無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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向き合うとき

これは、何の前触れもなく起きたことだった。何かの前兆が有った訳でもなく、本当に突然の事だった。

 

「ぐっ、うぅぅぅ……!!」

 

イズモという小僧に吸収されたところから記憶が曖昧だったが、現状を見るにイズモは戦いに破れたようだ。現状というのは、サスペンスがボロボロになっている状態の事を指している。そう、気づけばサスペンスは瀕死状態の体になっており、謎の空間で横たわった姿で仰向きのまま痛みにより動けずにいたのだ。

 

(ここは……どこだ?)

 

そこはまるで宇宙のような空間だった。無数の光の粒子が散らばっており、端の見えない無限に続く奥行き。全てが未知数であり、流石のサスペンスも困惑を隠しきれない。

 

(おのれぇ……!何故計画は失敗したのだ!上手くいく筈だった!!)

 

何もかもを失い、今までの努力も無に返される。それに対する喪失感ややり場のない怒りは並みのものではない。まともに体は動かせず、この衰弱しきった状態ではもって数時間と言ったところか。どうすることもできず、只謎の空間を漂うことしかできない。できることと言えば、思考することだけだった。

 

(元はと言えばカノンのせいだ!あいつが最初から上手く力を扱えていたならばこんなことにはならなかった!あいつが裏切りさえしなければ、感情などというものに流されさえしなければ!我の計画は全てが上手くいっていた筈なのだ!)

 

憎い

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

 

 

 

 

感情などない筈だった。そんなサスペンスが憎しみの感情、怨念といってもいいだろう。それを無意識に抱いた瞬間、運命の歯車は動き出すこととなる。

 

「……っ!はっ……あぁ?」

 

突如ゾクリ、と嫌な感覚が身体中を駆け巡った。圧倒的な威圧感。それの前にはどんな小動物でさえも頭を垂れてしまうだろう。なんなら細胞レベルでさえもそれには無条件で従うのではなかろうか。そもそもそれ、とはなんだ?なぜそれがいるとわかったのだ?恐らく首を右に向ければそれは確実にいる。何となくだが、本能がそう訴えかけているのだ。

 

(……なんだ、この感覚は……?何が……いる……!?)

 

体を動かすことなど数秒前の自分だったとても億劫に感じていたことだろう。なによりダメージが大きすぎてまともに動かせないのだ。勿論首を動かそうものならそれ相応の激痛が襲ってくることになる。だか、それでも尚それの姿を確認しなくてはいけないような気がした。無理やり首を動かし、右へと顔を向けるサスペンス。やっとそれの姿が視認できる。そう思ったときだった。

 

「なっ、あっ……!」

 

それを視認した瞬間、サスペンスは心のそこから震え上がった。感情などないと思っていたサスペンスが、初めて恐怖という感情を持ち、それを自覚した瞬間でもあった。

 

「……………………」

 

そこにいたのは、巨大な蝿のような生き物だった。正に王と言うに相応しい貫禄を感じる。不気味な造形をしている筈なのに何処か神聖な雰囲気すらも感じさせる。

 

(なんだ……?体が、震えている?この我が、恐怖を感じているのか……?)

 

気づけばサスペンスの体はまるで恐怖を感じたときの生き物のように無様にも震えていた。感情のない筈のゼニスが、明確な恐怖心を抱いたのだ。それだけでも目の前にいるそれがどれだけ異常な存在なのかがわかるだろう。

 

(何が、目的だ……?見たところ目がどこにあるかすらわからないが、明らかに我を見つめている……いや、見下ろされているのか?)

 

歪な存在はなにもせずに只じっとサスペンスを見下ろしているようだった。

 

(くそっ、どいつもこいつも我をコケにしおって!相手は神だぞ!?ゼニスなんだぞ!?ふざけるな!貴様が何者かは知らぬが、我と共に散ってもらおうか!)

 

八つ当たりだった。元々長くない命、それをこんな形で散らしてしまうのもどうかとは思ったが、それよりもサスペンスは己の怒りのままの感情に身を任せることにした。最後の最後にゼニスらしくない事をして終わるのもまた一興か、等とそんなことを思いながら体を無理やり立たせ、攻撃の準備に入る。その時だった。

 

「……は?」

 

何かが体に触れた。それも、サスペンスの目にも見えないほどのスピードでだ。何かが触れた感覚だけはあったが、それが何なのかは全くわからない。ただ、その次の瞬間異変は起きた。

 

「何が、我に触れ……がぁっ!?」

 

頭が割れるような頭痛がする。何が起きたのか理解できず、サスペンスただ、膝から崩れ落ちることしかできなかった。

 

「あ"!が、あ"あ"あ"あ"っ!!」

 

あまりの痛みに頭を抱え絶叫する。それと同時にサスペンスはとある違和感を感じていた。

 

(い、意識が……?な、なんだ……!?誰だ!?誰がいる!?)

 

サスペンスは突然頭の中に響いた何者かもわからない声に困惑する。それに、意識も曖昧になってきた。謎の声の正体、それが何なのかは既に解りきっていた。その上で有り得ないことだと思考する。

 

(何故……我の声が聞こえるのだ……!!)

