彼女………カノンが来てからというもの、進の仕事はスムーズに進むようになり幾分かの楽を得ることができていた。というのもこの喫茶店、店長と進ただ二人だけというごく少数の人数で経営しており、進が注文をとり店長が品を出すといった形でやっていたのでカノンの存在は進や店長的にかなり助かっていたのだ。そんなこんなで時は進み5日程たったある日。早めの休憩時間中、ご飯を食べていたときにカノンがこんなことを口にした。
「そういえば先輩、どうしてこのお店は店長さんと先輩だけしかいないんですか?こんなにいいお店なのに」
カノンは進に疑問をぶつける。進の働いている喫茶店は人目につかないような狭い場所にある。しかしそれにしては二人で働く分にしても中が広いのだ。それをみた上での疑問なのだろう。進は質問の意図を理解し、その質問へ答える。
「ん?あぁ、確かにそう思うよな。いやぁ俺も初めて来たときはカノンちゃんとおんなじこと思ったもん。それがさ、店長が言うには最初この店、元々店長一人で経営してて内装もこれだけ広くなかったらしいんだ。」
まさかの事実にカノンが声を出す。
「なるほど……でも、じゃあなんでこのお店はこんなに広いんですか?」
その疑問に答えるべく進は話を続ける。
「いやー店長、俺の作るコーヒーの味を一度に8人までしか味わえないのはもったいないし時間の無駄だ!って思って内装工事をしたんだって。だからこの店ちょっとひろいんだよな。それに加えて店長、求人のしかたがすっげぇ下手でさ、店に張ってある張り紙しか思い付かなかったらしいんだ。だから、たまたま見つけた俺しか働いてないし店長と二人っきりだったって訳。店長ドジだよなぁ~」
店の広い理由と共に二人で働いていた経緯を話し話を終える。
「なるほど…だからデュエマシティのバイト求人にこのお店が載ってなかったのだ、わ……あっで、ですね!」
納得したカノンは進に言葉を返すのだがまた癖で語尾が出てしまったようだ。そこで進もカノンに思っていた疑問をぶつけてみることにした。
「なぁ、何でそこまで敬語に拘ってるの?前にも言ったけど別にフランクに話してもいいんだぜ?まぁいやなら別に強制なんてしないけどさ。ちょっと気になって」
するとカノンは少し考えるような顔をして話し始める。
「えーっと、実は...私バイトを始めるときに友達にバイトのコツを聞いてみたんです。初めてバイトなんてするから不安で…」
そんな話を聞いた進は相槌を返す。
「なるほどぉーじゃあその友達ってバイトを結構してたりするのかね?」
「はい!なので色々なコツを教えてくれたんです」
つまり、その友達の教えのなかに敬語の拘りに理由があるのか、と思い話を聞く。
「で、そのなかにバイトをするんだったらもしかすると先輩、と言われる人がいるかもしれないからその時は敬語を使ったほうがいいよって言われたんです。」
そこでカノンの話は終了した。しかしどうも納得できない。なぜならその友達が大袈裟に教えたわけではなく、あくまでも助言という形でのアドバイスだったからだ。原因があるとしたらそこだと思っていたためとても原因とは思えず困惑してしまう。それに進にとっては同い年くらいの女の子に先輩先輩と言われるのは少々恥ずかしかった。
「大体わかった…けど、俺だってまだ3週間くらいしか働いてないわけだしそこまで先輩ってわけでもないからなぁ。それに、ちょーっと恥ずかしかったりーなんて。」
そこまで言ってカノンの表情を見るとなにか考え事をしているような、理解ができないといった感じの顔でぼーっとこちらをみていた。若干曇ったような顔をしていたのにも気になったが取り敢えず声をかける。
「え、えーと…カノンちゃん?おーいカノンちゃーん?」
と言いながら目の前で手を振っているとそれに気づいたのか慌ててカノンが話を繋げた。
「へ?あっ、えっとー…その、先輩って経験や勤務の日数が多い人のことなんですよね?それならやっぱりルールを破るわけにもいきませんから、私はそれでいいんです。なのでこの敬語はやっぱりつけておきたいんです。」
とカノンが真剣な顔をして答えるのでこの話を終わらせるため、空気をなごませるために進が口を開いた。
「そうかぁーまぁ、それならしょうがないか。いやーでもなのだわって語尾、結構可愛いとおもうんだけどなー」
少しいたずらをしてみたくなりつい言ってしまった。反応を確かめるべくカノンの顔を確認したのだが
「へ!?か、かわっ…えっ?かわいい?か、かわいい…………かわいい…………」
想像以上に動揺したようだった。そんなカノンの様子が可笑しくてつい笑ってしまう。それをみたカノンが
「もう!からかわないでください先輩!うぅ~…」
と、かわいらしく怒っていた。なんか癖になりそうでもう少しからかってやろうかとも思ったのだが、少しかわいそうなのでここでやめておくことにする。そして進が話を続けた。
「ま、敬語や語尾については気が向いたらでいいからな。もうそろそろ昼になるしかわいい後輩もいることだからあと少し!頑張るとするか!」
そういって休憩室の椅子から立ち上がり、仕事をしようとドアの前まで向かってカノンの方に顔を向ける。
するとそこには真っ赤な顔をしたカノンがジトーっとした目で頬を少し膨らませながらこういった。
「先輩!またかわいいって…!……………………ほんとにかわいいのかな……ちょっと、嬉しい…のだわ」
「え?何て言ったの?ごめんちょっと最後の方聞こえなくて。何か言った?」
「いや、なんでもないです!早く仕事に行きましょう先輩!ほら!早く!」
「えっ、あぁお、おうわかったわかった。」
そう言って彼らは仕事へと戻るのだった