「グッ、ガ、アァァァァ!!……グゥゥゥ!!!」
カノンの前に現れた進は荒い鼻息を立てており、その様はまるで獲物を狙う肉食動物のように見える。とても人間が出せるような迫力ではなく、異変がおこっているのは火を見るよりも明らかだった。
「先輩、だって……!?」
「カノンさんの先輩、ということは……まさかっ……!」
「そのまさかでしょうね……ルピコは会ったことがあるのでしょう?あれは本当に白守進で間違いない?」
比較的察しのいい3人がいち早くカノンの言動を飲み込み、その内容に驚愕する。ルカは念のためといった様子でルピコに確認を取った。
「は、い……あの方は、間違いなく進さんだと思います……」
ルピコも余りの衝撃的な展開に頭がついていけておらず、受け答えがたどたどしくなってしまっていた。ルカ達の会話が終わった直後、グレンとチュリンもすぐさま現在の状況を理解した。どうやらサスペンスの余りの屑っぷりに頭がよく回っていなかったようだった。
「サスペンス……!何故、白守進がいるのですか……!!一体、何をしたんですか……!」
この中でも最もダメージの深いウェディングが痛みを堪え、未だに爆笑しているサスペンスを睨みながら問う。その時、ウェディングは一番心配していたカノンの様子をチラリと確認した。
「っ………!!」
感情と言うものをまだ理解できていないウェディングでもわかった。カノンの表情は絶望に染まりきっており、目尻に涙を浮かべている。半開きの口が塞がる気配はなく、生きているのか怪しくなるほどに体が動いていなかった。目に関して言えば、ゼロ計画の時よりも酷く暗いものになっていた。それもそうだろう。大切な存在が、無防備で危険人物の目の前にいるのだ。ろくなことにならないはずである。それなのに動揺しない方が無理がある。サスペンスは人殺しの実績があるため尚更不安が募ることだろう。
(あの、顔は……)
なんだ……?何処か見覚えがある表情だ。一体いつそんな表情を見たのか。多くのクリーチャーを絶望に沈めてきたウェディングは、そんな過去の記憶を遡る。
(……あの、時の……?……あぁカノン、このままでは……!)
見つけた。あの表情がなんなのか、その根元はなんなのかを、ウェディングは見つけてしまった。あれは
人が死ぬ一歩手前の表情だ
カノンと言う人間と初めて出会った時の記憶が蘇る。何もかもを奪われたカノンは生きる希望を失っていた。そんなカノンの表情を見たとき、ウェディングは少し驚いた。まるで感情のないゼニスのようだと、そう思ったのだ。何がなんでもカノンの力はゼロ計画に必要だった為、協力関係を持ち掛けたときだった。何を言っても反応はなく一言も喋ることはなかった。我慢の限界が来たサスペンスが協力しなければ殺すと脅していた。ウェディングは、貴重な存在を失っては困るため仲裁しようと口を開きかけたそのときだった。
『なら、早く殺して下さい。』
その発言に目を見開くサスペンス。「あれはバカなのか?」等とライオネルが呟いていたりしていたが、ウェディングも例外ではなかった。正気なのか?死を望む生き物などいるのか?といった考えが頭の中を駆け巡る。ウェディングの経験上絶望を送ってきた者達は決まって命乞いをしていた。なのにカノンはその全くの逆を行ってちたのだ。理解に苦しむが、兎に角カノンを殺す訳にはいかないのでその場では、何とかしてウェディングが協力させるように話を付けておくと告げその場を後にしたのを覚えている。いまのカノンは完全にあの時の表情と重なって見えた。カノンを守り通すと決めたウェディングにとって、カノンの死ほど許されないものはない。仮にいまここから逃げ出したとしても、生きる気力を失ったカノンは自らの命を絶ってしまうかもしれない。あの時のカノンはそれほどのことをしでかしてしまいそうになる位に儚く、脆く、そして心が死んでいたのだ。現在のウェディングは満身創痍であり、まともに動ける仲間もいない。なにもできない自分に不甲斐なさを感じる。焦りだけが如実に現れていくのが自分にもわかった。どうしたらカノンを助けられるのか、その答えはまだ出ない。
