「な、んで……」
夢でも見ているのだろうか。今、カノンの目の前には死んだ筈の進が立っていた。肩をサスペンスの攻撃が貫き、腕が引きちぎられていたのに、その腕もちゃんと付いていて、そして動いていた。
「うん?あー……なるほどな。これやばいタイミングで起きちゃった感じだな……マジで恨むぞ。」
険しい表情を浮かべながら何やらぶつぶつと呟いている進。信じられない光景に、誰も動くことが出来ず呆然としてしまっていた。
「…!?!?か、かぁさん!?マジかよ!なんでここに!?」
唯を視認した瞬間、驚きの声をあげる進。それに対し唯はというと、未だに目の前の光景に脳の処理が追い付かず、開いた口が塞がらなかった。
「先輩がっ!」
聞き馴染みのある声が耳を通り抜ける。もう聞くことなどないと思っていたあの声が。声にならない声をあげるカノン。カノンは様々な感情の入り交じった中でも、1つだけ明確に理解したことがあった。
「生き、てる…!!!」
白守進は生きている。言葉を発し、感情豊かな表情を見せている。物事に疑問を持ち、悩んでいる仕草を見せている。決してゾンビや幽霊なんかではない、正真正銘生身で動いている、白守進が今ここにいるのだ。流しきった筈の涙が頬を伝うのを感じる。だが、さっきとは違い嗚咽を漏らすことはなかった。何故なら、悲しさを喜びが上回っていたから。
(行かなきゃっ!!)
そう思っていたのも束の間、カノンは無意識に足を動かしていた。少ししか空いていない距離なため、小走りになってはいるものの、それでも勢いはあった。
(早くっ……早くッッ!!)
全速力で走られないことにもどかしさを感じる。一秒でも早く話したい、触れたい……そして何より再び名前を呼ばれたかった。もう聞くことはないと思っていた分、その反動として溢れ出す欲望も凄まじいものだった。我慢などできるわけがない。そして数秒後……遂にその時がやってきた。
「先輩っ!!!」
「わっ!カノン…!?」
棺から降りていた進に抱きつき顔を頭に埋めるカノン。少し驚いているようだったが、すかさず進はカノンの頭の後ろに両手を回して抱き締め返した。
「ぁ……」
胸に顔を埋めたカノンは、その体から聞こえる心音に安心感を覚える。本当は夢だと思っていた。だって、あんなにズタズタにされていたのに、生き返るなんてあり得ないから。けど、今感じているこの温もりに、全身の神経が進の存在を認知している。触れている感覚がある。
「あぁ…ああぁぁぁぁ……!」
瞬間、つたっていただけだった涙が止めどなく溢れ出す。こんな感情、経験したことがなかった。嬉しいのに涙が出てくるなんて、初めての事だった。今まで泣くときは、常に悲しいことがあったときばかりだったから。
「っ…カノン……そんなに俺の事を……」
泣きじゃくるカノンを見て、進はそんなことを呟く。余り聞こえていなかったのか、カノンは特に反応することもなく只ひたすらに泣き声をあげていた。
「ごめんな。」
そういって進はカノンの事をさらに強く抱き締めた。
「夢じゃ、ない…?」
「あぁ…」
上目遣いで不安げにそう聞いてくるカノン。カノンの体が震えていたので、優しく頭を撫でる進。きっと、ずっと苦しい思いをしてきたのだろう。まさかここまで想われていたのだとは思わなかったが、進とてカノンから少なからず好かれていた自覚はあった。それが、友愛としてだろうが、恋愛感情としてだろうが関係ない。ここまで悲しんでくれて、こんなにも苦しい思いをしている。ならば慰めなければ示しがつかないだろう。
「夢なんかじゃねぇよ。」
きっぱりと、そう言いきる。不安なのだろう。死んでいたと思っていた人間が蘇るなんて事、普通ならばあり得ないことなのだから。進はカノンを安心させたかった。だからこそ、生きていると感じさせるために、進は更に更に強い力でぎゅっと抱き締めた。生きていることをカノンに知らしめる為に、夢ではないと自覚させる為に。
「あ……」
「どうだ?これでもまだ疑う?」
「…………てる。」
「?」
「うわぁぁぁん!!生きてるっ!生きてるよぉ……!!先輩がっ…生きてるよぉ……!!」
「!………ったり前だっ!あんなので死ねるかよ……!」
取り乱し、号泣するカノン。余りの大きな反応に、進もつい口を開いてしまった。泣き止むまで黙っていようかと思っていたのだが、どうやら無理だったらしい。それから暫くカノンは泣いていた。落ち着くまで進もひたすらに頭を撫でて、「よーしよし……」と声をかけながら慰めていた。唯にも似たような慰められ方をしていた気がする。血は繋がってなくとも、やはり二人は親子なんだと再認識した。
「グスッ……ひくっ……………」
「……落ち着いた?」
「…………」コクッ
約5分後、カノンは落ち着きを取り戻した。目元が赤くなっている。しゃくりを度々あげているが、あんなに泣いていたのだ。そこら辺は仕方がないだろう。
「なら、もうそんな暗い顔すんな!カノンにそんな顔似合わないしな!」
「…………ふふっ。」
「えっ…な、なんかした……?俺…」
少しカッコつけて励ましの言葉をかけてみたのだが、笑われてしまいショックを受ける。どこか悪いところでもあったかな……と思いつつそんな質問を投げ掛ける。すると、カノンは進の気持ちを察したのか、少し申し訳なさそうに応えた。
「いえ…ただ、いつもの先輩が戻ってきたなって……そう思っただけです。」
「いつもって……俺、普段からそんなに笑われるような事してるっけ。」
「そうじゃなくて……なんというか……先輩って、どんなに嫌なことがあっても、物事が終わればすぐに切り替えるじゃないですか。そんなところが、やっぱ先輩だなって。」
「フッ……なんだよ、それ。」
まぁ、確かに言われてみれば切り替えは早い気がしなくもない。というより、解決した問題を引きずることがないような気がする。終わったことは終わったことで片付けてきたので、違和感を感じたことがなかったのだが、それって結構おかしかったりするのか……?
