無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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終幕の始まり

「ちっくしょうッッ……!!!」

 

カノンの発言に酷く驚いている様子のルピコちゃん達。みるみるカノンの顔から生気がなくなっていく様子に進は胸が張り裂けそうな気持ちになった。

 

「おいっ!サスペンスッ!!!」

 

「っ!なんだいきなり。」

 

進が精神世界の方のサスペンスを呼びつける。それに呼応するようにサスペンスも返事を返した。

 

「さっさとその同化ってのをするぞ!!!早くしねぇとカノンがッッ!!」

 

どうやら先程説明したここを出る方法の一つの条件、同化をしたいとの事だった。何をしたいのか判明したその瞬間、サスペンスはニヤリと口角を上げて、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

 

「言われなくともそのつもりだ。白守進、手を差し出せ。」

 

「手?何すんのかわかんねぇけど……ほら、出したぞ!早く、急がねぇと……!!」

 

突然そんなことを言われ少し困惑するものの、サスペンスに言われた通り手前へと伸ばす進。その手をサスペンスは握りあることを口にした。

 

「いいか、一度同化してしまうと我は一生貴様の中に生き続けなければならぬぞ。なにせ、現実世界の我の肉体はさ貴様自身が殺すことになるからな。もうただの人間としての生活は出来なくなるぞ。それでも良いか?」

 

そんなサスペンスの言葉に対して進は口許をニイッと上げて自信満々にこう言った。

 

「んなの、カノンが傷つかないことに比べたらどうってことねぇよ。てか、そんな心配してくれんのか?心配するなんてお前らしくないな。」

 

「チッ……黙れ、訊いてみただけだ。例え貴様が拒否しようが無理矢理にでも同化したぞ。」

 

「同化って無理矢理出来んのか……」

 

ここに来て衝撃の事実、同化は無理矢理にでも出来てしまうことを知る進。若干サスペンスに気持ち悪さを感じつつも、手を握られた進はそれ以降口を閉じ、同化されるのを待っていた。

 

「では、同化を始める。話に聞いたと思うが我がイズモに吸収された時と同様、貴様に力を与えれば同化できる筈だ。」

 

そういった瞬間、サスペンスがなんと光の粒子状のものを体から放出する。その粒子は、何一つ欠けることなく進の体内へと入っていく。それと同時にサスペンスの体が段々透けていっていた。映像からルピコちゃんや守護者の人達に白いお姉さんの声が聞こえてくる。そのどれもが焦りや怒り、悔しさなどを孕んでいた。一秒でも早くここから出たいと思いつつも、同化が完了するまではおとなしくするしかない。そして遂にそのときは訪れた。

 

「もういいのか?」

 

サスペンスが完全にいなくなった。この空間にはもはや進しかいない。握られていた掌を何となく確認する。あまり変化は見られないようだったが、本当に終わったのだろうか。そんなことを考えていると

 

『あぁ、終わったぞ。』

 

何処からともなくサスペンスの声が聞こえてきた。

 

「うわっ!サスペンス!?ど、何処だ!?」

 

突然聞こえた声に吃驚してしまいつつも、辺りをきょろきょろと見回してみる。だが、何処にもサスペンスの姿は見当たらなかった。

 

『何をしている……』

 

「いや、何をしているって……お前なんで声が聞こえんだよ……」

 

呆れぎみにそんなことを言ってくるので若干イラついたが、それを堪え思ったことを口にする。

 

『勘違いしているようだが、我は死んだ訳ではないぞ。あくまで貴様に力を与える形で同化するだけであって、命を捧げるほどの事ではない。とはいっても我は結局なにも出来ぬ、なので死んだも同然ではあるのだが。』

 

「なんだよ。てっきりサスペンスの力が俺の中で生き続けるってだけでお前自身の意識はなくなるとかだと思ってたわ。」

 

『はぁ……?そんなリスクを犯すわけないだろう……バカか?』

 

「いや、お前が悪いだろ。同化する前に命を捧げる~だのいってたくせによ。ってかバカは余計だわっ!!」

 

進の中にいるサスペンスとそんな会話を交わす。だが、そんなことを話している余裕などないことを思いだし、すぐさま行動に移そうと気持ちを切り替える。

 