 

そう、その声の正体はサスペンス自身のものであったのだ。自分自身の声が脳内で何度も何度もとある言葉を囁く。それは次第に大きく、より迫力のあるものへと変化していった。

 

 

 

 

楽に……なれ……!堕ちるのだ……我よ………従え……!

 

 

 

 

従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え従え!!

 

 

 

何度も、何度も、呪文のようにそう囁く自分の声。それは自分ではない筈なのに、何処か心地よく、同時に全てがどうでもよくなってしまうような、そんな魔力を潜めた甘い囁きだった。

 

(だま、れぇ!!!)

 

必死に自我を保つ。未だに頭の痛みは止まることを知らない。今すぐにでも楽になりたい、普通ならこう思うだろう。それが例え感情のないゼニスであってもだ。この攻撃は身体と精神を共に攻め、生物としての本能を利用し屈服させる。極めて下劣なものであった。

 

(誰が、従うものかっ……!!我は……このような奴に……負ける訳にはいかぬ!!我は……まだ……!)

 

 

 

何もなし得ていないっ!!!!只でやられてっ!おくものかああぁぁっ!!!

 

 

「………………!?」

 

謎のクリーチャーが若干ではあるが動揺したような気がする。だが、そんなことを考えているほど余裕などない。今はただこの攻撃をどう乗りきるか、それだけだ。

 

(がっ……!もう意識が……!)

 

しかし、現実は非情にもそんなサスペンスの思いに答えてくれることはなかった。先程までもうろうとしていた意識がいよいよ刈り取られ始めたのだ。こればっかりはどうしようもなかった。いくら気合いがあろうと、いくら思いが強かろうと、体が耐えられなければ意味がない。それはそんな現実の厳しさを反映させた結果に過ぎなかった。

 

(我が……消え……)

 

意識どころか人格すらあるのかわからない。そもそも本当に痛みだけで意識を刈り取られているのだろうか?もっと別の何かが要因で意識がなくなってしまっている気がしてならない。だが、そんなことを考えても意味などない。何故ならもうすぐサスペンスの意識はなくなってしまうのだから。そんな思考を最後、サスペンスは暗い闇の中に意識を手放していったのだった。

 

「………………」

 

ぱたり、と倒れるサスペンス。そんなサスペンスを元凶が見つめている。他にもまだ用があるのか、それは誰にもわからない。が、ひとつ解ることがあるとするならば

 

「ヤァット、テニイレタァ……!!」

 

倒れた筈のサスペンスが人の形だった筈の姿からおぞましいクリーチャーの姿へと変貌し、純粋に、まるで子供のように喜んでいたことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、我の身に起きた一部始終だ。」

 

「な、なんだよ……それ……」

 

はっきり言って、不気味の一言に尽きる。それにそんなことを聞かされたからといっても何かわかったことなんて1つもないし、謎が増えただけである。

 

「それが現実世界のサスペンス?とおんなじ姿をしている理由になってんのかよ。適当に話してるんじゃ……」

 

「大いに関係あるぞ、話はここからだ。」

 

進が疑問を提示する前に、そんな質問が来ることをわかっていたかのように口を挟み話を続けるサスペンス。

 

「この話のあと、我はここで目が覚めた。最初は混乱したが、どういうわけか我の頭の中には知らない筈の知識が備わっていたのだ。」

 

「知らない知識……?それって、ちょくちょくだしてたここの詳しい詳細とか?」

 

「そうだ。いつ知ったのかはわからないが、我がこうやって貴様に情報を渡せているのもこの知識があるお陰だ。それのお陰でわかったことも多かった。単刀直入に言うが、現実の我と精神世界の我はそもそも人格が違うのだ。」

 

衝撃の事実に声を上げる進。我であり我ではないといっていたのはそういうことだったのかと納得する。

 

「つまりだ、我はあの事件以来この空間に主人格を隔離され、別人格が我の肉体へと入り込みあの体を動かしている、というわけだ。」

 

「なるほどな……でも、知識が備わってるっていったってなんでそれだけで別人格があるなんて曖昧な憶測まで確信できるんだ?なんかこう、根拠みたいなものが欲しいな。」

 

サスペンスでも知らない知識。それが自然と備わっていた事で導かれた結論がこれならばもう少し根拠がある筈だ。進は何故そう思ったのか、一体どういった経緯でその結論に至ったのかが気になり質問する。

 

「それならば丁度いいものがある。待ってろ、今見せてやる。」

 

そういってサスペンスは何かを念じているのか小さい声で唸りながら何かに力を込め始める。

 

「見せる?見せるって何を……」

 

この空間には見たところ何も無いようにみえる。あるとするならば人間の精神だろうか。それ以外に一体何を見せるというのだろうか。そんなことを考えていると、突然暗闇の中から眩い光が差し込み、その光が長方形の形に広がり始める。光は進達の立っている位置よりも少し高いところで縦に広がっており、まるで壁にかけられているテレビのようだった。

 

「な、なんだ、これ……?」

 

戸惑いを隠せない進。そんな進にサスペンスは声を掛けた。

 

「そろそろだ、映るからよく見ておけよ。」

 

その瞬間、光っていた長方形の形をした何かに映像?のようなものが映し出された。

 