「何故ここに白守進がいるのか、今から何をするのか、疑問に思うのも無理はない。だか喜べ!たった今、その疑問が晴れることとなるぞ!」
ウェディングの質問に応えるように声を上げるサスペンス。その声音は、今までのどんなサスペンスの声よりも愉快そうに聞こえた。
「おい、お前も出てこい。」
サスペンスがそういった瞬間、またもや別の声が聞こえてきた。声の元を辿って顔を向けてみれば、そこには進と同様に様子のおかしい人間がおり、その人間はゆっくりとサスペンスの元へ歩いていく。何が起きているのか分からず目の前に繰り広げられる光景をただ眺めることしかできない一同。それはカノンも同様だった。
「水晶の花はどうすれば手に入ると思う?」
突然、サスペンスはカノンにそんな質問をした。しかし、未だに脳が状況を上手く処理しきれておらず上手く言葉が出てこない。その為、カノンはその質問にはただ首を横に振ることだけしかできなかった。
「これを見ろ。」
そういってサスペンスはカノンの目の前に謎の白い、まるで石のような物体を見せつける。
「これを人間に入れることにより、なんとこの物体は人間を水晶の花にしてしまうのだ。それに、この物体を体内に入れられた生き物はある程度私の支配下に置くこともできる。」
「っ……!!」
カノンは背筋が凍りつくのを感じた。まるで氷柱に心臓を射貫かれたかのような、そんな感覚が身体中を駆け巡る。
「因みに先程の呼んだ男は壊白と言う名らしいな。」
「壊、白……?」
サスペンスの口から出てきた壊白という名前。カノンは何処かで聞き覚えがあり冷めきっていた頭が今までの記憶を呼び戻す。
「…………え、あ…………え?」
あの時だ。先輩に、迷惑なお客さんに絡まれたのを助けてもらったあの日に耳にしていた。壊白は店長さんの店を執拗に潰そうとしている人だと先輩は言っていた筈だ。しかし、なぜそんな人物がいまここにいるのだろうか。何故このような情報をカノンに伝えたのか分からず困惑するカノン。そんなカノンをサスペンスはニヤニヤしながら眺めていた。
「私はな、カノン。最初ッから、貴様のいる場所など分かっていたのだよ。」
「っ!?」
最初から分かっていた?なら何故一度も襲わなかったのだろう、と疑問符を浮かべる。
「簡単な話だ。この石をいれられた人間は私の傘下にすることができるのだぞ?……ならば貴様を探すのに効率化を図るのは普通のことだろう?」
「…………何が言いてぇ。」
余りの回りくどい話し方に痺れを切らしたグレンが、内心ブチギレながらも冷静に、ドスの聞いた声で答えを迫る。
「はぁ……面倒くさいものだ。人間というのは。」
「いいからさっさと答えろ。」
「…………まぁいい。結論から言うと、私はこのシティに住んでいる住民の半数以上にこの石を入れているのだ。それによりカノンの捜索範囲に幅が生まれ、結果カノンは簡単に見つかった。残りの用済みどもは花になり我の力となる。まさに、一石二鳥だな。」
瞬間、洞窟内に怒鳴り声が木霊した。
「ふざけんなッッ!!!!!」
突然のことだったので体をビクッと震わせるルピコ。グレンはサスペンスに対してマグマのように煮えたぎる思いをしながら、その怒りを露にしていた。
「一人前に怒ろうがこの事実は変えられん。どうせ貴様らは死ぬのだ。なのにそこまで街の人間を気にすることでもないだろう?」
「お前ッ!」
地面に倒れていた体を動かそうとするグレン。それを見たカイトはとっさに呼び止めた。
「動くなっ!」
「無理だ!俺はこいつを……許せねぇ……!」
「動くなと言っているだろう!いまお前が行ったところで無駄死にするだけだ!まだチャンスはある筈だ……それまで待っててくれ……頼む……」
カイトの悲痛な願いに冷静になるグレン。
「…………すまねぇ……」
「気持ちはわかる……だが皆満身創痍なんだ。無理はしてほしくないんだよ……」
そうだ。カイトも守護者である。冷静な性格な分冷酷にも見えがちなカイトだが、グレンを落ち着かせている今この瞬間、カイトもグレンと同じ位の怒りを内に秘めていた。