「って、こんなことしてる場合じゃないな!え~っとどうやってイレギュラーを起こすんだっけ?」

 

『忘れるな、本当に大丈夫なのか……?まぁよい。いいか?イレギュラーは強い感情によって起こる。今の貴様ならば余裕であろう?その怒りの感情、ボルテージを上げ続けろ。規定量に達すればイレギュラーは起こる筈だ。』

 

「怒りか……分かった、やってみる!」

 

そう言われサスペンスに対しての怒りの感情をさらに大きくしようと、今までされたことを思い出していく。そのどれもが忌々しく、神経を逆撫でさせるものばかりだ。徐々に怒りの感情が激しくなっていくのを感じる。それにプラスして映像の方も引き続き見ることにした。カノンが何か酷いことをされる度に怒れると考えたからだった。そのとき、気になる単語が飛び込んできた。

 

「はっ……壊白……だと……?」

 

先程出てきた新たな人物。操られていたようだったが、現実のサスペンスは確かにそう言った。聞き覚えがある。その名は進のバイト先の店長から聞いたものだった筈だ。

 

「なんで、そんな奴が……?」

 

偶々なのかそれとも……進に何かしらの関連がありそうに思えてしまい、つい気にしてしまう。そんな時、進の疑問を解消するべくサスペンスが口を開いた。

 

『壊白か。』

 

「なんだ、知ってるのか?」

 

『あぁ、忘れるわけがない。何故ならあの男は初めてここに連れてこられた精神なのだからな。最も、人間の中での話だが。』

 

「なっ!?」

 

衝撃の事実に驚きの声を上げる。何故壊白を一番始めに選んだのか、それが気になり再度質問してみることにする。

 

「なんであんな奴を?」

 

『あのニセの我は気持ち悪いほどに用意周到なのだ。シティの人間を支配していくに当たって、まずは外堀から埋めようとした。そこで、スポットが当たったのがあいつだ。喫茶店と言う少なくなく多すぎない人間の集まるコミュニティを始めに支配すれば、少量ではあるが徐々に客どもを支配していき外側から内側へとシティを蝕むことが出きる。そうやって拡大させていったのだ。』

 

それまで話を聞き、ようやく点と点が線で繋がった。

 

「そう言うことか……!だから店長はもといた店を追い出されたのか!既に店長回りの支配は完了していたから自由に土地の所有権を決めることだって出来てしまう……ってことだもんな……クソッ……そんなとこからもう事は始まってたってのかよ!!」

 

ゾッとする進。ずいぶんと前から既に支配は始まっていたのだ。あの時の店長の話を聞いて感じた違和感をもう少し深く考えていればもっといい方に話を進めることも出来ていたのかもしれない。もしもを考えてしまう進にサスペンスはしびれを切らしたのか口を開いた。

 

『そんなこと、今はどうでも良いだろう。それよりも早くイレギュラーを起こせ。』

 

そういって急かすサスペンス。

 

「っ!んなこと言われたって、やってはいるんだが中々ここの変化が起きないんだよ!本当にその仮説あってんだろうな!?」

 

『ほぅ?ここに来て疑いにかかるか。現状それしかすることはないと言うのにそんなこと言っている暇があるのか?身を弁えて事を口にしろよ、白守進。』

 

「チッわかった……!?お、おい……あれって……!」

 

説教にも近い小言を聞かされ、己のすべき事を冷静に見直すことが出来た進。作業に戻ろうとしたそのとき、映像に変化が訪れた。

 

『うぁ……あがっ……があ"あ"あ"あ"あ"!!』

 

男の叫び声が響き渡る。どうやら壊白は絶叫しているようだ。進にはその光景に何処か見覚えがあった。

 

「水晶の、花……」

 

水晶の花。進がサスペンスを目撃してしまった日に聞いた言葉だ。あの時の謎の変化を遂げていた男の人と現在の壊白が進には重なって見えた。絶叫する壊白を前に表情を歪めるカノン。遂には完全に変貌してしまった壊白。その様はあのとき見た光景動揺、酷く残酷なもので、非人道的なまさに外道の如くものであった。そして、その花はサスペンスの手によって口に運ばれ、バリバリと音を立てながらその口の中へと消えて行く。カノンが吐きそうになるのを必死に押さえる様は遠目から見てもハッキリとわかった。

