無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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結構時間がかかってしまいました……


不安

あの光景を目撃してからというものの、待ちに待っていた休日は地獄のような時間に変わり果てていた。食事が喉を通らず、寝ようとするならばあの時の光景が夢にでてくる。体が重く外に出る気力もなくなっていた。毎日寝床でなく日々を送っていた。無理もないだろう。目の前で人が殺されたのだから。それに、正体不明の化け物に加え、人語を喋る知的生命体であることもわかっている。こんな情報を数日で処理できるわけがなかった。

 

「くそっ…………なんで……どうして誰も気づいてないんだ……明らかに変な生き物が……飛んでたじゃんか……それのせいで……あっ、あの、あの人が……うっ!おぇぇ!」

 

今日も夜な夜な布団に顔をうずくめながらあの日の不満を口にする。しかし、あの時のことを思い出すと吐き気が止まらなくなる。体力的にも精神的にも相当参っていた。

 

「おかしい……おかしいだろ……」

 

進はしっかりと視認していたはずだ。あの日見つけた、あの虫を。なのに、何故か誰も見向きもしなかった。不自然なほどに、そこにはなにもいないかのように普段通り生活している住民で溢れかえっていた。もしかすると自分の見ていたものは全て幻だったんじゃないかと思ってしまうほどに、誰1人として気づいている者はいなかったのだ。変な物体を入れられた人も虫に気づかず会話を楽しんでいたのを思い出す。あのあと謎の物体を入れられた男の人は、あの化け物に殺された。こんな異常事態になぜ皆は気づかないのかわからない。

 

「はぁ…………明日は……バイトだ……」

 

明日からまた始まるバイトにいままで抱いたことがない程の嫌悪感を抱く。したくない訳ではない。まともにできるか不安なのだ。こんな状態でちゃんとできるのか、それが不安でしかたがなかった。

 

「心配……されちゃうよなぁ……」

 

進は、バイト先にいる後輩のことを思い出す。一緒に過ごしててわかったのだが、カノンはとても優しい。お人好しってレベルで優しいのだ。しかし、時々深く考えすぎてしまい自分のやった行動を重く捉えてしまう事もある。実際会ったばかりの頃は、敬語が時々外れてしまった際すぐさま謝罪されていた記憶がある。それに最近でいうと、雨の日に家に邪魔させてもらった時もそうだ。こっちがお礼をいいたいくらいなのに、風呂の後の服の事情を考えていなかった位でとても申し訳なさそうにしていた。あの時のカノンの焦り用はちょっと可笑しかったな。

 

「ふふっ……はぁ…………カノン……」

 

あたふたしていた時のあのカノンの様子を思い出して少し笑ってしまった。久しぶりに笑ったような気がする。進はまだデュエマシティに来てから間もない。2ヶ月ちょっとだろうか。働き始めた頃はまだ来てから1ヶ月程しか立っていなかったと思う。まだ街に慣れない進にとって初めて遊ぶほどの関係値を持てた相手はカノンだった。時間がなかったのもあるが、何より働かないと遊べもしないので人と関わる事がここ1ヶ月の間全くなかったのだ。金がたまって遊ぶようになれば自然と友達はできるだろうと思っていたので、思ったよりも早く友達といえる人と関わりを持てたことがすごく嬉しかった。関係性としては先輩と後輩となっているが、進からするともう友達といっても差し支えないレベルの存在になっていた。

 

「早く会いてぇなぁ…………」

 

カノン以外に知り合いがいないので相談できる相手がおらず、ずっと1人で抱え込んでしまっていた進は、少しでも誰かと話して気を紛らわしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おはようございます!先輩!………先輩?」

 

「……あ?あ、あぁおはよう……」

 

あの日以降の初めてのバイトの日。やはり精神的影響がでていたのか、カノンの挨拶に対して反応が遅れてしまった。

 

「どうしたんですか?なんだか、元気がないような……」

 

違和感があったのか心配そうに訪ねてくるカノン。

 

「い、いや……なんでもない……」

 

すぐにでも話したかったのだが、ここで1つの迷いが生じた。

 

本当に相談してもいいのだろうか、と

 