「な、あっ?!こ、ここっ!デュエマシティの森の中じゃないか!?」

 

見覚えのある光景に思わず声が出る。

 

「ほう、まだそんなところか。時間はまだありそうだな。」

 

「ほう、じゃねぇよ!これ何?何が映ってんの?」

 

「?先程言っていたではないか。貴様の言う通りシティの森だが。」

 

「なんでそんなものが映ってるん……って、なんかこの視点おかしくないか?なんか、人の視界みたいな……映像の揺れかたとかもまんま人っぽいし……」

 

進の言う通り、今映し出されている映像はカメラなどで撮っているようなものにはみえず、どちらかと言うと人の目線に近いものだった。それに映像のぶれかたが妙にぐわんぐわんしており、耳を澄ませば唸り声のようなものも聞こえる。

 

「察しがいいな、正解だ。この映像はとある人間の視界を映し出しているものなのだ。」

 

「ホントに人の視界だったのか!?てか、結局それと別人格の話は何の関係があるんだよ。」

 

関連性を見出だせない進は首をかしげ、質問する。それに対し、サスペンスは何故か得意気に説明し始めた。

 

「フッ、我はどうやらこの空間にいることに限り、現実の我が集めてきた人間の精神に干渉し、視界をジャックすることができるようなのだ。この空間にある精神……無論我も例外ではない。となると……」

 

「あっ!まさか、自分自身の視界も見ることができるのか!?」

 

サスペンスの話したいことを何となく察した進はつい思ったことを口に出してしまう。

 

「ご明察、だ。当然、我が何をしているのかも気になるだろう?貴様の言う通り我自身の精神に干渉し、現実世界の我の視界を見てみた。するとどうだ。奴の言動、振る舞い、しまいには姿形や様々な計画の進め方、どれもこれもが我のする行動とはあまりにも乖離していたのだ。別の人格を疑うのも無理はないだろう?恐らく、あの時の出会ったクリーチャーが我に別人格を植え付け、支配したのだと思われる。というより、現状可能性の高い説がこれくらいしかない。オーラも違うと先程話しもしたしな。」

 

きっとサスペンス本人が誰よりも自身の事を理解している筈だ。そのサスペンスが全く違う自分と言っているのだ。別人格を植え付けることができるのかは分からないが、サスペンスの言う説は理解はできる。他の可能性が思い浮かばないというのもあるが、今はサスペンスの説を信じることにしよう。

 

「じゃあその別人格のお前がカノンを殺そうとしてると、そう言うことなのか?」

 

「あぁ、その認識で構わない。」

 

「クッソ……厄介だな……」

 

思ったよりも複雑な理由に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる進。早くこの空間から出たいと思っていた筈が、進はいつの間にかどうやってカノンを守るかと言う思考に切り替わっていた。兎に角、まだわからないことも多い為情報をなるべく聞き出そうと試みる。

 

「なぁ、何で街の人たちはあの石を入れてる虫に気づかなかったんだ?明らかに異形の姿をしてるのに誰も気にしてなかったんだよ。」

 

「それはあの虫のようなクリーチャーにステルス能力を与えていたからだな。普通は他の人間に視認されることはない、筈なんだがな。何故貴様にみえているのかはさっぱり分からん。」

 

「ステルス……だから皆みえてなかったんだな。それに噂とかも全く聞いたこと無かったし……そういうことだったのか……」

 

一体どこまで多彩な奴なのだろう。サスペンスの様子を見るに、その別人格は本人の知らない能力すら所持していそうだった。

 

「じゃあ、この空間にある精神ってどんな形をしてんだ?」

 

次に気になったのは精神といわれるものの姿形だ。これに関しては完全に興味があるだけなのだが、何となく役に立ちそうな気がしたので聞いてみることにしたのだ。

 

「保管している精神の形か。それならば貴様の足元辺りにあるだろう?」

 

「はっ?下って……」

 

そういって顔をしたに向ける進。ここは真っ暗な闇のような空間でなにかがあった記憶はない。しかし

 

「っ!」

 

前はなかった筈のサッカーボール程の大きさで白い輝きを放つものがあった。形的には球状のような感じだろうか。

 

「これが、誰かの精神……なのか?」

 

「そうだ。普通はこのような形をしている。そして、現実の世界の我と対象の距離が離れていればいるほどあの精神の輝きは陰り、操りにくくなることを示していることになるのだ。」

 

そんな説明を受け再度光を見てみる。進の感覚ではかなり強い光を放っているようにみえた。

 

「ってことは、今俺が見てるこの精神の持ち主は現実の世界でも結構サスペンスとの距離が近いってことなのか。」

 

「そうなるな。それ以外にも微かに光っているものはあるが、無理にでも干渉しようとするとかなりの体力と力を使ってしまう。」

 

「なるほどな……ん?」

 

一連の説明を聞き、納得していた進。しかし、そこでふと違和感を感じた。

 

「なんかさっき精神の形を聞いたとき、『普通はこのような形をしている』って言ってなかったか?」

 

そう、サスペンスか精神の説明を行っている際に話していた言葉に普通はといった前置きがあったのだ。それが違和感の正体だと気づき質問してみると、サスペンスは待ってましたといわんばかりに口を開いた。

