無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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明るみになる者

「ここが先輩の言っていた……」

 

森を抜けた先にあった1つの洞窟。その姿を確認したカノンは、思わず身震いしてしまう。特に理由などない筈だが、体が勝手に反応したようだった。

 

「なんだか嫌な感じがします……」

 

ルピコが洞窟を見つめながら不愉快そうな声音で呟いた。先程のほんわかしていた雰囲気だったときのルピコの表情とは対称的な、何かに怯えているような様子だった。

 

「マスター……ここは多分、とても危険。」

 

続いて今までしゃべってこなかったキリコが声を上げる。いつも通り無機質な声質には変わりないのだが、いつも以上に警戒しているような少し焦りを感じている様に見えた。

 

「珍しいな……キリコがここまで警戒するなんて。」

 

「あぁ、僕たちも気を引き締めた方が良さそうだ。皆気をつけて洞窟の中に入ろう。」

 

グレンが珍しそうにしながらキリコを見る。カイトもここまで警戒するキリコをみて只ならぬものを感じ取り、念のために周りの皆に警戒心を強めるように呼び掛ける。真剣な面持ちで各々が洞窟の中に入ろうとしたそのとき、突然カノンのデッキケースが光輝いた。

 

「っ!ウェディング?どうしたの?」

 

いきなりのことで少々驚きはしたものの、いつもクリーチャーを召喚する際に発生する現象には慣れていた。それは他の守護者いや、デュエリスト達も同様である。それよりも、何故敵と対峙する前に彼女が目の前へ現れたのか。その疑問を解消するため問う。

 

「カノン、貴女があの洞窟内へ赴くと言うのであれば無理に止めたりはしません。ですが……」

 

いつもより険しい表情で威圧感すら感じる。常に無表情のウェディングだが、それでも今回の話し方や表情を見れば明らかに大事なことを話そうとしているのは火を見るよりも明らかなことだった。ウェディングは間を空けて、続きの言葉を紡いだ。

 

「今まで経験してきたどの覚悟、強い気持ちを抱いたときよりも更に強く、これ以上ないほどの覚悟を持って下さい。」

 

今までに聞いたこともないようなドスのきいた声音でそう、警告してきた。一度も見たことがないウェディングの様子に、カノンは理解する。

 

 

今自分は、とても恐ろしい所へ出向いているのだ、と

 

 

しかし、怖じ気づく訳にもいかない。いつも明るい先輩があそこまで苦しんでいたのだ。今思い出しただけでも胸が苦しくなるし、こちらまで悲しくなってしまう。人に危害を加えるクリーチャー。そんな話を聞けば、普通の人間であれば太刀打ちなど出きる筈もないので、逃げる選択をするだろう。だが、カノンは戦う力を持っている。逃げる選択の他に戦う選択肢があるのだ。カノンとしては戦うことを選ばない理由などなかった。それにカノンも1度被害を出した側の、つまり危害を与えるクリーチャー側の人間だったのだ。許されはしたものの、まだまだ贖罪を出来たわけではない。今回の事件を解決すれば、カノンは罪を償うことが出きると思っていた。それに……

 

(私は先輩を……)

 

 

助けたい!!

 

一番の目的は贖罪がどうのこうのといった問題ではない。単純にいつもカノンに見せてくれたあの笑顔を、明るさを守りたい。それだけだった。考えてみればここまでシティに馴染めたのは先輩のお陰だったと思う。ルピコや他の皆も優しくしてくれはした。しかし、クリーチャーワールドで事件を起こしたと言う特異なきっかけで出会ってしまったルピコ達とは違う。初めて自分の力で出会えた、ここまで自分をさらけ出すことが出来る唯一の人物。先輩と出会ってからの毎日は全てが新鮮で、まるで夢の中にいるようだった。ルピコと一緒に来て遊んだ場所も、先輩と遊べば何もかもが変わって見えた。勿論ルピコはとても優しい友達だと思う。それにあの闇から救いだしてくれたのはルピコ達だ。今でももしあの時誰も救ってくれなかったらと考えるとゾッとする。だが、そんなルピコ達と一緒にいる時よりも先輩と一緒に過ごす時間の方が何倍も楽しく、そして愛おしく感じていた。しかし、そんな時間を一瞬でも奪ったクリーチャーがいる。そんな奴をカノンはどうしても許せなかった。相談を受けたとき、先輩に頼りにされたあの瞬間に何故心が踊ったのかはまだ分からない。何故あの後から自分の様子がおかしくなったのかも分からない。だが今回の事件を解決して、先輩と共に毎日を過ごしていけばいずれ理解できるだろう。兎に角、今はこの事件を解決することに集中しなくては。カノンは覚悟を決めた形相でウェディングの目を見る。

