無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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今回オリジナル設定が結構出てきます。なるべくイメージを壊さないようにはしていますが無理な方は気をつけてください。


頂天

「うーん……シャワーは入れるべきかかぁ?でも受けを強くした方が良いよなぁ~」

 

カノン達の作戦決行日当日、進は我が家にて怠惰の如くだらだらとデッキ作りに勤しんでいた。今度遊ぼうと言っていたのでカノンを遊びに誘ってみたのだが今日は予定があるからと断られてしまった。することもなく暇なのでデッキを改良していると言うわけである。

 

「やっぱドギラゴンはロマンがあるし、なんてったって決まったら主人公みたいなムーブでカッコいいんだよなぁ~」

 

現在組んでいるデッキはシータドギラゴン。動きとしてはマナを貯めつつ速攻相手であれば大量のトリガーからのドギラゴン。ビックマナ相手であればどちらが先にマナを伸ばすことが出きるかの勝負となる。サブプランのフィニッシャーとしては

 

van×1 

ウェディング×1 

鬼丸「覇」×1 

 

となっている。どちらかと言えば覇は色が足りないのでいれただけなのだが、相手のトリガーをごり押しできると言う点を評価して入れている。欲を言えばオーロラドギラゴンで決着をつけたいのだが早々上手くはいかないのだ。前回戦ったあの迷惑客は事故っているように見せたため勝手に自爆してくれたが、プレイヤーとデュエルをしたときに理解した。この街は一筋縄では行かないと。きっと守護者達も信じられないくらい強いのだろう。ならば1人のデュエリストとして、勝負を挑みそれに勝ちたい。進はデュエリストとしてもプレイヤー達にも負けずとも劣らないほどの熱量を持っていた。

 

「……はぁ~……暇だなぁ……」

 

今日は日曜日。やるべきことは土曜日に済ませてしまったし、家でだらだらするにもすることがない。何か刺激が欲しかった。

 

「っ!……あーダメダメ。そう思ってたからあんな化物にあっちゃったんだろ。こんなこと考えんな。」

 

あの奇妙な虫についていった時も好奇心からだったことを思い出す。あんな思いをするのはもう嫌だった。進は頭を振り不謹慎な思考を消し去る。

 

「でもなぁ~……なんか足りないんだよなぁ……カノンと会った日から色々あったからかなぁ。」

 

カノンと出会ったあの日から、進の毎日は刺激の連続だった。暇な日などなく、日々が更に明るく彩られていった感覚だ。それ故に物取りなさを感じてしまう。

 

「よしっ、散歩でもするか。」

 

思い立ったが吉日、何か起きることを期待しつつ進は取り敢えず散歩をすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~シティ広いな~」

 

シティの中心部にやってきた進。様々な売店や出店に向かうもこれといったほしいものもなく、ただただ街の様子を観察していた。途中で忍者?のような人が「よう!お前見ない顔だな。新入りか?初めてこの街にきたならまずは俺とデュエルしようぜ!じっくり教えてやるからよ!」なんていってきたので軽く捻り潰しておいた。負けたとき何かをぶつぶつと言っていたが、関わらないでおこうと思いそっと場を離れた。しかし、その忍者のような人物だけでなく、そもそもとしてこの街は不思議な格好の人が多い。なんだか普通の格好をしている自分がおかしい人のように錯覚してしまうほどだ。

 

「ん?アクセサリーショップ?」

 

ふと目に止まった派手な店。そこにはアクセサリーショップと書いてあり、進は歩を止める。デュエマ関連のショップが多い中、なかなか珍しい店を見つけ進は好奇心から店内に入ることにした。

 

「うおっ、マジのアクセサリーショップじゃん。」

 

中に入ってすぐそんな感想をこぼす。目の前に繰り広げられる光景は、キラキラとした指輪やネックレスなどを中心にブランドものらしきものがズラッとガラスケースの中に並べられていた。進はデュエマに関する何かしらのアクセサリーを売っているのだと思っていたため、少し面くらってしまう。

 

「はぇ~……なぁんもわかんねぇな~……」

 

進にはアクセサリー等の知識は全くなく、頭を真っ白にしながら綺麗だなーといった素朴な感想を頭に思い浮かべつつ店内を歩き回る。しかしそこでふと足が止まる。止まった所は小物類のコーナーだ。店で売っている主役級のアクセサリーではなく、髪飾りなどといったものを取り扱っているようだ。

 

「これ、カノンに似合いそうだな……」

 

進が気になったものは雪の結晶の形をしたヘアピンだった。あの白を基調としたデザインで髪に着けるとなると目立たなくなりそうだが、このヘアピンは白というよりかは銀に近い。透き通るような見た目をしているのに圧倒的な存在感を感じることができる。

 

「これをカノンが着けたら……かわいいだろうなぁ~…………」

 

ヘアピンを着けたカノンの姿が容易に想像できる。何時もよりちょっと違った風貌で先輩先輩と呼んでくれるカノンはとても可愛らしいことだろう。普段からみせてくれる笑顔も一段と可愛くなることだろう。

 

「………………」

 

暫くそのヘアピンを眺めながら物思いにふける。恋は盲目といったやつだろうか。今どれだけ気持ち悪い想像をしているのか自覚できないほどに妄想が激しくなっていた。

 

「っ!」

 

その時、進の頭に電流が走る!