 

「ごめん……ごめんなカノン……さっさとこんな場所出て助けねぇと……!」

 

シティの人を助けられなかったという事実にカノンは酷く心を痛めていることだろう。進はそんなカノンの辛そうな顔をみたくなかった。いつも自分を励ましてくれて、その持ち前の明るさで毎日を照らしてくれた初めて好きになった人。そんな人が苦しんでいる事実に進は耐えられず、思わず謝ってしまう。

 

『チッ、失念していた。』

 

突然からだの中にいるサスペンスが声を上げる。何かを思い出したようなその声音に進は吃驚するも、思ったことを口にする。

 

「まだなんかあんのかよ……」

 

流石に出きることが多すぎてドン引きする。

 

『簡潔に話すぞ。」

 

「早くしてくれよ!」

 

そういって急かす進。余裕があるように見えるが、その実めちゃくちゃに焦っている。一秒でも早くカノンのもとへいかなくてはならない。しかし、ここでサスペンスの言うことを逃せば事態は悪化していくだろう。

 

『奴の集めている水晶の花には身代わり能力がある。例えば、一度致命傷になりうる攻撃を受けたとしても、水晶の花を3つ程消費することで生きながらえることが出きるのだ。奴と戦うときはそこに注意するんだぞ。』

 

なるほど、そう言うことか。確かにそれは大事な情報だ。倒したとしても、油断してはならないという警告。倒しきれずにやられてしまうのが最もあってはいけない事だろう。カノンを助ける筈が、逆にやられてしまっては意味がない。サスペンスの忠告に進は感謝した。

 

「わかった、お前の言う通りちゃんと止めを刺そうと思う。忠告、ありがとな。」

 

それは嘘偽りのないお礼の言葉。そこにやましい感情など何一つなかった。

 

『……お礼を言われる義理などない。これは私の復讐を果たすために必要なことなだけだ。』

 

「……そうか。」

 

それから話すことなく進は作業に集中しようと試みた。映像から流れる音以外なにも響かないこの空間に、看過できない発言が流れてきた。

 

『あぁそうだ。白守進に我の石を埋め込んだことはもはや話さずともわかると思うが、この石を入れた時点で助からんぞ。』

 

「!」

 

『クッ……ホラ吹きめが。言っておくがな、石が変化するのはサスペンスが生きている間だけだ。あいつが死ねば石も共に消滅する。なにせあの石を産み出したのはあいつ自身だからな。だがあいつは負けるつもりなどないのだろう。気に食わんな。』

 

「そうか……それを聞けて安心した。」

 

一旦作業を停止しカノンの様子を確認する。そこには案の定といっていいのか、顔色を悪くし酷く取り乱しているカノンがいた。驚いたのが、あの優しかったカノンが先程食われてしまった壊白と進の事を比較していたことか。自惚れている訳ではないが、カノンとの関係は悪くなかったとは思っている。だが、ここまで言ってくれるほど思われているとは考えられなかった。少し嬉しく思うのと同時に、そんなカノンがこんな目に遭っているのは自分のせいでもあることにさらに深い罪悪感を抱く。さっきまで好きになる資格なんてないなどと思いながらこれだ。自分で言って自分で苦しめてどうする。だが、資格がないことは事実だ。しかし、それでも助けられるなら助けたい。何故なら大切な存在には代わりないからだ。そんなことを考えていると

 

『うぅ……あぁ!ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

 

「っ!?カノン!?」

 

『おい、カノンの事など気にしている場合か。貴様はここを出ることだけ考えていれば…………なっ!?』

 

突然叫び出すカノンに吃驚する。サスペンスはそろそろ進を作業に戻すために声をかけようとしたのだが、映像を見て進同様驚きを隠せなかった。

 

「あ、あれって……シューゲイザー……?」

 

カノンが召喚したらしき謎のクリーチャー。進には見覚えがあった。あの白を貴重としたボディ、神聖な雰囲気を醸し出すあの威圧感。思い出されるのはシューゲイザーを使ったコントロールデッキ。酷く苦しめられたのは記憶に新しかった。

 

「こっ、今度はキリュージルヴェスか!?」

 

