖像は、彫刻や絵画などの美術品に、いまもなお数多く描かれているからだ。
アレイシア・イドリース。
かつて魔王を滅ぼしたとされる救世の聖女。
だがどうして彼女の夢を見ているのかわからない。
それでも夢は続く。
明晰な意識の中でーーーーーやがて、歴史に残るその刻がやってくる。
最後の精霊を倒した少女は回廊を抜け、いよいよ城の最奥へと到達した。
まばゆい光輝を放つ<聖剣>を両手に構え、はるか頭上にある玉座を見据える。
そこに、一人の男が悠然と座していた。
玉座の周囲は揺らめく闇の焔に覆われ、その姿を識別することはできない。
だが、それがいかなる存在であるのか、直観的に理解していた。
魔王スライマンーーーーー
かつて、大陸全土に破滅と災厄をもたらした、史上最悪の暴君。
強大な七十二柱の精霊を支配する、唯一の男の精霊使い。
禍々しい闇の焔は、聖剣の少女を威圧するように轟々と猛り狂う。
だが、少女は怯まない。
その手に握る聖剣が、彼女の心を強く支えていたからだ。
「邪悪なる魔王よ、精霊王の御名と我が聖剣によって、永久に滅びるがいい!」
吹き付ける風、その瞬間、場面が変わる。
ーーーーー◇ーーーーー◇ーーーーー
そこは、先程の玉座ではなく、ベッドだ。
「ーーーーー昔々あるところに、古くから生き続けている『女神』たちがいました。
『女神』たちは、とある『何か』を守っていました。
その、『何か』は世界の中心にあり、それが世界のすべてで、力の源で、すべてのすべてでした」
「『何か』ってなんだ?」
これは、三年と少し前の記憶だ。
寝れなくてライナにおとぎ話を頼んで聞いた物語。
「俺も知らねぇよ。続けるぞ。
『何か』は本当に大切なもので、『何か』が傷ついてしまうと、すべてが台無しになってしまうのです。
だから『女神』たちは日々、『何か』を大切に、大切に守っていました。
しかしそこに、一人の『勇者』が生まれます。
彼は生まれつき大きな力を持っていました。
神の愛に恵まれた『勇者』を誰もが愛し、慈しみ、さらに大きく育てました。
しかしその力はあまりに大きすぎ、彼独りでは抱えきれなくなってしまいました。
やがて力に苛まれた『勇者』は狂い、黒く、深く、沈んでしまいました」
「『勇者』は俺たちみたいな男の精霊使いなのか?」
「いや、それより異常な力をもつ者だ」
この時までこの物語は楽しいものだと思っていた。
「そして『狂った黒い勇者』は思いました。
この黒で、すべてを染めてやろう。
なにもかもを台無しにしよう。
なにもかもを台無しにしよう。
なにもかもを台無しにしよう。
『狂った黒い勇者』は狂っているのです。
狂っているのです。
狂っているのです。
彼は狂いながら、さらに深くに堕ちていきましました。
まずは世界を黒く塗り潰しました。
その剣で、すべてのものを黒く塗り潰しました。
でもそれでも足りません。
どれだけ食べても足りません。
彼はさらに、『女神』を食べて殺そうとしました。
『女神』が守る『何か』に手を出そうとしたのです。
何人もの『女神』がころされました。
しかし『女神』たちも必死に抵抗しました。
そしてなんとか、『狂った黒い勇者』を封じる術を生み出しました。
今日はここまで、もう眠いからな」
「また、明日、話してくれるか?」
「ああ、弟子の頼みだ。聞いてやるよ」
ライナは俺の頭を撫でて部屋を出ていく。
はい、大伝説の勇者の伝説2の146ページの物語をカミトに聞かせたかっただけです。