無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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予感

「つっかれたぁ~……!」

 

カノンを休ませた後、進はカノンの分まで存分に働かされた。ヘトヘトになりながらも恩人のためだと考えると苦ではなく、寧ろもっと頑張ろうと思ったくらいには進は今回カノンが相談してくれたことに感謝していた。そして、今現在進はバイトが終わり家へと帰りついていた。

 

「あぁ~もう動けん……」

 

進はそう嘆くと同時に部屋のど真ん中に倒れ込む。その様はまるで死んでいるゾンビのようだった。進は余程疲れていたのかう~あ~等と唸り声をあげている。

 

「カノン、しっかり休めたかな……」

 

唐突に進は今日の出来事を思い出す。明らかに熱ではないのに熱があると言い張り無理やりカノンを休めた進。それには理由があった。

 

(俺が相談した後のカノンはどうも様子がおかしかった。ぼーっとしていることが多くなっていたり、相談中の反応も余り元気があるようには見えなかった。まぁ……元気の出るような話ではないが……それでも、何時もより何となく元気がなかったのは確かだと思うんだよなぁ……)

 

もしかするとショッキングな話の内容のせいで変に考える事が増えてしまったのかもしれない。そうなれば完全に自分のせいだ。巻き込むつもりはないがわかっていたはずだ。カノンのような優しい人はきっとその化物の事について何かしら思うはず。結果カノンはその事件の事を考えてしまう。それが微量ながらも身体の疲弊に繋がってしまっているのではないか。実際明らかに声に張りがなく、何時ものように感じていたカノンの活気が余り感じられなかった。進は、気づけば翌日早めに店へと赴き、店長にどうにかしてカノンを休ませてあげられないかと頼んでいた。

 

(店長は優しい人だ……あんな頼みいきなり言われても困るだけなのによくオーケーしてくれたよ……)

 

いきなりのお願いに快く許可をしてくれた店長には本当に頭が上がらない。今度なにか恩返しでもしよう、と密かに決意する。

 

(それに、最初の予定じゃ本当に無理やり休ませるつもりだったし適当な理由を作れたのはマジでラッキーだったなー……無理やりってあんまり良くないとは思うんだけど、前々からカノンって頑張りすぎだと思ってたし、ちゃんと顔にも疲れが出ていたから今回は間違っていないと信じたい。倒れられたりしても困るしな。)

 

カノンはとんでもないお人好しで、自分の仕事が終わっていても進の仕事が終わっていなかったら絶対に手伝いに行くし、なんなら店長の手伝いもしてたくらいだ。店長の何を手伝うのかはよくわからないが、店長が手伝わせるほどにはバイトにも慣れてき証拠だと思う。だが、それ故に進はもちろんの事店長ですらもカノンの身を案じていたほどだった。なるべく手伝わなくて良いように伝えても気づけば手伝いに来るので、最終手段として強制休暇を与えることにしたのだ。

 

(まぁ……それだけが理由じゃないんだけど……)

 

今回強制休暇を与えることになったきっかけは確実に相談をしてくれた事が挙げられるだろう。いずれは休ませるつもりだったが、あの出来事のお陰でかなり早い段階で店長に相談することができたのだ。やはり恩返しをしないと進も気がすまなかったのだ。

 

(スッゴいエゴだけど、カノンが体調を悪くするよりも全然マシだよな、うん。)

 

休ませる際にカノンが困ったような顔をしていたが、こうでもしないと本人は休まないと思うので、例え今回の行為がエゴだったとしてもカノンの身になにかあるよりも幾分かはマシだろう。そう考えて自分を納得させる。

 

(そういや考えてみれば俺があんなにカノンに相談するのを渋った理由って巻き込みたくないからだよな)

 

ふとあの時何故すぐに相談しなかったのか、その理由を思い出す。

 

(カノン、正義感が半端じゃないお人好しだから絶対深入りしてくると思ったんだよなぁ……流石にしつこく詮索するほどデリカシーがない訳じゃないけどな……)

 

カノンは誰からみても分かるほどの生粋のお人好しだ。それこそ進達に必要以上のお店の手伝いや、雨の日にはお構いなしに家に入れてくれるし、今回だって進の抱えている悩みごとは何がなんでも解消しまいとしてくれた。

 

(だからこそあの化物のことを相談しようと思ったとき、過っちゃったんだよな…………もしカノンがアイツに会ってしまったらって……まぁ流石に会わないとは思うけども。)