シューゲイザーが読んだらしきクリーチャー、その親の顔より見たキリューをみて驚く。そして、シューゲイザーはそのままサスペンスへと突っ込んでいく。その時、また新たにクリーチャーが召喚された。そのクリーチャーもシューゲイザー同様、巨大な敵へと一直線に突っ込んでいく。たが、相手はサスペンス。ゼニスに敵うパワーなど持ち合わせているわけもなく、一体一体倒されていき最後にはシューゲイザーもその圧倒的な力を前にやられてしまった。現実のサスペンスはその結果に高らかな笑い声を見せている。

 

「クソッ!!なんでここから出れねぇんだよ!!!!早く、急がねぇと、いけないってのに……!!!おい!本当に出られるんだろう……!なんだ……?」

 

無力な自分に憤る進。本当にこの精神世界から脱出できるのか疑問に思いついサスペンスに八つ当たりしてしまいそうになっていたそのときだった。突然苦しみ出す現実世界のサスペンス。カノンの様子を見るに想定済みの反応だったらしい様だった。

 

『はぁ……我の別人各ならばクリーチャーに対しての知識くらいは持って欲しいものだな。仮にもゼニスの肉体を操っているのだぞ……』

 

呆れぎみに物を言うサスペンス。なにか知っている様子だったので、訊いてみることにした。

 

「なんであいつはいきなり苦しみはじめたんだ?」

 

『なっ……貴様と言う奴は……!キリュージルヴェスの能力を忘れたか?』

 

「能力…………!……まさか…それってスレイヤーのことか!?」

 

『そうだ。基本使わない奴がほとんどたが、たまに貴様の世界のデュエル・マスターズの紙に書いてある能力をそのまま使ってくるクリーチャーがいるのだ。スレイヤーなど滅多に見られる効果ではないが、キリュージルヴェスは例外だったようだな。』

 

なるほど、それならば納得がいく。スレイヤーはバトル時に負けた相手を道ずれにする。だが、それは格上でなければ発揮しない力だ。それに、現実世界のクリーチャーがスレイヤーを使うとなると、それ即ちクリーチャー達にとっては死を意味するのだ。滅多に見られないと言うのはそう言うことだろう。だが、キリュージルヴェスはそんなことはお構いなしに突っ込むことの出きるアタッカーなのだ。そのくらいの事は朝飯前なのだろう。それに、シューゲイザーまでもが身を挺して戦ったこともすごいことだと思う。なにせカノンに命を捧げたのと同義なのだから。

 

「確か3体いたから……お、おい!これっもしかして……!もしかするんじゃないのか!?」

 

3体倒したのだから当然3回のスレイヤー効果がつく。水晶の花があるとはいえ、果たして3回も耐えきれるものだろうか。もしかしたらこのまま倒せてしまうのでは、と淡い期待を持つ。そこに、サスペンスが口を挟んできた。

 

『いや……これは無理だな。』

 

「なっ……マジか……それ……』

 

『あぁ、だが惜しいところまでは行っている。良かったな、カノンのお陰で水晶の花の身代わりはなくなったぞ。』

 

それは現実世界のサスペンスの焦りようを見ていればわかる。でも、それじゃダメなんだ。あのでたらめな強さを誇るサスペンスを倒してしまわなければ最早カノン達の助かる道など存在しない。今回はカノンの活躍で水晶の花を削りきったかもしれないが、生き残ってしまうのだったら後は蹂躙に会うだけだ。只でさえ限界が来ているカノンが抵抗できる筈などない。

 

パリン

 

水晶の花の砕ける音が響いた。これが最後のスレイヤー効果だった。サスペンスの言う通りならばまだ生きている筈。冷や汗が止まらない。次の瞬間、進が危惧していた最悪の事が起きた。

 

『きゃあ!』

 

「カノンッッッッ!!!!」

 

地べたを二転三転と転がっていくカノン。サスペンスの攻撃によって遂にカノンにまでも被害が及んでしまった。

 

「ざけんな!!!絶対ゆるさねぇ!!早くっ!早くしろよ!!!これで行けるだろ!?こんなに怒ってんだぞッ!!!」

 

