何故命を賭けてまで守ったのか。それも、何故出会って2ヶ月と少しの関わりしか持っていないカノンなのか。そこに理由を見いだすにはどうすればいいのだろう。先輩にとって私達が価値のある存在であることをアピールすれば良いのか?それとも、唯さんに私達の存在がいかに価値のあるものなのかをアピールすれば良いのか?そんなのわからない。暗闇のなかを手探りで見つけ出す必要があった。だが、そんな考える時間などない。今すぐにでも答えなければ、唯さんは気分が一生晴れないだろうし、私達を恨み続けることになってしまう。唯さんは優しい人なんだろう。私達を恨みたくなってしまうと言っていたときの表情が、とても苦しそうに見えたのだ。一秒でも早くその苦しみから解放しなければ。そんな使命感と共にカノンは口を開いた。
「私と先輩は、あるバイト先で出会いました。初めての事だらけで困っていた私に優しくしてくれたのは先輩でした。」
出会ったときの頃を思い出し感傷に浸りながら語る。その話を誰も邪魔することなく、黙って耳を傾けていた。
「最初は一緒に帰り道でお話をしたりしているだけでした。とっても楽しかったのを覚えています。下らない事で笑いあったり、時には相談事をしたりして……有意義な時間を過ごしていたと思います。」
頭の中に流れる映像には、今まで見てきた当たり前になっていた光景が映っている。チクリ、と胸が痛んだ気がした。駄目だ、この程度で根を上げてどうする。心のなかでそう言い聞かせるカノン。
「優しくしてくれただけじゃありません。先輩は、何度も何度も私を助けてくれました。」
迷惑客の時や雨の日のミスを気にしなくていいと言ってくれたあの時。沈み賭けていた心を何度も引っ張り出してくれたあの声。蘇る記憶の日常に、平常心を保てなくなりそうになる。それでも、カノンは語りを止めることはなかった。
「一度だけですが、一緒に遊んだときもありました。今までに無いくらい楽しくて、それでいて心が暖まるような……そんな時間を過ごしました。」
シティで遊んだ記憶。それは、ここ最近のものでは何よりも大切な思い出だった。
「でも……そこから先輩はあのクリーチャーを目撃してしまった。相談された時の先輩は弱々しくて、今にも壊れてしまいそうな程に疲弊しきっていました。」
ここからがターニングポイントだ。進所か、今この場にいる全員の運命を決定づけたあの日。全てが動き出したのはここからなのだ。
「後はご存じかと思います。先輩の話を元にクリーチャー退治に向けて洞窟に向かったら、結果は惨敗。操られていた先輩がギリギリの所で目を覚まして、私達を助けた後、油断していたところを敵の攻撃にやられて……先輩は……!」
今でも目蓋の裏に焼き付いている。忘れもしない、先輩が肩を貫かれ腕がとれてしまった光景。血が止まらず、絶命してしまったあの日。もう何度も何度も夢で見た。
「唯さん……」
「はい……?」
「私その時、先輩の事を最期の最期まで看取ってたんです。」
本題は、ここからだった。
「先輩は私に、こんなことを言ったんです。」
私の事が好きだった、と……
「そう……ですか…………」
以外にも驚いている様子はなく、逆にやっぱりかといったような反応を示す。やはり、命を賭けてまで守る程の理由はあったのだと理解した唯。
「やはりあの子は…………ありがとうございます。私の言っていた価値。それを理解できました。もう、貴方達を恨むこと等は「でも、私は……馬鹿でした。」…?………カノン、さん……?」
唯はそもそも、許すつもりでこの話を持ちかけた。この話し合いの意図は、進が守った子が良い子なのかどうかを調べるためだったのだ。勿論、恨みが云々かんぬんという話が嘘というわけではない。これも立派な本音である。その上で、唯はカノンを試したのだ。これでもし救いようのないクズみたいな人だったらそのときは怒って帰ろうと考えていたのだが、やはりというべきか、進はカノンに恋愛感情を向けていたことが明らかになる。進が好きになる人を悪い人だと疑うことなんて出来ないし、何より進は命を散らしてまで守る程にカノンの事を好きだったのだ。価値の有無なんて言わずもがなであった。そして、唯的にはこれ以上話を聞く必要はないと判断したため切り上げようと声を上げたのたが、それを遮るようにしてカノンは声を重ねてきたのだ。
「あんなに私の事を想ってくれたのに……!私の事を好きだって言ってくれたのにッ!!」
語りに勢いが増していく。必死に取り繕ってきた表情が徐々に剥がれていくのをカノンは感じた。しかし、それを止めることなど出来なかった。
「私は……自分の気持ちに全く気がついていなかった……!!」
「気がついていない……?」
「先輩が好きだって言ってくれた時、私もそうだって伝えようとしたんです。けど……」
先輩は、それは違うと否定しました
「なっ……!?」
酷く驚いた様子の唯。誰から見ても、カノンは進を好いているようにしか見えなかった。それは初対面である唯も例外ではない。親愛や友情なんかではない、別の違った感情を持っているであろう事はカノンの言動や顔を見れば簡単に推測できるものだった。なのに……それを進は否定した?一体どういうことなのだろう。
「違うなんてことない、私は先輩の事を本当に好きなんだ……否定されたとき、私は心のなかでこう考えていました。でも……次の言葉でそんな考えは全て壊されてしまったんです。」
異性として好きだった
「その瞬間……世界が止まったように感じました。それと同時に理解してしまったんです。なんて事をしてしまったのだろうって。」
「…………」
言葉が出てこない。恐らく、今話している事はカノンの独白だ。感情が溢れるせいか、思わず話してしまっているのだろう。好きに話をさせているのは唯だ。証明がどうのこうのといった話とは少し脱線してしまっているが、これもカノンの事を知る良い機会だと考えた。