 

「遂に気づいたか。その通りだ、普通ならば隔離された人間の精神はこのような形をしている。では何故このような言い回しをしたのか。」

 

一瞬だけ、進は何となく嫌な予感がした。自身の事を大きく変えそうな、そんなことが起きようとしている気がしてならない。そんなことを思いながら進はサスペンスの話に集中して耳を傾けた。

 

「それには、貴様が大きく影響している。」

 

予想外のような、何となく察していたような、そんなことを言い放たれる進。今までも超常的な事ばかりで驚いてきたが、今回ばかりはレベルが違うような気がして妙な胸騒ぎがする。冷や汗をかきながらも進は表情を崩すことなく静かにサスペンスの話を聞く。

 

「白守進、貴様は……」

 

 

既に我の支配下にある

 

 

 

「おかしいとは思わなかったのか?何の理由もなく貴様がここに居れるわけがないだろう。貴様はカノンを殺すための計画を進める為の駒の1人として既に我の手の中に納められていたのだ。最も、勘違いしてほしくないのが、この計画を進めているのは別人格の我であると言う点だが、な。」

 

「………………」

 

そんな気はしていた。話を聞いている時に、何故自分はこんな場所に?と考えないことはなかった。嫌な予感も何となく感じていた。ただ、そんな恐ろしい現実から目を背けていたのだ。そんな気がしただけだ、きっと別の理由でここに迷い混んだに違いない、そんな可能性に縋っていた。

 

「この場所に貴様の精神が来た時、一応貴様の精神にも干渉し、貴様の見ている光景を覗かせて貰っていたぞ。するとどうだ。探しても探しても見つからなかったカノンが居るではないか!これには我も驚いたぞ。何処から湧いて出てきたかはしらんが、あんなに目立たない店で働いているのならば見つからないのも無理はないな、と納得した思い出がある。」

 

「!…………み、見てた、のか?」

 

「あぁ、バッチリとな。」

 

「何時から……俺とカノンが会ってからどのくらいの時に俺の精神がここに来た?」

 

そんな質問に、考える素振りを見せることなくサスペンスは答えた。

 

「タイミングが良かったのかもしれんが、自己紹介をしている時には既にここに来ていたぞ。あの自己紹介、自己紹介として機能しているのか?貴様が飯を多く食らう事等知ってどうするのだ。もっと有益な情報を話したほうが良いとは思わぬのか?うーむ……わからん。」

 

それを聞いた進は顔色が真っ青になる。サスペンスがなにか言っているが、そんなことは頭の中に入ってこなかった。嫌な、考えが頭に浮かんだのだ。それは、考えたくもない事実、現実だった。

 

(もしかして……俺のせいで……カノンの居場所がバレてる……?)

 

先程のサスペンスの反応。まるでシティでカノンを捜索してから初めて見つけたかのような驚き方だった。もしかすると自分のせいでカノンの居場所がバレてしまっていて、今後カノンが危ない目に遭ってしまうかもしれない。そんな考えが頭からはなれない。もしそうだとすると、自分は何てことをしてしまったんだ、と自責の念が生まれてくる。念のために進は質問することにした。

 

「な、なぁ……もしかして、俺を介して初めてカノンを見つけたりした……のか?」

 

「む、我の感想は無視か……まぁよい。そうだな……貴様の質問の通り、初めてカノンの姿を見たのは貴様を介しての光景になるな。現実世界の我が醜い姿で喜んでいたのを思い出す。いつ思い出しても忌々しい光景であった。」

 

「てことは……計画も、そこから結構動いていたり……するのか?」

 

不安が押し寄せる。心臓の音が聞こえてくるくらい激しく鳴り響いている。今にも吐きそうな気分で何とか口を開く。

 

「一体なんだ……そんなことを聞いてどうなる。」

 

不思議そうに声を上げるサスペンス。そんな様子につい苛立ちを覚えてしまい、早く答えるよう急かすように口を開く。

 

「なんでもいいだろ……早く答えてくれ……!」

 

「生意気な……まぁいい、そうだな……カノンが見つかった時から確かに計画は劇的に動き始めた気はするな。何より水晶の花を接種する機会が増えていたと思うぞ。恐らく、カノンを殺すための準備だろうな。気分が悪いことに、別人格の我は感情を少し持ち合わせている。確かモチベ?とか言うものが上がったのだと思われる。」

 

最悪だ。まさかトラウマ的存在に大切な人が奪われてしまう計画を、知らず知らずの内に手伝っていたとは思わなかった。いや、正確には思いたくなかったのほうが正しいか。なにも知らなかったとはいえ、自分のせいで何もかもが筒抜けだったに違いない。カノンにトラウマの事を相談したとき、この事を話したら変に関わろうとしてきてカノン自身にも危険が及ぶかもしれない、なんて事を心配していた過去の自分がバカらしく感じる。何が心配しているだ。もしカノンに何かあったなら、それは自分のせい。だと言うのに一丁前に何を言っていたのだ。バカにもほどがある。

 

(俺……なんて事しちまったんだ……)

 

何故気づかなかったのか、そんな自分に嫌気が差す。そんな奴にカノンの事を好きになる資格なんて、ない。

 