「ククク……水の守護者は話がわかるようで助かる。」
またもや皮肉を込めた挑発をするサスペンスだが、それに反応することなくカイトは無視を続けていた。
「っと、そろそろ来るな。」
何かに備えるかのように壊白の方に目を向けるサスペンス。そんな光景をカノンはただ呆然と眺めることしかできなかった。一同もなにが起きるのか確認するために壊白を見つめている。すると少し経ったそのときだった。
「へっ?こ、ここどこだ?てか……守護者?」
壊白が突然話し始める。先程まで呻き声を上げていたのが嘘のような変わりように驚きを隠せない一同。
「喜べ、貴様は今から我の一部となる。今まで手駒としてよく働いたな。これは神からの慈悲だと思い、受け入れろ。」
「は?突然なにいってやがんだこのやろ……ひっ!ば、化物!」
守護者に気を取られていたのか肝心のサスペンスの姿を確認しておらず、壊白は声のする方を見て初めてサスペンスの存在を認識した。サスペンスはウェディングのような人間の姿ではなく、クリーチャーとしての姿な為すぐに見分けがつく。まずクリーチャーを見たことがない人間であれば誰もが恐怖するであろうフォルムをしているサスペンス。このような反応をされるのも仕方ないだろう。あからさまに驚いている様子を見るに先程までは本当に意識がなかったのだろう。
「は、はぁ?……お、おい!これ、なんかのドッキリか?なぁ、おい!だ、誰か答えろ…………あ"っ!?」
「っ!?」
困惑している壊白が突然苦しみ出す。いきなりのことに一同が驚いていると、苦しみが増しているのかその唸り声は段々大きくなっていった。サスペンスはその光景を愉快そうに眺めていた。正気の沙汰ではない。あんなに人が苦しんでいるというのになぜあそこまで楽しそうにすることができるのだろうか。耳をつんざくような悲鳴に思わず耳を塞いでしまうカノン。だが何故か目の前の光景を見逃すことができず、目を瞑るということまではできなかった。
「うぁ……あがっ……があ"あ"あ"あ"あ"!!」
言葉を失う一同。一体なにが始まろうとしているのか、誰にもわからなかった。暫く悶え苦しみ、おぞましいほどの声量で悲鳴を上げていた壊白だったが、遂に変化が訪れる。
「なんだ、あれは……!」
カイトが思わず声を上げる。その視線の先には、先程まで苦しんでいた筈の壊白の体が徐々に白く、まるでなにかに侵食されているような何とも奇妙な光景が広がっていた。やがて壊白の体は徐々にごつごつとした岩のようなものへと変化していき、しだいに徐々に悲鳴のトーンも落ちてきた。そして最後には口の中からなにやら突起物のようなものが飛び出す。その先端には花のような形をした物体があった。遂に壊白は声すらもださなくなってしまったのだ。いや、出さなくなってしまったというのは少々語弊がある。すでに死亡してしまったがゆえに声を出すことすらできなかったと言うのが正しいだろう。
「うっ!うぅ……」
目の前でそんな残虐なサスペンスのショーを見せられたカノンは、最後の口を貫き花を咲かせた辺りで吐き気を催していた。すんでのところで吐き気を抑える。しかし、抑えたところで心臓の鼓動はどんどん早くなっていくし、未だに恐怖もなくなるのなどということはなかった。それはルピコ達も同じである。クリーチャー世界にてある程度そういった残酷な光景には耐性がある守護者達ですら、どこかキツく感じていたほどだった。
「美しい……見てみよ、この輝きを……!これこそが、水晶の花だ……!いつ見ても惚れ惚れするな……ではさっさと食べてしまおうか。」
別のなにかに変化した壊白から目を離せないカノン。すると、突然水晶の花らしきものにサスペンスが近づいたかと思えば、バリバリと咀嚼しながら頬張っていくという正気の沙汰ではない行動を目撃することになる。カノン達はただ呆然とその光景を眺めることしかできなかった。
「……あぁ……!体に染み渡るこの感覚……!最高の気分だ……!」