 

「わかったわ。ありがとう、ウェディング。でも心配しないで。もうそのくらいの覚悟なら出来てるから。」

 

「っ!……カノン……貴女はそれほどまでに……」

 

成長したのですね、とい言いそうになったがすんでのところで我慢する。本人の前でそんなことを言うのは野暮なことだと考えたからだ。

 

(感謝しますよ、白守進。貴方のお陰でカノンは確実に良い方へと進んで行っている。きっと、私だけでは無理だったことでしょう。ならば尚更今回の事件、無事に解決させなければなりませんね。)

 

ウェディングは心のなかで進に感謝する。初めてあの人間を見たときは、カノンに何かしたら容赦はしないほどのことしか考えていなかった。実際、進がカノンの裸体を目撃した際には実体化して殴り込みに行こうかと考えたほどである。正直言ってクリーチャーの存在を隠していることなどはあまり気にしておらず、カノンの身になにかあれば一般人の前だろうと無理やり実体化していることだろう。しかし、あの時進が裸体を目撃した時の様子を見てみると、カノンが特に嫌悪感を示している様に見えず、なんなら楽しそうにすら見えていた。そんな光景を目にしたウェディングは、先程まで抱いていたカノンに対する過保護なまでの気持ちなど無くなっており、実体化するのをやめ、今後とも進とカノンの2人の時間は見守っていくことにしていたのだ。未だに感情のことについては慣れないウェディングだが、カノンがどれだけ進のことを大切にしているかは分かっている。ならば今回のこの事件、全力を尽くそうと闘志を燃やすウェディングであった。

 

「ウェディング。」

 

覚悟を決めたカノンを眺めていたルカが突然声をかける。

 

「どうしましたか?」

 

それに対して淡々とした声音で言葉を返す。

 

「ルピコやキリコ、それに貴女までもがここまでの反応を示している。これがどう言うことか分かる?」

 

「……はい。」

 

ウェディングばルカのその言葉だけで何を言われるのかを察した。カノンはどうしたのだろうといった表情で不思議そうに目の前で流れている光景を眺める。

 

「フッ………話が早くて助かるわ。単刀直入に聞かせてもらうけど……今回の敵がどのくらい危険なのか、それを教えてくれないかしら?」

 

何故このタイミングでこんな質問をしたのか。それにはちゃんとした理由があった。ルピコやキリコ、そしてウェディング。これらに共通する者は、全員がクリーチャーと言う点である。ルピコはクリーチャーとしても戦いが得意な方の種族ではないため、洞窟に着いたとき何となくでしか嫌な雰囲気を感じ取れなかったのだろう。しかし、キリコやウェディングは強大な力を持つ大型クリーチャーである。それ故になにか強大な力を感じ取り、それをカイトやカノンに伝えてきたのだろうといった考察だった。ウェディングの反応をみる限り、間違った考察をしていなかったことを確信する。

 

「そうですね……恐らく、私一人では倒せないでしょう。」

 

「っ!」

 

嫌な予感はしていたが、ここまでキッパリ断言するのかとルカは心のなかで愚痴る。ウェディングの強さは知っている。あのゴールデンエイジ相手にほぼ一人と言ってもいいほどの状況で、あそこまで戦場にて堪え忍んでいたのだ。そんなウェディングが一人では無理だと、そう断言するのだ。驚かないほうが無理があるだろう。

 

「一体どんな力を感じたんだ?」

 

グレンが疑問をウェディングに投げ掛ける。ウェディングが感じ取ったクリーチャーの気配がどの様な者なのか、それによっては最初から本気を出さなければいけないため、判断材料にしようと言う魂胆だ。

 

「ふむ……そうですね……私の力の2、3倍近くはあるのではないでしょうか。それに、とても邪悪な力です。まず話し合いでどうにかなる相手ではないでしょう。」

 