「何を思い詰めているのかは知らんが、話を戻すぞ。」

 

「っ!……あ、あぁ……」

 

ネガティブ思考に取り憑かれていた進の意識をサスペンスの声が呼び戻す。今はそんなことを考えている暇ではない。とりあえず、サスペンスをどうするか。そもそもここからはどう出るのかを優先しよう。切り替えが早いところが進の長所だ。自分は最低だが、やれるだけの事はやってみよう。そんなことを思いながらサスペンスの話を集中して聞くことにした。

 

「貴様もここに隔離されていた訳だが、わからないことがある。それが、何故我以外に貴様もこの空間で実体化できているのか、何故自我を持ち行動することができているのか、だ。最初に貴様にした質問ではなにもわからなかったが、我はこれを逆にこれをチャンスと見た。」

 

「チャンス?」

 

「そうだ。我の考察では、謎の空間で会った謎のクリーチャーもとい元凶の洗脳は強い精神力があれば、多少ではあるが抵抗ができるのだと思っている。」

 

「それはまたどうして?」

 

首をかしげる進。

 

「覚えているか?貴様の喫茶店に迷惑客が来たときの事を。」

 

いきなり脈絡のない話が飛び込んできて驚く。

 

「はぁ?覚えてるけど……」

 

「あの時の貴様の口調、何処か違和感を感じなかったか?」

 

違和感……そんなことを言われても2ヶ月ほど前の出来事だ。記憶もあやふやなので思い出すのに時間がかる。暫く思い悩んでいた進だったが、家あの日の事を振り返っていたときに抱いていた疑問を思い出す。

 

「あー……そう言えば俺の口調がおかしかったような……」

 

確か、進らしくなく丁寧語になっていたような気がする。しかし、仮にも客の前なので敬語口調、丁寧語で物事を口にする立場上仕方ない気もする。だが、それでも尚拭えない気持ち悪さを感じていたのもまた、事実であった。

 

「あれは、我が貴様の精神に干渉し操ろうとしていたが為の影響だ。」

 

「なっ、マジかよ!」

 

もしかしたら自分が既にサスペンスの手中にあった事実を知った時位の衝撃を受けたかもしれない。もう既に操られていたというのか。と言うことはあの時の自分は本当の自分ではない?そんな考えが頭を過る。あの時の気持ちは偽りだったのか?と不安が押し寄せてくる。

 

「しかし、完全に操ることができなかったのだ。」

 

「え?」

 

予想外の話の進み方にすっとんきょうな声を上げる進。

 

「恐らく、あの時の貴様の怒りと言う感情が操りの邪魔をしたのだ。出会ってから日も浅い癖にカノンにゾッコンだったようだな。」

 

「い、今その話はいいだろ!」

 

突然そんなことを言われるとは思わず食い気味に反応してしまった。

 

「兎に角、強い精神力さえあれば何かしらのイレギュラーを起こすことができるのだ。思い返せば、瀕死状態であった我も別人格を植え付けられる直前にもカノンの事を強く恨んでいたような気がするのだ。我がここで動けているのも貴様を操れなかった理由に近いと思われる。」

 

「な、なぁ……一応聞いておきたいんだけど、その俺を操ってるのはどっちのサスペンスなんだ?」

 

「ん?勿論現実のほうだな。そもそもとして我は視界をジャックすることしかできん。どうやら上手く貴様を操れるかどうかテストしていたみたいだ。常に操っているわけではないが、カノンの近くに長くいるのは貴様くらいだ。いざというときのために練習していたのだろう。だが、結果は失敗。人格を操ろうとした結果、何故か貴様の怒りの感情が激しさを増し、さらにはサスペンスの一部分の要素が混ざる形となってしまった。」

 

「そう、か……」

 

正直、もう頭が追い付かない。何とかして情報を処理していっていたつもりだったが、クリーチャーのことにカノンの事にサスペンスの事、そのどれもが情報量の塊で理解するのもやっとであった。そのなかでも印象に残っているのはやはりカノンが殺される対象になっていることと、知らず知らずの内にサスペンスに協力をしてしまっていたことか。

 

「話を戻すが、この感情によって起きるイレギュラー。我の場合は、完全に元凶に操られることなく我の精神を守りきれたことが当てはまる。あのままやられっぱなしだと、恐らく我の精神は抹消されていただろうな。そこで考えついた。」

 

「考え……?」

 

「貴様は一度だけではあるが洗脳を振り切っている。ならば、この空間から脱出し、現実世界の我を倒すこともできるのではないか?と。」

 

一体何度目になるだろう。驚きの連発で流石に疲れていたのだが、それでも驚いて目を見開くほどには変化を見せる進。

 

「バカな話だと思うだろう。だが、そうとも言いきれん。」

 

「はぁ……というと?」

 

あまり現実味がない話で曖昧な反応を示す進。呆れているようにもみえるが、進とてどうにかしたいとは思っているし、現状何かしらの打開策があるわけでもないので、聞くだけ聞こうと思った。

 

「簡単なことだ。貴様は我と同化し、イレギュラーを起こして洗脳を完全に振り切り現実世界に戻る。その後、我の力を駆使して現実の我を殺すのだ。」

 

「???」

 