「き、君!!」
「ん?」
カノンとの会話も終わり、一段落ついたと思っていた矢先、進に声かける声が聞こえた。意識をそちらに向けてみると
「どういうことだ…………だ、大丈夫なのかい!?」
「へ……!?」
そこには、決起迫るような形相で進に詰め寄るカイトがいた。加えて、その後ろからルピコちゃんや守護者達、カノンの側で戦っていた白いお姉さんに、ルピコちゃんによく似た子に、母親までもが近づいて来ていた。いきなりのことで情けない声をあげる進。そんな進を意に介す事なく、カイトは急接近してきて
「!?!?」
「カ、カイト……?」
そして、進の左胸へと手を当てた。
(や、やべぇ!カ、カイトさんじゃん!!こんな近くで見られるなんて……!!ど、どうしよう……なんか緊張してきた……!)
憧れの人の一人との初対面。それも、こんな至近距離で顔を拝める日が来るとは思わず、緊張の余り心拍数が上昇する進。そんなことなど露知らず、カイトは真剣な面持ちで暫く胸に手を当てていた。
「信じられない……皆、生きているぞ!少し心拍数が高い気もするが、誤差の範囲内だ!余りこの言葉を使いたくはないが……奇跡だな、これは……」
興奮気味に一同に伝えるカイト。カノンほどではないが、カイトも相当喜んでいるようだった。
「嘘でしょ……そんなことあるの……?」
「余り信じられませんが……奇跡の力とは、分からないものですね……」
「うっそー……すっごい嬉しいんだけど、自然の守護者としてはなんか複雑だなー……いやっ、本当に嬉しいんだよ!?でもねー……奇跡…奇跡かぁ……」
「私、ちょっと頭が追い付きません……」
「私もだ。棺越しに顔を見たのだが、あの時は本当に死んでいたぞ……?」
「……白守進。彼は一体……?」
カイトの報告に三者三様の反応を示す。主に信じられないといった感想が出ており、困惑を隠しきれていない一同。ダピコは棺で確認していた進の顔と、現在の進の顔色が全く違っており、疑問が絶えない様子だった。ウェディングに至っては、進の事を人間かどうか怪しんでいる。
「マジかよ!?うぉぉぉぉ!!スゲェェェェェェ!!!!」
ただ一人、何の疑問も持たず喜んでいる者もいた。
「はぁ……呆れるわ。グレンってあそこまで能天気だったかしら……」
「今ばかりはその能天気さを見習いたいよ……分からないことだらけで頭がいたくなりそうだ。」
喜ぶグレンを横目に、ルカとカイトはそんな会話を交わす。生きていることは分かったが、それと同時に悩みごとも増えてしまった。考えることが多くなればなるほど疲れる。幸い、カイトとしては考えることは嫌いではないのでそこまで苦ではないのだが、ルカは余り好きそうではない分辛そうだった。
(やばいって!守護者の皆さんが俺の事を見てるって!こんなことってあるのかよ!生きてて良かったー!!!)
対して進はというと、夢にまで見ていた守護者を生で見ることが達成できたので声には出さないものの、内心めちゃくちゃ喜んでいた。順々に守護者の顔を見ていく進。その瞬間の出来事は、それはもう至福の時間だったそうな。
「進……」
「っ!」
しかし、そんな時間もすぐに終わりを迎えることとなった。
「本当に……進なの……?」
「かあ、さん……」
なにも喋って来なかった唯が口を開いたのだ。その瞬間、進の意識は全てそちらに向けられてしまう。
「これが夢だってことは……」
「何度も言ってんだろ。夢じゃねぇ、俺が保証する。」
すると、唯は今にも泣きそうな表情で更に近づいてきて
「カノンさん、少し空けて貰えない?」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
進に抱きついたままのカノンを少しの間だけ退くように頼み込んだ。名残惜しかったのかしゅんとしていたが、我が儘を言うわけにも行かないのでおとなしく退くことにしたカノン。
「ありがとう。」
そして、そんな言葉を溢した次の瞬間
「進っ……!!!」
「っと……」
唯は進に抱きついた。手を頭の後ろに回して、ぎゅっと力を込める。対して進は、カノンのときと同じように抱き締め返すということはせず、なされるがまま唯に体を預けていた。
「馬鹿っ!馬鹿っ!……進の馬鹿っ……!」
「…………」
「なんでこんな無茶したのよ……!!」
「唯さん……」
カノンは察していた。唯が、本当は私たちを庇ってしまった進に対して多少なりとも怒っていた事に。満足したなんて言ってくれてはいたが、やはり親としては死んでほしくなかっただろうし、本音としては私達を助けず逃げてほしかった筈だ。それを押し殺してまで慰めてくれていた唯だったが、進が生き返った今、塞き止めていた感情や思いが溢れてしまっているのだろう。
「ごめん……」
「私、気が気じゃなかったのよ!?」
「うん……」