ウェディングの発言に一同は戦慄した。弱体化したとはいえ仮にもあのゼニスである彼女がここまで弱音を吐くのが珍しいのもあるが、何よりウェディングの2倍近くの力があることに驚きを隠せなかった。なぜよりにもよってそんな強力なクリーチャーがこの世界にいるのか、思うところは多々あるが考えていても仕方がなかった。

 

「……でも、今回は皆がいるのだわ。きっと力を会わせれば勝てる筈よ!」

 

どれだけ強大な力を持っていようが負けるわけにはいかない。カノンは味方を鼓舞するように振る舞った。その発言に一同は当たり前だといったような表情で頷き、一人、また一人と洞窟に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議な構造の洞窟ですね……」

 

ルピコがそんな感想を溢す。入り口は狭く、奥に進む度に広がっていく光景はどこか不気味だった。

 

「やっぱいつみても変な洞窟だよね~」

 

それに反応するようにチュリンが呑気に応えた。緊張感がある今の空間ではこのくらいしか会話が発生せず、一行はどんどん奥へと歩を進める。

 

「っ!皆さん、気配が相当近くなってきています。」

 

道がそれなりに開けたところでウェディングが警告を出す。チュリンの言っていた通りだとすると、この洞窟は最後巨大な空洞になるそうだ。現在の広さは、相当な大きさになってきているため進の言うことが本当だとするのならば、この先に奴はいることになる。一同はウェディングの警告を聞き、警戒心を強めた。

 

「「「「………………」」」」

 

緊張感が走るなか奥へ奥へと進んでいく。誰一人としてしゃべらず、今ここに響く些細な音でさえ聞きのがさまいとする一同。洞窟の広さが限界に近くなるほどに歩いてたそのときだった。

 

「ククク……ヤハリキタカ」

 

「だ、だれ!?」

 

一同の背後から声が響く。カノンは吃驚しながらも振り返った。ルピコ達もカノンとほぼ同時に振り返る。

 

「なっ……!」

 

「っ!あ、貴方が……!?…………ウェディングさん?」

 

そこには禍々しいオーラを放ちながら言葉を話す、三首の竜?の様なものを持った正しくクリーチャーと言えるものが居た。一目見て只者ではないと感じ取る守護者達にカノン。ルピコもその異様な姿形、何よりそのクリーチャーの発した声音の放つ重厚感に無意識にプレッシャーを感じる。そんな中、ウェディングだけの反応がおかしかったことに気づくルピコ。何やら焦っているような、予想外だといった面持ちをしている。

 

「マッテイタゾ……カノン」

 

「っ!私を知っている……?」

 

「どういうこと……?」

 

初めて会った筈なのにクリーチャーはカノンを知っている。その事実に悪寒が走るのを感じるカノン。ルカも意味が分からないといった様に神妙な面持ちになっている。

 

「トイウコトハ……!……ツラヨゴシモイルナ……ククク!」

 

「くっ……!」

 

「ど、どうしたの?ウェディング。」

 

クリーチャーはカノンの存在を確認したあと、ウェディングの方へと顔を向け、視認したかと思うと不気味な笑い声を浮かべた。珍しく焦りを隠せないウェディングにどうしたのかと質問するカノン。

 

「まさか……また会うこととなるとは。サスペンスッ!!」

 

「えっ……?」

 

「サスペンス、さん?」

 

 

サスペンス

 

 

かつてカノン達と敵対したクリーチャーであり、世界をゼロの一歩手前までさせた人物である。もう決着は着けた筈だが、何故ウェディングの口からそのよう名前が出てくるのか。理解するのに時間がかかってしまい呆然とするカノンとルピコ。守護者達も驚いてはいるが、冷静さを失っているわけではなくただ目の前の敵に集中しようと意識を切り替えていた。

 

「な、何で……サスペンスはあの時確かに……」

 

「何故此処に居るのですか!答えなさい、サスペンス!!」

 

困惑するカノンの横で、ウェディングは鋭い目付きでサスペンス睨み付ける。

 

「ナゼ……カ。サァナ、ワタシモシラン。ナンナラワタシガシリタイクライダ」

 

「っ!とぼけないでください!貴方のことです。またなにか小賢しい手でも使ったのでしょう。」

 