は?同化する????何を言ってるんだ?イレギュラーを起こして現実世界に戻るのはわかる。だが同化とはなんだ。サスペンスと一緒になるのか?嘘だろう?冗談だと言ってくれ。かつてカノンを殺そうとした奴と一緒になるなど想像もしたくない。頭にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいるが、話を続けるため、率直に思ったことを口にすることにした。

 

「同化ってなんだ?そもそも同化したら俺は、そしてお前はどうなる?」

 

「同化と言うより我の命をほぼ全て捧げると言ったほうが正しいな。恐らく我はもうこの空間から出ることはできない。それは我が既に起こしてしまったイレギュラーが証明している。我が洗脳に抵抗し、意識を乗っ取られることなく精神だけは助かった。しかし、ゼニスにはこれが限界だったと言うわけだ。我の命を貴様に捧げれば我の力を使えるようになり、その力で貴様はサスペンスを殺す。貴様もサスペンスをどうにかしたいのだろう?なかなか悪くない話だと思うのだが。」

 

何故かこの計画に熱が入っているようにみえるサスペンス。自らの命を無駄にしてまでここ待てますル必要があるのだろうか。サスペンスがそんなことをするような人物に見えず、疑問が絶えない。

 

「確かに悪くない話だが……何故そこまでしてサスペンスを殺そうとするんだ?正直、この精神世界に籠っていてもよくないか?カノンの事だってお前も恨んでんだろ?態々会ってまもない人間にそこまで力を貸す義理はないだろ……」

 

そんな疑問に対して、サスペンスは自信満々に答えを出した。

 

「単純に許せなかっただけだ。我のしないような行動を取り、好き勝手やってくれている。何より借り物の力で慢心しているあの姿が見てられないのだ。我とてゼニスの誇りがある。あそこまでゼニスの尊厳を踏みにじる愚行を見過ごすことなどできぬ。どうせここから出られないのだ。それに元より長くはなかった命だ、永遠にこの忌々しい空間に拘束されるよりマシだ。」

 

そんなサスペンスの解答に少し感心してしまう進。確かにこいつは悪いことをしてきたし、カノンを困らせていた許せない奴だ。だが、自らの命を賭けてまでそのようなことが出きるのは素直にすごいと思った。ゼニス特有の感情がないものによる唯一の長所かもしれない。ある意味では振り切っている。人間は感情に振り回されることがほとんどな為、そこまでドライな思考で行動できるのは少し、ほんの少しだけ羨ましく思う。

 

「そうか…………わかった、できるだけやってみよう。」

 

進は二つ返事で了承した。断る理由などあるまい。カノンを助けることが出きるなら嫌いな奴とだって同化してやる。そう決心したその時

 

『チッ!おのれぇぇぇ!!!』

 

「!?!?!?」

 

突如、何者かの絶叫が暗闇の中に響く。驚きのあまり肩をビクッと震わせる進。声が聞こえたのは進達の立っている場所の少し上辺りだった。何が起きているのか探るべく上を確認すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。

 

「はっ……?カ、ノン?」

 

先程サスペンスが視界をジャックして見せていたとある人物の光景。話に集中してしまったがあまり、目を離してしまっていたのだが、いつの間にか広がっていた森の光景は切り替わっていた。なんと、そこに映っている光景にはカノンの姿が確認でき、前に遊んだ時とは明らかに雰囲気の違っているルピコちゃん、それにカノンのような白い衣服を纏った神秘的な雰囲気を感じさせる謎のお姉さん。しまいには

 

「あぇっ!?しゅしゅ、守護者が全員いい、いる!?」

 

何時かデュエルしてみたいと夢見ていたシティの守護者の面々が、なんと全員揃っていたのだ。変な声を出して驚いてしまう進。

 

「それに……あれって……!」

 

最後に圧倒的存在感を醸し出している化物が目に映る。瞬間、進の体は生まれたての小鹿のように震え出す。何故なら、そいつには見覚えがあったから、忘れもしないあの日の出来事の原因の種だったから。

 

「サス、ペンスッ……!」

 

カノン達と対峙しているであろうそのクリーチャーは、あの日見たサスペンスと全く一緒だった。この映像は現実世界のものである。ならば、カノン達は今まさにサスペンスと戦っていると言うことになる。

 

「っ……」

 

映像の流れている場所から一歩、二歩と逃げるように後ずさる。あの時の光景が如実に思い浮かぶようになり、トラウマを刺激される感覚が身体中の神経を駆け巡った。映像に動きがなくなり、束の間の静寂が訪れる。最も、訪れた時間で言うと15秒もないのだが。

 

「…………なっ……えっ?」

 

色白のお姉さんが突然ルピコちゃんに向かって叫ぶ。危ない!と……まるで忠告をするかのような物言いに動揺を隠せない。しかし、次の瞬間嫌でもお姉さんの意図を理解することになる。

進の見ている映像からは周りを全体的に見回すことのできるアングルなのだが、カノン達からするとサスペンスは土煙によってみえていないと思われる。進からはサスペンスの見えている状況、しかし次の瞬間サスペンスは消え、いつの間にかルピコちゃんの目の前に移動し、攻撃を行っていた。見えなかった。じっと見つめていた筈なのに、目を離せなかった筈なのに、何をしたのかわからなかった。