完食し終えたサスペンスは、歓喜にうち震えていた。恍惚とした表情を浮かべている。過去に対峙していたサスペンスと同一人物なのか疑うほどに変わり果てていた。殺された。たった今シティの住民の1人が殺されてしまう様を目撃してしまった。救えなかったという事実が更にカノンの心を、ルピコ達の心を締め付ける。殺されたものは仕方がない、何てことは言えない。が、どうにもならないことは残酷ながら存在するのだ。今は助けられなかったと嘆くよりもまず、もう1人残っている白守進を何とかして助けようと心の中で思う守護者達。無論、それはカノンも同様であった。そう決意していた中、サスペンスが突然ふとなにかを思い出したかのように口を開く。
「あぁそうだ。白守進に我の石を埋め込んだことはもはや話さずともわかると思うが、この石を入れた時点で助からんぞ。」
「え?」
淡々と、残酷な事実を告げるサスペンス。まだ、生きている。まだ、助けられる。この命に変えてでも、絶対、絶対に先輩を助ける。そんな決意が打ち砕かれるのを感じた。力が抜け、膝から崩れ落ちるカノン。
「水晶の花に変化させる力は私が持っているのではなく、その石自体が持っている力だ。あの石は寄生虫のように人間の体と同化する為無理やり除去なんてしようものなら即死だ。私が意識すればすぐに転化させることもできるが、如何せん疲れる。このようにこの洞窟に連れてくるのにしても相当な意識を集中させなければ操ることすら困難なのだ。最後に対面させてやっただけ感謝してほしいな。」
「うそ……」
「嘘だと?信じられないか?残念ながら現実だ、諦めろ。」
「うそだ……そんな筈ない!……だってまだ、せんぱいは……生きてるのよ!?……水晶になっちゃった人達と違ってまだ動いてる!生きてる!……まだ、きっと、助かる道が……」
取り乱すカノン。錯乱しているようだ。普段の彼女なら水晶になった人達と違って生きてるなんて発言はしないだろう。命は皆平等で、困っている人がいたら助ける。実際今回の調査はシティにもしものことがあったら危ないからと言った理由で行われている。無論、カノンもそう思っていた。皆を助けなければと考えていた。だが、今のカノンはそんな助けようとしていたシティの被害者達と進を比べてしまっていた。裏を返せばそれほどに進は大切な存在であったのだ。カノンにそこまでのことを言わしめる程に進の存在は大きかったのだ。
「カノン、さん……プレイヤーさん、私達はもう何も出来ないのでしょうか……このままじゃ進さんが……!」
「チッ……あいつ、とんだクズね……なにも出来ないのが悔しい……!」
「なんて私達は無力なのでしょう……光の守護者の名が聞いて呆れますね……」
「畜生!!もう打つ手はないってのかよッ…………!!」
「…………カイト。もう、何か策はないの?僕、ちょっと我慢が出来ないよ……」
「っ……すまない……僕たちにはもう力を行使する程の体力が残っていないんだ……僕だってできればどうにかしたい……だが、今ここで無理をしてでも助けに行ってしまったら…………全滅だ。今後のことを考えるならば、今は撤退しかない……」
カノン以外はサスペンスに無力化されてしまった。ルピコ達は助けに行くことができず、只眺めているだけの現状に、自身達の有り様に憤る。チュリンが何も出来ない自分に我慢ができず、カイトに縋る様にして作戦を聞き出した。しかし、返答は余りにも残酷で、それでいて余りにも合理的なものだった。只でさえ強いサスペンスを満身創痍の、それも思うように力を使えない人間が倒せるわけがない。きっと放っておけばシティは只ではすまないだろう。カイトだって悔しい筈だ。それを我慢して、苦渋の決断を下したのは想像に容易い。
「マスターの、提案を、キリコは支持する。今戦っても、100%勝てない。ここで守護者達やルピコを失えば、シティは、終わる。」
「っ!……そう、だよね……」
先程サスペンスの攻撃を受け機体の幾つかの箇所を損傷した為、話し方が途切れ途切れになっているキリコ。それでも皆の安全を最優先に考えたキリコは、今すぐここから逃げるようにとカイトの作戦に便乗する形で促した。あのキリコですら逃げるしかないと語る現状に改めて絶望する一同。チュリンは沈んだ顔で相槌をうった。