飄々とした態度にウェディングが微かながら怒りを表す。ゼニスであるウェディングがここまで激昂するのも珍しく、カノンはどこか不穏に感じた。

 

「ハァ……ウェディング、キサマゼニスデアリナガラソコマデカンジョウヲモチエテシマッタカ。ナンドモイウガ、シランモノハシラン。マァ……キセキカナニカデモオキタノダロウ。」

 

「出鱈目な……サスペンスらしくないですね。奇跡などに頼り復活するなど、誰よりも作戦通りに動いてきた貴方が一番嫌っていたではありませんか。それに貴方のその醜い姿は何ですか?誰よりも悠然としていた貴方が、今やそこらの理性がないクリーチャーと同等と言っても過言ではない……堕ちたものですね。」

 

互いに挑発しながら会話をする。このしゃべり方に振る舞い、サスペンスだ。カノンは確信する。言葉の節々が片言になっており、違和感がある。しかしいつもしていたウェディングとサスペンスの会話、それが今の光景と完全に重なって見えたのだ。

 

「お前がシティの住民を襲っていたらしいが、どうなんだ?」

 

カイトが極めて冷静にサスペンスに対して、今回起こしていた事件の主犯かどうなのかを確認する。

 

「キサマハ……ミズノシュゴシャカ。イイダロウ、オシエテクレテヤル。キイタトコロデドウニカナルワケナイガナ」

 

「チッ……随分偉そうね、貴方。」

 

上から物を言う態度に不快感を示すルカ。そんな彼女を無視し、説明を続ける。

 

「ヒトヲオソッテイタカドウカダッタナ。ケツロンカライウナラバ……ソウダナァ……」

 

サスペンスが不気味な笑みを浮かる。より一層険しくなるカノンの表情。

 

「ソレハモウゼッピンダッタゾォ。ククク……テイネイニ、テイネイニタベテヤッタワ。」

 

「っ!ちいっ、貴様このやろっ!!くっ……カイト?」

 

堪忍袋の緒が切れたグレンが感情まかせに手を出す寸前にカイトが手を掴む。

 

「はなせよっ!こいつは、こいつだけは許せねぇ!」

 

「抑えろ、気持ちは分かるがまだ相手の力は未知数だ。下手に手を出し返り討ちに会ったら?この発言が挑発の可能性だってある。迂闊に行動するのは最善ではないぞ。」

 

強い力で手を振りほどこうとするグレンだったが、カイトの考察を聞き高ぶっていた感情が落ち着いてきた。それに表面上では冷静に見えるカイトだが、グレンのつかんでいた手が強く握りしめられていた。きっとカイトもグレンのように怒りを感じているが表に出していないだけなのだろう。

 

「くそっ……悪かったなカイト……」

 

「フッ……たいしたことではない。それよりもだ、貴様目的はなんだ?」

 

グレンにフォローを入れつつ、ずっと疑問に思っていたことを問う。何故人を食べる必要があるのか、それによって何が出きるのか、全てはサスペンスの中にある。それが分かろうが分からまいが倒すことにはかわりないが、聞かないよりはマシだろう。

 

「モクテキ……イイダロウ、メイドノミヤゲニオシエテヤル。」

 

「っ!……随分自信があるのですね。」

 

まだ戦ってすらいないのに冥土の土産宣言。その発言にエレナは仲間全体をバカにされた気分になり反論する。

 

「モクテキハタンジュンナモノダ。ソウ、キサマダ、カノン。」

 

「!わ、私……?」

 

サスペンスはカノンを怨めしそうに睨み付ける。

 

「キサマサエジャマシナケレバ、ワタシノケイカクハスベテウマクイクハズダッタ。キサマノセイデスベテガクルッタノダ……!!」

 

「………………」

 

サスペンスの喋りに圧倒されるカノン。冷や汗が止まらず今はただ、固唾を飲んで話を聞くことしか出来なかった。

 

「フクシュウダ。ワレハキサマニ敗北した時誓ったのだ。必ず殺すとな。」

 

「そんな……」

 

一同が絶句する。ルピコはそれではただの八つ当たりではないかと考えた。それに、一瞬ではあるが片言であった声音が自然な喋り方へと変化していた。呂律が回っていなかっただけなのか、それとももっと他の理由があるのか。現時点で考察することはできないが、先程のサスペンスの目的を聞き、余りの理不尽な理由に守護者達も言葉を失う。