「あんたが死んだって聞かされたとき、どんな気持ちだったか分かってる!?」
「………………」
まるで、叱られている子供のようだった。あそこまで縮こまっている先輩を見るのは初めてかもしれない。不謹慎かもしれないが、少しだけ可愛いと思ってしまうカノンだったが、すぐさまそんな考えを振り落とした。
「もっと自分の事を大事にしなさい!!!!」
「っ!」
「…………はぁ……」
「か、母さん……?」
ため息をつく唯に不安げになりながら顔色を伺う進。呆れられてしまっていないか、それとももっと怒っているのか……そんな心配をしていると
「……よく、戻ってきてくれたわね。おかえり、進。」
シティに来るまでは毎日のように聞いていた「おかえり」の言葉が耳を通った。
「!……あぁ、ただいま!!」
久しぶりに聞いた言葉だと言うのに、安心感が半端ではなかった。感極まった進は、思わず何時ものような癖で返事を返す。その後、唯はなにも言わずただ抱き締めていた。
「ところで……」
「は、はいっ!?」
暫くして唯の拘束から解放された進は、カイトに声をかけられる。吃驚して、すっとんきょうな声を出してしまう進。やってしまった……と少し恥ずかしくなりつつも、進はカイトの次の言葉を待った。
「体は大丈夫なのかい?生き返ったとはいえ、まだ分からないことだらけだ。具合が悪かったりはしないのかい?」
なるほど……体調の事か。確かに気になるよな、と納得する進。特にきついことがある訳でもないので、ここは正直に答えよう。そうして話を続けようとしたのだが
「だ、大丈夫です!!別になんともありませ……っ!」
そのとき、グラッと視界が揺れた気がした。目眩もするし、思うように立っていられずその場に崩れ落ちる進。
「せ、先輩!?」
「大丈夫かい!?」
(くっ……頭が、痛い!それに……意識が持たない……)
何が起きたのか理解できないまま、進は横たわる。瞼がゆっくりと閉じていくのを感じる。
「嫌だっ!もう嫌だっ!先輩!起きてください!お願いだからぁ!」
「誰か!救急車をっ!!急がなければ何が起きるか分からない!早くっ!」
カノン達が騒いでいるのが聞こえてくるが、何を言っているのかよく聞こえなかった。
「く……そ…」
朦朧とする意識の中、進は只一人思いどおりにならない体に憤りながらも、ゆっくりと意識を手放すのだった。
「うーん……んぅ……?」
眼が覚める進。まだ意識が覚醒していないのか、起き上がった後の動きが鈍い。
「んー……?……俺……確か……」
一体自分が何をしていたのか思い出すために記憶を辿る。
「あっ……倒れたんだった……」
そうだ。確かカイトさんに体調は平気と答えようとしたら、突然頭が痛くなって倒れてしまったんだった。
「ここは……多分病院、だよな……」
周りを見回すが、寝ている場所は病院にあるようなベッドだし、部屋がやけに白かった。恐らく、カイトさんかカノン辺りが救急車を手配したのだろう。
「つっ……」
頭痛がし、咄嗟に頭を押さえる。倒れてしまった時よりは楽になっていたが、それでも痛みはあった。
「これ、貧血とかかなー……」
心当たりはあった。カノン達には言わないが、進が生き返った時に起こっていたとある事が関係しているのだろう。そんな推測をしていると、誰かの寝息のような者が耳に入った。この部屋に別の患者らしき人はいない。というより、この部屋にはベッドがひとつしか置かれておらず、部屋の隅にパイプ椅子等が2、3個あるだけだ。ではこの寝息は誰のものなのだろうか。音の聞こえる方向は、進から見て左のすぐ真横だった。つまり、ベッドの近くに誰かがいるということになる。そして、進は確認しようと左を向いた。
「なっ……!?」
なんとそこにいたのは……
「カノン……!?」
「すぅ…………すぅ……」
椅子に座ったまま、上半身をベッドに預け眠っていたカノンがいた。
「……ん…んぅ……?」
「あっ……」
驚きの余り、つい大きめの声量で声をあげてしまった為かカノンの目が覚めてしまった。
「ふわぁ………」
「わ、悪い。起こしちゃったか?」
起こしてしまった進は罪悪感から謝る。そんな様子をカノンは眠そうにしたまま呆然と見つめていた。
「あれ?せんぱい?」
「ん?ど、どうした?」
何時もよりも柔らかい口調で声をかけられ戸惑う進。
「えへへ、おはようございまーす♪」
「!?!?!?!?」
すると、いきなりカノンがふにゃっとした声音と共に抱きついてきた。
(えええええええ!!!!なにやってんの!?!?!?やばいやばいやばい!!)
あんな可愛い声今まで一度も聞いたことがない。いや普段から滅茶苦茶可愛くはあるんだけど、あそこまで溶けきってて柔らかいような優しいような声を出せるのか!?それに、クソ近い!女の子特有の甘い匂いが鼻に入ってくる!