「どうだ?これで理解しただろう?貴様達はただ人間どもが我の力となるのを待ち、シティが滅ぶのを眺めることしかできん。おっとそうだった、その前に貴様らは我に殺されるのだから待ち、眺めることなどできなかったな。失礼した。」
ここぞとばかりに煽るサスペンス。まるで仕返しだと言わんばかりの悪意のこもった声音だった。それを聞いた一同は何も言い返すことができず、押し黙ってしまう。ただ1人を除いて。
「うぅ……あぁ!ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「っ、なんだ……!?気でも狂ったか?」
突然カノンが絶叫し、サスペンスを含め一同は驚く。するとカノンは、クリーチャーを召喚するときの構えを取り、そして宣言した。
「おねがい、先輩を助けて!私の体が壊れても構わない!だから!私に力を貸してっ……!」
「なっ!何が起っている!?」
カノンの背後に空間が開く。そこから一体のクリーチャーが出現した。カノンに似た白を基調とした色にどこか神々しくみえるそのクリーチャーの名は
神聖麒 シューゲイザー
ウェディング以外で使役できる強力なクリーチャーである。世界の命運を握る戦いにおいてその強大な力を振るい、ルピコ達を勝利に導くきっかけの1つとなった。
「っ!小癪な!今さら貴様が力を使ったところでどうなる!所詮1人では何もできず仕舞いの矮小なる存在よ!無駄に粋がるでない!」
ウェディングと同等程のクリーチャーの存在に少々動揺するサスペンス。だが、サスペンス自体の基本スペックは上がっており、タイマンならばサスペンスの方が有利なため冷静さを欠くことはなかった。それどころか、予想外の展開に焦るどころか慢心までする程だった。
「なにもできないよりマシよ!……ごめんね、シューゲイザー。今はこれしかないの。でも、どうしても倒さなきゃいけないのだわ!じゃないとシティも危なくなるから……だから……行って!」
『………………』
「!…………ありがとう……!」
カノンの話を静かに聞いていたシューゲイザーは、何も言わずこくりと頷いた。
「力はあるようだが……そいつだけでどうするのだ?まさか戦おうなんて言わないだろうな。今の私は貴様のゼニスレクイエムで強化されているのだぞ?勝てるわけがないだろう。流石の我でも呆れてくるな。やはり、気が狂ったとしか思えん。」
「くっ、サスペンスの言う通りだ……いくらシューゲイザーが強いと言っても、サシで勝てる相手じゃない。カノンなりの抵抗なのか…………?」
サスペンスの発言にカイトが渋々同意する。一同を瞬殺したサスペンスを、いくらあのシューゲイザーだからと言っても勝てる訳がない。ルピコ達も口にはしないものの正直なところ勝てる要素は無いと考えていた。そんな空気感だからこそサスペンスは油断してしまった。
「まだよ!」
「……!なんだ……?新たなクリーチャーだと……!」
突如シューゲイザーの両脇からクリーチャーが出現する。シューゲイザーの力なのか、それともカノンの力なのかはわからないが、そのクリーチャー達はシューゲイザーよりも数段弱く見えたサスペンスは余裕の風格で返り討ちにしようとその身を構えた。
「いくら数を増やそうが無意味だ。その行為、神に仇なす愚か者として我直々に断罪してやろう。愚かな行為と知れ、カノンよッ!!!」
「っ!?……き、消えた……?何が起っているんでしょうか……?プレイヤーさん、何か見えますか?」
ルピコが思わず呟く。その瞬間、誰にも視認できない程のスピードで二体のクリーチャーが交わったのだ。次元の違う戦いに誰も着いていけておらず、只音のする方を呆然と見つめる一同。しかし、長く続くかと思われた戦いは思いの外早く決着することとなる。
「鬱陶しいッ、奴らだ!これで終わりにしてやろう!はぁ!」
サスペンスが接近戦を仕掛けるシューゲイザーをなぎ払う。吹っ飛ばされたシューゲイザーは岩壁に衝突し、大ダメージを受けた。残った二体のクリーチャーが仕返しだと言わんばかりに特攻を仕掛ける。