 

「お、おい…………サスペンス……」

 

震えた声音でサスペンスに声を掛ける進。

 

「……なんだ?」

 

そんな進の様子に何故か少し愉快そうな声を返すサスペンス。だが、今はそんなことよりも大事なことがあった。

 

「あれって、現実世界の……サスペンス、だよな……?」

 

「そうだが?それがどうした。」

 

あっさりと返答される。だが、現実を見るには丁度いい劇薬だった。

 

「や…………やばいッ……!やばいやばいやばいやばい!!!」

 

「何を焦っている?」

 

「ばっかやろう!!も、もうカノンがあいつに会っちゃってるじゃんか!!!それに戦ってるし!こ、このままじゃ本当に……殺されるッッッ!!!」

 

以前カノンとサスペンスが対峙した際、サスペンスは負けたらしいのだが、今回の現実サスペンスは入念に準備をしていたらしいと目の前のサスペンスに聞いた。あのサスペンスの事だ。きっと勝てる見込みがあるのだろう。でなければまともにやりあうなんてことはしない筈だ。その考察をから考えるにこのままいくとカノンと達は殺されることになる。焦らないほうが無理と言うものだった。

 

「そうだろうな。あいつはあの洞窟にカノン達がくるタイミングすら計画の内なのだ。今戦っていると言うことは余程自信があるのだろう。……チッ、我の体を好き勝手使いおって…………!」

 

忌々しげに嘆くサスペンス。その様子を見るに、本当に現実の方のサスペンスを恨んでいるらしく、先程までの話が全て本当なのだと察した。

 

「というか、この視界って誰の視界を映してるんだ?サスペンスが操っているにしても人間なんて戦力にならねぇだろ……何がなんだかもうわかんねぇよ……」

 

度重なる情報の嵐に頭を抱えていた進はまた新たな疑問にぶつかっていた。この映像は人間の視界を投影したもの。今まさにカノン達の戦いの映像が流れていると言うことは、その光景を見ている人がいると言うことだ。こんな場所にくるような人なんて余程の運が悪いのか、狂人でない限りはこんな場所に居座るなんてことはしない。恐らくサスペンスが操りこの洞窟に呼び寄せたのだろうが、意図が分からなかった。

 

「わからぬか。」

 

「当たり前だろ!」

 

呆れたように物を言うサスペンスについ突っ込む。カノンに危機が迫っているので今すぐにでも助けにいきたいのだが、何より情報がなければ下手に動くわけにもいかないだろう。関係ありそうなことは片っ端から知っておいた方がいい。

 

「もう分かるだろう…………これは貴様の視界だぞ。」

 

「なっ……!?」

 

「まさか、本気で気づいていなかったのか……?」

 

「な、なんでそんな……」

 

「私の事だから恐らく人質か囮、もしくは下部としての使役の可能性の辺りが固いな。もしかすると不意打ちということもあるかもしれん。見ろ。」

 

そういって映像を指差すサスペンス。一体何を指しているのだろう。守護者の誰か?謎のお姉さん?それともルピコちゃんか?もしかしてカノンなんて事も……そんな考察をする進を横目にサスペンスは話を続ける。

 

「この景色、いや、目線か。なかなかに低いと思わないか?この低さ、恐らくしゃがんだ体勢を取っているのだろう。それにこの少し見切れている岩影。まるで隠れているようではないか。他の連中にも気づかれている様子はない。不意打ちするにはピッタリだな。」

 

「っ!」

 

サスペンスの発言で察する事が出来た。要は俺は不意打ちも出来るし、上手く行かなかったとしても人質として機能する有能な手駒という事か。

 

(畜生……!これじゃ、俺はカノンに迷惑かけっぱなしになるじゃねぇか……!)

 

カノンの存在が気づかれてしまった原因の一端は自分にある。例えサスペンスが事の元凶だったのだとしても、自分さえいなければもっと守護者の方達も対策を練れたり出来たかもしれない。きっと俺がカノンにサスペンスの事を話したりしちゃったせいでカノンは自らサスペンスに会いに行ってしまったんだろう。少しの間しか関わっていないが、カノンはとても優しい思いやりのある子だ。それに加えてデュエリストだというのだから俺の話を聞いて行かない訳がなかった。

 

「せめて……せめて何か出来ないのかよ……」

 

現状の自信の惨めさに加え、無力な自分に虚しくなると同時に怒りを覚える。映像に流れているカノンや守護者達は何やら驚いた表情をしているが、その次の瞬間、目にも止まらぬ早さでカードを使いサスペンスとの戦いを始める。

 

「あ…………い、いけ……」

 

押していた。明らかに有利な展開だった。進はそんな戦況に希望を見出だす。もしかしたらいけるかもしれない、いやデュエリストがこんなにいるのに負けるわけがないと、そう思った。だが、それでも嫌な予感を感じていた。何故ならあのサスペンスには勝てる自信があるかもしれないからだ。

 

「……え?…………なん、で……あぁ!?み、皆が……!」

 