心の中で大焦りしている進だったが、何とか平常心を保つことに成功し、カノンに言葉を掛けた。
「な、なにしてんの……?」
「?何って……さっきもしてたじゃないですかー。抱きついているんですー。」
さも当たり前かのように話すカノンに少し違和感を覚える。ここで1つの仮説にたどり着いた。もしこれが本当なのだとしたら……
(黒歴史になるんじゃ……)
まだ確定した訳ではないが、進も恥ずかしい思いを現在進行形でしているので、カノンのやっている行為を止めようと思い立つ。
「カ、カノーン?おーい、カノンさーん?」
「んもうっ、どうしたんですか?」
何故か若干不機嫌になっているが、進は話を続けた。
「何でこんなことやってるのか分からないけど……寝ぼけてたりしない?大丈夫?」
そう、その仮説とは夢と現実がごちゃ混ぜになっているというものである。一体どんな夢を見ていたのかは分からないが、可能性としては十分にあると思う。何故進に抱きつくのかは疑問だが、普段のカノンがこんなことをしないのは流石に分かる。ならば、夢を見ていると仮定すれば、本来本人がしないようなことをしてしまっているという考えがでてくる。これで違かったら素でこんなことをしていたということになる。それはそれで恥ずかしいのだが、その時は受け入れよう。
「へ?寝ぼけてるって……だって先輩、私が好きなだけ甘えても良いって言ってました……よね……?」
「いや、言ってないけど。」
「……え?……いやっ、あれっ?私、甘えた後寝ちゃって……それでさっき起きて、また甘えてただけ……え?」
「そもそも俺さっき起きたし、カノンに甘えられたことなんて一度もないぞ。」
「う……そ……」
「ほんと。」
「あ、え……ぁ?」
どうも酷く混乱しているようだった。
(やっぱそうだったかー……あぶねぇ~何とか黒歴史化は阻止……できたのか?ってか夢の中の俺なにしてんだよ!)
カノンの言動から推測するに、夢の中での進が好きなだけ甘えていいと言ったので、甘えていたら夢の中で眠ってしまった。そして、現実世界で目が覚めたのだが、ここでカノンはまだ夢の中の世界だと勘違いしてしまい再び夢の中でしていたような甘え方を実行してしまったということだろうか。
(そっか……俺寝たきりだったから……)
現実の世界で1度も目を覚まして居なかったため、カノンの中では起きている白守進は全て夢の中の人間という認識になってしまっているということだろう。
「先輩……」
「なんだ?」
「今って、夢ですか?それとも現実ですか?」
重苦しい雰囲気で何かに祈るように進に質問するカノン。多分夢であってほしいと祈っていることであろう。いつの間にか抱きつくのを止め、進から離れた後真剣な眼差しを向けている様子は少し可笑しくて、そして愛おしく感じる。だからこそ、この先の展開をみてみたかったからこそ、真実を話そうと口を開いた。
「夢……ではない!!」
自信満々に、どや顔をしながら宣言する進。そして、カノンはというと……
「あ、あぁ……そ、そんな……!」
口をパクパクさせながら、みるみるうちに顔がまるでトマトかのように赤く染まっていくのであった。そして
「ごごごごめんなさいぃ!!!」
部屋いっぱいに響くくらいの声量で勢いよく謝られた。
「ちょっ!こ、ここ病院!」
「あっす、すみません……うぅ……」
窓から日の光は差していないので、多分今は夜だろう。流石に夜に大声を出すと迷惑なので、進が焦って注意した。カノンはハッとして口元を手で抑え、恥ずかしそうに俯いていた。
「どうしよう……やっちゃった、やっちゃった……あぅ~……」
ぶつぶつと何か言っているが、進にはよく聞こえなかった。何だか申し訳なさそうにしていたので、気にしていないと伝えることにする。
「な、なぁカノン。」
「ひゃいっ!?な、なんでしょうか!?」
「あ~、別にさっきの事は気にしなくて良いぞ?な、何なら嬉しかったっていうか……その、カノンってああやって甘えるんだなって思ったし……」
「うぅ~///せ、先輩が気にしなくても私が気にしちゃうんです!」
(しまった、少し余計なことを言ってしまったかもしれない。こういうときって何言えば良いんだ………)
何とも言えない空気感が辺りを包む。お互い何も話すことができず、沈黙が続いた。進はどのような言葉を伝えれば良いのか悩みに悩んだ末に、再び話を続けた。
「あぁ!そ、それに俺も悪い気はしなかったって言うか……内心すっごい嬉しかったぞ!!」
照れくさそうに話す進。それを聞いたカノンは思わず目を見開き、まるで信じられないものをみていると言ったような様子だった。
「ご、ごめん!嫌……だよな!好きでもない男にこんなこと言われたって気持ち悪いだ「そ、そんなことありません!」……っ!」
「あ………え、えっと……」
しどろもどろになっているカノン。恐らく、咄嗟に口にしてしまったのだろう。このままでは話が進まないため、助け船を出そうと進は声をかけた。
「…………なんでそう思ったんだ?」
「それは……わ、私は先輩の事、嫌いだなんて思ってないですし…気持ち悪いとも思ったこともないですから。それに……」
「?」
「元はと言えば私が悪かったんです。先輩が気に病むことなんて1つもありません。そう……全ては私のせい……」
「カノン……?」
さっきまで焦って顔まで赤くしていた筈だったカノンが、今度は目を伏せて暗い表情を見せている。違和感を覚えた進は、どうしたのだろうとカノンの事を注意深く見つめていた。
「……先輩。お話があります。」
「お、おぅ……」
突然真剣な眼差しでそう宣言してきたカノンに面食らってしまう。何やら嫌な予感がした。
「私……バイトを止めようと思います。」
「…………は?」
瞬間、世界の時が完全に静止してしまったような感覚に陥った。全身から力が抜けていくのを感じる。
「な、なんで……?」
それは純粋な疑問だった。
「先輩は、何故今回このような目に合ってしまったのか……分かりませんよね?」
「こんな目にって……いや、それとバイトに何の関係が……」
「先輩が傷ついてしまった原因の一部には……私が関係しているんです。」
「っ!」
心臓が跳ね上がる。進には心当たりがあった。
ゼロ計画
それに関係している者の中にはサスペンスやライオネルと言ったゼニスが関係していたと聞いている。サスペンスからこの話を聞いたときはカノンがそんなことをしていたのかという驚きが大きく、状況が状況だった為ゼロ計画のことについては余り深く考えていなかった。
(カノンが関係ある事って……まさか……!)