 

「す、すみません!これ購入しても良いですか!?」

 

気づけば口走っていた。無意識のうちに放たれた言葉に違和感を抱くこともなく進はただ店員が来るのを待っている。

 

「あっはい!そちらの商品ですね。その商品をご購入になられるとすると……こちらの金額になります。」

 

「うっ、7000円か……」

 

提示された金額を見て躊躇う。買うかどうか微妙に悩まされる金額だがそんな理性を押さえ込み、進はヘアピンを買うことにした。

 

「だ、大丈夫です!それで買わせてください!」

 

「かしこまりました。」

 

進は出すことがないだろうと思って一応持ってきていたお金を使い、購入手続きを終了させた。

 

「ありがとうございましたー!」

 

店員の挨拶を背に店を出る。そこで進は正気に戻った。

 

「って、なに買っちゃってるんだよ!これどうやって渡せばいいんだ!?」

 

ヘアピンをみたときはカノンがこれを着けてたら可愛いなぁ位にしか思っていなかった。そこで妄想がどんどん激しくなっていき、衝動買いをしてしまったのだろう。しかし、別に誕生日があるわけでもないしなにか祝い事があるわけでもないのに、いきなりこんな高いものを渡されても困るだけではないのか?そんな考えが思い浮かぶや否や、進の意識は唐突に現実へと戻されるのであった。

 

「どうしよう……結構高かったしこのまま放置って訳にもいかないよな……てか着けてくれるのか?変に妄想しちゃってたけど毎日着けるわけないし……てか俺絶対キモいよな今……」

 

カノンのことを妄想していると言う事実が自身の不甲斐なさを冗長している。まだ相思相愛ですらないのに一方的にこんな思いを寄せているのは流石に進も自分自身の気持ち悪さにドン引きしてしまう。

 

「……まぁ、暇な時間は潰せたのかな……はぁ……」

 

渡せるかもどうか分からないのに変に高いものを買ってしまった自分の行動を若干後悔する。ため息を吐きながらトボトボと、今日はもう帰ろうとしていたそのとき

 

「あれ?あの人なにやってるんだ?」

 

シティの中でもとりわけ自然の多い場所での出来事だった。挙動不審な男が森の奥へと続く道へ入っていく。というよりそこに道と言う道はなく、草木を押し退けながら入っていったと言う方が正しい。

 

「いや、いやいやっ、きっとあの人にだってなにか事情があるだけでやましいことがあるわけないじゃないか。何考えてんだ俺。」

 

少しでも怪しいと思ってしまった思考を振りほどく。しかし、それでも尚その男の動向が気になってしまう。妙な胸騒ぎがするのだ。少しだけ尾行してしまおうかと思ったが

 

「でも、森って……」

 

かつてのトラウマが蘇る。カノンのお陰で恐怖がやらわいでいるので情緒不安定になることはなくなっていた。しかし、それでも怖いものは怖い。もしかするとまたあのような場所に迷い混んでしまうのではないか。そんな考えが頭を過る。

 

「……少しだけ着いてってみるか。」

 

少し悩んだ挙げ句出した結論は、尾行することだった。進は男が入っていった草木の場所から森の中へと入っていく。

 

「にしたってなんで俺はあの男の人のことが気になったんだ?」

 

なぜ男のことを気にしてしまっているのか、それが分からずつい口に出す。幸い気配を消してかなり遠くから尾行しているため気づかれることはないだろう。疑問が解消されることはなく、暫く森のなかを進んでいく。若干森の奥深くまで進んでいった時だった。

 

「っあ!くっ……!」

 

進はその場で頭を抑え痛みに悶絶する。突然頭がズキズキと痛み出したのだ。立ちくらみもする。しかし、それと同時に何故だかその痛みに身を預けたくもなるような心地よさも感じていた。

 

「うぐっ……いっ……?……だ、誰だ!?」

 

痛みに苦しんでいると、突然進の頭のなかに声が響いた。もしや前にいる男に自分の存在がバレたのか?等と考えたりもしたが、周りにはそんな人物はいない。謎の声は段々声量が増していき、遂にハッキリと何を言っているのか聞こえるようになってきた。

 

「……?……しも、べ?我の?」

 

声は、不気味に頭のなかで響く。我の……下部となれ……と何度も繰り返し呟いているようだった。

 

「う、あ……はな、れろ……!」

 

いつまでも聞いていると頭がおかしくなりそうだ。どうなってしまうのか分からない恐怖に思考が回らなくなる。それでも必死に進は抵抗する。

 

「誰だか、知らないが……思いどおりに、なる、訳がない……だろ!」

 

口では強く言っているものの、頭の痛さに精神の疲弊、これらが合わさり意識が保てなくなりそうだった。

 

『早く楽になれ。その方がお前も苦しまずに済むぞ。」

 

内なる自分の心の甘えが囁く。

 

「ふざけん、な……ぐっ!あぐっ……ちく、しょう……なんだって、こんな、辛い思いしなきゃ、いけないんだ……!」

 

この街に来てから良いことづくめだった。少なくとも進はそう感じている。しかし、あの化物を目撃してしまったたった一回の出来事が根強く心に住み着いてしまっていた。ネガティブな感情が進の中で渦巻く。良いことの方が多いはずなのに、まるで自分は悲劇のヒロインにでもなったかのような錯覚にさえ陥ってしまう。なぜこんなに理不尽な目に合わなければならないのか。いったい自分が何をしたと言うのか。

 

「うぅ……な、なんで……なんでだよぉ……」

 

今にも途切れそうな意識を目の前に進は苦しさからか、それとも悔しさからなのか自然と涙が零れる。

 

「い、嫌だ!思い通りになんて、なりなくない!クソッ、クソッ!ふざけんなぁぁぁぁ!!……あっ……」

 

無理やり声を出し自らを鼓舞しようと無理をした瞬間、とうとう限界を向かえてしまった進は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……コイツら、本当に下部の強さなの?」

 

「こりゃあ骨が折れるぜ……!」

 