「差し違えるつもりかっ!その程度で私を倒せると思ったら大間違いだっ!まずは貴様らを始末する!」
しかし、努力むなしく二体のクリーチャーはあっさりと始末されてしまった。ダメージを負い動けずにいたシューゲイザーは無理やりその体を動かすと、サスペンスの方へと向かっていく。
「………………!!」
「むっ、まだやると言うのかっ!だが、その体ではもはや我に触れることすらできぬぞ!」
武器をサスペンスに向け突っ込むシューゲイザーをサスペンスは華麗に躱し、隙だらけだったその体にビームを放つ。
「…………!!!!」
確認できたときには既に遅く、そのビームは無慈悲にもその体を貫いた。力尽きたシューゲイザーは消滅する。
「あぁ……そんな……シューゲイザーが……」
「やっぱり、相手が悪かったのね……私達は遊ばれてたんだわ……」
「僕たち、あんな奴に舐められて相手されてたんだね……」
一瞬で決着の着いてしまった一戦。余りの力の差に嫌でも理解してしまう一同。エレナは悲痛な声を上げ、ルカは自分達とサスペンスの差を感じていた。チュリンは戦いをみながら悔しそうに呟く。
「ハッハッハッ!所詮は貴様1人の力!仲間がいなければ何もできない様な奴が我を倒せる訳がないだろう!?いきなり叫んだことには少々驚いたが、今度こそこれで終わりだ!カノン!」
邪悪な笑い声を上げるサスペンス。どうしようもない状況に一同は頭を抱え、表情が曇る。サスペンスの笑い声が洞窟中に響き渡る中、突然カノンが声を上げた。
「それは……」
「ハッハッハッ!……ん?」
絶望的な状況だと言うのにまだ何か言う気力があるのか。そんなことを思いながらサスペンスはカノンの方へと顔を向ける。その次の瞬間だった。
「どうかしら!!!」
鋭い目付きをしたカノンがサスペンスを貫く。妙に嫌な予感がしたサスペンスは困惑気味に口を開いた。
「一体何を言って…………ぐっ!が、はっ!な、何が起きて……!」
何を言っている?と問おうとしたその時、突然体を激痛が襲い、悶え苦しみだすサスペンス。
「え?な、何が起きているんですか?」
ルピコも理解できないといった様子で呟く。だが、その場にいたある三人の人物は意表を突かれたような表情で苦しんでいるサスペンスを眺めていた。
「グレン、何か知っているような顔をしているが何故サスペンスが苦しみだしたのかわかるのか?」
カイトはグレンの意表を突かれたような表情が引っ掛かり、思っていたことを質問する。他にもチュリン、ルカといった人達の表情に明らかな変化が訪れているのを見逃さなかったカイトだが、敢えてグレンに質問してみた。
「あぁ、多分な。カイト、シューゲイザーが出してたクリーチャー覚えてるか?」
「あの二体のクリーチャーのことか?確かあれは……」
カイトは見覚えのあるクリーチャーのイラストを思い返してみる。確かシューゲイザーの呼んだクリーチャーは槍のような者を手にしていた。記憶しているクリーチャーを徹底的に思い出しているととあるクリーチャーが頭に思い浮かんだ。
「っ!まさか……あれは……!」
「気づいたか?」
「あ、あぁ。確かにあれならサスペンスを倒せるかも知れないな。よくあそこまでカノンは頭が回ったね……」
カノンの作戦に感心するカイト。一方でエレナも今一サスペンスが苦しんでいる理由がわからず、ルカに質問していたようだった。カイトが理解したのと同時にエレナも感心したような表情でカノンを見つめていた。どうやら一同の疑問は晴れたらしい。しかし、悶え苦しんでいるサスペンスはそんなことを考える暇など無く、只困惑しているだけだった。しまいには水晶の花が体外に放出されてしまう。放出された水晶の花は粉々に砕け散っていた。身代わりにしたことによって快復したサスペンスは漸く苦しみから解放され安堵する。すぐさまカノンに向かって復讐しようと体を動かそうとしたそのとき
「ぐっ、が、あぁぁぁ!!!ぐはっ!な、何故だ!?何故まだ痛みが続く!?ぐぁぁぁ……!カノンっ!貴様、何をしたァッ!!」