「あの化物が一体何なのか……それに、私自身の事……それを今から全てお話しします。」
「………………」
「……?せ、先輩?大丈夫……ですか……?」
押し黙ってしまった進に、カノンが心配そうに声をかける。
「やっぱり……いきなりこんなこと言うのは……駄目だったかな……あ、あの……やっぱりこの話はまた今度……」
「……知ってる。」
「……え?」
進の呟きが、病室中を木霊した。比較的小さな声量だった筈なのに、今までのどの声よりも響いているように感じた。
「クリーチャーの事、カノンの事、サスペンスの事、それに……ゼロ計画の事も。」
「っ!?な、えっ、あ……え?」
「理由は話せない。けど、カノンがその計画に参加していた事は知っている。」
「ぁ……」
不穏な空気が漂う。先程までの雰囲気はどこへやら、2人の間には亀裂が走っているように見えた。カノンは若干ではあるが、体が震えていた。顔色も悪くなっている。
「そう、でしたか……ふ……ふふっ!」
「カノン……?」
「なら……分かりますよね……?私は救いようのない、醜い人間なんです。どうしようもなく悪い奴で……皆に迷惑ばかり掛けていた。ふふっ……幻滅、しましたよね。」
異様なまでの変わり様を見せるカノン。進は驚きはしたものの、確信したこともあった。この変化が見せた意味……それは
(過度なまでの罪悪感……それに自身に対しての嫌悪感か……!)
長く一緒にいたからこそ理解することができた。カノンは、なんでもかんでも抱え込む癖を持ってしまっているのだ。雨が降った日だって謝る必要なんてないのに謝っていたし、迷惑客の時も失敗したのは自分だと責めていた。これはその延長線だ。
(幻滅か……きっと、カノンは俺との関わりを絶ちたいんだろうな……一緒にいたらまたこんな目に合ってしまう……なんて思ってんだろ?)
カノンの話題には問題がいくつかあった。まず勝手に辞めるなんて身勝手だし、それこそ困る人がでてくる。その時点でカノンの思惑と矛盾が生じてしまっている。たが、それを差し引いてでも離れたいのだろう。きっと勇気を振り絞った筈だ。ゼロ計画を進めてしまった事を知られたい訳がない。それを話そうとしているいうことは……本気なのだ。
(ごめんな、カノン。)
たが、進も進で問題があった。それは、カノンの事情を知っていると言ってしまったことだ。勇気を出してくれたのならば黙って話を聞けば良いのに、それを台無しにしてしまった。それは進も分かってはいた。しかし、見ていられなかったのだ。辛い過去を思い出させて話をさせると言う行為が。結局、今回のいざこざはお互いの優しさが故に拗れてしまっていたのだ。我ながら不器用だと思う。だからといって、カノンとの関係を終わらせようなどとは微塵も考えていなかった。
「幻滅なんてしない。」
「……ぇ?」
呆気にとられた様子のカノン。その顔は、早く苦しみから解放されたいと思っている……そんな辛そうなものだった。
「何でそんな事をしてしまったのか迄は知らないけど……例え周りがカノンの事を悪く思おうが、俺はカノンの味方だ。」
「な、なんで……?私が何をしてきたのか全て知っているんですよね……?そのせいで先輩が酷い目に合ってしまったんですよ?私の味方だなんて……良いこと1つもないです!!」
互いの思いが交差する。どちらともが譲れない意思を持っており、それを妥協することを許しはしなかった。言わば……意見の食い違いから起きた、喧嘩というやつである。
「え、いや、はぁ?ふざけてるの?」
「ふざけてるって……!そ、それは先輩の方です!」
むきになる両者。傍から見れば、それはなんとももどかしくなるような喧嘩だった。
「なっ!俺はふざけてなんかねぇよ!本気で言ってんだ!何で分かってくれないんだ!?」
「分かっていないのは先輩です!私だって本気です!これから私と関われば何が起こるか分かりません!傷ついてほしくないんですよ!!もうあんな目に合うのは嫌でしょう!?」
「あぁ嫌さ!」
「な、ならっ!!「けど、カノンと離れる方がもっと嫌なんだよ!」っ!」
進の気迫に押し黙ってしまうカノン。流石の進もやりすぎだと思ったのか、自身の高ぶっていた気持ちを抑えた。一息つき、話題を変えてみる。
「……俺言ったろ?お前の事が好きだって。」
「あっ……そ、それは……」
「……カノンの気持ちは分かってる。俺の事をそういう目で見てないんだってこと。でもなぁ…俺、それでもカノンの口からその思いを聞かないと…やっぱり諦めきれねぇんだよな…」
死に際の告白。あの時の進は、カノンが自分の事を恋愛感情を持っていないことを見抜いていた。それでも最期に気持ちだけでも伝えなければ未練が残ってしまう。自分勝手なのは進も同様であった。バイトを辞めると言っているカノンとの全く同じことをしているのだから。
分かっていたのに……好かれていないなんて知っていた筈なのに……進は諦められなかったのだ。
「あの時の返事、返してほしい。」
「え……」
「滅茶苦茶なお願いなのは理解してる。でも、逆にカノンから直接その思いを言ってくれれば、諦めが着くと思うんだ…何もかもな。だから、そうなったらバイトを辞めても何も言わないし余計なこともしない!だからさ……頼むよ。」
進としても、これでカノンとの関係が終わるのだったらそれはそれで良いと思っていた。勿論、続けられるのなら続けていきたいのだが如何せん本人が乗り気ではない。ならば自分の抱いているこの感情に終止符を打ち、それでいてカノンは心残す事なく進の前から消えられる。そんな提案をしたのだった。ただ1つ、引っ掛かることがあるとするならば……
(俺はいつまでもカノンの味方だ。それが伝わっていれば良いんだけどな……)
決して幻滅はしていないと言うこと。言葉足らずだったが、好きな人に対して幻滅するなんて事は出来ないという思いが、さっき話してきた会話内容の中で伝わっていれば良いな……というものだった。
「………………」
「………………」
数秒の沈黙が続く。短い時間だというのに、進にはそれが何時間にも感じていた。そして……暫くした後、俯いていたカノンが口を開いた。
「……ズルいです。」
「え……?」
「好きじゃない何て言える訳ないじゃないですか……」
「なっ、えっ……は?」
好きじゃないを言うことが出来ない?それって……
「好きです……」
「!?」
「私も先輩の事が好き……大好きです!!」
「う、嘘……だろ……?」
「むぅ……!こんな土壇場で嘘つくなんてことしません!!!」
予想外の返答に固まる進。別にカノンと離れたいとは思っていなかった。ただ、カノンが進から離れたいのだと真剣に話を振ってきたから、その意見を尊重したに過ぎない。
(は?え?本当に言ってるのか?嘘じゃない?俺の事が好きだってのが?)