サスペンスとの戦いが始まった瞬間に現れたクリーチャー。余りにも数が多すぎるため各守護者たちはサスペンスに手を出すことができず、徹底して下部の達を相手にすることにしていた。一方、カノンとルピコは大量のクリーチャーをカイト達に任せ、サスペンスの相手をしていた。

 

「はぁ!」

 

ウェディングの盾がサスペンスを真上から叩こうと振りかぶられる。

 

「フッ……遅いな。」

 

しかし、サスペンスはその巨大な体とは裏腹に軽快な動きで盾を避ける。

 

「ふむ……厄介ですね。ますますその力が何なのか、気になりますね。」

 

「そんなこと、言っている場合か?」

 

「っ!くっ……油断しました!」

 

冷静に力を分析する余りウェディングはサスペンスの口から放たれるビームに気づかず回避行動が若干遅れてしまう。

 

「ウェディング!」

 

ダメージを受けることを覚悟したウェディングだったが、カノンが間一髪でその攻撃をとっさに召喚したクリーチャーを盾に防ぐ。

 

「カノン!助かりました。」

 

「大丈夫!それより、まだくるみたい!まだいけそう?」

 

ウェディングの安否を確認する。カノンの質問を受けウェディングは自信満々に答えた。

 

「もちろんです。次こそは絶望をいえ、祝福をおくってあげましょう。」

 

目付きが更に鋭くなる。その様子をサスペンスは呆れながら見ていた。

 

「愚かな……どう頑張ろうが貴様達では我には勝てん。諦めも肝心だとは思わないのか?」

 

理解できないといった様子で挑発するサスペンス。それ故に気づかなかった。カノンに意識を集中させてしまっていたため、もう1人の刺客が近づいていることに。

 

「やぁぁぁ!!!」

 

「ぐっ!き、貴様ぁぁ!」

 

サスペンスは後ろを振り向き、ダメージを与えた人物を睨み付ける。

 

「私たちに諦める選択肢なんかありません!」

 

その人物とはルピコであった。ルピコはサスペンスをにらみ返しながら反論した。

 

「私達は、この街が好きなんです!それを壊そうとしてくる人たちを私達は倒してきました。決して折れることなくです!なのに今さらここで諦めるなんてこと絶対にするはずがありません!あなたの方こそ諦めてください!」

 

これがルピコ達の強さだ。いかなる状況であっても諦めない。どれだけ絶望的な状況であろうとも必ず立ち上がる。そしていつも最後には勝利をつかみとっていた。そんな修羅場を掻い潜ってきたルピコ達に諦めろなどと言うのは無理な話であったのだ。

 

「そうよ!誰かが苦しんでいる。それが例え1人だけであったとしても、私は見捨てられなんか出来ない!かつての私がルピコ達に助けて貰ったときのように、私もこの街を助けたいだわ!」

 

ルピコの反論に乗じてカノンもサスペンスに思いの丈をぶつける。サスペンスは不気味に光らせている目を見開き、頭を横に振った。

 

「やれやれ、感情と言うのはここまで無謀なことまでさせてしまうのか……やはり、感情など不要なものだな。しかし、ここまで私に歯向かおうとするその姿勢。それだけは褒めてやる。」

 

偉そうに呆れたもの言いで口を開くサスペンス。

 

「そろそろ、あなたの立場を理解してみてはどうですか?」

 

「何……?」

 

突然ウェディングがそのようなことを言い出すので、サスペンスも疑問を抱く。力の差は歴然のはずだ。

 

「余裕そうにみえますが、今の状況は多勢に無勢。下僕達は守護者の相手をしている。このままいくとジリ貧であなたの負けになりますが。そんなことを言っている余裕があるのですか?」

 

「言わせておけば貴様と言うやつはッ!」

 

ウェディングの挑発にサスペンスは憤りを見せる。そのときだった。

 

「っと……二度も同じ手は食らわんぞ。我を舐めるでないわ!!!!」

 

話に夢中になっていたサスペンスの背後をとり攻撃しようとしていたルピコにサスペンスら気づいていた。すんでのところで攻撃を受け止め、ルピコの一撃は無駄になった。

 

「うっ……すみません、はずしちゃって……」

 

申し訳なさそうにするルピコ。

 

「いえ、問題ないのだわ!今よ!ウェディング!」

 

しかし、ルピコの攻撃を防いだ時に生じた隙をカノンは見逃さなかった。掛け声と同時にウェディングが攻撃を仕掛ける。

 

「なっ!」

 

「今回は外しません。覚悟しなさい、サスペンス。」

 

「チッ!おのれぇぇぇ!」

 

サスペンスの断末魔の直後、確かに盾が体を貫いた。壮絶な打撃音が辺りに響く。激しい戦いの末、辺りは砂煙のせいで視界が遮られておりサスペンスの様子がよくわからない。

 

「た、倒せた……?」

 

ルピコがポツリと呟く。その時だった。

 

「っ!まだです、ルピコ!その場を離れなさい!」

 

ウェディングが叫び、警告する。

 

「え?……あっ!」

 

しかし、反応するのに少しに遅れてしまい今すぐには動けなかった。気づいたときには遅かった。避けられなかったのだ。サスペンスの放った一撃を。

 

「ピィ……プレイヤーさん……ちょっときついかもです……」

 

「ふん……口ほどでもないな……」

 

砂煙の中から傷ひとつ負っていないサスペンスが姿を現す。全くダメージを受けてなさそうな様子にカノンは驚く。

 

「そんな……確かに攻撃は当たったはずなのに……」

 

「一体、何をしたんですか?」

 

攻撃が当たった感触はあったはずだ。致命傷になり得る一撃だった。それなのにサスペンスは涼しい顔をして立っている。

 