この事を話したとしても信じてくれるのだろうか?もし、自分が友達からこんなことを話されたのなら、やはり疑ってしまうと思う。そうするとまともに話を聞いてくれなくなってしまうかもしれない。優しいカノンに至ってそんなことはないだろうとは思うが、それでも奇っ怪な目で見られてしまうのは避けられないだろう。初めてできた友達ともいえる人にそんな目で見られてしまうのは少々心にくる。それに、もしこの話を信じてくれたとしたら、カノンがこの事件に関わってくる可能性も捨てきれなかった。カノンの事だ。もしかしたら変に関わりを持ってしまったせいで被害にあってしまうかもしれない。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 

「……………………」

 

「ほ、本当に大丈夫何ですか?」

 

ずっと考え事をしていたためつい無言になってしまう。そんな様子を見ていたカノンが怪訝な面持ちで、本当に大丈夫なのかと不安そうに訊いてくる。

 

「あ、あのー先輩?」

 

「ん?えっと……ごめん、何て言ったの?」

 

自分の世界に入り込んでしまっていまのでいまいちカノンの言っていたことが聞き取れなかっため、もう一度話してほしいと頼む。

 

「えーと、本当に大丈夫なんですか?って聞いたんですが……」

 

「あぁ、そのことか。大丈夫だって!別に大したことじゃないから!」

 

悩みを持っていると悟られないように強がって見せる。カノンはそんな進を怪しんだ目で見ていたが、暫くして諦めてくれた。

 

「うーん……まぁ、わかりました。そこまで言うのなら余り訊かないようにしますね。」

 

「あぁ……そうしてもらえると助かる。それよりも、そろそろ仕事しなきゃな!」

 

話題をそらすように、仕事を始めようとカノンに話す。

 

「あ、そうでしたね。じゃあ今日も頑張っていきましょう、先輩!」

 

「おう……そうだな……」

 

笑顔でそう言ってくるカノンを複雑そうな顔で見つめる進は、仕事をするべく職場へと赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。」

 

最後の客を見送り終わった。今日のバイトはこれで終わる。進は、何故かいつもより疲れが溜まっており早く家に帰ろうと荷物をとりに休憩室へと歩を進める。

 

「はぁ………疲れた……」

 

荷物をとりながらそんなことを呟く。早く帰って休もう。そう思い、足早に店から出る。しかし

 

「ま、待ってください!」

 

「カノン……?どうしたんだよ……」

 

カノンに声をかけられてしまい足を止めた。なにやら困っているような、心配そうな目をしていたがどうかしたのだろうか。自分の事ではないと思いたいのだがそんな思い始め容易く打ち破られる。

 

「やっぱり、今日の先輩はおかしいです!」

 

ギクッとした。なるべく悟られないように振る舞っていたはずだが、そんなに分かりやすかったのだろうか。一応朝に悩みごとはないとは言ってはいたが、余り意味はなかったようだ。

 

「は?おかしいって、どこが?」

 

この悩みごとがバレれば、いいことなんてないので精一杯とぼけて見せる。が余り効果はないようだ。

 

「うそ、ですよね?」

 

「いや、だから本当になんでもないっ「嘘つかないでください!」っ!」

 

否定しようしたところに普段のカノンからは聞かないような声量で詰められてしまう。ビックリしたのか進は言葉がでなかった。

 

「先輩、今日のお仕事中全然元気があるように見えませんでした。」

 

「…………………………」

 

「それに、何かに怯えているような目をしていたんです。まるで、なにかを恐れているようなそんな目を。」

 

「…………………………」

 

カノンの言っていることが図星なのか、何も喋らずただ俯きながら話を聞いている進。

 

「図星、なんですね?」

 

「…………………………」

 

「一体なにがあったんですか?」

 

何も喋らない進をみて確信したかのように質問を投げ掛ける。

 

(やっぱり優しいな、カノンは…………けど、優しいからこそ尚更話すわけにはいかないんだ……巻き込まれるかもしれないから……ごめんな……カノン……本当にごめん……)

 

本当話したいがグッとこらえる。そして、意を決した様に俯いていた顔を上げカノンと向き合った。

 

「……?」

 

「……確かに、あるよ。」

 

「やっぱりそうでしたか………力になれるかはわかりませんが私なら、幾らでも聞きます「けど、話すことはできない」……え……な、なんで……?」

 