尊重した結果が先程の提案である。カノンが思いっきり自身の持っている気持ちをぶつけてくれれば、進も進で諦めがつくし、カノンも嫌な気持ちのまま目の前から去るなんてことも起きない。お互いがスッキリした気分になれば取りあえずは丸く収まるだろうと考えたのだ。結果は分かっている。ほぼ毎日カノンの事を見ていれば嫌でも気づく。
カノンは進の事を好きではない、と
いや、それは少し語弊があるかもしれない。正確に言うと、進を異性として見ていないということである。流石の進も、嫌われているとは思ってはいない。嫌っていたら一緒に遊んでなんてくれないし、態々病室に来てまで面倒を見る訳がない。しかし、何となくではあるが普段の振るまいかたや接し方から薄々思ってはいた。カノンは進の事を信頼しているが、異性としては見ていないのだと。そう、思っていたのに……
「それは……友達とか親友とかに向ける好きじゃないのか?」
声が震える。既に諦めてしまっていたこの気持ちが、再び燃え上がろうとするのを感じる。しかし、思い過ごしではないのかと、そんなネガティブな思いが頭の中を過ってしまう。
「違います!!」
「っ!」
「私は、本当に……本当に先輩の事が……」
散々泣いたと思っていたのに、また涙が溢れ出す。酷い表情をしているのだろう。ぐしゃぐしゃになっているのだろう。だから……
カノンはできるだけ精一杯の笑顔を見せて
「異性として、好きなんです……!!」
そう応えるのだった。
「っ!!!」
否定しようがなかった。明らかに……確実に……カノンは進の事を好きだと、そう言ってくれたのだ。諦めようと思っていたのに、冷めていた心が熱くなっていくのを感じた。だから
「だからこそ……先輩の事が好きだからこそ……私は先輩とはもう関わらないと決めたんです。もう、私のせいで傷ついてほしくないから……!!」
もう、諦めるなんてできない!!
「駄目だ!」
「っ!?」
「お前が離れるってんなら俺はその後に着いていく!!こんなところで関係を切らせたりはしない!!」
「なんで……そこまで……!?」
「そんなの……!」
大好きだからに決まってるだろ!!
「あ……」
「傷つくとか苦しむとか知ったこっちゃない!!カノンがこんなに苦しんでるのに……側にいない奴があるか!?」
お互いの気持ちは伝えきった。後はこの蟠りを解消するだけ……そう、本音をぶつけ合うだけだ。
「だ、だって……せんぱいが……き、きずつ「気にすんな!」……!」
「俺が危険な目にあったとしても、そんなのカノンの心配事ごとまとめてぶっとばしてやる!!」
「あ、うぁ……」
「我慢する必要なんてないんだよ!!もっと自分に素直になれよ!俺もカノンの事が好きだ!……大好きなんだ!ならさ……」
深く考える必要なんてないんだよ……!