 

あんな話を聞いた後に化物を探そうとするようなことはしないとは思うが、進はそんな心配ごとを抱えていたのだ。もしカノンに話してしまったら、もし自分のせいで大切な人があんなことになってしまったりしたら。そんなことを想像してしまうと、ありもしない筈なのに、そんなことなど起こり得る筈がないのに、つい相談することをためらってしまったのだ。

 

(駄目だな……完全にカノンの事ばっかり考えちまってる。やっぱり、これってそういうこと……なんだよな……)

 

カノンに泣きついたあの日以来カノンの事が頭から離れない。暇さえあればいつの間にかカノンの事で頭がいっぱいになっている。それにこの妙な高揚感に心臓がとくとくと鳴り響く。意識していないときはこんなことは起こらない。しかしカノンのことを考え出した瞬間にこれだ。流石の進も察していた。

 

(あーくそっ……マジで離れねぇ。ここまでかき乱されるものなのかよ…………俺多分、アイツの事が……好き、なんだろうな。)

 

初めての感覚。こんな感情とは無縁だと思っていたが、唐突に現れるものなのだなと進は実感する。きっとこれは…………進はカノンに対して明確な恋愛感情を抱いているのだと、認識した。

 

(今日もカノンの顔を見っぱなしだった……気づかれてない、よな?)

 

好きなのだと認識した瞬間、思春期かの如く今までの行動を振り返り始める進。嫌われるようなことはしていないか。カノンに対してカッコよく思われるように振る舞えていただろうか。あの時何故こうしていなかったのか。不安や後悔など、様々な感情に苛まれては消えて行く。そんななかでも特に忘れられなかった事があった。

 

(そうじゃん……俺、好きな人のは、はだ、か……み、みてるんだった……)

 

年頃の、それも初めて経験する恋愛感情に上乗せして刺激的な経験の数々。意識していないときはそこまで気にしたことのなかった事が、今になってとんでもない出来事だったのだと思わざるを得なくなってしまっていた。確かにカノンは客観的にみてもとても可愛いと思う。だから恋愛感情を抱いていないときに裸体を目撃してしまったときも、恥ずかしくなったし実際のところを言うと少し興奮してしまっていた(許して)。しょうがないだろう。彼だって年頃の男の子だ。そういうことに興味がない方がおかしい。しかし、好きだと気づいたあとにその光景を思い出したその暁には、刺激が強すぎて脳が自動的にロックをかけてきたのだ(理性)。あの時を思い出そうとすれば、理性が働き思い出すことを全力で止めに来るので、どんな体をしていたのかなどは余り分からなくなってしまっている。それほどに恋愛感情というのは人を変える。進も例外ではなかったのだ。進は一人部屋のなかで過去の自分を振り返りながら悶えては後悔、悶えては後悔を繰り返す。

 

(だー!もう、埒が明かねぇ!いくら過去の事考えたって今行動しなきゃ何にも変わんないだろうが!)

 

自分に情けなくなった進は、そんな女々しい事を考えてしまう自分自身に対して喝を入れる。

 

(まずは……先輩だ!あの先輩呼びを変えて見せる!親密な関係になるんだったら先輩後輩のような関係では駄目なんだ!…………それにもう俺はカノンのことを友達だって思ってるしな。俺、友達だと思われてなかったりしないよな……?)

 

親密になる第一歩は先輩呼びをやめさせることだと結論付ける進。そもそもとして進はルピコ達と遊んだあの時からカノンとは友達だと思っていたが、それでも先輩呼びがなくなることはなかった。カノンは律儀な奴でもあるからもうその口調は治らないのかなとも思っていた。しかし、仲を深めていくのならばまずはあの敬語口調や先輩呼びを何とかしなくてはならない。デフォルトで敬語を使うタイプの人ならばしょうがないが、先輩呼びはどうにかなるだろうと考える。

 

(いつか、名前で呼ばれたりする日が来るのかな……いや、いつかじゃない。ここで弱気になってどうする!!俺は絶対に振り向かせて見せる!そうと決まればやってやろうじゃねぇか!!)

 

弱気になりかけていた心を自ら奮い立たせる。

 

(男は度胸!きっとやればできる!うぉぉぉぉ!!!!)

 

そんなこんなで結局その日はずっとカノンのことを考えてしまっている進であった。

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