悩みごとがあるとわかり、原因が判明したせいか少しほっとしたカノンは、力になろうと相談を聞こうと言おうとしたが進に話すことはできないと強く断られてしまった。

 

「なんで、か…………これは、カノンには関係のないことだからかな……」

 

そう言って目をそらす。

 

「関係ない?そんな訳……ないじゃないですか!」

 

「あるんだよ!!わかってくれよ!…………巻き込みたく……ないんだ……」

 

進は執拗に問い詰めてくるカノンに少し、不本意ながら苛立ちを覚えていた。何故ここまでして親身になってくれるのかがわからない。カノンが若干怒っているかのように声を張り上げて、関係あると主張してくる理由がわからなかった。普通なら親しい間柄の者達であっても、訊かないでくれと頼んだらそこで退いてくれるものではないのか?ましてや会ってまだまだ1ヶ月ちょっとの関係だ。ここまで悩みを訊いてこようとする必要があるのだろうか?少し本音が口にでてしまったが、小声だったためカノンが聞き取れたようではなく安堵する。無意識にでてしまうところを見ると、こちらもそろそろ限界が来ているのだろう。

 

「頼む!今回だけは、今回だけでいいから!この事は忘れてくれ!な?」

 

下らない嘘をつく自分に吐き気がする。カノンの気遣いをわざわざこちらから拒絶している事実に罪悪感を抱いていたが、カノンをあの化物から遠ざけられるのならこんな罪悪感などどうというものではない。

 

「いや、です!」

 

しかし、カノンが折れることはなかった。そんなカノンの様子に喉が詰まる。いったいどこまで世話焼きなんだ彼女は。

 

「なんでだよ!そっちの都合は押し付けてきて、俺の頼みは1つも訊いてくれないのか!?」

 

「っ!なにを、言って……」

 

「自分から承諾したものの、俺はカノンの遊びの誘いを受けてやったよな!?それに、お前の気になるところにずーっと!ついていってやった!」

 

「え……?せ、せんぱ……い?」

 

「あぁ、それから雨が降ったときも無理矢理お前の家に連れていかれたよなぁ!?結局いい提案もなくて散々な目に会ったけどな!!!」

 

「…………………………」

 

いままでのカノンの善意を全て、貶すような言葉を並べる進。それに対して進自身も戸惑っていた。

 

(ぁ……?こ、こんなこと言うつもりじゃ……!そんなこと思ってない!カノンは、俺を遊びに誘ってくれたし、雨の日だって何とかしようと頑張ってくれてたのに……!とまれよ……なんで止まってくれないんだよ……俺の、口……)

 

彼としても不本意だった。そこまで言うつもりはなかったし、元よりそんな感情は1度たりとも抱いた覚えはない。何故このようなことを口走ってしまうのか。答えはわかっていた。

 

(でも……カノンが危険な目に遭うよりはマシ、なのか……?そ、そうだよな!カノンがあんなば、化物に花みたいにされて、殺されるよりかは……俺が嫌われてでも守れた方が……いいに決まってる……よな……?)

 

未だにカノンは無言のままだ。俯いていていて表情が見えないが、きっとひどい顔をしていることだろう。そりゃそうだろう。こんなこと言われて、傷つかないわけがない。ましてやカノンのような喜怒哀楽の激しい子は特に酷いものになっていることだろう。だが、進はこれで良かったとそう思う。巻き込まれないのならそれで十分だと。

 

「それでも、私は……」

 

「雨の時だけじゃない!あの時、カノンを客から助けたあの時!怖い思いまでして助けてやったんだぞ!」

 

あぁ……言ってしまった。完全に嫌われただろう。助けてやったなんて、まるで感謝をされたい自己満足のような思考じゃないか。諦めきれてなかったようすのカノンもそろそろ折れてくれるだろう。心苦しいがしょうがないそう思い、止まらないカノンへの偽の不満を止めて踵を返して、帰路へとつこうとした。

しかし

 

「先輩!」

 

諦めたかと思った矢先カノンが声を上げた。その目は決して諦めているような目ではなく、どこか光が見えてくるような、そんな目をしていた。

 