「私はっ!…………先輩の事を好きだと思っていた……!でも、それは別の好きだったんですっ!!」
いつの間にか目に涙を浮かべていたカノンだったが、お構いなしに語りはヒートアップしていく。
「私の好きは、友達に向けるような……そんな好きって気持ちだったんです……!」
「カノンさん……」
「でも、私はその気持ちに違和感を抱いていた。好きではあるけど……本当にそれが本心なのかって、好きなだけなのかって……心の中にいる別の自分がそう問いかけてきたんです。なのに、私はその違和感を見てみぬ振りをしていた。」
カノンは、家に籠っていた間もずっと考えていた。自分の気持ちについてのことで。自分の抱いていた好きという気持ちがどれだけのものだったのかを。あの時に理解しただけでは全て分からなかったから。恋愛とは無縁の生活を送ってきた弊害が起こっていた。
「何故なら……罪を償う立場の人間が、先輩のような人を好きになって良いのか……こんな私が誰かを好きになるなんて烏滸がましいと思ってしまっていたからなんです……!!」
「そんなこと……!」
悲惨なものだった。好きでいたいというのに、それをカノン自身が許してくれなかった。もっと早く気づいていれば、その気持ちを生きているうちに伝えられたかもしれないのにと思うと唯も心が張り裂けそうな気持ちになる。
「先輩は分かっていたんです……私が心の底から先輩の事を好きでは無いことに!!!」
違うと、そうじゃないと言ってあげたかった。しかし、唯にはそれを言う気力も勇気もでなかった。罪を償う立場の人間の気持ちはカノンにしか分からないから。
「馬鹿だった!愚かだった!……私は……先輩が死にかけている極限状態の中で好きだと言われて……そこで初めて……私の本当の気持ちに気づいたの……!」
ポロ、ポロと瞳から涙が落ちるカノン。一体どれだけの後悔が押し寄せてきているのだろうか。それは、ここにいる誰もが想像の出来ない感情だっただろう。
「そのときには遅かった!何もかもが遅すぎた!……気づいた時には既に……この恋は……終わってしまったの……!!」
膝から崩れ落ちるカノン。溢れる感情の制御は出来ておらず、盛大に泣いていた。部屋中に響き渡る嗚咽につられて、思わず目尻に涙をためてしまっている者もいた。
「1つだけ……宜しいですか?」
「ひくっ……うくっ……えっく……は、はい……?」
唯がカノンに声をかける。
「貴方は……今、あの子の事をどう想っていますか?もう既に燃え尽きてしまっていますか?」
「ッ!……そ、そんなの!!!!大好きに……いえ」
愛しているに決まっているのだわ!!!!
「っ!ゆ、唯さん?」
カノンの吐露した本心。それを聞いた瞬間、唯は思わずカノンを抱き締めてしまった。いきなりのことで困惑しているカノンを横目に、唯は口を開いた。
「ありがとう……」
「っ……どうして……?私は……お礼を言われる事なんて……」
「いえ……十分しているわ。だって……こんなにも素敵な子があの子を愛してくれたんだもの……!きっと、あの子も貴方を守れたことに満足しているわ……!!」
「唯……さん……!」
「進は幸せ者ね……少しの間だったけれど、あの子の人生を明るく彩ってくれてありがとう、カノンさん!!」
「ぁ……」
唯からの感謝の言葉、これだけでもカノンは報われた気がした。
「あ、うぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
我慢していたものが崩れる。カノンは唯の胸の中で泣きじゃくる。
「よしよし……いい子いい子……よく頑張ったわね……ここまで泣いてもらえるなんて、少し妬いちゃうわ。」
頭を撫でる唯。その唯の頬にも一滴の涙が流れていた。悲しみを紛らわすようにぎゅっとカノンを抱き締める力を強める。
「……カイト。」
「……なんだい?」
そんな光景を眺めていたルカはカイトに声をかけた。
「もう二度と、こんな思いをする人なんて産み出しちゃいけないわ。これからは……絶対に……絶対に、阻止しましょう。」
「…………そうだね。」
ルカの発言に、会場にいた全員が静かに頷いた。だからこそ、会場で起きている異変に誰一人として気づかなかった。カノンと唯に全員が注目していたため、誰も棺を見ていなかったのだ。
ガタッ
突然、この会場には似合わない異音が響く。思ったりより大きな音だったらしく、唯一聞き取れたグレンだけが音の聞こえた方向へと視線を変えた。
「……?さっき、あの棺から音がしなかったか?」
「グスッ…………もう~グレン!流石にここは空気読もうよ!」
「あー……すまん。んー?けどなぁ……聞こえた気がしたんだけどなぁ……?」
もらい泣きしてしまっていたチュリンに聞いてみるも、空気を読めと一喝されてしまった。気のせいかと思い、再びカノンの様子を見ようと棺からの視線を変えようとしたそのとき
ガラッ!ガタンッ!
棺の蓋が思いっきり外れ、地面へと落ちた。そして
「っしゃー!!!俺、ふっかぁぁぁぁつ!!!!!」
棺の中に足をつけ、立っていた進がそう叫んだ。
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
「ってあれ?ここ……何処?」
驚きの余り、一同は硬直する。そんなことなどお構いなしに、死んだ筈の進は呑気にそんなことを口にした。
「「「「「「「ええぇぇー!?!?!?」」」」」」」
「せ、先輩……?」
「うそ、でしょう……?進……?」
一同の絶叫が響く。カノンは目の前の光景が信じられないといった様子で、呆然としてしまっていた。唯もカノンと同様の反応を示していた。
「あー……アイツやりやがったな……」
対して進は、頭を抱えながら誰かに悪態をついていた。
早くイチャイチャ書きたい