恨めしそうに唸るサスペンス。カノンはサスペンスの質問にこう答えた。
「シューゲイザーが召喚したクリーチャー……それは、鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェスよ!」
「なっ……!キリュー・ジルヴェスだと!?」
衝撃のカミングアウトに動揺するサスペンス。サスペンスにも聞き覚えのある名だった。
「キリュー・ジルヴェス……全クリーチャーにスレイヤーを与えるクリーチャーね。カノンはその能力を生かすためにわざとクリーチャーを倒させた。初めてスレイヤーが現実の世界で発動したのをみたから正直驚いたわ。キリュー・ジルヴェスを見た時は意味なんてあるのかしらなんて思ってたけどちゃんと能力使えるのね……」
「僕も驚いたよ~」
今までは戦闘する際に召喚するクリーチャー達は只戦っているだけだった。切り札を使うときだけはちゃんとした能力を発動させていたりしたが、ちゃんと力を使えば小型クリーチャーの能力も発動できることが判明し、ルカとチュリンは大変驚いていたようだった。
「おのれぇ!!やってくれたなカノン!!!がっ、ぐわぁぁ!!!」
「いいぞ!これならいけるかもしれない!」
焦るサスペンスを見てカイトは思わず声をあげる。希望が見えてきた。確かカイト達が最後に止めをさそうとしていた時、残りの残基はあと二つくらいだろうと考察していた筈だ。この考察通りにいけば先程のスレイヤー効果で一つ減らした為、後の残りの二回で綺麗に倒せる。
「ぐっ、く、そっ!小癪、なっ!こ、このままいけばわ、我は……!」
「いけるぜカノン!このままやられちまえっ!」
先程の暗くなっていた表情からうって変わって明るくなったグレンは、興奮気味に声を出す。
「おねがい……!」
カノンは無意識に祈りのポーズを取り、目をつむっていた。必死に願う。これで何かが変わるかもしれない。もしかしたら先輩が救われるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながらただ願っていた。先輩が手遅れだなんて信じたくなかった。
「うぐっ!がぁぁぁぁぁ!!!」
パリンと、音が響く。水晶がサスペンスから飛び出し砕ける音がした。三回目……この三回目が勝負だ。考えている通りならもう残基は残っていない。これで倒せなかったら正真正銘終わりだ。カノンも力を使い果たしてしまい、クリーチャーをまともに呼ぶことはできなくなっている。サスペンスにとっても、カノンにとっても、このスレイヤーが運命を変えるものとなるだろう。
「や、やめろ!やめ、ろぉぉぉぁ!!うっ!が、あがっ!グハッ!!」
スレイヤーの効果が終わった。どうなったのだろう。結果が解るまでの時間が何時間もあるように感じる。静まり返る一同にサスペンス。しんとした空間の中に突然音が鳴り響く。
パリン
それは余りにも残酷で、カノン達にとっては一番聞きたくない音だった。驚いたときには既に遅く、カノンが目を開けたときには既にサスペンスの姿が目前に迫っていた。
「そ、そんな……!」
「残念だった、なっ!!!」
「きゃあ!」
「カノンっ!」
ウェディングの悲痛な叫びが木霊する。カノンはサスペンスの攻撃をもろに受け吹っ飛ばされる。しかし、死に至るほどの打撃を受けたわけではなく、無力化されてしまうほどのダメージを与えられた。
「あぐっ、うっ!」
飛ばされた勢いで固い地面を転がるカノン。傷だらけになりながらも、転がり終わった後、すぐさまサスペンスの方へと顔を向けるカノン。いつの間にか目の前にいたサスペンスは口を開いた。
「今のは危なかったぞ……!私が壊白を食べていなければ終わっていた!やはり、貴様も無力化するべきだったな。」
「うぅ……」
「だが、もう何もできまい。先に白守進を見せしめに殺そうと思ったがそんなことを言っている暇ではないな。まずは貴様から始末することにしよう。」
無情にも淡々と事を告げるサスペンス。
「まてよ……?……いい余興を思い付いた。」