 

「失望しましたよ、サスペンス。」

 

「失望、だと?」

 

ウェディング鋭い声音から飛び出す挑発に怒りを露にする。

 

「えぇ、そうです。ゼニスの誇りまでは捨てないと思っていたのですが……あそこまでゼロ計画に執着していた人物がここまで感情を露にし、私情を優先して行動を起こす。これのどこに失望しないと言うのですか?貴方には芯がない。」

 

「芯がないだと?貴様には言われたくないな。ゼニスの中でもっとも感情などと言う傀儡に惑わされ、常にブレブレであったのは貴様ではないか?全くもって論外だ。説得力がまるで感じられんぞ。」

 

己の発言を信じ疑わない姿勢を持ち、あたかもその周辺がおかしいと言わんばかりの論理を展開するサスペンスに一同は寒気すら覚えていた。

 

「それは違うわ!」

 

「っ!カノン……!」

 

側で話を聞いていたカノンがサスペンスの論理を否定する。ウェディングは少し目を見開き驚いている。

 

「……ほう?」

 

不愉快そうな声音でサスペンスはカノンに呼応する。

 

「最初からウェディングは私を守る為だけに動いていたわ。それはいまでも変わっていない。でも貴方は今、私に復讐をするために行動しているのだわ!そんなこと初めて会った時には言っていなかったのに……!今感情に動かされている貴方の方こそ説得力がないのだわ!」

 

「はぁ……これだから人間は……」

 

呆れたような物言いで頭を横に振るサスペンス。

 

「いつ復讐だけだと言った?」

 

「なんですって?」

 

サスペンスの言い回しに引っ掛かるルカ。これではまるで他にも目的があるかのような言い回し方だ。不穏な空気を感じ取りながらも話の続きに耳を立てる。

 

「ゼロ計画、それはカノン、貴様が居ては完了し得ないものだ。その祈りの力……それを奪わないことには完遂することはない。ここまでの力を得てしても世界をゼロにするまでには至らないのだ。復讐などと言うのはもう1つの目的、ゼロ計画を完遂する為に作った、いわば名目上の、過程の中でのものでしかないのだ。」

 

説明し終えたや否や不気味な笑い声を上げるサスペンス。目的は分かった。やはりどうしよもなく救えないものだと判明した為、話し合いをするのをやめ一同は臨戦態勢へと移行した。

 

「容赦しないからね~……!君みたいなのはこの森から出ていってもらわないと困るしね。」

 

一触即発のタイミングでサスペンスはまた口を開き何かを話し始めた。

 

「気づいているだろうが……」

 

「?」

 

まだ何かあるのだろうか。一同が疑問符を浮かべているのを横目にサスペンスは話を続けた。

 

「我の口調が元に戻っているとは思わなかったかね?」

 

「それが一体どうしたってん……」

 

意味の分からないことを喋り出すサスペンスにグレンは怒りを露にする。しかし、そんな言葉をサスペンスは興奮したような口ぶりで説明するのだった。

 

「これには理由がある。先程までの私は、理性はあるもののクリーチャーとしての本能が私の意識と融合し、まともに喋ることですら苦戦を強いられていた。しかし……私はたった今進化したのだ!!!!」

 

「これを見てみろ!」

 

そういってサスペンスは真っ暗だった洞窟を光が埋もれてしまうくらい光の量で照らす。そこにはさっきまでは見えてなかった筈のクリスタルが大量に地面を転がっていた。一体何がいいたいのか分からず困惑するカノン達をサスペンスは嘲笑うかのような口調で話を続ける。

 

「水晶の花、というのを知っているか?」

 

「「「「!」」」」

 

水晶の花。聞き覚えのある単語に目を見開く一同。サスペンスは不穏な雰囲気を醸し出しながら説明を続けた。

 

「あれはな、人間もとい知的生命体全般、更にはクリーチャーまでもを変化させたものだ。あれには我を更にパワーアップさせる力が宿っている。それを取り込むことにより我は更なるステージへと進むことが出きるのだ!」

 