「ぁ……」
「なんでそんな下らない理由で俺たちが離れなきゃならないんだ!!好きなら一緒に居ればいい、そうだろ!?」
自然に頷こうとする頭をギリギリの所で抑えるカノン。頭の中では、迷いが生じていた。
ゼロ計画の時のみならず、大切な人だった先輩にまでも迷惑をかけた自分……2度も不幸を呼びよせてしまった自分は先輩とやはり関わるべきではない。だが、先輩の言う通り一緒に居られるのなら居たいと言う気持ちも大いにあった。悩みこんでしまうほど心が腐っていくような気がして、胸がとても痛かった。
「なぁ……もう良いだろ……?カノンが何をしたって言うんだ……?なんでこんなにも苦しまなきゃいけないんだ……?こんなの……あんまりだろ……」
必死に語りかけるも、カノンからの返事は帰ってこない。進に少しばかりだが、憤りを覚えてしまっていた。カノンの気持ちはわかるし、信条としても良くできていると思う。だが、進はその信条にすら勝てないほどの小さな男だったのかとネガティブな考えが頭を過ってしまっていた。弱い自分に対する怒りは、進にしか分からないだろう。
「私は……私は……!」
悲痛な進の訴えに、決めていた筈の思いが歪む。離れなければ、一緒に居たい。2つの思いが頭の中を右往左往する。ここまで必死になってくれているのに、それでもなお迷ってしまっている自分に嫌悪感が増していく。心が歪む、ぐちゃぐちゃになっていく。どうすれば良いのか分からず、冷静さを保てなくなってくる。どちらかを選べば良いと言うのに、それすら選べない自分は進には相応しくないのでは?といった余計な思考すら生まれてしまう。
(何が正しいの?どうすれば良いの?もう……わからないよ……何をしても誰かが苦しんじゃう……私を犠牲にすれば全てが解決する筈なのに、それすら怖くて出来ない自分がいる……!もう……私に残された道なんて……)
ない。少なくとも、カノンの考えうる限りの出来ることはもう何もなかった。絶望し途方にくれてしまうカノン。深刻な表情を浮かべていたカノンは、進の前で俯いてしまう。不安にさせるような行動はしないって決めてたのに、現在の自身の情けなさに思わず笑ってしまいそうになった。
「フゥー…………おい。顔、上げろ。」
「ぇ……?」
いきなりの事で思わず声が出る。思考すらままならない状態のカノンは何がなんだか理解できず、素直に言うことを聞いてしまった。
「ごめん。」
「どう、したんです……んっ……!?」
進の方へと顔を向けた瞬間、カノンは唇辺りに違和感を覚えた。何かに口を塞がれている。それはとても柔らかくて、それでいてほんの少しだが、暖かくもあった。恐る恐る口元へと目をやるとそこには
カノンに口づけをしている進が目に入った。
「ん……ふぅ……ど、どうだ?」
「あ、ぁ……え……?」
俗に言うキスと言うものである。恋愛という行為に疎い自分でもそれがどのような行為なのかは知っていた。愛し合ったもの同士がお互いの口をつけ合う行為……それは本当に信頼していて、本当に好きな相手にしかすることはない。
(なに……今の……)
突然の事すぎてか、脳が状況の理解に追い付いていない。さっきまで進の唇が振れていたであろう部分を少しだけ指先で触ってみる。触ったところでなにか変わったことはかったが、何故かその部分だけは少し温かいような感覚がした。
(私……先輩と……キス、したの……?)
段々と体の奥底が熱くなっていくのを感じる。そして、キスをされたと理解した瞬間、絶望の二択に迫られ苦しんでいた筈のカノンの心が溶けていく気がした。胸の高鳴りが収まらない。羞恥心があるのに、何故だか幸せな気分で、離れていってしまった進の唇を欲してしまう自分がいた。
既にカノンの悩みなど頭の中から消え去ってしまっていた
「な、んで……こんなこと……」
働かない頭を動かした末に捻り出した言葉がこれだった。ここまで来て疑問なんて、どこまで面倒くさい人間なのだろうと再び嫌悪感に苛まれる。
「心が疲れてる……だったよな?」
「え……?」
「忘れた、何てのはなしだぞ。あの時……俺を励ましてくれた時、カノンはそう言ってくれたんだ。」
「あ……」
進の言葉を聞き思い出されるのは、進が酷く窶れていてサスペンスのせいで精神的に追いやられてしまっていたのをカノンがどうにかしようとしている光景だった。確かにあの時、カノンは人は心が疲れてしまったら人肌に触れれば癒される、等と言っていた気がする。
「悩みすぎは疲れるからな……でも、さっきのは強引だったし嫌だったかもしれない。だから……どうだった?カノンの心は癒されたか?」
「っ!」
そんなの応えるまでもなかった。一瞬ではあるものの、あそこまで自分を苦しめていた悩みを吹き飛ばし、幸せで満たしてくれた。その事実だけで十分だった。この時、カノンの中で何かが崩れるような音がした気がした。
「やっぱ……駄目だった「…………たい」……え?」
「私も……!」
先輩と一緒に居たいです……!
一体今日は何度泣くのだろう。キスのせいで引っ込んでいた涙が、再び溢れ出した。でも、この涙は悲しみから引き起こされるものとは違って、とても暖かさに包まれていた。
「……本当に良いんですか?」
「……なにがだ?」
「私と一緒に居れば、今回のような事がまた起きてしまうかも知れませんよ?」
「言ったろ?そんなの、俺がぶっとばしてやるって。」
「……私は、罪を犯してしまっている……どうしようもない人間なんですよ?」
「フッ……そこも含めて好きなんだよ、俺は。カノンって言う存在に惚れてんだ。罪なら俺も一緒に背負うさ。そんくらいどうってことねぇよ。」
「そう、ですか……」
暫しの沈黙が続く。両者とも共に話をせず、ただじっとしているだけの時間が過ぎていく。そして、遂に口を開いたのは……
「あーあ……敵わないなぁ……先輩には……」
カノンだった。
「?」
一体どうしたのだろうかと首をかしげる進。そんな反応を余所に、カノンは話を続けた。
「私、もう我慢できません。単刀直入に言います。先輩……」
私と付き合って頂けませんか?
さっきまで泣いていた時の顔とは違い、今度は満面の笑みでその言葉を……告白の言葉を紡いだ。
「!……あぁ!そんなの勿論……」
オッケーだ!!