「はぁ……貴様ら、やってくれたな。これでは我の努力が水の泡ではないか。」

 

「おい!大丈夫か!?って今どういう状況なんだ?」

 

意味ありげにサスペンスが憂いているとカノン達の後ろからグレンの声が聞こえた。振り返ってみると、他の守護者達も同じようにこちらへと駆けつけてくれている。どうやらサスペンスの下部の達を倒し終わったらしい。

 

「む、やられたか。やはりあの程度のクリーチャーは使えんな。」

 

駆け付けるグレン達を眺めながらポツリと呟くサスペンス。どうやら下部がやられたところで差ほどのダメージはないらしい。

 

「私の記憶していたデータだと、ウェディングの100%致命傷になり得る攻撃をサスペンスは確実に受けていた。にも関わらずサスペンスにはこれといったダメージがあるようには見受けられない。マスター。こいつには何か秘密がある可能性が高い。」

 

状況を理解できない守護者達に先程まで戦場の記録兼カイトの戦闘サポートを行っていたキリコが説明した。

 

「なに!それは本当なのか、ウェディング?」

 

「はい。当たった感触は確かにありました。仕留め損なうほどに威力を下げていた訳でもありません。」

 

「どういうことなの……?」

 

キリコの説明を受けカイトが事実確認を行う。ウェディングはキリコの言うことを肯定する。それを聞いてルカは頭を抱えるような素振りをみせて思考していた。

 

「お喋りはそこまでだ。いくら考えようが答えに辿り着くことはないぞ。」

 

勝ち誇ったような声音で口を開くサスペンス。

 

「ただまぁ……今の私は気分がいい。私の秘密を教えてやろう。」

 

「っ!どういう風の吹きまわしですか?」

 

突然秘密をばらすと宣言された瞬間にエレナは咄嗟に警戒心を強め、サスペンスに意図を聞き出そうとする。鋭い目でこちらを睨むエレナを尻目にしながらもサスペンスは話を続けた。

 

「なに、特に深い理由などはない。強いて言うのであれば、神からの慈悲とでも言っておこうか。」

 

「神様からの慈悲ねぇ。神様ならこんなことさっさとやめて欲しいんだけどなー。」

 

サスペンスの言い回しかたが気にくわなかったのか、チュリンがサスペンスを煽るような言動をとる。

 

「私が神だからこその現状だと言うことを理解せよ、人間。どれほど私を失望させれば気が済むのだ。今すぐにでも貴様らを消してやろうか?私が攻撃を受けきった秘密を知ることなく生涯を終えたくはないだろう?」

 

「くっ……皆、少しの間こいつの話を黙って聞いていよう。挑発は罠だ。」

 

人形の頃のようなキザな振るまいかたで挑発するサスペンスを睨みながら、カイトは挑発に乗らないようにと周りに警鐘をならした。

 

「水晶の花。あれはな、私の力の源なのだよ。そこまでは理解していると思うが、水晶の花には力を与えるだけではないのだ。それこそが」

 

 

エターナル・K

 

 

「エターナル、K?」

 

聞きなれない単語にカノンは疑問符を浮かべる。他の皆も何のことを言っているのか分かっていないようすだった。

 

「どうやら私が瀕死級のダメージを受けたとき、私の吸収した水晶の花が3個ほど肩代わりしてくれるらしい。つまり残基と言うわけだ。」

 

「なんですって……!?」

 

「そんな能力が……?」

 

「チッ……厄介ね……」

 

「面倒な能力を持っているな……このままでは此方がジリ貧になる可能性が出てきてしまう。どうしたものか……」

 

ウェディングは自身の能力とは似ても似つかない未知の力にとても驚いているようだった。エレナにルカは、光り文明のカードを良く使うため、場に残ると言う力がどれだけ厄介なのかを理解している。それ故に他の人たちの何倍も衝撃を受けていた。カイトは冷静に分析する。このペースで戦い続けたら数の暴力でいくら叩こうが消耗戦で負ける可能性が出てくる。それに、サスペンス自身が強いためなんども瀕死級の攻撃当てられる保証もなかった。

 

「それがどうしたって言うんだ!俺たちが諦めたらシティがとんでもねぇことになっちまうんだぞ!倒せないんだったら倒せるまで叩けばいい!俺はこの街を守らないといけねぇ!なんたって守護者なんだからな、俺達は!」

 

「おっ、グレンが珍しく良いこといったね~。ま、僕も諦めるつもりはないけどね!」

 

「なっ、チュリン余計なこと言うなよ!」

 

全員がネガティブ思考に陥ってしまいそうになっていた時、グレンがそんなことを叫ぶ。グレンなりの気遣いなのかもしれない。場をなごませる為なのかチュリンがかるく冗談を言う。そんな2人の様子に全員がハッとさせられた。

 

「まだわからないのか?人間とは学び、成長する生き物ではなかったのか?やっていることが愚か者と大差ないぞ。それとも絶望しすぎて考える脳がショートでもしてしまったか?」

 

相変わらず見下した目線で人間を哀れむサスペンス。そんなサスペンスを無視しながらカイトが口を開いた。

 

「君こそわかっていないね。あまり人間の感情と言うものを舐めない方がいい。」

 

「そうです。私達は守護者……この街を護れずして名乗ることなどできません!今こそ、光の断罪をお見せします!」

 

カイトとエレナがグレンに続いて口を開いた。先程まであった負の感情が完全に払拭されているようだった。

 

「はぁ……皆、何か策がある上で物を言っているのかしら…………きっと無いわよね。私だってまだ思い付かないわ。けれど、エレナの言う通りこんな奴に負けてるようじゃこの街の住人に笑われる。見せてあげるわ、深淵よりも深い闇をね。貴方なんか目じゃないくらいの闇に呑みこんでさっさと消してあげるわ!!」