怒りのボルテージが上がり、遂に限界値にまで到達した。しかし、一向に変化が訪れる気配がない。流石のサスペンスもこれには困惑を隠せなかった。

 

『(なぜだ……?なぜ白守進はイレギュラーを起こせない?)』

 

熟考するサスペンス。感情がキーなのは間違いない筈だ。持ち合わせた知識から考えてみてもそれが結論としてなっている。では何がいけないのか。過去の出来事を振り替えればなにかわかるのか?そう考え今まで起きてきた出来事を思い返すサスペンス。その間にも進の焦りや怒りは増していき、カノンは徐々に追い詰められていっている。最も、サスペンスにとってカノンは恨むべき者。カノンが死のうが死なまいがどうでもいい……いやむしろ嬉しいまであるのだが、それでは進がサスペンスを倒そうとしなくなってしまうリスクがあった。人間の面倒さには呆れてしまうが、それでも目的達成のためなら手段は選べない。人間と同化するなどと言う行為も一昔前の自分ならば死んでも断っていただろうが、腹を括ることも大事なのだ。サスペンスは深い思考の海に沈んでいく。

 

『(ふむ……我が起こしたイレギュラーは精神の消滅を防いだこと。怒りの感情のお陰で意味嫌っていた感情に皮肉にも助けられてしまった。次に白守進だ。アイツは恐らく度重なる理不尽により不満が溜まり怒りが爆発してしまったのだろう。大抵、現実の我を目撃した者は生きては帰れない。色々と面倒になるから始末するのだ。その時に抱く感情は怒りよりも恐怖が勝る。だが、この時強く恐怖したもの達は軒並みイレギュラーを起こせていない。まぁ、起こせたところですぐ死ぬのだが。だが白守進は違った。我を目撃した後生き残った初めての人間であり、我の攻撃により抱いた感情が怒りであると言う初めての事例までもが起こったのだ。そのあと白守進はイレギュラーを起こし、精神世界での実体化に成功した。恐らく実体化する理由は現実世界での抵抗の現れなのだろう。ここで我は確信した。アイツに抵抗する術は感情にあるのだと。それも怒りが鍵となると考えたのだ。)』

 

今までの結論であればこうであった。だが、恐らく違うのだ。全てが違うと言うわけではないだろうが、決定的にどこがが間違っている。

 

『(一体何処が違うのだ……?)』

 

思ったように結論がでない。そんな間にもカノンの死期は刻一刻と迫っていた。

 

「っ!?なにっ!?」

 

進はなにかに吃驚したのか驚きの声を上げる。しかし明らかに声の抑揚が違った。

 

『どうした!?』

 

思考の海から引きずり出されるサスペンス。以前はサスペンスが引きずり出す側だったのが完全に逆転しているが、そんなことを気にする余裕はない。

 

「アイツッ!!俺を使ってカノンを殺す気だッ!!!!!」

 

『なんだと……!?クッ、何処まで我を愚弄するのだッ!!』

 

流石のサスペンスもここまではやらない。元々目的など達成できれば他はどうでもいい性格をしているサスペンス。意味のない事などする必要がないのだ。そんな性格として生まれてくるゼニスだからこそゼロ計画を実行できる。感情などに流されず、淡々とやるべき事だけをやる存在としていきてきたのだ。サスペンスにとってその生き方こそがゼニスの誇りであると思っていたのだ。だが、あの偽物はそれすらも侮辱してしまった。

 

「やめろ!近づくなッ!!クソォ!!俺ェェ!!!目ぇ覚めろよッ!!こんなところで立ち止まってる場合じゃねぇだろうがよ!!行くな!おいっ!行くなって!!!おい!!!」

 

不味い、非常に不味い。ここでカノンが死ねばゲームオーバーだ。せっかく来たチャンスを無駄にするどころかゼニスを侮辱されたままこの空間で終わりを迎えることになる。

 

『(焦るな、何かある筈だ……!何だ?何が問題なんだ?考えろッ、考えろッ!!)』

 

とは思いつつも焦りは確実に試行回数を削っていく。正しい判断を鈍らせる。しかし、諦めるつもりなどサスペンスにはもうとうなかった。

 

『(怒り……恐怖……イレギュラー…………ん……?感情が、鍵になる?…………まさかっ!)』

 