対して、進もカノンに負けないくらいの笑顔で即答するのだった。
「……ふっ……ふふふ……!」
「うん……?え?な、なんか変なこと言った……?」
カノンの告白を了承した後、何故かクスクスと笑い始めるので困惑する進。
「いえ……告白の返事ってこう……もっと雰囲気があるじゃないですか。でも先輩はなんだか……先輩らしいなって思って……なんだか可笑しくって……ふふっ」
「マ、マジ?あれ変だった?うっそー……やらかしちゃったのか……俺……」
割りと本気でショックを受ける進。ここに来て恋愛経験0の弊害がでてしまった。何せ、人生で深く関わってきた異性が母親くらいしか居ないのだから。愕然としていると、そこに慌ててカノンが声をかけた。
「あ、いや!わ、悪いとかじゃなくて……えっと、私は寧ろその先輩らしさが良かったって言うか……ぎ、逆にあれじゃないと駄目だったかも知れないです!」
何一つとして嘘はない。すこしやりすぎてしまったかと恐る恐る進の事を確認するカノン。
「そ、そうか!?よかったー!……俺、これでカノンに嫌に思われたりしてたらと考えると……!」
「そんなこと、絶対に思いません。」
「お、おぅ……」
妙に気迫のある勢いで言葉を遮られる進。初めてカノンの事が怖く感じたかもしれない瞬間だった。
「こほん…………それでは、改めてよろしくお願いしますね!先輩!」
「あぁ!よろしくな!カノン!」
そう言ってお互いに握手を交わす……事はなかった。
「うおっと……!」
「ふっふっーん!引っ掛かりましたね!」
進は手を差しのべていたのだが、カノンが進の手を握ろうとした瞬間、カノンがその手を進の体の方へと伸ばして両手を背中の後ろに回して抱きついてきた。某自然の守護者のような口調で可愛らしくどや顔を決めるカノン。しかし、今は進の胸の中に飛び込んでいる形で抱きついているため、進からはカノンの表情が確認できなかった。
「いきなりどうした?」
「え?先輩に甘えています。」
「な、何でそんな唐突に……」
「えへへ///……さっきの続きをしてるんです♪」
「あー……あれか。」
続きと言うのは、恐らく夢か現実かで頭が混乱していたときにしていた奴だろう。夢の中の進が甘えて良いと言ったからこのようなことをしているのだった筈だ。
「って!それ夢の俺じゃん!」
「そんなの気にしちゃいけません~。我慢しなくて良いって言ったのは先輩じゃないですか~?」
「うぐっ……そ、そうだけど……心臓に悪いって言うか……こ、こう……イチャイチャするのにも段階と言うものが……」
「むぅ……じゃあ、私が先にお願いすればいいですか?その方が心の準備も出来ますよね?」
「え……そ、そういうことじゃ……はぁ……まぁもうそれでいいよ。心臓持つかな……」
カノンの意外なほどの頑固さに一歩引く進。提案事態はもう受け入れたのだが、問題はカノンの余りの可愛さに進が持つかどうかだった。
「で、お願いって言うのは?」
本題にはいる進を見て、待ってましたと言わんばかりのワクワクしているような表情を浮かべるカノン。
「それはですね……もう一度私にキスをしてください!」
「!?!?!?!?」
思いもよらぬ願い事に金槌で頭を叩かれたような強い衝撃が走る。
「ちょ、ま、待ってくれ。あれをもう一回……?」
「はい、そうですよ?ほらっ!早くして下さい!ん!」
戸惑っている進を無視し、カノンは唇を露骨に進の方へと向け、目を瞑った。
(カノンってこんな子だったの?)
先程までの様子とはうってかわって、積極的に進と関わろうとしてくるカノンに驚きを隠せない。だが、そうではないのだ。カノンはただ、我慢してきた思いを発散させているだけなのだ。明日にでもなれば、黒歴史と化していることだろう。兎に角、今のカノンを止めることは不可能そうだった。
「よ、よし!わかった!やってやる!」
「はやくして下さい!ん……!」
気合いを入れ直した進は、何やら吹っ切れているようで
「わっ……」
「ご、ごめん。驚かせちゃったな。」
「い、いえ……そんなことないです!」
進はカノンの顎のしたに手を当てた。まさに、といったような行動にカノンも顔を赤くして驚く。しかし、満更でもなさそうであった。
「よーし……いくぞ……」
「は、はい……!どうぞ……!」
妙に緊迫した雰囲気が辺りを包む。そして、進とカノンの唇が重なろうとしたその時だった。
「よーう!お見舞いに来た……ぜ……?」
病室の扉が勢い良く開き、何故かグレンが意気揚々と部屋に入った。グレンはカノンたちが何をしようとしていたのか一瞬理解できず、混乱していた。そして、その後ろには顔を若干赤くしているルピコちゃんやそのそっくりさん。そして、他の守護者の皆と、カノンの近くにいた白いお姉さんに進の母親までもが立っていた。
「はぁ……なにやってんのよ……」
グレンのしでかしてしまったことにルカは頭に手を起き、やれやれと頭を左右に小さく動かしていた。その眼差しは呆れを通り越した何かになっているように感じる。
「あ、あ、あぁ……!」
『きゃああああ(うわぁぁぁ)ーーー!!!』
その日は、病院中に2人の男女の声にならないほどの悲鳴が響き渡ったという。
すまんグレンの兄貴……ちょっと解釈違いとか起こしてると思うけど、こんな役回りさせちゃって……グレンって別にバカではないんですよね。わかってるんですけどまぁ……シリアスを緩和させてくれるキャラみたいにしてしまってます……
因みにプレイヤーは作中言及されてませんが式場にいるし、今回のラストにもちゃんといますよ。