「ま、まだ諦めて……っ!」

 

まだ諦めてないのかと問おうとカノンの目をみる。その瞬間カノンは進の手を握ってきたのだ。

 

「な、なにを「震えてます……」っ!」

 

「手、震えています……我慢していますよね?」

 

「なに、言って……」

 

一体なにを言っているのだろう。手が震えている?そんなはずはない。精一杯隠し通そうと取り繕っているはずだ。

 

「分かっていないとでも思っていましたか?ちょっと、甘いです。」

 

「どういう……」

 

「先輩が話してるとき、ずっっっと震えていましたよ?なにかを怖がっているような、そんな震え方です。」

 

分かっていた。あんなショッキングな光景を目にして、ボロが出ないように振る舞うことなど不可能だと。しかし、バレていないだろうと、そんなありもしない希望に縋るように、一体なにが分かっているのかと、そう問う。

 

「な、なにが分かるんだよ!」

 

「同じ」

 

「……へ?」

 

なにが同じなのだろうか。手の震えに関係のある話なのか?カノンの考えていることがここまで分からなくなったのはこれが初めてかもしれない。

 

「私も、そうなったことが、あったから……」

 

「……え?」

 

「だから、その震え方は私と同じ。だから、深刻な悩みを絶対にもっているって思ったんです。」

 

衝撃的なことを告げられさらに混乱する。俺のような辛いエピソードが、カノンにもある?だから、俺の気持ちも分かるってのか?深くは訊かない。きっと、それは俺の経験したときのような地獄の光景が広がっていたに違いないから。思い出すだけでも辛いだろうから。

 

「我慢なんてしなくていいんです。」

 

「がま……ん……」

 

「私は誰かに悩みを話せたり、なんとか出きるような状況ではありませんでした。でも、先輩は違う。」

 

「違う……?」

 

一体なにが違うと言うのか。カノンの話しにいまの状況を当てはめるとしたら、進も誰にも悩みを話せないしどうにか出きるような状況でもないはずだ。話した時点でこの事件に関わってしまう危険が付きまとってしまう。それに、あんな化物にどのような人物が対抗できるだろうか。無理に決まっている。だと言うのに、自分はカノンと同じ状況のはずなのになにが違うと言うのか、一体どのようなことを言ってくるのか進は次の言葉を良く聞こうと無意識に身構えた。

 

「先輩には頼れる人がたくさんいるところです!私だけでは手に終えないようなら、私の友達に相談しましょう!」

 

なにを言い出すかと思えば、頼れる人がたくさんいる?友達が只でさえ少ない俺に?まだこの地に来たばっかりだってのに?それに、カノンの友達と言うのはルピコさんとプレイヤーさんのことだろうか。それなら尚更巻き込むわけにはいかない。

 

「友達って……ルピコさんやプレイヤーさんのことか……?悪いけどな……俺の悩みごとはカノンや、ルピコさん達なんかではどうにもならない「大丈夫です!!」っ!」

 

断りを入れようとした進に割って入ってきたカノンが否定する。

 

「こう見えて、私の友達には頼れる人がたくさんいるんです!なにもルピコ達だけって訳じゃありません!」

 

「ルピコさん達だけじゃ…ない……」

 

「そうです!一体どれだけの悩みがあるのか、それは話してくれないと分かりません。でも、きっとなんとか出きるはずです!」

 

何とかすることが出きると、そう断言する。そんなカノンの希望に満ちた表情をみていると、ひょっとしたらと思ってしまう。あんな化物をどうにかするなんて無理なはずなのに、何故かそう思わせる程の説得力がカノンにはあった。

 

「無理に決まってる………そもそも、見ず知らずの人間をそこまで親身になって助けてくれる訳……」

 

「大丈夫です。私の友達は、皆デュエマが大好きな人達ばかりですから。」

 

「そんなんで…………どうにかなるもんなのかよ……」

 

デュエマは自分自身も好きだ。だが所詮はカードゲーム。デュエマが好きだからと言って、この話を聞いたとき命を懸けてまでどうにかしてくれるわけがない。

 

「なります!」

 

「………………は?」

 

何故ここまで言いきれるのだろうか。ここまで後輩の考えていることが分からない日は、今日が初めてだ。

 