 

ルカはみんなの反応に対して呆れぎみにため息をつく。しかし、弱音を吐いていたわけてはない。ルカもまたグレンの言葉に影響を受けていたのだ。いつもの彼女の様に皮肉を言っただけだろう。不適な笑みを浮かべながら鋭い目付きでサスペンスを睨みながら、ルカは誰よりも早くカードを取り出し戦闘準備に取りかかっていた。

 

「……もうよい。茶番は終わりだ。さっさと貴様らを始末し、カノンの力を奪い世界をゼロに塗り替える。」

 

呆れを通り越してもはや失望にも近い声音でサスペンスはそう嘆く。

 

「……できるものなら、してみなさい!私達は絶対に負けない!例え貴方がそんな力を持っていたとしても、私達が諦めることは決してないのだから!この勝負に祝福を送るのだわ!」

 

カノンが叫ぶ。進に対して植え付けたトラウマ、街の人たちに行った残酷な所業の数々、恨みをいまここで晴らさんばかりの覚悟を持ち、闘志に満ち溢れた表情をしていた。

 

「よーっし!私達もやられっぱなしでいくわけにはいけません!攻撃を仕掛けるなら今です!やっちゃいましょう、プレイヤーさん!」

 

先程まで攻撃を受けダウンしていたルピコが立ち上がる。サスペンスは油断しているからか、気づいている様子はない。チャンスを逃さまいと素早い動きでサスペンスに近づき奇襲を仕掛けた。

 

「っ、ぬぅ!小娘がぁ!」

 

「あぁ、今度は防がれちゃいました……」

 

しかし、すんでのところで気配に気づいたサスペンスは素早く反応し、避けられはしないのものの防御することに成功する。だが、確実にダメージは与えていた。

 

「オラァ!ルピコばっかに気を取られてんじゃねぇぞ!」

 

恨めしそうにサスペンスがルピコを睨んでいると、サスペンスがルピコに攻撃を仕掛けようと動こうとしていたその瞬間、グレンの使役する大量の小型クリーチャーが突っ込んできた。

 

「チィ!小癪な!」

 

間髪いれずに攻撃されるため、思うように動けず防御するのに手一杯になってしまうサスペンス。ルピコもそれに乗じて追加の攻撃を繰り出す。素早く移動しなんとか攻撃をかわすサスペンスをエレナは目で捉えていた。漸くグレンのクリーチャー達を裁ききったところで、サスペンスはグレンを襲おうと高速で接近する。

 

「そこっ!今こそ光の力、お見せします!」

 

「なっ!か、体が動かん……!」

 

急接近するサスペンスを光の力で封じ込める。思うように体が動かず苛立つサスペンス。

 

「よーし!今度は僕の番だね!いっけー!」

 

チャンスを逃さまいと続けて追い討ちをかけるチュリン。自然のクリーチャーが振るう力は他の文明の物とは一線を画しており、サスペンスといえども只ではすまなかった。

 

「ぐっ!……おのれ人間ごときがッ!」

 

「くっ……うぅ……!!」

 

先程までサスペンスを拘束していたエレナの光の力を力ずくで振りほどいた。それに、先程まで負っていた筈の傷が完全に回復しているサスペンス。どうやらまた水晶の花を身代わりにしたらしい。回復したサスペンスは一番近くにいたカイトを襲った。

 

「ガァァァッ!!」

 

普段は冷静を装っているものから出る声とは思えないほどの気迫と声量でカイトに人間の何倍もある大きさの手を、爪を振るうサスペンス。その攻撃は完全に直撃していた。

 

「カ、カイトさぁぁぁぁん!!!」

 

「フハハハハ!まずは1人ッ!」

 

ルピコが絶叫する。愉快そうに笑い声を上げながら次は誰にしようかと一同を見回すサスペンス。誰もがカイトの安否を気にしていたなか、只一人だけは顔色ひとつ変えず、口角を少し上げていた。

 

「大丈夫だ、安心しろ。」

 

グレンはまっすぐとした瞳でカイトの居た場所を見つめ、自信満々にそう告げる。それに対してルピコは困惑気味に口を開いた。

 

「で、でもっさっきの攻撃はカイトさんを直撃していて……」

 

「良くわかっているじゃないか、グレン。キリコッ今だ!」

 

「了解、マスター。」

 

「なにっ!グハッ……」

 

「えっ、カイトさん!?」

 

疑問を口にだそうとしていたルピコの声を遮るようにして、やられた筈のカイトの声が洞窟内にこだました。声が聞こえたかと思えばカイトは相棒であるキリコに素早く指示を出す。それに答えるようにキリコはサスペンスに先程の一撃のカウンターを放った。そんな光景にルピコは驚き目を見開く。そんな様子をグレンはニヤリとした表情で見つめていた。

 

「くっ、ぐぅ……貴様、一体どういうトリックで……」

 

何が起きたのかわからずサスペンスはカイトに質問する。そんなサスペンスに対してカイトは意気揚々と説明を始めた。

 

「フッ、単純な話だ。キリコには僕のホログラムを作ってもらい、それを投影していたにすぎないよ。おまえはそれに引っ掛かったってだけさ。」

 

「攻撃を外した際に生じる隙は何よりも大きい。マスターはそこを狙った。確実にダメージを与えられる状況を作り出し、そこに普通なら戦っている途中には不可能であった力の凝縮時間の確保に成功、あとは隙だらけの貴方を叩く。これがマスターの作戦。実際、多分だけど貴方は水晶の花を消費してしまった筈。」