まさに閃き、極限状態から出てくる最高の結論。使い方が違うが、これも一種の火事場のバカ力という奴なのかもしれない。

 

『(鍵は……怒りでは無い……?怒りはこの空間に実体化できるだけであり、他の感情でもっと別のイレギュラーを起こせるのではないか?)』

 

共通点としてサスペンスと進が抱いた感情は怒りというものがあった。だからこそ引っ掛かってしまったのだ。怒りこそがもっとも重要なものであり、それを利用しなければイレギュラーは起こせないと。しかし、それは成功事例を見て勝手に判断していただけだった。視野が狭かったのだ。感情を持ち合わせていないサスペンスはそこまでの考えに至らなかった。感情にたいしての知識は皆無に等しい。何故なら必要ないからだ。これが仇となってしまった。

 

『(ならば、今すべきことは白守進に別の感情を抱かせること。これに賭けるしかない……!)』

 

考察が当たっているのかはわからない。だが、それでもやるしかなかった。たが、ここで一つ問題が起こる。

 

『(クッ……だがどうやってあの怒りの感情を越える感情を引き出すというのだ。そんなもの、あるのか?)』

 

わからないのだ。一体怒り以外の感情で強いものなどあるのかどうか。ゼニス故の悩みだろう。サスペンスは自身がゼニスであることをこの瞬間だけ酷く恨んだそうな。白守進が感情を露にするときはどのようなときなのか。もう一度過去を振り返る。何故あの男はカノンを必要以上に助けようとするのか、何故恐怖よりも先行している感情があるのか。

 

『(…………ハッ!)』

 

重要なことを突然思い出す。そう、あれはサスペンスが人間の事を知ろうと感情について少しだけ調べていたときの事だった。人間の本を見ていると、「恋愛」、「愛情」という単語が目に入った。なんとなく気になり詳細を見てみると、そこには人間は特定の異性に対して特別な感情を抱くと書いてあった。何故そのような感情を抱くのか、それも調べてみたが理解できず、直ぐに調べるのをやめてしまった気がする。

 

『(恋愛……なにもわからんが、確かに辞書には好きと言う感情が主だと書いてあった。一か八かだ、我の知り得る知識を用いてその恋愛感情だか愛情だかを引き出すしかない!)』

 

時間がない。これ以上は考えていても意味がないのだ。だからサスペンスも覚悟を決めた。この会話で全てが決まる。

 

『白守進。』

 

「っ!な、なんだよ!?」

 

『良く聞け。』

 

「はぁ!?何言ってんだよ!そんな暇は……」

 

ない!と否定しようとするが、それに被せるようにしてサスペンスは言葉を紡いだ。

 

『貴様は、カノンの事をどう思っている。』

 

「!?」

 

さっきまでの焦りが嘘のように進は黙ってしまう。想定外の言葉に動揺を隠せなかった。

 

『早く答えろ。』

 

「なっ……そ、そんなのっ……関係、あるのかよ!」

 

明らかに意味のない質問内容に苛立ちを覚える。

 

『黙れ。いいからさっさと答えろ。』

 

「っ!」

 

だが、それでもサスペンスは譲らなかった。進もこれ以上何かを言えるわけもなく、カノンが殺されそうになるなか仕方なく答える。

 

「そりゃあ……大切な存在……だとは思ってるさ。だから今こうやって助けようとしてんだろ。」

 

『本当にそれだけか?』

 

「それだけってお前……何が言いたいんだよっ!!」

 

流石の進も声を荒げてしまった。カノンが死にそうな状況でこんな意味のない会話を求めてくる奴に怒らない筈ない。

 

『大切な存在なのは分かるが、貴様はそれ以上になにか思うところがあるのではないか?』

 

「っ!ふ、ふざけるな!お前に何が分かるんだよ!!」

 

『フッ、貴様の事など分かりたくないわ。だが、一つだけ言うのであれば……貴様はカノンの事を「好き」なのではないか?それも異性としてな。』

 

「なっ!?」

 

まさかゼニスに、それもサスペンスにそんなことを言われるとは思わず驚きの声を上げる。

 

『図星か。その上で問おう。貴様、カノンを思う気持ちはその程度なのか?その程度の貴様で助けに行くのか?』

 