自らが止めをさそうと考えるていたサスペンスは、突然頭の中にとあるアイデアが思い浮かんだ。邪悪な笑みを浮かべたサスペンスにゾッとするカノン。その場から逃げたそうと這いずろうとするが、先程負ったダメージが大きく思うように体が動かない。
「こい、白守進。」
唐突に進を呼ぶサスペンス。何をするつもりなのか全く解らず困惑する一同を無視し、サスペンスは進をカノンの前まで移動させた。
「何を、するつもりなの……?」
サスペンスに問うカノン。そんな質問に対してサスペンスは笑みを浮かべこう答えた。
「簡単な話だ。白守進、カノンを殺せ。」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
衝撃的な発言に一同の思考がフリーズする。進は未だに苦しそうな声を上げながらもカノンにゆっくりと、そのおぼつかない足取りで近づく。進は、地面にうつ伏せに寝ていながらも顔を上げ進の姿を目で追っていたカノンの前に立ち、しゃがみこむ。
「せんぱ、い?なにを、して……あぐっ!」
カノンが話したいことを口にする前に、進は両手を使いカノンの細い首を締め付けだした。
「あが、うっ……せ、んぱ、い……」
「カノンさん!!!やめて下さいっ、進さん!!目を覚まして!」
「やめなさい、サスペンスッ!!!!!白守進!聞こえないのですか!?そんな洗脳に負けるなんて貴方らしくない!早く目を覚ましなさい!」
阿鼻叫喚とはまさにこの事だろう。ルピコは泣きながら訴えることしかできない。ウェディングは今までにだしたことの無いくらいの声量で進に訴える。守護者達は手を何もできない己の弱さに憤りながら握り拳を作り、ただカノンが殺されるのを見ているだけだった。
「遂に、遂にこの時が……!復讐が遂に完遂されるのだ!ついでに貴様の力も奪い、ゼロ計画も進めるとしよう!今宵はその記念日だ!」
「ガァァァ!!グゥゥゥ……!アアァァァアア!!」
進の力が更に強くなる。それに比例してカノンの苦しむ声も激しさを増していく。
「かはっ!や、やめ、て……くる、しいです……!」
「やめて……本当に、カノンさんが、死んじゃう……」
「…………覚えておきなさい……サスペンス。」
頭に血が上らない。意識が朦朧としてきたカノンは、今までの記憶を思い出していた。
(あぁ……私、死んじゃうんだな……ゼロ計画なんてしてたしきっとその天罰なのね……)
視界が暗くなってくる。もう周囲の声もよく聞こえない。
(でも、もうちょっとくらい皆と遊びたかったな……先輩との遊ぶ約束もしてたのに……楽しみに、してたのになぁ……)
結局先輩に抱いていた謎の感情の正体も分からずじまいだった。きっと大事な感情だったのだろう。けど、それを確かめる術などないし、もうすぐ死ぬ身だ。そんなことを考える意味などもはやないだろう。だと言うのになんなんだろう、このモヤモヤは。本能が、その感情がなんなのかを知ってほしいと、そう叫んでいる気がする。
(先輩の事を考えると少しドキドキするのはなんだったんだろう。すこし苦しかったけど、それ以上になんだか幸せで、そして少し恥ずかしい気持ちになる。先輩の事を考えると頭からしばらく先輩が離れなくなる。全部、全部、大切な感情な気がして、でも全然わかんなくって……知りたかったなぁ……まだまだ先輩と一緒に過ごしたかったなぁ…………)
(まだ、死にたくないなぁ…………嫌だよ……怖いよ…………助けてよ……先輩……!先輩の苦しんでる顔を見ながら死にたくなんてないよぉ……わらってよ……私の心を温めてくれるあの笑顔を見せてよ……)
気づけばカノンは一筋の涙を流していた。
「かっ……ひゅっ……!えぁっ……たすけ……せんぱ……ぃ」
その言葉を最後にカノンは意識を手放した。
過去捏造がありましたが一応元にしたのはアジサイの発言ですね。なんか暗い過去が見えたらしいのでそれを軸にウェディングとの出会いを妄想してみました。すでに公式がストーリーをだしていたりしたらすみません。この世界線ではこんなことがあったんだなって位の認識にしてください。最近になってシティバトルの重要性を知ったんですよね……