 

「貴様らッ!」

 

どうやらキリコの推察は当たっているよだった。図星をつかれたサスペンスは恨めしそうにキリコを睨む。

 

「グレンさんはこの作戦がわかっていたからあんなに余裕があったんですね!」

 

「いや、作戦まではわからねぇよ。だが、あいつがあんくらいで倒れる奴じゃねぇこと位わかる。実際、不自然な位すんなりとやられに行ってたからな!」

 

ルピコに感心されるグレンは満更でもなさそうな表情をしていた。

 

「これで水晶の花は9個削ったわ。もうそろそろ危なくなってきたんじゃないかしら?」

 

ルカの闇よりも深い暗闇の眼光がサスペンスを貫く。流石のサスペンスも焦りが出てきているようだった。

 

「馬鹿にするなよッ……!下等生物供がッ!!」

 

「あらそう。ならここで終わらせようかしらね。カノン?準備はできてる?」

 

唐突に名前を呼ばれたカノンは少し吃驚するも、すぐに反応を返した。

 

「準備って?」

 

「あいつの反応を見る限りじゃもう花のストックもそこまでない筈よ。なら後は私達があいつを全力で叩く。後2、3回瀕死級の攻撃を加えれば多分行けると思う。幸い私には花を使わせるほどの攻撃が今すぐにでも打てるわ。だから、貴方はどうかしら?」

 

カノンに質問されたルカは余裕そうな笑みを浮かべながら説明をする。現状、このメンバーの仲で最大火力を出せるチュリンに続く程の力を持つのは、ゼニスやオラクル、オラクリオンといった他のクリーチャーとは一線を画す存在を使役するカノンである。なのでカノンにこの話を持ちけたのだ。その上で改めてカノンに準備ができているかどうかの確認を取る。

 

「当たり前よ!私だってみんなの役に立ちたい!その為ならどんなことだってできるわ!」

 

自信満々に答えるカノンにルカは思わず笑ってしまった。

 

「フフッ、頼りになるわね。」

 

「ほ、ほんと?私、役に立ててるかしら?」

 

何故か不安そうに質問するカノン。ルカは不思議に思いつつも優しい声音で話をする。

 

「何不安がってるのよ。役に立ってるに決まってるじゃない。余り自分を卑下するものじゃないわよ。」

 

「良かった……」

 

ホッと胸を撫で下ろすカノン。少し様子がおかしかったようにも見えるが、余り詮索はしない方がいいだろうと判断するルカ。何よりも優先すべき敵が目の前にいるので、余り悠長に喋っている暇も無い。ルカは意識を目の前の敵に集中させた。カノンもルカの雰囲気で察したのかサスペンスをじっと見つめる。幸いカイトがルカの思惑を汲み取ってくれたのか囮になってくれていた。それに加勢するようにグレンとルピコ、エレナやチュリンも戦っている。

 

「いい?多分皆は私達の作戦に気づいているわ。きっとエレナが隙を作ってくれる。そこを一気に叩くわよ。」

 

「えぇ、わかったのだわ。」

 

次々にグレンとルピコが攻撃を当てていくがやはり致命傷にはなっていない。しかし終わらない連続攻撃は相手の反撃を許さず、なかなか攻めに転じれないサスペンスはもどかしそうな表情を浮かべている様に見える。そこにチュリンの攻撃が当たる。致命傷ではないにしろ自然文明のパワーだ。やはりというべきかサスペンスは2、3秒間怯む。そこの隙をエレナは見逃さなかった。

 

「はあっ!今です、ルカさん!カノンさん!」

 

エレナはカノンたちのほうに顔を向けて叫ぶ。

 

「フッ、仕事が早くて助かるわ。カノンッ行くわよ!」

 

「わかったわ!ウェディング、最大火力で攻撃するのだわ!」

 

「お任せください。」

 

そういってサスペンスに接近するルカとカノンにウェディング。未だに光の力によって体の動きを封じられているサスペンスは顔だけをカノンたちに向ける。

 

「カノンッ!!!!今度は一体何だ!」

 

「行くわよ、ウェディング!呪文、ゼニスレクイエム!」

 

「闇に葬られなさい、魔弾・アルカディアエッグ!」

 

「な、なにっ!」

 

ゼニスレクイエムによってウェディングの力は大きく跳ね上がり、アルカディアエッグはサスペンスを打ち砕かんとその魔弾はサスペンスの元へと接近する。

 

「サスペンスッ!今度こそ私達の前から消えなさい!」

 

ウェディングが声を張り上げながら目にも止まらぬ早さでサスペンスに近づく。

 

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

「終わりです!!はぁぁ!!」

 

ルカの放った魔弾が当たりそうに、ウェディングの大きく振りかぶった盾が頭上から勢い良く下ろされそうになった、その時だった。

 

この時を待っていた

 

そんな声が聞こえた瞬間、その場にいた全員に悪寒がはしった。突然サスペンスが白く発光する。瞬間、異変にいち早く気付いたウェディングが叫んだ。

 

「皆さんッ!早く逃げなさい!!!」

 

「他人を心配している場合か?」

 

「ぐはっ……カ、ノン……に、げ……」

 

それは余りにも一瞬の出来事だった。ウェディングが叫んだかと思えば次の瞬間には地にひれ伏していたのだ。何が起こったのか理解できずにしばらく呆然としてしまうカノン。

 

「まだ意識があるのか。相変わらず頑丈な奴だ。」

 

「ウ、ウェディン、グ?」

 

「まぁいい。これからの惨劇をその目に焼き付かせた後に始末するとしよう。」

 

「っ、皆!撤退だ!」

 

現状の理解にいち早くたどり着いたカイトは一同に今すぐ逃げるように指示を出す。

 