「デュエマを楽しむ街なのに、そんな辛そうな顔をしている人をほっとくような人たちじゃないから、きっと先輩のお悩みもきっと何とかしてくれるはずです!」

 

「は、ははっ……そんな……理由かよ……」

 

きっと、カノンがそう言うのだからそうなんだろう。会ったことはないがいかなる理由があったとしても、その友達達はこの問題を何とかしようと奮闘してくれるんだろうな……

 

「わかったよ……」

 

「っ!せんぱ「けど、やっぱり無理だ。」え?」

 

心が揺らぐ。もう言ってしまって楽になりたい。でも、死んでほしくないんだ。わかってくれ。これは、人間にどうにか出きるものではないんだと。変に探し回ったりするよりも、知らずに生活してもらった方が良いはずだから。

 

「な?わかってくれよ……?無理なものは無理だ。」

 

「………………」

 

無言でうつむくカノンの表情は、どうなっているのか分からない。ここまでカノンの善意を無碍にしてしまった自分に嫌悪感を抱く。早く消えてしまいたかった。

 

「悪いな…………俺はここら辺で帰らせてもらうよ……」

 

そういって帰ろうとした、その時

 

「先輩の、分からず屋!」

 

「っ!」

 

カノンからそんな言葉が出てくるとは思わず怯んでしまう。

 

「どうして、なんでもかんでも諦めるんですか!」

 

「そ、それは……無理だから「無理無理って、やってみないと分からないです!」っ……」

 

「まだ、誰も頼ったりしてないじゃないですか!1人じゃ無理でも、たくさんいればどうにかなるかもしれない。なら、やってみないとわかりません!」

 

「やってみないと…………」

 

きっと無理だと、そう思っていた。あんな化物はどうすることもできないと、そう思っていた。しかし、カノンの言う通りまだ試したことはない。理由はそれだけだ。無謀だとは思う。しかし、精神が疲弊していた進は癒しを求めてしまった。試したことがないのなら試してみる。それならどうにかなるかもしれないと、そう思ってしまった。思ってしまったのならもう止まらない。今まで我慢していた感情が溢れだしてくる。

 

「なあ……俺は、話してもいいのか……?辛かったことも全部話しちゃっても、いいのか……?」

 

「えぇ、もちろんです!そんな、悩みごとは私達が何とかしますから!全部、全部をぶつけてきてください!」

 

「カノン……俺は……おれはぁぁぁ!」

 

進は溢れだす感情に対応できず跪いてしまった。我慢してきた分の恐怖や情報を共有できない分の孤独感、あの日の衝撃的な光景がフラッシュバックしながらも、もう我慢することはないといった安堵感からか、涙が出そうになる。

 

「先輩、安心してください。私は、あなたの味方ですから。一緒に、考えましょう。そのお悩みをどうするのかを。」

 

跪いてしまった進に目線を合わせるために、中腰になって優しく語りかけてくるカノン

 

「うっ……くっ……カ…ノン……わ、わる、い……胸、貸してくれ……」

 

「私のであれば、幾らでもどうぞ。」

 

「す、すまん……」

 

そういって進はカノンの胸に顔をうずくめる。カノンは進の頭の後ろに手を回し抱き止めてくれている。もう限界はとっくにすぎてしまっていた。

 

「うっ……あぁ……ひぐっ……おれ、おれぇ!つ、辛かった!苦しかった!なんでこんなこと抱え込まなきゃいけないんだって!」

 

嗚咽が止まらない。みっともないなんて思う暇もなく決壊したダムのように奥に秘めていた感情をカノンに吐露する。

 

「大丈夫、大丈夫ですから……辛かったわよね……何があったのかは分からないけれど……今は思う存分泣いていいのよ。」

 

進を安心させるために言葉を掛ける。途中、敬語が取れてしまっていたが、カノンは気づいていなかった。それだけ、今は進に集中していると言うことなのだろう。

 

「う、うぅ……」

 

「大丈夫、大丈夫………………私が貴方に祝福をあげるから……安心して……」

 

そういって泣き続ける進の頭を撫でながら進の思いを受け止めるカノン。その二人の姿は、以前進がカノンを助けたあの日とは全くの逆に見えた。

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