しかし、嫌な予感は的中してしまう。止めを刺そうとしたカノンとルカさんらしき人はカードの力を使おうとするが、どうやら不発に終わってしまったらしい。サスペンスが不気味に一瞬だけ発光する。その後は蹂躙だった。守護者は全員ダウンし、切り札らしきクリーチャーもあっけなく倒されてしまった。そんな様子を見てさらに罪悪感が増してしまう。ここまで皆が倒れてしまったり傷ついているのは結局のところ自分のせいだ。多分カノンが守護者の人達に協力を求めたのだろう。その理由のどれもが、やはり自分がカノンに相談をしてしまったから、という結論に達してしまうのだ。どんどん顔から生気が失われていくのを感じる。

 

「っ!やめろ、近づくなっ……!!やめてくれ……!」

 

何故かカノンだけは攻撃されず無事だったのだが、そんなカノンにゆっくりと近づくサスペンス。何をするつもりなのかは分からないが、兎に角カノンが傷つく事だけは見たくない。だが、進はそれを眺めることしかできなかった。

 

「…!………カノ、ン……?」

 

だが、サスペンスがカノンに攻撃することはなかった。安堵する進だったが、そんな時間も束の間のものであったようだ。突然膝から崩れ落ち、絶望的な表情で絶叫するカノン。その異常な光景に脳が数秒追い付かなかったが、何か酷いことをされたのだと理解する前に異変が起きた。

 

「……は?」

 

なんと、映像がゆっくりと動き始めたのだ。立ち上がり、岩影から体を出して、おぼつかない足取りで歩き出す現実世界の進。だんだんカノンとの距離が近くなっている。どうやら向かっている先はサスペンスとカノンのいる場所らしかった。カノンの方に目をみやると、微かに震えているようでこちらと一瞬目があった。しかし、その瞬間目をそらされ顔もそっぽを向かれてしまう。距離が近くなったため声も完璧に聞こえるようになっていた。

 

『っ!……あ、あぁ……な、なんで……』

 

苦しそうな声を上げるカノン。進がカノンの前に移動し終わった後、頑なに進の顔を見ようとしなかった顔を無理やり向けさせようとするサスペンス。

 

『や、いやっ……!もう、いやぁ……!……あっ!』

 

「っ!き、キサマァァァァァァ!!!その手を退けろ!!」

 

暗闇のなか叫ぶ進。今にも泣きそうなカノンを見て激昂してしまった。だが、ここは精神を保管する場所。声など聞こえる筈もない。そして、遂にその顔がサスペンスの手によって此方へと向けられることになる。そのとき目にはいったカノンの表情は、見ているだけで此方が辛くなってしまうほどに暗いものになっていた。

 

『なんで……ここにいるんですか…………先輩!!』

 

「ぐっ、うぅぅ!!ごめん……カノン……」

 

「何をするつもりだ……本当にあれが我なのか……?」

 

カノンの問いかけに思わず下唇を噛む。鉄の味が微かに広がるが、そんなことを気にしているほど余裕はなかった。一方、もう一人の自分として別人各を植え付けられていたサスペンスは、本当に自身の別の人格が植え付けられているのかに疑問を持っていた。それ程までにサスペンスは別人各の考えが読めなかったのだ。終わりは、近づいている。




はい、怒涛の説明ラッシュでしたね。一応始めっから考えていたことなので後付けではない……はず。

※裏設定みたいなやつ

冒頭に出てきたでっかいクリーチャーはクリス=タブラ=ラーサです。ラーサ君はどうも並行世界を移動できるらしいのですが(例えばエピソード世界からドラゴンサーガにいくみたいなこと)その通り道にサスペンスがいたらいい感じに物語の起爆剤に出来んじゃね?と考えたのがこの物語の展開の理由です。操るって言うのもなかなかいい設定してますしね。つまりあのサスペンスの迷い混んでいた謎の空間は世界線を移動するための通り道だったわけです。ラーサ君が操ろうとした経緯としては

なんか強い感情持ってる奴いる!洗脳しちゃお!

は?なんかこいつの意思強すぎん?完全に洗脳しきれんかったんやが

一応こいつに似た人格がいれてみたけど元が濃い性格のせいで上手く操れない……

使えないし面倒だからもうどうでもいいや(無視して目的地へと移動再開)

ということで、あまりにも自我が強すぎて上手く操れなかったんですよね。別の人格をいれてみたものの元のサスペンスに似せて作っちゃったせいで訳アリになっちゃって、使い物にならなくなったんで会ってすぐに見捨てました。サスペンスの言ってる洗脳石みたいなやつはトライストーンとおんなじ感じで捉えてもらったらいいと思います。
別人各のサスペンスは元の人格のサスペンスが目覚める前に精神隔離所に隔離したのでサスペンスが目覚めても人格の取り合いにならないんですよねー
調べたら水晶ゼニスの背景ストーリー解説動画とかあると思うんですけど、聞いてる感じじゃあの話って感情が肝だと思っています。実際ライオネルだけは自分の意思を持ってて皆を救い出してますから。ならサスペンスもいけるだろ!と思ったのですが、やはりライオネルの我は強すぎるんでサスペンスはあのくらいのポジションに収まりました。

なるべく10月以内に描きたいエピソードがあるので後少しでこの話も終わると思います。だからといって手は抜きませんよ。では、また次の話で。


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