「とっ、そうはいかないぞ。フンッ!」

 

「っ!な、なんだ、これは?」

 

しかし、それを防ぐ為かサスペンスが突然白く発光した瞬間、この場にいる動ける者が全員謎の力で身動きひとつ取れなくなってしまった。

 

「これは……私の力!?」

 

その時、サスペンスの力を受けていたエレナがそんなことを呟く。彼女はその力に既視感を感じていたのだ。それが余りにも自身の動きを封じる光の力と似かよっている。これはエレナにしかわからないだろう。だからこそ驚きも人一倍であった。

 

「ぐあっ!」

 

「マスター!!」

 

「うるさい虫だ。」

 

「うっ…くっ…損傷、率……65%……」

 

「キリ、コ……!」

 

「これで本当にまずは1人だな。」

 

身動きひとつできない一同の中で最初に狙われたのはカイトとキリコだった。意識は失ってないものの、もうまともには戦えないだろう。続いてルピコとプレイヤー、グレン、チュリン、エレナと続いて手も足も出ずにサスペンスにダウンされていく。そして……

 

「アルカディアエッグは打った。これに賭けるしかない……!」

 

ルカは悟っていた。次は自分にくるだろうと。しかし彼女は直前にアルカディアエッグを発動している。その為

 

「ほう……これはなかなかのクリーチャーだな。」

 

「……………………」

 

ルカの背後には巨大なクリーチャーが召喚されていた。その名も、魔光大帝ネロ・グリフィス。闇の守護者、ルカの切り札である。そのクリーチャーから感じられる光と闇の力にサスペンスは少し驚く。が、そこまでだった。

 

「だが……この程度で我は滅ぼせん。」

 

瞬間、再び怪しげな発光をするサスペンス。今度は紫色だった。

 

「うそ、でしょ……」

 

サスペンスが光った後には、ネロ・グリフィスの存在はなかったかのようにその場から消え去っていた。何が起きたのか理解できずルカは只呆然とグリフィスのいた場所を見つめる。

 

「フンッ!」

 

「きゃあっ!!」

 

サスペンスの攻撃がルカに直撃し、体が宙を舞う。またしても意識を刈り取ることはなく、かといって体を動かせる訳でもない様な、そんな満身創痍な状態になる。

 

「うっ…………ぐぅ……」

 

痛みに悶えるルカを横目に、サスペンスはとても楽しそうな目でカノンの方へと顔を向けた。未だに動けずにいるカノンは身をよじりながら、サスペンスを目一杯睨む。が、それを意に介さず、愉快そうに近づきながらサスペンスは話しを始めた。

 

「よくも皆を!」

 

「あぁ……その顔が見たかった!恨めしそうな、相手を呪い殺しそうな程の憎悪にまみれたその顔がぁ!」

 

「な、なんて、奴だ……」

 

興奮しながら話す姿を見てカイトがドン引きする。未だに痛みが引かず言葉がうまく出ていない。それは他の皆も同じだった。

 

「どうして………攻撃が外れてしまったの……?」

 

自身の過ちを悔いるように呟くカノン。あの時、最後の一撃を当てていれば、もっと自分がちゃんとしていれば、考えれば考えるほど後悔の念が押し寄せる。

 

「外れた?それは違うぞ、カノン。」

 

「え?」

 

そんな言葉を否定するサスペンス。一体何をいっているのかわからず只ひたすら混乱する。

 

「お前たちは騙されたのだ、この神たる私にな。」

 

「だま、された?」

 

「そうだ。私はなぁカノン、なにも水晶の力だけを得た訳ではない。私は貴様達の使うすべての呪文を奪い、その度に使用することが出きるのだ。」

 

「っ!!?」

 

衝撃の事実に表情が固まるカノン。もうこれ以上なにも聞きたくなかった。

 

「私がここまでの人数を瞬殺できた理由、わかるか?何故私よりも力のあるクリーチャーをあんなに素早く倒すことができたと思う?」

 

「い、いやっ……やめてっ……」

 

「カノンさん!」

 

サスペンスが必要にカノンを詰めていく。そんな様子に耐えきれず痛みも忘れてルピコが叫んだ。そんな心配の声も虚しく、サスペンスはその残酷な事実を告げるのだった。

 

「それはな……貴様の呪文、ゼニスレクイエムを使ったからだ。」

 

(そういうことか……!やられた……私達は誘われてたんだわ……アイツは呪文をわざと打たせるためにやられてるふりを演じていたのね……)

 

何故ここまで上手く行っているのか少し不安になるくらいだったのを思い出す。ルカは一瞬の戦況の流れを見て何かあるのではないかと怪しんだが、そこで慢心が生まれてしまった。違う、これは私達が強いからだ。今までの経験がここで生きているのだと信じて疑わなかったのだ。モヤモヤが最悪な形で晴れてしまったルカは内心舌打ちを打った。だとするとネロ・グリフィスがやられたのは多分アルカディアエッグの力だろう。自らの希望を自らが断っていた事実にやるせなさを感じてしまう。だが、そんなことを考えている暇はない。いまは自分のことよりもカノンの方が心配だった。そう思ってルカはカノンの方へと顔を向けると、そこには絶望に染まった表情を浮かべたカノンがそこにはいた。

 

「あ、ああぁぁぁぁ!!!」

 

膝から崩れ落ちるカノン。わかっていた。呪文の話を聞いたときから何となく頭では理解していた。しかし、それでも感情が理解を拒んだ。それ故にカノンは気付くことがなかった。どれだけの過ちを犯してしまっていたのかを。自身への不甲斐なさに思わず涙が溢れそうになる。あの時、もっと別の方法でサスペンスを攻撃していたらと何度も何度も考えてしまう。