「その程度、だとっ!?」

 

『そうだ。あまりやる気を感じないんでな、疑問に思った。』

 

「そんなわけ無いだろッ!!!そんなわけ……無い……」

 

強く否定していた進の声音が徐々に弱々しくなる。その変化に気づいたサスペンスはここぞとばかりに言及していく。

 

『どうした。なにか問題でもあるのか?』

 

「話してもっ、分かるわけ……いや、もういいか。ゼニスかどうかなんて今更関係ないな。」

 

何やら話す決心をしたようだ。サスペンスはそれを待つだけである。できることはもう何もない。

 

「カノンの事は今でも好きだ。大好きだ!!……けど、俺はカノンの事を巻き込んじまったんだ。原因がサスペンスのせいだからって言っても、俺のせいで場所はバレたし活動も活発になるしでこの計画の貢献度でいえば相当なものだろうな。そんな奴が好きになっていい訳ないだろ?わからないと思うけどな。でも、大切な存在には代わりない。助けたいのは確かなんだ!だからっ!」

 

『下らん。』

 

進の独白、サスペンスはそんな悩みを一蹴した。

 

「え……?」

 

『だからどうしたと言うのだ。貴様の気持ちなど所詮その程度なのか。助けられるものも助けられん筈だ。』

 

「な、何言って……」

 

『このくらいの事で自分を曲げるような男にカノンが着いていく訳がないだろう。好きがどう言うものかは分からぬが、我ならば呆れるだろうな。このくらいの事で信念を曲げるようなヘタレなのだと軽蔑するだろう。』

 

理解できなかった。何故サスペンスがいきなりこんなことを言い始めたのか。それに、自分が悪いことをしたと言うのに、何故そこを言及せずに自身の性格の弱さを指摘してくるのか。

 

「おれ、は……好きになる資格なんて……」

 

『愚か者めが!!』

 

「っ!」

 

『貴様のような愚図にこの状況を覆すことなど不可能だ!簡単に自身の思いをねじ曲げるような者が、たかが怒りごときの感情でどうにかできると思った我がバカだった!!』

 

「思いを、曲げる……」

 

『そうだ!そんな意思の弱さでは何もなし得ぬことなどできぬわ!白守進、あまり世の中を舐めるなよっ!』

 

ハハッ……もしかしたら俺はビビっていたのかもしれない。助けたとしても、やらかしてしまった自分をカノンは受け入れてくれないんじゃないかと思ってしまった。俺の近くにいればまた危険が伴うかもしれないと思われると、そう考えていた。だが、サスペンスの言う通りだ。カノンがこんなことで俺を嫌う筈がない。それは自惚れている訳でもナルシストな訳でもない。カノンはそう言う奴だって知っているからこそ来る自信だった。

 

「はっ……まさか、お前に気づかされるなんてな……サスペンス、もう一度だけお前の質問に答えさせてくれ。」

 

『ほぅ……何に気づいたのかはわからんがいいだろう、話して見せよ。』

 

そう言われた進は深く息を吸い、そして吐いた。もう、迷いはない。結局怒りではどうにもできなかったし、こんなことをサスペンスに話したところで何か変わるわけでもないだろう。カノン、許して欲しい。どうにもできなかった俺の事を。だが、只では死なない。永遠にこの世界に囚われてしまおうと、この想いだけは忘れない。そんなことを考えながら映像をチラッと見ると、もう既に俺の肉体がカノンの首を締め上げていた。たが、先程の焦りなど無かったかのように進は落ち着いていた。苦しそうに喘ぐカノンの声が響き渡る。

 

「俺は……」

 

 

カノンの事が大好きだ!!!

 

たすけ……せんぱ……ぃ

 

 

瞬間、精神世界に2つの声が重なった。この世から消えかかっている掠れた声と、自信に満ち溢れた生気に満ちた声。相反するその声が響き渡ると同時に異変が訪れた。

 

パキッ……

 

「っ!?ヒビ!?」

 

暗闇の世界に亀裂が生じた。その亀裂の奥からは白い光が漏れている。

 

『!準備しろ、白守進!!成功だ!!』

 

「はっ!?せ、成功って何が!?」

 

『そんなのは後で話す!いいから今は目の前で起きていることに集中しろ!!!」

 

パキッ……パキパキパキパキ……

 

「わ、わわっ!どんどん亀裂が大きくなっていく……!」

 

亀裂はやがて大きな、大きなものへと変わっていき遂に……

 

パリーン!!!