ゼニスだと言うのに喜びの感情を露にしながら笑い声を上げるサスペンス。その様子にカノン達は悪寒が走ったのと同時に絶句してしまう。

 

「パワーアップをするのには少々時間が掛かってね。お前達と会う前に食した水晶の力が今完全に体に馴染んだんだ。それと同時に我の中にあるクリーチャーとしての狂暴性を、跳ね上がった精神力もとい理性で押さえ込むことに成功したのだ。結果として片言であった口調が元に戻った、というわけだ。」

 

何故あのような力をサスペンスが有しているのかは分からない。しかし1つ分かることがあるのだとするのならば、それはサスペンスは想像を絶する力を手にしてしまっていると言うことだ。あれだけの搦め手を使ってきたサスペンスが押さえ込めないほどのクリーチャーとしての本能。体が力に追い付いてないが故に起きてしまった理性と本能のぶつかり合い。それによって口調が片言になってしまうほどだったと言うのにサスペンスは今、パワーアップしたことによって理性で押さえ込んでしまった。かなりの力を持った上に策略を立て攻撃を仕掛けてくる可能性が出てきてしまったのはカノン達にとってかなりの痛手であった。

 

「…………」

 

「どうした?此処にきて恐怖がやる気を削いでしまったか?やはり脆いものだな、人間と言うのは。」

 

押し黙ってしまったカノンを煽るサスペンス。優越感に浸っている様だ。

 

「……しない。」

 

「ん?」

 

「それでも、私は貴方から逃げたりはしない!!」

 

「っ!愚かな……」

 

「貴方がどれだけ強くなったとしても、勝てないものだったとしても、私は絶対に貴方を倒す!でなければ先輩を助けられないから……!皆が楽しく暮らせないから!」

 

カノンが強く覚悟を示した。ルピコはカノンの見たことのない迫力に驚きつつも、それに同調するように口を開いた。

 

「カノンさんの言う通りです。私達がここで逃げてしまえばもっと被害が出てしまいます。それに、1人で戦うわけではありません。皆がついているんです!絶対にサスペンスさんに勝ってみせましょう、カノンさん!」

 

「ルピコ……!」

 

「そうだな、カノンの言う通りだ。」

 

次に声を上げたのはカイトだった。

 

「いくらお前が強くなったとしても私達にはシティを守る責任がある。それに私はこの街をとても気に入っているんだ。お前のような野蛮人に壊されるなど許すわけがない。皆もそうだろう?」

 

カイトが各守護者達の顔を見る。

 

「ったりめーだろ!」

 

「当然ね。」

 

「もちろんです!」

 

「久しぶりに皆同じ意見になったねー!」

 

見た感じ全員が当たり前だといったような反応を示す。準備は万端のようだ。

 

「サスペンス。」

 

「っ!」

 

一同が鼓舞しあっていた最中、ウェディングはサスペンスに声をかけた。

 

「呪の頂きであろうものがこのような程度のことに一喜一憂していた姿、見るに耐えません。いくら力を得ようと貴方が落ちぶれたことには変わりない。そんな貴方に私達は負けません。絶望こそが祝福だと言うこと、今度こそその身をもって思い知りなさい。」

 

「小癪な……呪の頂だと?」

 

怒りを含んだ声音でサスペンスは呟く。

 

「今の我は……」

 

 

呪怨の頂天だ!!!

 

 

「我がしもべどもよ!コイツらの息の根を止めろ!今こそ我が計画を完遂させるのだ!」

 

サスペンスが咆哮にも近しい声量で指示を出す。その瞬間、大量のハエのようなクリーチャーや巨大な虫のようなクリーチャーが出現する。

 

「やはり手下がいたか……!皆、いくぞ!」

 

予想的中といった表情でカイトが呟いた。カイトの声に呼応するように守護者達、それにプレイヤーはカードを掲げ戦闘体制に入った。

 

「用意はできてますね、カノン。」

 

ウェディングがカノンの横から声をかける。カノンはウェディングに顔だけを少し向けると、勇ましい表情で口を開いた。

 

「もちろんよ、ウェディング!私達の力思い知らせてあげましょう!」

 

こうして今ここに戦いの火蓋が下ろされたのであった




久しぶりです。このくらい遅くなってしまいますが、何卒ご容赦くださいませ。失踪はしないと思います。
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