 

「間接的に、いや直接といってもいいだろう。お前のせいでお前の大事な仲間がこんなに傷ついてしまったんだ。」

 

「だめ、です……!サスペンスさんの、言うことなんて……聞いちゃ、いけま、せん!」

 

サスペンスが追い討ちをかけるようにカノンの負の部分ばかりをフォーカスして責め立てる。心がぐるぐると渦まくなかルピコが必死にフォローを入れる。しかしその声はカノンの耳には届かなかった。

 

「一体、何が……したいんです……?」

 

ウェディングが疑問をぶつける。全員の意識を残す程度に痛めつけたあと、カノンに止めをさす訳でもなく何故か悪趣味な行為をしている。以前のサスペンスならばこんな無意味なことはしない筈だ。

 

「何がしたいか、か。」

 

投げられた質問に反応するサスペンス。

 

「カノン、我は貴様を絶望させたまま始末したいのだ。それも、とびっきりの絶望をな。」

 

「なっ……そんな、うそだろ……?悪趣味にも、程があるぜ……」

 

余りの目的に言葉を失う一同と皆の気持ちを代弁するかのように感想を溢すグレン。徹底してゼニスであろうとしたサスペンスが何故ここまで感情的な目的で動いているのか。ウェディングは理解ができなかった。

 

「我でもおかしいとは思う。だがな、私は意味嫌っていた感情と言うのをこの力をもった瞬間、少し理解したのだ。いや、してしまったといった方が正しいか。全てがわかった訳じゃない。だが感情のうちの1つ、恨み、妬み、殺戮衝動などの人間達の中では悪感情と認識されているものを理解することに成功した。するとどうだ、理解した瞬間貴様に対する恨みや怒り、復讐心のような思いが溢れて止まらなくなったのだ。そこからは早かった。入念に作戦を練り貴様をどう始末してやろうか、我に与えた屈辱をどれだけのものにして返してやろうかなどいろいろ思案したよ。正直に言えばゼロ計画など二の次だ。今は貴様をどう絶望させ殺してやろうかとしか考えておらん。」

 

「なんて、こと……」

 

「ここまで邪悪なやつ、僕も早々、見たことない、なぁ……」

 

「同感、だ……」

 

エレナはその思想の邪悪さに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。チュリンの考えをカイトは肯定していた。他にも酷い……だったり理解できませんね……だったりと様々な感想が飛び交っていたが、一同は起き上がれないほどのダメージを負っていたため言動もたどたどしくなっている。限界が近かった。

 

「さてと……お喋りは終わりだ。」

 

「っ!……くっ!」

 

サスペンスの発言に空気が張り詰める。ウェディングは体を動かそうとするが先程の攻撃によるダメージが大きすぎて思うように体が動かない。カノンに近づくサスペンス。

 

「ひっ……」

 

一体なにをされるのか分からず、小さな悲鳴を上げる。

 

「さて、貴様のせいでパーティーは壊滅したわけだが……その程度の絶望で殺すには少し惜しい。」

 

「え……?」

 

「そこでだ、スペシャルゲストを用意したぞ。きっと喜ぶ筈だ。さぁこい、我が従順なる下部よ。ククク……」

 

悪戯に笑いながら指を鳴らすサスペンス。一体クリーチャーの体でどうやって指を鳴らしたのかは分からないが、不気味なほどに洞窟中を響いた音が消えると同時に誰かの呻き声のようなものが聞こえてきた。最早人の声とは思えぬもので、何かしらの凶悪なクリーチャーのようにも聞こえる。もしかしたらいま呼ばれているクリーチャーらしきものに殺されるかもしれない。そんな想像が頭の中に過る。恐怖に怯えつつもカノンはゆっくりと声のする方へと顔を向けた。

 

「っ!……あ、あぁ……な、なんで……」

 

「なっ、これ、は……サス…ペンスッ!!」

 

 

余りの衝撃にまともに言葉が出ない。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。これは何かの悪い夢なんじゃないかと自分を疑う。目の前に広がる光景をまともに見られず思わず目をそらす。ゲストの姿を確認したウェディングはサスペンスにこれ以上ないほどの殺気を浴びせ、恨めしそうに睨んでいた。

 

「目をそらすな。これは現実だぞ?ほら、どうだ?私の用意したスペシャルゲストは。嬉しいだろう?もっとも、喜びの感情は理解できていないがな。クックックッ……」

 

そんなカノンを逃がさまいと近づいてきたサスペンスは、嬉しそうに話ながらカノンの頬へと手を当てて、そしてゲストのいる方向へと無理やり顔を向けさせようとする。その時、サスペンスは異常なまでに震えていたカノンの体を確認し歓喜にうち震えていた。

 

「や、いやっ……!もう、いやぁ……!……あっ!」

 

必死に抵抗するも力で敵う筈もなくカノンの顔はゲストの方へと向いてしまった。それを見たサスペンスは笑いをこらえきれず洞窟内に響き渡るほどの大声で声を上げていた。

 

「なんで……ここにいるんですか……」

 

カノンは現実を直視する。もう逃げられないのだと悟ってしまった。普段の明るい声音とは思えないほどに低い声で、震える口を必死に動かして、泣きそうになりながらもカノンはゆっくりと静かにその者の名を口にした。

 

 

先輩……!!




過去一長くなってしまいました……楽しかったからまぁいいや!
あとデュエプレにやっと禁断が出ますね!マジで世代の弾なのでわくわくが止まりません。しばらくは小説そっちのけでプレしちゃうかもしれませんが、失踪だけはしないので安心してくださいね。皆で新弾楽しみましょう!
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