 

完全に暗闇の世界を崩落させた。

 

「なっ!?じ、地面が!」

 

それと同時に地面の役割を果たしてしたものも完全に割れて消滅してしまい、進は重力に沿って落下していく。落ちている先は真っ白い何かだ。

 

「うわー!!!」

 

そんな進の絶叫を最後にその精神世界に存在するものは何一つとしていなくなり、この先からもずっと音の一つも響き渡ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっ……ひゅっ……!えぁっ……たすけ……せんぱ……ぃ」

 

意識が持たない。ここでカノンの人生は終了したと言わんばかりに感覚や聴覚、視界も何もかもが分からなくなる。遂に終わりか、そう思い意識を手放そうとしたその時だった。

 

「ぇ……?」

 

突然、苦しかったものが全て消え去った。正確に言えばサスペンスから受けたダメージはある。しかし、さっきまでの首をしめられていた時の苦しみが全くと言っていいほどに感じなくなったのだ。首を締め上げていた手が無くなっていた。

 

「っ!え"ほ"っ"!!ゴホッ!ゴホッ!ハッハッ!」

 

瞬間、喉に掛かっていた負荷のせいか酷く咳き込むカノン。それに息もできていなかった為、過呼吸気味に酸素を取り入れる。

 

「ハー!ハー……すぅーはぁー……」

 

段々落ち着いてきたのか呼吸が安定してきた。未だに何が起こったのか分からず、回らない頭で進の方に顔を向ける。

 

「っ!あ、あぁっ!」

 

そこにはあのいつも見せてくれていた、温かく優しい……それでいて心地よい、カノンの一番好きな笑顔を浮かべていた……

 

 

白守進が立っていた

 

 

「せ、せんぱ……」

 

「ごめんな。」

 

「っ!」

 

そう言って進は地面に仰向けで倒れていたカノンを少し抱き上げる。動ける気力など無かったカノンはなされるがままで、進の顔を見つめている。

 

「大丈夫、ですか?」

 

「フッ、バカか。俺を心配してる場合かよ?」

 

出会って第一声が進の安否を確認する言葉だったので思わず笑みがこぼれる。

 

「もう、支えなくても、大丈夫です。」

 

「いや、遠慮しないでくれ……と言いたいところだが、そう言うわけにもいかないな。」

 

カノンはへたり込んでしまった体に力を入れて、何とかして地面に座ることまではできた。だが、立つことは難しいようだ。

 

「なっ、何故貴様は動けている!?」

 

カノンが動き終わったその時だった。忌々しい声が洞窟中に響き渡る。進の後ろから聞こえてくるその声の正体。それ即ち……

 

「サスペンスっ!」

 

振り返った進はサスペンスの姿を恨めしいようすで睨み付ける。そして、進はカノンの事を後にしてサスペンスの元に歩を進める。

 

「せ、先輩!ま、まってくだ……」

 

「大丈夫だ。俺が何とかするから。お前は休んどけ、な?」

 

「えっ、でもあれは……!」

 

「気にすんな。全部分かってるから。」

 

全力で引き留めようとするカノン。目尻に涙を浮かべながら、必死に声を出すが進はそれを拒否して、サスペンスと対峙した。

 

「おい、お前。」

 

「何だ!?この忌々しい人間め!」

 

「お前……」

 

 

覚悟しろよ?

 

 

迷惑客の時とは比にならない。進は怒りを抑えることなどできなかった。しかし、ここで抑えることなどしなくていい。全てを解放し、ぶつけてしまえばいいのだ。ドスの効いた低い声音が辺りに響く。誰が聞いても思わず背筋がゾッとしてしまうほどの迫力を醸し出す進。そんな進をサスペンスは必死に睨むものの、この瞬間だけはライオンの前に立つ小鹿のように見えたという。終わりが始まった。




進を説得しているときのサスペンスは感情など分からないので適当にそれっぽいことを言っているだけです。本人も正直いけるとは思ってなくて内心結構吃驚してます。
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